コナタとカナタ 作:みく
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一人の少女がいる。名前をコナタという。
コナタは十四かそれくらいの年齢だった。正確な年齢は自分でも分からないので、今まで出会った人間が、自分より年上か年下かを判断することで、おおまかな自分の年齢を割り出していた。
コナタは黒色の髪と、青い瞳を持っていた。さらさらの柔らかい髪を撫でながら、おそらく自分は母親似なんだと思っていた。コナタは両親に関する記憶の一切を持っていなかった。
コナタは今、薄汚れたコートとくたびれたキャスケットを身に着けていた。どちらも別の国のゴミ溜めから拾ったものだった。臭いは酷いが、雨風を凌げるならなんだって構わなかった。
「うひゃああぁあぁ!?」
その日、コナタはルフィドという国の大通りを歩いていると、大きな男にぶつかった。
幸い、男がバランスを崩すことはなかったが、小柄なコナタは大きく後ろに転んでしまった。
地面には男の持っていた荷物が散らばっていたので、コナタは慌ててそれを拾い集めた。
「ごめんなさい! ごめんなさい! ボク、昔っからドジっこで……!」
男は慌てながらそんなことを口走るコナタを見て、小さく笑みを零した。
しばらくして荷物は全て集めたコナタに、男は気遣うような言葉をかけた。
「はい、どこも怪我してません! ボク、昔からがんじょうなので!」
コナタはふたたび頭を下げると、大通りの向こうへと走っていった。
男もそれを見送って、帰路へ着くためにゆっくりと歩き出した。
家に帰ったあと、男は自らの財布を紛失したことに気が付いた。
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コナタは大通りから大きく外れ、薄暗い路地裏に座り込んでいた。
手元には先程、男が散乱させた荷物から盗んだ財布が握られていた。
コナタはボロボロになった財布の中を覗き込むと、金目のものを丁寧に探り始めた。
紙幣が数枚見つかった。これだけあれば、今日の食事にはありつけるだろう。
「うまくできたね、コナタ」
それはコナタの声によく似ていたが、しかしコナタが発したものではなかった。
顔を上げると、いつの間にか目の前には十四歳ほどの少女が一人、立っていた。
着ている服は薄手の黒いワンピースだけ。露わになった四肢は細く、肉は殆どついていない。
淡い灰色の髪とくすんだ紅色の瞳は、見る者に余燼の印象を強く与えている。
だが、彼女の顔には大きな傷跡があって、それが瞳をひとつ潰していた。
色素の失われた虚ろな目で見下ろされると、コナタは毎回どうしようもない気持ちになった。
「か、カナタ……ちゃん」
「あいつ、いっぱいお金持ってたね。これなら三日は持つよ、コナタ」
もう一人の少女の名前はカナタという。本人がそう言っていたから、コナタはそう認識した。
コナタはカナタにそっくりだった。目と髪の色や言葉遣い、纏う雰囲気などはまるで違っているが、それを除けば二人はまるで鏡合わせのように瓜二つだった。
しかしコナタは未だに、カナタについてのほどんとのことを知らない。
ただ一つ確かなのは、カナタがコナタのことを心の底から溺愛していることだけ。
「可愛い可愛い私のコナタ……。今日も悪いことしちゃったんだね?」
カナタは微笑むと、その細い指先でコナタの唇を優しく撫でた。
暖かい。指先に灯るカナタの情欲にも似た熱が、寒さで痺れたコナタの唇を溶かす。
「う……ぼ、ボク、やっぱりこんなこと、しちゃダメだと思う……」
「いいんだよ、コナタ。だって、この世界は私達に優しくしてくれなかったんだよ?」
「だからって……ひ、人のモノを盗んだり、騙してお金を取るのは、よくないこと、だよ……」
「コナタ」
カナタはコナタの手首を掴み、強引に自らの顔に刻んだ傷跡へと押し付けた。
ざらざらとした表面は、焼け爛れた皮膚の質感を否応なしにコナタへ感じさせる。
コナタは息を呑んだ。指先には生命というより、炭化した物質としての感触があった。
カナタは何も言わないまま、その細めた瞳でコナタのことを見つめ続けていた。
「ご……ごめん、カナタ、ちゃん……」
やがてコナタが震える唇でそう告げると、カナタはくすりと笑ってその腕を離した。
そのままカナタは、ぽそぽそと空虚に何かを呟き続けるコナタのことを抱きしめた。
「謝らなくていいよ、コナタ。だって、私たちはずっと一緒なんだから」
「い、っしょ……うん、そうだね。ぼ、ボクと、カナタちゃんは、ずっと……」
焦点の覚束ないコナタの瞳には、後悔と自責にも似た、鬱屈とした色が灯っている。
指先は何かを掴むように虚空を彷徨い、やがてカナタの背中へと辿り着いた。
恐怖にも似た、焦燥を感じさせる何かに駆られ、コナタはカナタの背中を握りしめる。
怯える子供のように身体を震わせるコナタの髪を撫でながら、カナタは囁いた。
「そう。コナタはね、私とずっと一緒に生きていくしかないの」
返事はない。
抱きしめるコナタの体躯を見下ろしながら、カナタは熱の灯る瞳をうっすらと細めていた。
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