妙なリザードマン♀を連れて行商するだけの話 作:4645 (ケモ系大量生産クリーチャー)
「はうあ!!」
…ふっすふっすと顔にかかる生温かい噴気を感じ、寝不足かつ疲労で隈の出来た両目を見開いてみれば、私の顔の上には巨大な馬の鼻先が揺られていた。
それはもひもひと馬らしい唇を動かし、時には鼻腔をひくつかせる。
手元にはなんだかもどかしげな馬の足踏みが地を揺らす感覚まで。
私は驚きのあまり大声を出したが、すぐにそれが知り合いであることに気が付く。
「ごきげんようノウリさん。案外お寝坊さんなのね」
…彼女は鈴の音のような無駄に良い美声をもって、仰向けに横たわったままの私の耳元へぽしょぽしょと語りかけた。
あたりはまだ薄暗い。早朝というよりかはまだ夜である。
草食動物め…
「喋る馬さん…どうしてここに」
「運命的でしょう?
きっと人間の神様がわたくしを呼んだのだわ…」
「もう、どうせ門番さんに行先聞いたんでしょ」
仕方がないので、私はのそりと身を起こした。
…びっくりしたせいでなんだか二度寝できなさそうだし。
彼女は人呼んで「喋る馬」
読んで字のごとく「喋る馬」である。
◇◇◇
「あら…そちらのトカゲさんはご存命なのね。わたくしてっきり貴女が殺してしまった者の一味かと」
「口が悪いなあ。私の連れで社会科見学してる子なの!ちょっと、その…疲れて寝てるだけ」
…意外にめちゃくちゃ口の悪い彼女は、空いているところに勝手にどでんと座り込んで横腹に私を寄りかからせると、暇そうにぶちぶちと会話を進めてゆく。
さっきも言ったが、彼女は喋る馬である。
生まれは私がよく訪れていたどこぞの牧畜村で、ちょっと痩せ気味な重種の牝馬だ。
たぶん体重は900キロぐらいで、濡れたような質感の漆黒の毛並みと靴下みたいな白い足首がとても美しい。
分厚く重厚な蹄の少し上ら辺にはふさふさの距毛も生えていて、高貴な雰囲気も併せ持ったハイクラスな容姿だ。
そして、なぜかものすごくありがちな魔女帽子をかぶっており、その存在が遠くからでもすぐ分かる超不思議ちゃんである。
なお、一人…一馬?でどうやって帽子を着脱しているのかについてはまるで分からない。
「もし、もっとわたくしの言葉に傾聴するべきではなくて?」
「ごめん。ちょっと喋る馬さんのこと考えてた…」
「ならよろしい」
憤慨したように首を立てて抗議した彼女は、私の回答に満足したらしく、すぐに姿勢をリラックスさせる。
結構独占欲というか、ジェラシーな子である。
ちなみになぜこうやって馬主も連れずにひとりで危険地域をウロウロしているのかというと、彼女はすこしおかしくなってしまっており、自由気ままでないと暴れ出すからだ。
実の所、こうなる前の彼女は元気な仔馬を二頭も産んだ物静かかつ気弱で優しい母性溢れるただの牝馬だった。
しかし、ある日何を思ったのか敷地の端の暗がりに生えたひと房の「すずらん」を誤って食んでしまい、以降終わることのない深い狂気に飲まれているという経緯がある。
事が起きる前までは言葉を話す気配など微塵も無かったのに、五日五晩高熱と嘔吐と腹瀉とせん妄と頭痛と心痛に魘された結果、6日目の朝に唐突に全快した上で流暢な豪商風人類共通語を操り出したのだが、なぜそうなったのかは誰にも分からないし、私にも分からない。
たぶん理由なんてないのだと思う。
つまり、彼女は喋り出す前から実は喋る馬だったのだ。
「…ごめん、どういうこと?」
「ですから、わたくしは最近ここいらの山賊を皆殺しにしようと思い立ちまして、みんなを踏み殺して回っていましたの」
「そうしてたら、私たちを見つけたってこと?」
「さようでございますわ」
「そ、そっか…」
私は考えることを放棄し、眠たい目尻を強く揉みこんだ。
彼女は馬だが、こうやって好戦的な馬になることもある。
だが、それでも彼女は結局のところただの喋る馬以外の何者でもなく、つまるところどうしようもなく馬でしかない馬そのものなので、馬らしい馬なりのことしかできないはずだ。
でもでも、とはいえやっぱり彼女は大柄で強い重種の馬なので、馬なりに馬力のある行動を取れるという意味では山賊狩りも上手くやれたのかもしれない。
…馬だけに。
「…あら、リザちゃんさん。ごきげんよう」
「あ"っ起きたっ!?大丈夫!?」
おもむろに首を振ってモゾモゾとうごめきだしたリザちゃんの背中に語りかける喋る馬さん。
