新エリー都でおにぎりを握る。   作:キノント

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昆布

 

 上を見れば青い空に白い雲。

 正面を向けば青い海に白い砂浜。

 

 『ファンタジィ・リゾート』は、ここ最近特に話題になっているリゾート地と聞いております。

 今回依頼を受けた際、そう言われてみると確かに頻繁にCMが流れている、と納得したのを思い出しますね。

 

 

「改めまして、『ファンタジィ・グルメフェス』へのご参加ありがとうございます!」

 

「配布した資料で不明なところがあればスタッフへ。追加の要望の場合は僕にお願いします」

 

 

 オーナーのテレーゼさんと支配人のエーゲさんが、出店者の下を一つ一つ回っておられます。

 

 この『グルメフェス』に参加を決めた際、そのことをアキラさんとリンさんにもお話ししたのですが、どうやらお二人はこの場所と縁が深いようで、ここで起きた様々な出来事を教えて頂きました。

 更には何名かの重要人物のお名前も教えて頂きましたので、もし何か起きてしまった際は自分達の名前を出してもらって構わない、というありがたい言葉も頂きました。

 

 テレーゼさんとエーゲさんも、その重要人物の内の二名です。

 私自身はアキラさんとリンさんのお二人の名前を使うつもりは無かったのですが、どうやら事前に連絡がされていたらしく、丁寧な挨拶と共に、大変良い出店場所を確保している、という説明を受けることとなりました。

 

 ……今回はご厚意に甘えさせて頂くとしましょう。お礼はもちろんおにぎりで。

 

 

 

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 『大変良い出店場所』は、広い通路の片側、しかも施設入口に一番近い端っこでした。

 他の出店者の多くは、少し離れた場所に連なっているのが見えます。

 

 この『グルメフェス』は初めての催しと聞いています。そのため出店者も他所のそれに比べると少なめとなっておりますが、そのおかげで通路の両側を使用せずに済んでいるので、お客様が並んだり通行したりが、とてもしやすくなることでしょう。

 

 『グルメフェス』の開始は明日の朝からです。

 今日は準備だけですが、シンプルな『おにぎり』の私とは違って、他の方々は各々の準備や作業に忙しなく動いております。

 

 ……邪魔はしたくありませんが、隣とその隣の方くらいには、ちゃんと挨拶をしておくとしましょう。

 

 

「……初めまして、だな。アンタの噂は聞いてる」

 

 

 私の隣は『焼きそば』の屋台。

 店主は鉢巻を付けたご年配の男性で、皺の深さが料理人としての歴を物語っています。

 

 噂とは何でしょうかね? 

 悪いものでなければいいのですが。

 

 

「この世で一番美味い料理を知ってるか? ────『焼きそば』だよ」

 

 

 そこから語られる店主の『焼きそば愛』。

 ジャンルは違えど私の『おにぎり愛』と、優劣の差が無い程の凄まじい熱量でした。

 

 話の終わりに、鉄板の調子を確かめるため、と焼きそばを頂きましたが、私が人生で口にした焼きそばの中で、間違いなく一番の美味しさでした。

 どの世界にも極めようとしている者が居る、ということですね。

 

 焼きそばのお返しは『昆布おにぎり』にしました。

 『ファンタジィ・リゾート』は海に面しているということで、今回のおにぎりは海産系が多めとなっております。

 

 

「…………長生きはしてみるもんだな」

 

 

 昆布おにぎりを食べた店主さんは、驚きの表情を浮かべた後、楽しそうにニヤリと笑いました。

 

 

 

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「ナン」

 

 

 そのまた隣は、ボンプが店主を務めている屋台でした。

 どうやら『ナン』を商品としているようですね。

 

 ですが、カレーが見当たりませんね。本番は明日ですので、今日は特に用意等はしていないということでしょうか? 

 

 

「ナン! ナンナン! ナンナッ!」

 

 

 ……はい? えっ? ほ、本当ですか……? 

 そ、それは何とも剛毅と言いますか……。

 

 まさかの『ナン』一点張りでございました。

 ええ、カレーなど不要だそうです。

 

 一応『チーズナン』や『はちみつナン』などもあるようですが、余程ナンに自信があるのでしょう。

 そしてその自信を裏付けるがごとく、非常に素晴らしいナンでありました。

 

 確かにこのナンには、他の余計なものは必要無いでしょうね。

 しかしナンとは……、世界は広いですね……。

 

 

「……ンナナンッ!」

 

 

 お礼に店主のボンプさんには、『バッテリーおにぎり』をお渡ししました。

 こちらは商品ではなく、『おにぎりをもっと広めるにはどうしたら良いか』を考えた末、『どうにかしてボンプにも味わって欲しい』と思い、作製したバッテリーです。

 

 機械関連は得意ではありませんので、私の知る中で最も機械に詳しいと言える方──変態的とも言えます──に、手伝って頂きました。

 

 反応を見る限り、大変ご好評の様子。

 おにぎりの数倍以上の値段がするので、量産が出来ないのが難点です。おにぎりを銘打っている以上、こちらもいずれは極めていきたいところです。

 

 

 

 

 

 ────挨拶も済ませましたし、私も明日に向けて最終準備をしておきましょう。

 

 ……それにしてもこの『グルメフェス』。

 味云々は一旦置いておくとしても、施設の入口から連続で『米』・『麺』・『粉物』とは、お客様もびっくりすること間違い無しですね。

 

 そしてその驚いているお客様に、精神安定剤であるおにぎりを提供するという完ぺきなロジックとなっております。

 

 おにぎりは料理の『腕』が大事ですが、おにぎり販売には『頭脳』が必要なのですよ! 頭脳が! 

 

 

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