コナタとカナタ   作:みく

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コナタとカナタ 03

■

 

 朝食を取ることもなく、カナタとコナタはルフィドの港にやってきた。

 カナタが言うには、この港からアルマヴェラ行きの船が月に二度、出ているらしい。

 本来は月の後半に出る船に乗る予定だったが、収入が多かったので月の半ばの船に乗る。

 カナタからそう聞かされたコナタは、早くなってよかったね、と答えた。

 

「それじゃあ、チケットを買ってくるから。ここで待っててね、コナタ」

「うん。気を付けてね、カナタちゃん」

 

 港は相応に混雑しているが、コナタは人込みの中でカナタを待つことにした。

 ルフィドは海路貿易の中継地となる国なので、港に人が多いのも当然のことだった。

 おそらくここには、アルマヴェラ以外の国へ渡航する人間も集まっているのだろう。

 

「あうっ……!?」

 

 突然、コナタは背後から強い衝撃を受けて、その場に倒れ込んでしまった。

 まずはじめに、コナタは自分のリュックが奪われていないかを確認した。

 どのポケットにもモノは入れておらず、口も閉めているため荷物は散乱していない。

 そこで安堵の息を吐いたコナタが周囲を確認するが、そこには誰の姿もなかった。

 この人込みだ。大方、よそ見をしていた誰かにぶつかってしまったのだろう。

 

「そこの君、大丈夫かい?」

 

 そうやって立ち上がったコナタに声をかける人間がいた。

 男だった。精悍な顔つきと高い背丈に、コナタは少しだけ肩を震わせた。

 胸元にある徽章を見て、コナタは彼がこの国の警察組織の人間であることを理解した。

 警察に関わるとろくなことがない。カナタがそう言っていた。

 

「は、はい! ボクは昔からがんじょうなので、大丈夫です!」

「そうかい? 今日は客が多いから気を付けなさいよ」

「ありがとうございます! でも、もう大丈夫ですから!」

 

 コナタはぺこぺこと何度も頭を下げたが、男は依然としてその場から立ち去ろうとしなかった。

 その時点でコナタは警戒し、リュックの中にある武器の位置を覚えている限りで確かめた。

 

「それにしても君、こんなところで一人かい?」

「あ……いえ、家族が今、船のチケットを買ってくれている、ので」

「そっかそっか。家族と旅行か。いいね、僕も仕事がなければよかったんだが」

「は、はあ……」

 

 そこで男は不意に屈むと、視線をコナタと合わせてきた。

 

「君、船のチケットっていくらすると思う?」

「え?」

「僕の知り合いも旅行が趣味なんだが、毎回チケット代が張るって愚痴を聞かされててね」

「あの……どういう……?」

「……そういえば最近、この国の東区で強盗やスリが頻発してたらしくてね」

「……………………」

 

 コナタは既に脳内で、この男をどうやって黙らせるかを考えていた。

 だが、ここはあまりにも人目がある。殺すまではしなくとも、流血させただけで目立つ。

 とはいえ口だけで切り抜けるのも難しい。この男は既にコナタを疑いの目で見ていた。

 元よりこんな浮浪者のような見てくれで港を歩いていれば、警戒する人間もいるだろう。

 

「一応、治安維持の一環としてね、身分証を出してくれるかな?」

「み……身分証、ですか?」

 

 コナタは当然、身分証など持っていない。

 そもそもこのルフィドへの入国方法も違法で、カナタがなんとかしてくれていた。

 いよいよ追い詰められたコナタが、懐へと手を伸ばしたその瞬間、

 

「コナタ……その男、誰?」

 

 耳に入ってくるカナタの低い声に、コナタがはたと顔を上げる。

 その声は低く、視線はコナタの隣に立つ男へ注がれていた。

 片方だけ残った瞳には嫌悪と憎悪、それ以外にもいくつかのものが渦巻いていた。

 男はその形相に少しだけ表情を歪ませたものの、怯むことなくカナタへと向き直った。

 

「君はこの子の家族かい?」

「そうだよ。私たち、たった二人だけの家族なの」

「なら、君も身分証を見せてくれないかい? 今、少し確認したいことが……」

「それよりも、これからあなた、少し忙しくなると思うよ」

「?」

 

 きょとんと男が首を傾げる。

 その直後、港に混み合う人間の誰かが悲鳴を上げた。

 それを皮切りに、次々と悲鳴が連鎖していく。

 周囲に広がった混乱に、男は困惑しながらカナタへと言葉を投げた。

 

「何の騒ぎだ?」

「人が倒れたんだって。頭から血も流してるみたい」

「……なんだって?」

「私たちは船の時間があるから行くけど、あなたはあっちに行かなくてもいいの?」

「……………………」

 

 男はしばし考え、最終的にコナタとカナタの方から顔を背け、人だかりへと駆け出した。

 それを眺めていたカナタは、コナタの手を取って逆の方向へと歩き出した。

 

「あ、ありがとう、カナタちゃん……」

「いいの、コナタ。私もコナタにぶつかった最低な男を、痛い目に合わせておきたかったし」

「…………痛い目?」

「あそこで倒れてるの、さっきコナタにぶつかってきたやつだよ」

「し……死んじゃった、の?」

「さあ? たぶん生きてると思う。コナタはそんなこと心配しなくていいんだよ」

「う、うん……」

 

 カナタが言うならそうなのだろう。手を引かれるコナタはそう思った。

 

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