リザちゃんは何も言わないが、多分まだ脳が起きてないのだと思う。
「÷==°………?」
頭の痛そうに片手を後頭部にやりながら膝で滑って焚き火の横に女の子座りしたリザちゃんは、私が寄っかかっているデカい馬の存在に気がつくと、呆れたような独り言を零した。
たぶん、今度はなんなのといったところだろう。
「ごめんねリザちゃん。先に毒使ったこと言えばよかったね…ほんとごめんね……」
「÷=°+………」
…彼女はなにか私を慰めていそうなリザ語を少しだけ呟くと、おもむろに喋る馬さんの背中から私をにんじんのように引っこ抜き、自身の足の中に入れてしまう。
太いふとももの鱗が少しひんやりとして冷たい。
「ッ、貴女…いい度胸をしていますのね」
「…」
ふり、と。
彼女は尻尾を左に振り、いい度胸はしていないことを指し示す。
…なんと彼女も結構ジェラシーなタイプの子のようである。
「な、何さ…2人して……
よく分かんないけど、太陽が出たら歩きだすよ。ここは臭いから…」
「わたくしも同行しますわ」
「喋る馬さん」
喋る馬さんは何故か私を気に入っているが、理由は特にないらしい。
なんでも、なんとなく好きだから好きとのことだ。
…私は謎と不条理の大波に呑まれすぎて頭の上にハテナを浮かべるリザちゃんのおててを触りながら、ちょっと照れくさい嘆息をこぼした。
◇◇◇
「貴方なら、よろしくてよ…?」とか「わたくしに跨って…今すぐ」などの、喋る馬さんの変な絡みを受け流しつつ、2人と1匹は街道を進んでゆく。
途中からは蹴られたお腹がしんどくてうずくまってしまったリザちゃんを意外と普通に背に乗せてくれたりもして、結構大助かりである。
ちょっと狂気が滲み出ているとはいえ、根は優しい二児の母なのだ。
でも同性じゃなかったら乗せないらしいので、彼女は実はフェミニストでもあるのかもしれない。
…暇ゆえのどうでもいい思考が絶好調である。
「ぐ、るるる………」
「もし…?わたくしの背をかじったら踏みますわよ
ノウリさんこの方本当に大丈夫ですわよね?」
「たぶんお腹痛くて悶えてるだけだからそっとしてあげて…」
喋る馬さんの背の上で売り物の熊皮のように揺れるリザちゃんの背中はいつもより丸まっており、哀れな様子である。
見た目的には鱗があるのも相まって全く患部の状態がわからないが、これは次の街に着いたらしばらく休ませた方が良いだろう。
…結局、その後はお昼過ぎには砂漠の手前のバザールに到着することができ、一行は補給や休息も兼ねて2週間ほど腰を据えて滞在することにした。
しばらくは安静にということで大事を取り、リザちゃんだけ数日宿を取ってお休み…としたかったのだが、彼女は私からどうしても離れたがらなかった。
ひとりじゃ心細いもんね。
結局いつものように出店で一緒に店番をしつつ、人混みを嫌って1人砂漠探索に出た喋る馬さんの心配をするなどして傷が癒える時を待つ。
…なんだかリザちゃんのしおらしい様子に母性をくすぐられてしまったというか、すでにむらむらとしていた母性が爆発してしまったというか、とにかく私はむらむらしていた。
それに加えて私の中のリザちゃんかわいそうゲージがかなり高まっていたこともあり、この2週間はずっとリザちゃん甘やかしフェーズである。
服を着ない文化のため、生殖器等人間にとってのデリケートゾーン*1が全部丸出しなことが気がかりだったので、全身をいい感じに隠せる程度に在庫のアクセサリーを欲しがる分だけ与えまくったり。
その結果踊り子とクリスマスツリー*2の間の子のようになるまでジャラジャラに仕立ててみたり。
更にそれを着せたままマネキン代わりに店頭に出してアクセサリー販売を始めて儲けたり。
…どうやら着飾ったリザードマンは砂漠の領域において異国情緒に溢れまくった存在らしく、各地で仕入れたまま死蔵していた既製品のそれらは飛ぶように売れた。
リザちゃんはあっという間に丸裸である。
大蜥蜴の心の中にもやっぱりどこかに女児はいるらしく、心做しか結構もったいなさそうな顔をしているリザちゃん。
そんな様子に更に母性をくすぐられた私は、売れ残りの数珠やネックレスなどのアクセサリーを全部あげてしまうことにした。
…喋る馬さんが戻ってきたらあのヒトにもあげよっと。
リザちゃんマネキンのおかげで赤字にはならなかったので、まあ。
終わりよければ全てよし…かな……?
趣味なので内容が変です
評価ください(直球)