妙なリザードマン♀を連れて行商するだけの話 作:4645 (ケモ系大量生産クリーチャー)
「!いらっしゃ〜〜〜………ぁ」
…あまりに眠過ぎてやる気が出ず、正直売る気も起きない。
目の前をふらふらと通り過ぎる兵士風の男の人へ暇つぶしに声をかけてみるけど、特に反応もなく歩き去られてしまった。
まあ行商なんてそんなものである。
私とリザ子ちゃんは今、2人揃って大あくびしながら村のメインストリートでゴザを広げていた。
「くぁ…」
リザ子ちゃんのあくびは暇な猫のようだが、遠景に望む山脈のような歯と筋肉質な口腔と暗い喉が、見た者に彼女の食性を思い起こさせる。
…やっぱりちょっと怖いかも。
うっかり齧られでもしたら、肉をまるっと型抜きのように持っていかれそうである。
まあ、彼女がそんな野性的な人物ではないことは既に理解しているので、べつに本気で恐怖しているというわけでもないが、なんとなく?
「…」
折り畳み式の簡易勘定台に頬杖をつきながら、やはり眠たげに歩哨の交代へ向かう兵士の男を見送りつつ、かいた胡座の中に置いてある算盤を手慰みに弾く。
…ぱち、ぱちと。
「はぁ…」
「…」
隣に座るリザ子ちゃんはとうとう完全に静止し、目を閉じてしまった。
…ここは国境の村ヒデブ、領土的係争地のど真ん中である。
◇◇◇
「…お、いらっしゃせ〜〜」
初めてのお客さんは、2時間ほど座り続けた後にようやくやってきた。
「はい、またどうぞ〜…」
…ありがちな会話や値引き交渉のたぐいは朝っぱらだとお互い面倒なので発生しない。
疲れきってヨレヨレの様子の帯剣したおじさんは、いちばん安い砥石を2つだけ買って去ってゆく。
「甲斐性のないやつだなあ」
お気付きの通り、さっきから兵隊関連の男性ばかりである。
先程も記した通り、ここは係争中の危険地帯なので兵士が常に詰めているのだ。
目の前の大路の先には小ぶりながらしっかりした石造りの砦がドーンと築かれていて、なんとも物々しい。
張り詰めた雰囲気が得体の知れない緊張感となって村全体に充満しているようである。
真横にある夜警用の消えた篝火からは冷えきった油の臭気が放たれ続けていて、すこしくさい。
ちなみに村と言っても数百人は住んでおり、結構規模が大きい。
まあ、過半数は兵隊さんが占めていて、更にその3割以上は兵隊さん関連のキャラバンや物売りなのだが。
「あら、初めましての方と…ノウリさん。いらしてたのね」
「あ、お久しぶりです」
「ちょうどよかったわ。この後虫取りに来てくださらない?兵隊さんが足を食われちゃって…」
「もちろんです。ちなみに彼女は社会科見学中のリザ子ちゃんです」
「・+・=」
「あら。よろしくね、リザちゃん」
…ようやくやってきた兵隊以外の人物は上品な白髪の女性で、私とは結構な付き合いになる村長の妻だ。
意外と人見知りしないタイプらしいリザ子ちゃんも、私が挨拶を促してすぐになにかリザ語で自己紹介したようである。
なお、リザードマンという種族自体は護衛などの職業によく付いているので、別に彼女が珍しがられることはない。
多民族社会なので言葉が通じないのもご愛嬌だ。
そんな背景が存在することもあり、村長の妻はおばちゃんらしく軽妙に良い感じのあだ名をすぐさまリザ子に付与すると、彼女のそのぷらんとした手を勝手に取って握手し、テコテコと去っていった。
…リザちゃん、か。ちょっといいかも。
「今の、村長さんの奥さん。緊張した?」
「…」
………ふり。と、尻尾は緩やかに左に触れた。
緊張してたんだ。
本人は否定してるけど、尻尾で嘘をつくのは苦手な様子。ちょっとかわいい。
「ふわ〜ぁ………」
再び静寂の戻ってきた朝市。
私の他にも10つほどの出店が出ているが、どれもこれも実用品や軽食などの似たり寄ったりなラインナップで、なんの面白みもない。
まあ、私の売り物もそうなのだが。
いくら軍事拠点兼人口移動の経由地とはいえ、何も無い日はこんなものだ。
それに、私は実はこれだけで飯を食っているわけではなく、副業の方で利益を出しているので、別に客が少なくてもそっちで客を取れば良いのだ。
…先程の虫取りのくだりからもうお察しかもしれないが、そう。
私は市販の薬と見よう見まねの手芸だけを当てにした医者モドキとして、ちょっとした治療行為も請け負っているのだ。
◇◇◇
「こんな感じなのだけど…」
「あ〜〜〜…………ちょっとやってみますね
リザちゃんせっかくだし私の施術見てな」
「…」
ふり。と、尾は右に振れる。
