『────グルメフェスの終了時刻となりました』
『────ご来場頂いた皆様にスタッフ一同感謝の言葉を申し上げます』
『────これからもファンタジィ・リゾートは皆様のお越しを心よりお待ちしております』
グルメフェス最終日。
イベントの終わりを締めくくるのに相応しい盛大な花火と共に、楽しい時間の終了が告げられました。
昨日や一昨日と違って早々に帰路につくお客様も少なく、友達や恋人とお喋りをしながら、ゆっくりと余韻を楽しんでいるようです。
私も私以外の出店者も、お土産に買われていくお客様が多いため、まだまだ忙しさが残っております。
「────素晴らしいシンメトリーだったのだわ。機会が有ればぜひ衛非地区にも……」
盛況のまま最終日を迎えられたのは、『シンメトリー』を提案してくれた彼女──アリスさんのおかげです。
お礼とお土産に沢山のおにぎりをお渡ししてしておきました。
もちろんシンメトリーですし、更に改良を加えてどこかに置いても接地面が潰れず、完全なシンメトリーを保てるようにしておきました。
『昨日のおにぎりより今日のおにぎり』とも言いますしね。おにぎりは進化するのです。
「大事に飾らせて貰うのだわ!」
食べ物なので、ちゃんと食べて下さいね?
食べ物は食べてこそですよ?
…………それにしても衛非地区ですか。
興味は有るのですが、スケジュールの関係上難しいところではありますね。
『ブレイズウッド』などもそうなのですが、遠方の場合は何日間か滞在した方が、コストや体力的にも断然良いので。
────っと、この声は。
「ワカにい、お疲れさまー! ……おにぎり残ってる?」
手をブンブンと振りながら元気な声で近付いてくる蒼角さん。
前日の連絡通りフェスの最中にもお店に来てくれていたのですが、最終日ということもあってお客様の数が多く、簡単な挨拶を交わすことしか出来ませんでした。
きっとゆっくりと話せる時を待って、今来てくれたのでしょう。
……ですが、私としては彼女に謝らなければいけません。
彼女がたくさん食べたがると思って用意した追加の食材は、ほとんどお客様の胃袋へと消えてしまったのですから。
残っているのはこちらの『辛子明太子おにぎり』が数個だけ。
蒼角さんを満足させるには到底足りない量ですが、とりあえずはこちらを差し上げることといたしましょう。
「いただきまーす! ──ごちそうさまっ!」
おにぎりが……消えた……?
……これが対ホロウ特別行動部第六課の隊員の力ということなのでしょうか?
優れたアスリートは食が太いと言いますが、ホロウで活躍する人達もその例に当てはまるのかもしれません。
思い返せば蒼角さんの上司に当たる星見さんも、塩おにぎりをたくさん食べていたように思います。
「蒼角、ごはんはよく噛んで食べないと」
「あっ、ナギねえ……ごめんなさい。ナギねえの分も食べちゃった……」
蒼角さんに遅れてやって来たのは、彼女の同僚兼保護者の月城さん。
二人が一緒に居る様子はまるで親子か姉妹のようで、見ているこちらもおにぎりのようにほっこりしてしまいますね。
謝る蒼角さんの頭を、『気にしなくても大丈夫』と言うかのように撫でた月城さんが、私の方を向きます。
「お久し振りです、ワカさん」
こちらこそお久し振りですね、月城さん。
彼女と前回お会いしたのは一月近く前になるでしょうか?
ホロウ調査などで忙しい職場だと聞いておりますので、彼女の職場の近くで営業しても会わないことは多々ありますが、今回は特に長かったようです。
それにしてもお元気そうで何よりです。
ホロウ関係のお仕事は何が起きてもおかしくないと聞きますし、常連のお二人が店に来てくれなくなってしまったら、それはとても悲しいことなので。
「守秘義務のため詳しくはお話し出来ませんが、今回は想定よりも長い調査になってしまいました。…………蒼角もとても会いたがっていたんですよ? 『ワカにいのおにぎりが食べたいー!』って。ねえ、蒼角?」
「うんっ! ナギねえも会いたがってた!」
何と。
そんなにもおにぎりを求めてくれるなんて、冥利に尽きるとは正にこのことでしょう。
何故か月城さんが動揺しておりますが、気にすることはありませんよ?
女性の方は食欲を大っぴらにすることを恥ずかしく感じるようですが、食は生きる上で大切な事ですので、隠す必要は何処にもありません。
個人的にはたくさん食べる方はとても好ましく思いますし、それがおにぎりなら尚更です。
しかしそうなるとますます、お二人におにぎりをたくさんご用意出来なかったことが悔やまれますね……。
明日は本来休日ですが、彼女達の職場近くで営業出来ないか、いつもの営業場所の管理人に問い合わせてみましょうか?
……ですが常連かついろいろとお世話になっているお二人とはいえ、個人のためにそこまでしてしまうのは、他のお客様に対して不誠実とも言えます。何とも難しいところです。
「……あの、ワカさん? 実はお願いがありまして、数日内でどこかお時間は有りませんか?」
どうやら私が考え込んでいる間に、月城さんと蒼角さんが何か話し合っていたようです。
数日内と言いますか、明日がお休みの日なのでちょうど空いておりますが、一体どんなお願いなのでしょう?
「蒼角がワカさんのおにぎりをもっと食べたいと言っているんです。材料費なども私が払いますし、相応のお礼も致しますのでお願いできませんか?」
良いですよ!
おにぎりのことなら喜んで!
「やった! じゃあワカにいも一緒に買い物行こうね?」
ふむ……。
蒼角さんのためにおにぎりを握るのなら、具材などは彼女に選んでもらった方がより喜ばれるのは当然。
こちらこそよろしくお願いします。
「わたしとナギねえのおうちで作ろうね!」
それはちょっと聞いてないですね。
その辺りはどうなんでしょう月城さん。
「すみません、こんなに楽しみにしている蒼角に水を差してしまうのは……」
……………………。
……まあ、お二人が了承しているのなら特に問題は無いということでしょうか?
私もおにぎりを握るだけですし、問題無しということにしておきましょう!