黒狼の牙の解散から4年近くが経った。
もうすぐルーデウスの家庭教師を募集する頃だろう。
俺は、このタイミングでルーデウスとの接触を図ろうと考えている。
この時期になるまで色々なことがあった…今までのループとは比べ物にならないほど長く感じた程だ。
S級冒険者になったことにより、各地を巡る度に危険度の高い依頼を受けさせられてしまい、予定よりも長居することが多かった。
魔物の討伐はまだいいが、チームを組んでやるとなると力をセーブする必要があるため、どうしても余計な精神的疲労が出てしまう。
他にも王族の護衛などは大変であった。仮面を被っているため、どうしても疑いをかけられてしまい外されそうになることが多かった。事情を説明しても中々信用されないのは仕方がないとはいえ苦労する。そういうものは実力を見せて解決はしたが。
しかし、冒険者というのもあり将来ヒトガミ側になりうる王族の護衛などもする羽目になったのはなんとも言えない気分になった。一応、夢のお告げがあっても信用しない方がいいといった話はしたが、それを信じたかどうかは定かではない…。
最も驚いたのは『オルフェウスファンクラブ』なるものが誕生したことである。最初はヒトガミの策略かと思い関係者の身辺調査を行ったのだが、驚くほど何もなかった。
確か、ルーデウスの妹、ノルン・グレイラットにも『ファンクラブ』なるものがあった覚えがあるが…。
どうやら話によると、『生ける伝説のオルフェウスの偉業を記録し、後世に伝えるための組織』のようだった。しかし、俺が行くところのほぼ全てに出没し、着いてこられるというのは見張られているようで居心地が悪い。
何度か依頼の最中に危険な目に会い、その度に俺が助けている。それに対して「危険だから着いて来るな」と言いつけてはいるのだが、その度に着いてくる人間が増えている。
…悪意が無い分、ヒトガミよりも厄介かもしれない。
ヒトガミといえば、近頃ヒトガミの使徒の出没が増えている。
俺が積極的に活動する分、暗殺者や行く先に罠が仕掛けられていたりということが増えた。無論、全て退けているし、ここまでヒトガミが積極的に妨害をしてくるのは俺の行動が奴にとって不利に働いているということだろう。
特に魔大陸ではヒトガミの使徒に唆されたアトーフェラトーフェとの決戦になり、そこそこ大規模な決戦になったこともある。
アトーフェラトーフェが北聖以上と思われる剣士と聖級以上の魔術師を複数人引き連れていたため、ある程度本気を出さなくてはならなかった。
幸い、魔王やその側近と言った強者ばかりの状況であったため、ファンクラブの人間は逃げ出して誰一人居なくなり力をセーブする必要が無くなっていた。
仮面を少しずらすことで弱い者は恐怖から戦意を失い、残った戦士は魔力を消費することなく蹴散らした。北帝クラスの戦士もいたが、全てを神級に扱える俺の敵にはならず、即座に手を切り落として戦闘能力を奪った。アトーフェも闘神鎧を身につけたバーディガーディ等に比べればわざわざ力を使う必要もなく、ほとんどを徒手空拳で対処可能だった。しかし、ムーアという魔術師は少しばかり厄介で、一度「乱魔」を使う羽目になってしまったのは痛手だった。
とはいえ、この軍勢を撃退したのはかなり大きかったようで、以降の旅でヒトガミの使徒に襲われることはほとんどなかった。
その分、魔王を撃破したことで名声が高まってしまい、ファンクラブの付きまといが激しくなったのだが…。
そして今、俺はアスラ王国へと戻りルーデウスと会うための準備をしている。
アトーフェとの決戦後、しばらくは外に出るのも大変だったため隠れて過ごす他なかったが、最近になってようやく鎮まり始めた。
俺はこのタイミングでアスラ王国のフィットア領へと赴き、城塞都市ロアで家庭教師の依頼が出るまでの間を過ごしていた。
待っている時間で、新たなマジックポーションの実験や呪い軽減の仮面の改良を重ねることができ、久々に穏やかな時間が過ごせたのだった…。
ひと月ほど過ごした頃だろうか、冒険者ギルドに赴くとロキシー・ミグルディアがいた。
つまり、グレイラット家の家庭教師募集依頼があるということだ。
既にロキシーが受領していたため、私用として俺もグレイラット家へと向かうことにした。冒険者ギルドの受付嬢はオルフェウスと黒狼の牙による赤竜討伐を知っていたからか、すんなりと話が通ったものの、ロキシーからはかなり疑いの目で見られていたと思う。
しかし、ロキシー・ミグルディアの邪魔はしたくない。彼女とルーデウスの娘やその子孫には大変世話になった。可能な限り二人の時間を増やしてやろうと考えている。
そして、ルーデウスと出会うにあたって幾つか懸念点があった。
ひとつはルーデウスがそもそも死産の可能性だったが、こちらは家庭教師の依頼が出たことによりクリアされている。
ふたつめはルーデウスの記憶である。前回のループの記憶がないとなると、こちらを信用してもらうのにいくらか時間が必要になるだろうし、逆に前回のループの記憶があるなら俺と二人でなら円滑に進むだろうが、パウロやゼニスなど、ルーデウスが関係してきた人間とどう接していくかが問題になる。他の人間は記憶が無い分、こちらの行動が疑わしく感じるだろう。そこをヒトガミに付け込まれたりすれば…。
最後にみっつめ、そもそも前回のループとは違うルーデウスという可能性だ。これに関しては前回のループでルーデウスが出会った未来の自分自身といった、同一人物でありながら進む時間が違い別の道を歩んだ者や、そもそも別の存在が身体を乗っ取っているという可能性である。
この場合はかなり大変だろう。下手をすればいきなり攻撃されかねない上に、元々ヒトガミの使徒だとすれば俺の信頼を勝ち取って寝首をかかれる可能性すらある。
…考えれば考えるほどキリがない。
今回のループは前回よりもさらに大きく変わっている面も多いのだ。やるべき事はルーデウスと出会ってから決めてもいいだろう…。どの道、ルーデウス達の協力無くしてはヒトガミに勝利することなどできないのだから。
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そう考えているうちに家に到着した。
ロキシーが何とか場を保とうと話しかけてくれていたが、返答はかなり曖昧になっていたことだろう、少し申し訳なさがある。
ロキシーが戸を叩き、パウロ、ゼニス、そしてルーデウスが出る。
「ロキシーです。よろしくおねがいします。そしてこちらが…」
「オルフェウスだ…久しいな、パウロ・グレイラット、ゼニス・ラトライア…今はグレイラットだったな」
「あ、ああ…いや、なんでオルフェウスの旦那が…?」
慌てた様子のパウロを尻目にルーデウスの顔を見る…その目は大きく開かれ、口は顎が外れるのではないかと言うくらい大きく開いていた。
「フッ…俺も用事があるだけだ。土産を持ってきたのでな…少し話さないか?」
俺は持ってきた龍族秘蔵の酒───の模造品を出し、家へと招き入れられた。
今まで忌み嫌われてきた呪いが緩和された結果、コワモテの冒険者が人助けをしながら英雄的行動を取っていると言う状況になり、ファンが増えた…というものです。
近寄り難い雰囲気のコートなのに赤い○星みたいな変な仮面を付けているのでちょっと馴染み安い感じがあるんでしょう。
次回からはルーデウス視点、オルステッド視点の双方から描写していきます。
本編で描かれてない部分は想像で補完しておりますので、ご了承ください。