妙なリザードマン♀を連れて行商するだけの話 作:4645 (ケモ系大量生産クリーチャー)
突然だが、ご存知の通りリザちゃんはリザードマンの成人女性である。
リザードマンであるということは、その筋力や身体能力は人間よりもかなり強靭なものであり、それはリザちゃんが女性であるということを加味しても変わることのない事実だ。
しかし、当然ながらこの世界は人間とリザードマンだけで構成されているわけではない。
「…げろォぇ……っ"」
彼女は今、かろうじて喰い殺した敵の黒く錆臭い血肉を吐き戻しながら大地を両手に握り込み、地に伏している。
土手っ腹を蹴飛ばされたのだ。
その様子を見下ろすのは怒りに全身を震わせる汚い山賊のクマ男。
…近くには首を抑えながら痙攣する鼠獣人の俗物が。
確かにリザードマンは人間より強い。
しかし、亜人全体からすると彼女はそれなりに鍛えただけのただの小娘に過ぎない。
そうだ、彼女も私も主人公ではないのだ。
走れば疲れるし、殴られたら脂汗が止まらなくなり、腹を蹴られれば青ざめる。
物語の中の人々のように突出した存在になることはできない。
「…はぁっ、はあっ」
…今、かろうじてリザちゃんに逃がされた形の私は、咄嗟に隠れた近くの木の裏で、ヒステリックな酸素への渇望を鎮めようとしている。
手の中には小さな身支度用のナイフだけがあった。
「てめえだけは、俺がこの手で殺してやる」
「…げぶッ」
大したダメージのない様子の大クマ男は純粋な憎しみの覗く声色でリザちゃんに呪いの言葉を吐きかけると、崩れ落ちたままの彼女の長い首を片手で掴み上げ、そして憎々しげに脅す。
反骨的かつ人殺しの色に瞳を蘭々と輝かせる一匹の蜥蜴の口の端からは、持ち上げられたと同時に赤黒い泡と鼠の肉片が次々に噴き出し、ふくらはぎからつま先にかけての筋肉痙攣が死戦期を物語った。
「いかないと、いかないと、いかなくちゃ………」
クマ男のひどい獣臭が鼻を突く。
決まり始めた覚悟に澱み、自らの黒い瞳がたった今据わり切ったことを悟る。
タールのように粘着質なそれが、掌ほどの刃渡りの刀身へゆらりと染み込んでゆくような気がした。
…ざっ、と。
刃を両手で腰だめに構えて、木の裏で落ち葉を今にも走り出すつもりで強く踏み締め、そして私は……
◇◇◇
…更に次の、砂漠の地域へ。
それこそ係争中の隣国へ、更なる行商のために出立するか迷っていた時のことである。
荷造りの一番最後に大トリのイチゴを乗せる形で野営セットを背嚢の一番上にくくりつけた私は、ひょんなことからリザちゃんが思ったよりも強い事に気が付き、この後の動きについて考え込み始めていた。
暇な番兵のひとりが彼女の肢体をぶしつけにジロジロと眺め回した挙句に「おまえ、なかなか強いだろう」と言ったのを、耳ざとく聞きつけてしまったのである。
確かに、長身の彼女は痩せているけど人間に無い構造を考えると普通に160kgぐらいはあるだろうし、首長さんの娘なことも相まってより大事に護身術を習わされているはず。
それにこの辺の地域にはほとんど人間か人間並みの人外しかいないから、種族的にもリザちゃんは頂点捕食者級だ。
これが沿岸部では魚人が、枯れた草原なら獅子獣人が一番であったりはするものの、ここいらの何も特筆すべきことのない砂と森と沼地の一帯ではリザードマンが最強になる。
人間とリザードマンと多少の人外ぐらいしか原住していない上に特産も面白みも人口もなく、更にそれに加えて係争地まで抱えたなんにもならない最悪の僻地なので、誰も引っ越してこないのだ。
「リザちゃん、もしかして結構強い?」
「…」
ふり。と、大蜥蜴の尻尾は当然と言わんばかりに肯定の意を指し示す。
…彼女は股の間に三角の隙間ができる程度にはスラッとしており、まあ確かに引き締まってはいるものの、どうなのだろう。
ちょっと心配になる細さである。
目の前に経つと顔が見えないほど大きなリザちゃんだが、年頃の女の子であることには変わりはなく、あまり無茶をさせたくはならない。
「…」
「…わあ」
あまり信頼されてなさそうな雰囲気を感じ取ったらしいリザちゃん。
彼女は無言でその辺に積んである薪を1本手に取ると、それをクッキーのようにド真ん中からへし折ってしまった。
…大斧の柄ぐらいの太さはあったのに。
私はちょっと引きながら苦笑いした。