リザちゃんは患者の足の前にしゃがむ私の姿を真似したのか、同じく私の隣にしゃがみ込んだ。
今から私が行うのは、なんて事ない虫取り術である。
「じゃあ、これ…」
「ああ…」
かなりしょんぼりした顔の兵士のおじさんに私が差し出したのは、足に巣食う寄生虫を弱らせるための虫下しを溶いた水だ。
…飲ませて効き目が回るのを待った後、直接足に切創を作り、そこから皮膚の下に居る虫を引っ張り出す。
当然、たぶんめちゃくちゃ痛い手術だし、虫下しは虫下しと言いつつただの薄めた毒だしで、ろくなもんじゃない。
けど、まあ素人よりは経験者がやった方がまだマシだろうということで、私のような者にお鉢が回ってくる。
この地域は沼地が多く、ちょっと油断して素足で歩いたりするとすぐに虫が入ってしまう環境なので、こういう施術の機会が多いのだ。
「…あ"あー、頭が痛くなってきた」
ダンディな声のおじさんは更に顔をしおしおにさせると、小汚い寝台に横になってしまう。
この虫下しはやっぱり割と毒なので、容態を見てから分量を測って売らなければならず、少なすぎても多すぎても良くない。
今回のような頭痛が出始めるぐらいが適量で、嘔吐や目の充血が始まると多すぎだ。
「リザちゃん、その机の上の足貝棒取って。
…あ、ごめん。ねじれた細い鉄の串みたいなやつね」
「…?」
…これ?という感じでふわっと手渡されたのが、そう。今回の主役の足貝棒だ。
おじさんの足の皮膚に浮かび上がっている足に巻き付いた紐状の影は、足貝という寄生虫で、その名の通り足を食べる貝だ。
正直なところ虫なのか貝なのかはよく知らないが、多分虫だ。
でも貝って名前に入ってるし、貝なのかもしれない。
…よく分からないが、とにかくこいつは足貝といい、この足貝棒をコイン状の平べったい頭に殺さないよう注意しながら刺し止め、そのまま巻き取るようにずるずると引っ張り抜いて除去する。
毒を飲ませて弱らせないと暴れて傷がひどくなるし、うっかり殺すと皮膚の中に残ったままバラバラになってやっぱりひどいことになるので、面倒くさい。
「クソ…故郷が恋しい」
「〆<×%?」
「おお、お前は私の故郷の名を知っているのか…アイタタ」
暇なリザちゃんがおじさんに話しかけると、驚くべきことにおじさんはリザ語が分かるようであった。
服装から察するに、外交官なのかな?
…一気に緊張してきた。あまり怒らせない方がいいだろう。
「…どうだ、私の足は無事か」
「はい。もうほぼ抜けました」
「それはいい…早く終わらせてくれ」
しかし、こうして専用の道具をわざわざ買って使うほど散々やってきたことなので、慣れたものである。
慣れれば足に切創を作る時ぐらいしか危ないところがないので、ボロい商売だ。
見た目も行為も大変気持ち悪いが、外皮の弱い種族は大抵罹る病なので、やり方を覚えておいて損はないだろう。
いつの間にかリザ子も寝るおじさんの足の真横に移動して興味深そうに学習している。
…ちょっと誇らしい気持ちになってしまう。
「…終わりました。血止め塗っておきますね。
あと、実はこの棒売ってるんですけど、いりませんか…?」
「ああ、貰おう」
「ありがとうございます。もちろん在庫の新品の物をお渡ししますね」
…術後のやり取りは数分で終わり、村長の奥さんもホッとした様子でどこかへ出かけたので、私とリザちゃんは公民館の中にぽつんと取り残されてしまった。
まあ、元の位置に戻って売れない道具屋さんの続きをするだけなので、だからどうということもないのだが。
ちなみに木製の膿盆の上でもう自壊し始めている足貝は、全身から麻酔のような物を出して宿主の苦痛を抑えているらしく、このまま乾燥させてすり潰すと強力な痛み止めになる。
…麻薬にもなる。
でも、医療で日常的に使われるものであり、かつ由来が気持ち悪いことからあまり快楽目的に使われないため、所持が完全に合法である。
…なお、個人的使用は死罪である。
「…奥さん、なんで偉い人の施術だって教えてくれなかったんだろ」
「…?」
リザちゃんは尻尾を左に振った。知らないってことかな
正直、どちらかと言うと私がモヤッとしているのはそこである。
まあ、緊張させて申し訳ないからとかなのだろうけど、教えてくれた方がよかったな。
…我ながらめんどくさい女である。
とにかく用は済んだので、私とリザちゃんは元のゴザに戻った。
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ここすきとても嬉しい
趣味なので内容が変です