新エリー都でおにぎりを握る。   作:ワナシ

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おかか

 

 お握り屋『握善<にぎりよし>』は、新エリー都の各地で販売を行っている、移動販売式の店舗の名称である。

 

 店主は若い男性だが、その風貌はまるで『ヤのつく自由業』であり、初対面の相手は本人の物腰の柔らかさも相まって、冷や汗を流すことが常となっている。

 

 だがしかし、オールバックの髪型は大事な商品であるおにぎりに、髪の毛が入ったりしないように気を付けた結果であり、眼鏡の奥に潜む鋭い目つきについては、幼い頃から視力が弱かったために、目を細めることが癖となってしまったからだ。

 

 またスーツにエプロンという服装については、営業のための一張羅を用意した際、資金が底をついてしまったため専用の制服を準備する事が叶わず、仕方なくそのまま着続けている内に慣れてしまった、というエピソードがある。

 

 年齢。

 風貌。

 態度。

 

 そして彼の本名から取って、お客様や友人からは『ワカ』と呼ばれ、最近はそれなりに親しまれて来ている。

 

 なお本人は、愛称を付けてもらえるなら『おにぎり』の四文字から使って欲しい、とお願いしたのだが、当時この『ワカ』の名称を考えた学生のお客様からは、即座に否定されてしまっている。

 

 

『私は……おにぎりになれないのか……!』

 

 

 彼は酷く悲しんだ。

 

 

『…………ワカメおにぎりと考えれば悪くありませんね!』

 

 

 彼はとても喜んだ。

 

 

 そんな彼の本日の営業場所は、『六分街』である。

 

 

 

 

 

 ────────

 ────────

 

 

 

 

 

「──久し振りだね、ワカさん」

 

「──ワカさん、久し振りっ!」

 

 

 六分街のレンタルビデオ屋『Random Play』。

 

 その店先のショーウインドウの前で屋台を展開し、ちょうど朝の営業が終わったため休憩に入ろうとしていた私は、後ろから聞こえた懐かしい声に振り向きました。

 

 そこに居たのは予想通り、この『Random Play』の店主でもある仲の良い兄妹──アキラさんとリンさん。

 私の営業場所の一つとしてこの店先をほとんど無償で貸してくれている、とても優しいご兄弟です。

 

 以前に、『衛非地区』での長期の予定が出来た、と言って出掛けたきりでしたが、無事に戻られて何よりというものです。

 

 ウェルカムおにぎりをどうぞ。

 

 

「うんうん! ワカさんのおにぎりを食べると『戻って来た!』って感じがする!」

 

「リン? 僕の分まで食べていないかい? ……リン?」

 

 

 『両手に花』ならぬ『両手におにぎり』といった様子で、交互に頬張るリンさん。

 美味しそうに食べて頂けるなら、おにぎり人冥利に尽きるといったものでしょう。

 

 アキラさんもご安心ください。

 まだこちらに有りますから。

 

 …………リンさんに取られてしまいましたね。

 

 こうなっては仕方ありません。試作品で良ければ私の賄いとして用意しておいたこちらを差し上げましょう。『おかかおにぎり』ですが、山葵を使用して風味を足しております。

 

 地代の代わりにおにぎりを提供する。約束を守ることは大事です。

 

 

「…………!」

 

「そう睨まないでくれ。もう十分に食べただろう?」

 

 

 憤りを滲ませるリンさんの視線をいなしながら、アキラさんが私の方を向きます。

 

 ……ふむ、お二人が居ない間に変わったことですか? 

 それはもちろんおにぎり関連────では無い? 

 

 すみません、それならば少々お時間を頂いても? 

 今から頑張って思い出しますので。

 

 

 えーと、営業で来た時はたまに店内の様子を確認して欲しい、とは言われておりましたが、店の方はお二人のボンプが問題無く回しておりましたし、ビデオを借りに来たであろうお客様以外で記憶に残っているのは……。

 

 

 紫色を基調とした傘を持ったお嬢様のような女性。

 両目からおでこ辺りまでを何かで覆っている女性。

 治安局駐在所で見かけたことの有る治安官の女性。

 

 

 この辺りですが、見事に女性ばかりですね。

 

 お二人の所在を尋ねられましたが、『私も存じ上げない』と、しらを切ってしまいました。

 ご様子と口振りから悪い人などではなく、お二人と知り合いのようでしたが、関係性の深さまでは分かりかねましたので、妥当な判断と言えるでしょう。

 

 尋ねてきた内容と本人達の特徴を伝えたところ、アキラさんからは『それなら大丈夫』と返答を頂けました。どうやら連絡アプリ──『ノックノック』で、既に対応していたとのこと。

 

 

「お兄ちゃんのノックノック、女性の割合多くない?」

 

「…………偶々だよ、リン」

 

 

 レンタルビデオ屋の傍らで、何やら機械関連のお仕事をしているとお二人からは聞いています。ですので、こういったアプリなども使いこなしているのでしょう。

 

 私、おにぎりについては少々知見がありますが、機械の話になるとてんで駄目でして……。車の運転と電話、メールくらいしか出来ないといっていいでしょう。販売場所のカレンダーも、手書きを印刷したものですし……。

 

 何がおにぎりに繋がるか分からない以上、頑張って勉強をしておりますが、中々芳しくありません。

 

 この『ノックノック』という連絡アプリについても、最近携帯機器に入れたばかりです。メールでは駄目なのでしょうか? 

 おにぎりのスタンプ? とやらはとても気に入っておりますが。

 

 現状この『ノックノック』で頻繁に連絡を取っているのは三名ほどですのでそれほど支障はありませんが、これ以上増えるとフリック操作とやらで指が疲弊してしまいそうです。

 

 私の指は、おにぎりを握るためにあるんですよ? 

 

 

「それじゃあワカさん、荷解きがあるからまた後で」

 

「お昼もおにぎりよろしくお願いしまーす!」

 

 

 黙々とおにぎりを作って販売する日々も悪くはありませんでしたが、やはり会話があるとより楽しいものです。

 お二人が戻って来たことで、店のボンプ達も喜んでいることでしょう。

 

 ……さて、賄いを作り直しましょうか。

 

 

 何を作るかって? 

 

 ──おにぎりに決まっているでしょう。

 

 

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