新エリー都でおにぎりを握る。   作:キノント

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休日 自宅

 

 お握り屋『握善<にぎりよし>』は、新エリー都の各地で販売を行っている、移動販売式の店舗の名称である。

 

 『おにぎり狂い』兼店主であるワカは、実を言うとそれなりの賢さも持ち合わせている。

 だがその賢さは、おにぎりが関わることで著しく低下するのだ。

 

 彼はこの度『ブレイズウッド』にて『ホロウレイダー』に誘拐されてしまった訳であるが、誰かに捕らわれるのはこれで三回目の出来事である。

 

 一回目は、『おにぎり屋始めました!』のチラシに騙されて。

 

 いつもの営業後、顔馴染みの無い客から渡されたチラシ。

 そこには新しいおにぎり屋のことが書かれており、喜びその住所へと足を運んだワカは、見るからに営業していなさそうな店の扉をくぐり、待ち伏せていた者達に捕まえられた。

 

 店がそれなりに繁盛し始めていた頃のことであり、犯人達の目的は稼いでいるであろう『ディニー』であったが、匿名の者達──お握り屋『握善<にぎりよし>』のファン──の通報により、大事に至る前の救出となった。

 

 おにぎり屋の同士が増えたと思っていたのに、ぬか喜びとなってしまったワカは、酷く落ち込みおにぎりしか喉を通らなかった。

 

 二回目は、『落ちていたおにぎり』を拾って。

 

 帰宅の途中、おにぎりが等間隔で地面に落ちており、それは人気の無い路地裏へと続いていた。

 それらは雑貨店で売られている個包装タイプのものであったが、食べ物が、それもおにぎりが粗末に扱われているという事実にワカは激怒し、一つずつ拾っては抱え、そのまま捕まえられた。

 

 店の認知度が拡がり、有名企業からのヘッドハンティングを断り始めていた頃のことであり、犯人達はその関係者で、『おにぎり屋風情が生意気な!』といった具合で強硬手段に出た結果であったが、匿名の者達──お握り屋『握善<にぎりよし>』の熱狂的なファン──の通報により、大事に至る前の救出となった。

 

 拾ったおにぎりは事件の証拠品ということで回収され、誰にも食べられないままとなるということを知ったワカは慟哭した。

 

 

『ほら、三度目の正直という言葉があるでしょう? そういうことです』

 

 

 今回の誘拐で、『二度あることは三度ある』となった。

 

 なお今回も匿名の者達──お握り屋『握善<にぎりよし>』店主ワカの熱狂的なファン──の通報により、『カリュドーンの子』のメンバーが救出に赴いたことで、無事解決に至っている。

 

 ヤバい人間の周りにはヤバい人間が集まる。

 店主ワカもその類であった。

 

 ちなみに再発防止のためにワカは『ホロウレイダー』の狡猾な手口を『カリュドーンの子』のメンバーに説明したが、『馬鹿なんですのっ!?』というお叱りの言葉をもらった。

 そして帰途は、これ以上何かが起こらないように、と手厚い護衛を受けている。この恩は必ずやおにぎりで返さねばならない。ワカは感謝してそう誓った。

 

 

 そして今日は、久し振りの休日。

 

 そんな彼の本日のお出かけ先は、『特に無し』である。

 

 

 

 ────────

 ────────

 

 

 

 私は思うのです。

 『休日』とは、その名前の通り『休む日』であると。

 

 休日を増やした当初は『それはそれでやることが無い』と困ったものでしたが、『別に何もしなくても良い』と気付いてからは、大分楽に考えられるようになりました。

 

 朝は好きな時間に起きて、好きな品種の米を炊いて、好きな具材を調理して、好きな形でおにぎりを握る。

 昼は『Random Play』から借りた料理番組のビデオを見て、内容から着想を得て、新しいおにぎりを模索する。

 夕方から夜はおにぎり情報を検索し調べ、おにぎりに繋がる情報や知識を蓄え、明日の営業に備えて準備する。

 

 おにぎりに関連する行為は私にとって呼吸と一緒ですので、何も問題は有りません。

 

 何と有意義な休日でしょうか。

 

 何処かに出掛けたり、誰かと遊んだり、何かを購入したり。

 それらももちろん有意義ですが、休日だからといって無理にこなす必要は無いのです。

 そのような考えの下、私はこの自宅──アパートの一室から、一切の外出をすることなく一日を終えようとしておりました。

 

 その夕方に、玄関のチャイムの音が鳴り響きます。

 

 ……配達か何かでしょうか? 

 『おにぎり 新作』、『おにぎり 知名度向上』、『おにぎり 具材 珍味』などといったワードで検索をかけていた私は、その手を止めてインターフォンのカメラを起動します。

 

 お恥ずかしいことに尋ねてくるような友人も少ないですし、配達か何かだと思っていた私は、カメラに映った人物──リナさんに、少々驚きました。

 

 

『──こんばんは、ワカさま』

 

『いえ、大した用事ではありません。少々不安な噂をお聞きしましたので……』

 

『……ご無事であるならば、何よりですわ』

 

 

 インターフォン越しに話を聞いてみると、どうやら先日の郊外での一件を、何処かで耳にしたご様子。

 

 弟子に心配をさせてしまうとは、師匠として不甲斐無い限りです。

 いつものメイド服であることと時間帯から考えるに、仕事終わりにこちらへと寄ってくれたのかもしれません。

 

 精神的にも肉体的にも何も問題無いことを伝えると、カメラに映るリナさんはホッと安心したようでした。

 

 ですがどうやら、私の安否確認だけが目的だったようで、彼女は早々に立ち去ろうとしています。

 せっかく来て頂いたのに、何も歓迎せずにおかえしするのは、いかがなものでしょうか? 

 

 男性の部屋ともなれば丁重にお断りされることは目に見えていたとしても、お決まりの言葉を掛けない訳にはいきません。

 

 ええと、よろしければ少し上がっていかれますか? おにぎりならお出し出来ますけれども……。

 

 

『ぜひ』

 

 

 ……………………。

 

 

 なるほど。

 

 おにぎりが食べたい、という訳ですね! 

 

 どうぞどうぞ召し上がって下さいませ! 

 

 

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