「ほら、ここから先に進むか迷っててさ。なんだか嫌な予感がするから…」
本音では、先に進みたいところだ。
営業利益の追求はもちろん、ここで引き返すとリザちゃんの社会科見学が歩いて数日で終わってしまう。
しかし、特になんの不安要素も無ければ特段気になることもなかったはずが、私の心は何となく引き返すべきだと弱音を吐いている。
状況から考えれば普段よりも圧倒的に攻めれる状況ではある。
同性とはいえかなり強そうな子を連れててひとりじゃないし、荷物も半分持ってもらっているから俊敏に動ける。
だけど、うーん…
「××*%5………」
…ふと、服を控えめに引っ張られる感覚に気が付くと、いつのまにか立ち上がっていたリザちゃんが、隣国行きの街道に私をいざなっている。
機嫌良さげな尻尾が猫のように振られ、更なる冒険への期待に胸を膨らませているようである。
どうやら彼女は行く気満々らしい。
…独り言じみた懸念の声の長文読解は、まだちょっと難しかったようだ。
もしかしたらニュアンスぐらいまでは汲めても正確な語彙の意味などについては未だ完璧ではないのかもしれない。
「うふふ、はいはい………」
私は背負い物の側面に揺れる小ぶりな鉄のスキレットの音を感じながら、彼女の後ろ手に引かれて歩みを進め出してしまう。
…ここが分岐点だ。
そして、運の尽きでもあった。
◇◇◇
「!ゲっ」
…べきっと、石膏を折るような音が黄昏の森の中へ沈殿する。
争いの気配を感じ取った動物たちは姿を見せぬまま遠くへ逃げていったらしく、辺りは戦う者達の身じろぎ以外何も聞こえないほどの死んだような静寂に包まれていた。
「リザちゃん無理しないでっ」
「か、ろろ…」
初めて聞く大蜥蜴の戦いの嘶きは、どこか怪物的であった。
…足の甲全体で喉仏を捉えたハイキックをまともに食らった人間の山賊は、上にしか向かなくなった首をかき抱くように抑えながらその場に後ずさると、とうとう昏倒してしまう。
もう生き延びることは叶うまい。
しかし、その場には生き物が生きてきた証とも言える生命の悪臭がまだ複数漂っていた。
脱走兵か、農民崩れか、単なる山賊か。
仔細は分からないが、彼らの衣服はぼろ切れに等しいものである。
「お前の鱗皮で盾を張ってやろう」
どう見ても勝てないと悟ったのか、1人を残して他全員は倒れた男を振り返りながらよたよたと逃げ去ったのにも関わらず、いっとう小柄な鼠の獣人は未だリザちゃんと対峙する気のようだ。
明らかに強そうでもなければ良い武器を持っているわけでもないのに、鼠のダミ声はなぜか自信に満ち溢れている。
明らかに邪魔になってしまうので、私はどうしてもリザちゃんの後ろから出られない。
…場は我らが大蜥蜴の方が支配しているように見えたが、しかし。
「…ッ!」
「しっ」
リザちゃんが安直に自身の半分の大きさの鼠男を蹴飛ばそうとしたところ、素足は彼の頭の上をすり抜けてしまう。
そりゃあ来ると分かっていれば避けるというものだろう。
とはいえ、その隙を狙った鼠男が短剣で彼女の向こう脛を切りつけたところで、鱗や足輪飾り等に阻まれ非力な山賊の腕力では一本線を表面に付けることしかできなかった。
「…ひいっ!?リザちゃんっ」
肝を冷やす私。
一瞬彼女が歩けなくなる未来まで見えてしまい、心臓が恐ろしい勢いで鼓動を打つ。
「<×$#÷ッ"!」
…矮小な存在に手玉に取られ、激昂した様子のリザちゃん。
今まであまり気にしたことがなかったが割かし短気な性格のようである。
そんなリザちゃんは、ならばという調子で目の前の鼠男を穀物袋でも持ち上げるかのようにひょいと掴みあげると、その後頭部と肩口をそれぞれの手で固く握り、その首を…
「り、リザちゃん!?」
「ぬうわあああああっ!?オイっ何やってる早く助けろ!このっ…」
「…」
鼠男の短剣が二の腕や頬に当たるものの、傷一つ付けられない。
彼女はその恐ろしげなアギトをもって。
…別に溜めたり脅したりするような工程も挟まず。
野菜でも齧るかのような雰囲気を持って、鼠男の首筋にかぶりついてしまった。
「!?ぐぶるるるぐ……"ッ」
「リザちゃん!?う、うそでしょ…」
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ここすきに感謝
ちゃんと生き物な人外が好き