新エリー都でおにぎりを握る。 作:ワナシ
私は全人類に問います。
『好きな食べ物は何ですか?』と。
……いえ、すみません。
聞く必要の無い、答えの決まっている質問をしてしまいました。
だが言葉というのは不思議なもので、頭で、あるいは魂で分かっていることであっても、声に出すことでそれをより強く自覚出来るものなのです。
だからこそ、今ここで、改めて答えて頂きたい。
──そうですね。
『おにぎり』ですね。
まず『おにぎり』って名前が良いですよね。
漢字にすると『お握り』で、『お』を付けているところが丁寧で凄く良い。
この名前を付けている時点で、人類の『おにぎり』に対する畏敬の念が感じられます。
形状も美しい。
丸、三角、四角、俵、円盤にその他いろいろと、バリエーションが豊富。
子供達は図形というものを、実は『おにぎり』から学んでいるんじゃないかと私は睨んでいますよ。
そして……味。
主役にも補佐にも回れる外側──白米。
ワクワクを齎してくれる内側──具材。
米が具の良さを引き立たせ、具も米の良さを引き立たせる完璧なハーモニー。
究極のバランスって、多分『おにぎり』のことなんだと思います。
──結局何が言いたいのかって?
そりゃもう『おにぎり』は最高ってことですよ!
…………でもちょっと悲しいことに、ここ『新エリー都』では『おにぎり』が好きって言う人は少ないのです。
道行く人に尋ねれば、『ラーメン』とか『メロン』とか『チョコレート』とか『チャーハン』とか『パエトーン様』とか返ってきます。
非情に嘆かわしい事態ではありますが、私はその『好き』を否定するつもりはありません。
十人十色。皆違って皆良い。
そしてその『好き』の中に、いつか『おにぎり』も加わってくれれば私は満足です。
だから私は今日も、この『新エリー都』で『おにぎり』を握っています。
『おにぎり』を知らない?
──素晴らしい。知ればきっと好きになりますよ。
『おにぎり』が好き?
──素晴らしい。それを『大好き』に変えて差し上げましょう。
『おにぎり』が嫌い?
──素晴らしい。それはつまりこれから『好き』になる余地があるということ。
……何だか『おにぎり』が食べたくなってきたのではありませんか?
熱々の白米から、湯気と共に姿を表す具材。……頬張りたいでしょう?
ええ、ええ。ご安心ください。海苔もちゃんと用意してありますとも。
それではどうぞこちらに。
……それにしてもお客さんは運が良い。
私のお店は移動販売形式で、この地区に来るのは二週間に一回程度ですからね。
ああ、販売場所のカレンダーもどうぞ。ご友人にもお配りください。
────お握り屋『握善<にぎりよし>』を、どうぞよろしくお願いします。