コナタとカナタ   作:みく

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コナタとカナタ 01

■

 

 一人の少女がいる。名前をコナタという。

 

 コナタは十四かそれくらいの年齢だった。正確な年齢は自分でも分からないので、今まで出会った人間が、自分より年上か年下かを判断することで、おおまかな自分の年齢を割り出していた。

 コナタは黒色の髪と、青い瞳を持っていた。さらさらの柔らかい髪を撫でながら、おそらく自分は母親似なんだと思っていた。コナタは両親に関する記憶の一切を持っていなかった。

 コナタは今、薄汚れたコートとくたびれたキャスケットを身に着けていた。どちらも別の国のゴミ溜めから拾ったものだった。臭いは酷いが、雨風を凌げるならなんだって構わなかった。

 

「うひゃああぁあぁ!?」

 

 その日、コナタはルフィドという国の大通りを歩いていると、大きな男にぶつかった。

 幸い、男がバランスを崩すことはなかったが、小柄なコナタは大きく後ろに転んでしまった。

 地面には男の持っていた荷物が散らばっていたので、コナタは慌ててそれを拾い集めた。

 

「ごめんなさい! ごめんなさい! ボク、昔っからドジっこで……!」

 

 男は慌てながらそんなことを口走るコナタを見て、小さく笑みを零した。

 しばらくして荷物は全て集めたコナタに、男は気遣うような言葉をかけた。

 

「はい、どこも怪我してません! ボク、昔からがんじょうなので!」

 

 コナタはふたたび頭を下げると、大通りの向こうへと走っていった。

 男もそれを見送って、帰路へ着くためにゆっくりと歩き出した。

 

 家に帰ったあと、男は自らの財布を紛失したことに気が付いた。

 

■

 

 コナタは大通りから大きく外れ、薄暗い路地裏に座り込んでいた。

 手元には先程、男が散乱させた荷物から盗んだ財布が握られていた。

 コナタはボロボロになった財布の中を覗き込むと、金目のものを丁寧に探り始めた。

 紙幣が数枚見つかった。これだけあれば、今日の食事にはありつけるだろう。

 

「うまくできたね、コナタ」

 

 それはコナタの声によく似ていたが、しかしコナタが発したものではなかった。

 顔を上げると、いつの間にか目の前には十四歳ほどの少女が一人、立っていた。

 着ている服は薄手の黒いワンピースだけ。露わになった四肢は細く、肉は殆どついていない。

 淡い灰色の髪とくすんだ紅色の瞳は、見る者に余燼の印象を強く与えている。

 だが、彼女の顔には大きな傷跡があって、それが瞳をひとつ潰していた。

 色素の失われた虚ろな目で見下ろされると、コナタは毎回どうしようもない気持ちになった。

 

「か、カナタ……ちゃん」

「あいつ、いっぱいお金持ってたね。これなら三日は持つよ、コナタ」

 

 もう一人の少女の名前はカナタという。本人がそう言っていたから、コナタはそう認識した。

 コナタはカナタにそっくりだった。目と髪の色や言葉遣い、纏う雰囲気などはまるで違っているが、それを除けば二人はまるで鏡合わせのように瓜二つだった。

 しかしコナタは未だに、カナタについてのほどんとのことを知らない。

 ただ一つ確かなのは、カナタがコナタのことを心の底から溺愛していることだけ。

 

「可愛い可愛い私のコナタ……。今日も悪いことしちゃったんだね?」

 

 カナタは微笑むと、その細い指先でコナタの唇を優しく撫でた。

 暖かい。指先に灯るカナタの情欲にも似た熱が、寒さで痺れたコナタの唇を溶かす。

 

「う……ぼ、ボク、やっぱりこんなこと、しちゃダメだと思う……」

「いいんだよ、コナタ。だって、この世界は私達に優しくしてくれなかったんだよ?」

「だからって……ひ、人のモノを盗んだり、騙してお金を取るのは、よくないこと、だよ……」

「コナタ」

 

 カナタはコナタの手首を掴み、強引に自らの顔に刻んだ傷跡へと押し付けた。

 ざらざらとした表面は、焼け爛れた皮膚の質感を否応なしにコナタへ感じさせる。

 コナタは息を呑んだ。指先には生命というより、炭化した物質としての感触があった。

 カナタは何も言わないまま、その細めた瞳でコナタのことを見つめ続けていた。

 

「ご……ごめん、カナタ、ちゃん……」

 

 やがてコナタが震える唇でそう告げると、カナタはくすりと笑ってその腕を離した。

 そのままカナタは、ぽそぽそと空虚に何かを呟き続けるコナタのことを抱きしめた。

 

「謝らなくていいよ、コナタ。だって、私たちはずっと一緒なんだから」

「い、っしょ……うん、そうだね。ぼ、ボクと、カナタちゃんは、ずっと……」

 

 焦点の覚束ないコナタの瞳には、後悔と自責にも似た、鬱屈とした色が灯っている。

 指先は何かを掴むように虚空を彷徨い、やがてカナタの背中へと辿り着いた。

 恐怖にも似た、焦燥を感じさせる何かに駆られ、コナタはカナタの背中を握りしめる。

 怯える子供のように身体を震わせるコナタの髪を撫でながら、カナタは囁いた。

 

「そう。コナタはね、私とずっと一緒に生きていくしかないの」

 

 返事はない。

 抱きしめるコナタの体躯を見下ろしながら、カナタは熱の灯る瞳をうっすらと細めていた。

 

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