コナタとカナタ 作:みく
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コナタとカナタには住む家がなく、その足でこの大陸を放浪している最中だった。
数日前に訪れたたルフィドという国は、良くも悪くも平和で平凡な国だった。
平和ボケをしている市民が多いため、スリや空き巣を行うには最適な国だった。
カナタがそう言っていたから、コナタはそういうものだと思うしかなかった。
二人は国の中心部から少し離れた場所にある、一軒の廃屋をこの国での拠点にしていた。
おそらくバーだったのだろう建物の内部には、埃をかぶった内装だけが残っている。
コナタとカナタは、バーカウンターの奥にブランケットを敷き、そこを寝床にしていた。
決して広くはないが、カナタとコナタが密着すれば充分に足を延ばして眠ることができた。
「おはよう、コナタ」
コナタが目を覚ますと、先に起きていたカナタが笑いながらそう声をかけてきた。
傷で覆われた彼女の顔が視界いっぱいに広がる。爛れた皮膚と光を失った右目がこちらを覗く。
コナタはどうしようもない気持ちになった。
「おはよう……カナタ、ちゃん」
「コナタの寝顔、もうちょっと見ていたかったけど、仕方ないね」
カナタはコナタの頬に手を伸ばした。
寝起きだからなのだろうか、普段より少し体温が高いように感じた。
コナタが身体を起こすと、ベッドの上が昨日、眠る前の状態のまま放置されていた。
文字の勉強のための本に、くしゃくしゃになったノート、それから食べかけの携帯食料。
それらを片付けていると、カナタがふと、ノートを拾い上げた。
「文字は書けるようになった?」
「ま、まだ……。ほ、本を読みながらじゃないと、うまく文章にできない、かも」
「そう。でも、文字の意味はわかるようになったんだね」
「うん……」
「コナタは頑張ってるよ。えらいね」
カナタに頭を撫でられながら、コナタはノートに目を落とす。
そこにはミミズがのたうち回って死に曝したような、極めて可読性の低い文字が並んでいる。
前のページをめくると、また同じような文字が並んでいる。その前のページも同じ。
いっこうに成長しない自分に、コナタは嫌気がさしていた。
「大丈夫、ゆっくりでいいの。時間はたっぷりあるからね」
カナタがコナタの手に自らの手を重ね、ノートをぱたりと閉じた。
「嫌になったら諦めていいからね。コナタの代わりに、私が文字を書いて、読んであげるから」
「それは……い、いや、だよ。ボクも自分で、できるようになりたい」
自分が惨めになったからじゃない。カナタの役に立ちたいという一心だった。
コナタは、カナタと自分に差があることなど、とっくの前に理解している。
いつも自分が足を引っ張っているし、自分のせいでカナタの時間を浪費させている。
そんな情けない自分が嫌だった。コナタは自分のことが、基本的に好きではなかった。
だから、こんな自分と一緒にいてくれるカナタのことが大好きだし、カナタの言うことなら何でも従えた。今、コナタが生きている理由は、カナタのためだけだった。
コナタはノートをリュックの中に押し込めた。
「今日は……どうしよう?」
「コナタ、もうこの国にいる意味はない。出ていこう」
「え……も、もう出ちゃうの? まだ、一週間だよ?」
「でも、昨日のあいつはお金持ちだったから、予定よりも少し早く目標が達成できた」
コナタとカナタは、これまでに八つの国を巡ってきた。
国の平均滞在期間は前後するものの、おおよそひと月ほどだとコナタは認識している。
だが、このルフィドに到着してからは、まだ一週間ほどしか経っていない。
国を出るタイミングは、カナタの言う「目標」まで金銭をため切った場合のみ。
だが、コナタはカナタが今までどれだけ金銭を貯めているのか知らないままだった。
「次は船に乗って、アルマヴェラっていう国に行くの」
「アルマヴェラ?」
「とっても素敵なところだよ。コナタもきっと、気に入ると思う」
アルマヴェラという国を、コナタは今までの人生で一度も聞いたことがない。
カナタだって、今まで一度たりともその国の名前を口に出したことはなかった。
だが、カナタがそう言うのなら、きっとそれは正しいのだろう。
「行こう、コナタ」
「うん……カナタちゃん」
少なくとも自分が死ぬような目に遭っていない以上、カナタに従うべきだとコナタは思った。
それにカナタに優しくされるのは、とても幸せなことだ。
いつしかコナタは思考することを止め、カナタの言うことだけを信じるようにした。
目を細めて笑うカナタに、コナタは満面の笑みをもって返した。
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