妙なリザードマン♀を連れて行商するだけの話 作:4645 (ケモ系大量生産クリーチャー)
「うう"〜寒い………」
…私は左右のデカいモコモコを交互に見やった後、明朝の薄紫色を見上げた。
分厚い馬用防寒具を被ったせいで馬型シーツおばけのようになってしまっている喋る馬さんと、それに対抗するように雪だるま並みの着膨れを披露しているリザちゃん。
彼女たちは喋る気力もないのか、それともただ眠いのか、とにかく無言のままだ。
目の前には突風吹き荒れ細かい砂塵の舞う荒涼とした砂漠地帯が死人のように身を横たえている。
地平線の先には大きな塔のような金属の光沢が見えた。
「…とりあえずあの塔が中間地点だから。そこまで頑張ろ」
「…」
「ブルッ」
リザちゃんの尾の振り加減は意外なことに上々。寒くて喋りたくないだけか?
もう片方は馬らしく鼻を鳴らして応える。
喋れるからと言ってずっと喋る訳でもない。だって彼女は馬なのだから。
ちなみにこの粉のような砂どもを吸うと肺を悪くするので、今は全員が湿らせた布を口に巻いている。
みんながみんなシーツおばけのような有様であった。
「「「……」」」
…そう。ここは砂漠だが、べつにみんながターバンを巻いている訳でもなければ、めちゃくちゃ暑かったりする訳でもない。ここはそんな生命の気配がするような場所ではないのだ。
ならば何があるのかと問われると、ここには無だけがあると解答することになる。
木もなければ水もなく、土の下すら死んでいる上に我が国とこの国の大人の事情の産物である巨大な領土的係争地を含んでおり、存在意義は主に商人の旅路の大幅ショートカット用の高速道路としてのそれしかなく、本当に終わりに終わっている土地だ。
まあここを頑張って抜ければ複数の国を跨ぐ大路へ数ヶ月早く合流できるので、一応今滞在しているような割と活気のあるバザールがぽつぽつ有るのだが、求められているのはそんな近道としての用だけである。
なお、今回私達が通るのは主に全員の都合に合わせたためだ。
特にリザちゃんとか、彼女がどれだけ旅をすればいいのかを私はよく知らないため、日程が間延びする通常ルートだと親御さんを心配させちゃうかも…みたいな……
「…?」
そろそろ里心が芽生えてきてもおかしくないからなぁ
なんて考えながら真横で砂漠の遠景を前に黄昏れるリザちゃんを見やると、彼女はいつもの何を考えているのか全くわからない冷徹な真顔で私を見返した。
まあ、とにかく。
「予定よくわかんないけど、とりあえず一応急いどくか」みたいなアレである。
…あと、シンプルに早くここを出ないとヤバい状況でもある。
◇◇◇
「あの小英雄ロキシタンが殺されたらしい…
なんでも、相手はちょうどあんたの横のヤツみたいなリザードマンの女と小柄な人間の暗殺者の男だとか」
「へ、へぇ〜そうなんですね〜〜…
ちなみにそのロキシタンさんってのは…」
「…ん、ああアンタよそ者か。
ロキシタンは強くて高潔な熊兵士で、情に厚く、鼠どもみたいな汚らわしい下僕にすら優しい本物の漢だったんだ。惜しい男を亡くしたよ」
「はえーーー…」
あれっそれってもしかして…
私の脳ミソは早くも黒煙を上げ始めている。
黒い煙が立つということは大抵燃料の内の何かしらが不完全燃焼を起こしているという科学的知見が指し示す通り、結果は既につまびらかなものである。
私達、実はとんでもない相手をうっかりぶち殺していたらしい。
「それでな、ロキシタン達は野営の跡を囲むように倒れていて、その野営は捜査官の見立てだと隣の国のやつらがよくやる組み立て方なんだと」
「ぎくり」
「…」
脂汗がとんでもない勢いで私の前髪の下を伝い始めるのを見たリザちゃんは、棒のようにびしりと固まっている私をニンジンのようにその場から引っこ抜くと、そのまま小脇に抱えて、私の上半身をおじさんから物理的に見えなくしてしまう。
あまりに雑な証拠隠滅行為を目前にしたおじさんは話しながらも怪訝な表情を隠さなかったが、まあこういう変なやつらがいたっていいだろうと思ったのか、そのまま喋り続ける。
…その間、双方に来客は完全にゼロ。訪れる気配すらもなし。
