新エリー都でおにぎりを握る。   作:キノント

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焼き

 

 

「久しいな、ワカ! 繁盛してっか?」

 

 

 営業期間中に店に顔を出してくれたのは、『カリュドーンの子』のボスこと『キング・シーザー』さん。

 

 豪快さが目立つ女性ですが仲間達を大切にし、気遣いも出来て、何よりこの郊外に住む人々のことをちゃんと慮ってくれる、義に厚く情に深い方です。

 

 取り置きしておいた『おにぎり』をいくつか食べて、「美味ぇ!」と喜んでおりました。

 野生の勘なのか分かりませんが、ご自身が好きではない野菜系のおにぎりを的確に避け、肉系のおにぎりばかり取っていたご様子。

 

 シーザーさんは長居せず、少し会話をした後、バイクで何処かへと駆けて行かれました。

 きっとボスとしての仕事やらで、いろいろと忙しいのでしょう。

 

 

「仕事? その可能性は最も低いものでしてよ」

 

 

 これは帳簿付けを手伝ってくれた、『カリュドーンの子』の『ルーシー』さんの言葉です。

 彼女は財務や交渉関係を担当している方で、言葉の端々から隠された気品が見て取れます。彼女の長い本名から察するに、どこかのお嬢様なのかもしれませんが……人の事情はそれぞれです。詮索の必要は無いでしょう。

 

 帳簿付けを手伝ってくれたのは優しさもあるでしょうが、『利益に応じた場所代』という契約を交わしておりますので、私が誤魔化さないかの確認の意図もありそうです。

 

 それと彼女曰く、私のおにぎりは「一つの料理としての完成度は三ツ星をゆうに越えていますわね」とのことで、とても嬉しい限りです。

 

 

「ねえねえっ、こっちも燃やしていいっ?」

 

 

 聞くや否や、私の目の前でおにぎりが全て『焼きおにぎり』へと変わっていきます。ルーシーさんの言葉を借りるなら、三ツ星の看板は降ろされてしまったとみていいでしょう。

 

 おにぎり専用に用意しておいたバーナーを楽しそうに扱う女性は『バーニス』さん。もちろん『カリュドーンの子』の一員です。

 バーテンダーとしての一面もあって、彼女が作る特製のドリンク『ニトロフューエル』は私も頂いてみましたが、新しいおにぎりのアイディアがいくつか生まれるほど、斬新で刺激的なものでした。

 

 ちなみに焼きおにぎりに関しては、特に問題ありません。

 こうなるのは初めてではありませんので、あらかじめ『焼き専用』のおにぎりを準備しておきましたから。

 

 味はもちろん大事ですが、食事には楽しさも大事なのです。

 

 

「……これで毛に引っ付かなきゃ最高なんだけどね」

 

 

 そして今回初めてお会いする方で、聞けば最近『カリュドーンの子』に加入したという猫系シリオンの女性──『プルクラ』さん。

 当然私のおにぎりも初めてとのことでしたので、私の笑みは深まるばかりでした。

 

 初見さんの反応からしか得られない嬉しさがあるんですよ、おにぎりには! 

 

 一口目で目を丸くし、おそらく思わず漏れ出た「美味しい」の言葉……。

 

 ────最高の反応です。これだからおにぎり屋は辞められません。

 ……ですが彼女の、零した際に毛に引っ付いてしまう、という言葉はその通りです。

 

 そういったシリオンの方も安心して食べられるおにぎりが、今後の課題の一つですね。より一層頑張らなければ。

 

 

「おぉ、ワカぁ……。今日もお疲れさんだぜい」

 

 

 どこからどうみても私よりお疲れ様なご様子の彼女は『パイパー』さん。

 基本的に元気で活発な『カリュドーンの子』の中では、珍しく気怠げでものぐさな性格でいらっしゃいます。

 

 ですが仕事はプロフェッショナル。

 大型トレーラーを巧みに操るお方で、この『チートピア』への食材搬送も担ってくれています。

 

 幼い外見に似合わず言動や行動が成熟していらっしゃるので、営業後に様々なことをお話ししたりもします。

 

 ……最近忙しくて肩凝りが酷いとのことでしたが、本当なのでしょうか? 

 まあでも私もおにぎりの握り過ぎで指凝りすることは有りますし、きっとそういうものなのでしょう。

 

 

 

 『カリュドーンの子』の皆様のお力添えもあって、『チートピア』での営業は期間中ずっと大盛況。

 

 おかげさまで忙しく楽しい時間を過ごせましたが、それも今日で一旦終わりとなると悲しいものです。

 今回はいつもより初見のお客様もたくさん居りましたし、ここに来る回数を増やすというのも、良いアイディアかもしれません。

 

 おにぎりの美味しさを知った人が、新たな広告塔になってまだ知らない人に情報を伝えていく。

 おにぎりはネズミ算式に知られていくのです。素晴らしいですね。

 

 ……ですが、竜頭蛇尾は良くありません。

 最終日の今日もしっかりと大盛況で終わらせることで、今回の『おにぎり遠征』を有終の美で飾ることと致しましょう。

 

 そのために今日はいつもより少し早めに起きて、入念な準備をしようと思ったのですが────。

 

 ……あの地面に置かれた立て看板。

 昨日の夜は無かったと思うのですが……。

 

 気になって近くまで行ってみますと、看板には何やら少し汚い字と、地図のようなイラストが描かれておりました。

 

 ええと……? 

 

 

『珍しいおにぎりの具! こちらで販売中!』

 

 

 ────なるほど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アニキ! おにぎり屋の店主を捕まえました!」

 

「マジかよ……。馬鹿な野郎だな……」

 

 

 地図の場所に居たのは、明らかに悪そうな『ホロウレイダー』の方々でした。

 

 くっ、何という巧妙な罠でしょう……! 

 

 ────それで、珍しいおにぎりの具はどこでしょうか? 

 

 

「有るわけ無えだろ」

 

 

 ゆっ、許せませんよそれはっ……! 

 人としてやって良いことと悪いことがあるでしょうっ!

 

 

「アニキ! こいつ何だか怖いっす!」

 

 

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