串焼き売りのおじさんは火すら消しかけるほどの暇を極めていた。
「状況からすると、どう見たってスパイかなんかの悪巧みしてた連中にうっかり征伐帰りの疲労困憊の状態で出くわしちゃって、誇り高く徹底抗戦するもあえなく…って見立てらしいぜ」
「誇り高く…?」
「ロキシタンは毒まで盛られていて、その上に全身に複数の骨折があって、肉壁鼠共にいたっては1匹首をまるかじりされてたらしい。ほんとに野蛮な連中だよな隣国のヤツらって」
「ま、まるかじり」
私はリザちゃんの腋の更に向こう側からおじさんに対して短文の自動返答文を出力しつつ、なんとか冷や汗を止めようと脳を働かせ続ける。
たぶん、その熊兵士ロキシタンとやらはなんらかの任務帰りで、疲れていたのだ。
そこでめちゃくちゃ強盗しやすそうなカモネギ女2人組が目の前にひょっこり現れたので、国王完全公認の合法的な追い剥ぎである物資徴発をしようとしたところ、思ったより抵抗され、更に疲労と油断が重なり、運悪く返り討ちに遭った。というところだろう。
なので、あの時私達はファーストコンタクトの時点で大人しく身ぐるみ剥がされた上で多分身まで献上しておけば命だけは助かった可能性が非常に高かったと推論できる。
まあ、今は命以上のものが全て守れた結果を選択できているので、後悔はない。
この国をサッサと出て1年ぐらいほとぼりが冷める頃を待てば再入国も容易いだろう。
証拠なんてほとんど何もないだろうし…
「あ、あと姉ちゃん。その暗殺者の男はリザードマンの殺し屋に加えて荷運び用の馬とちょうどアンタと同じような髪色の女まで連れてたようだから、勘違いされないように気をつけた方がいいぜ。
…ほら、フードとか被ってさ。なんかアンタそれっぽいし。
なんでも、その辺に色んな毛とかの証拠品が結構落ちてたらしいんだ」
「…」
…その言葉を聞いた瞬間、リザちゃんの尻尾がびきりと凍りつく。
私に至っては既にちびりそうだ。
その辺を巡回するサバトンの足音がいやに大きく聞こえる気がする。
バレたらおしまいなのに私はこんな所で何をしてるんだ?
…この国の刑事捜査は思ったより進歩的なようで、その事から察するに私達はもう馬脚をだいぶ表していることが推察できる。実際馬連れてるし。
「あ、あ"、じ、じゃ、じゃあおじさんっ串焼きありがとうございました!り、リザちゃん日課の散歩の時間だから早く行こうすぐ行こう」
「はぁ?いきなりどうしたい?
事情はしらんが……また来いよ」
…暇なおじさんはいきなりカウンターに叩きつけられた格好の哀れな小銭達を数枚つまむと、やけどで岩のように変化した硬い手のひらの中に全部握り込み、特に意味もなくじゃりじゃりと鳴らす。
ほうと一息つけば、彼の日常の歯車はすぐに回り出すのだ。
しかし私たち一行の日常は世界記録更新のペースでぐんぐんと地平線の彼方にひた走って行ってしまうばかりで、後ろを顧みることが全然なかった。
「やばい、やばいやばいやばい
バレたら殺されるのにもう結構バレそう」
「…」
リザちゃんは尾を鋭角に右に降り、同意の心情を露わにする。
表情は焦ってないが、足取りと尻尾の動きはめちゃくちゃ焦っているので、かなりわかりやすい。
「ソッコー出よう。すぐ出よう。野営に戻ったら今すぐ準備して明け方にはここを出る。決定だね……」
ぶつぶつと、私の意思表示はもはや自分の脳に状況を理解させる為の個人的なものであったが、その事を気にする余裕は既になかった。
そんなこんなで場面は冒頭に戻り、一行は滝汗で砂漠前バザールを明朝出立したというわけである。
日程分の水や食料は全部貸しソリに積んだし、喋る馬さんが重いからって少しごねたけど一応荷物も等分できたし、足りないものは血に濡れていない手ぐらいのものだ。
…たぶん。
「貴女達、一体何をしたんですの…?」
「…聞かない方がいいかも」
「…」
…喋る馬さんの質問に対して尾が右に振られたことは、もはや言うまでもないだろう。
趣味なので内容が変です
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感謝