コナタとカナタ 作:みく
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朝食を取ることもなく、カナタとコナタはルフィドの港にやってきた。
カナタが言うには、この港からアルマヴェラ行きの船が月に二度、出ているらしい。
本来は月の後半に出る船に乗る予定だったが、収入が多かったので月の半ばの船に乗る。
カナタからそう聞かされたコナタは、早くなってよかったね、と答えた。
「それじゃあ、チケットを買ってくるから。ここで待っててね、コナタ」
「うん。気を付けてね、カナタちゃん」
港は相応に混雑しているが、コナタは人込みの中でカナタを待つことにした。
ルフィドは海路貿易の中継地となる国なので、港に人が多いのも当然のことだった。
おそらくここには、アルマヴェラ以外の国へ渡航する人間も集まっているのだろう。
「あうっ……!?」
突然、コナタは背後から強い衝撃を受けて、その場に倒れ込んでしまった。
まずはじめに、コナタは自分のリュックが奪われていないかを確認した。
どのポケットにもモノは入れておらず、口も閉めているため荷物は散乱していない。
そこで安堵の息を吐いたコナタが周囲を確認するが、そこには誰の姿もなかった。
この人込みだ。大方、よそ見をしていた誰かにぶつかってしまったのだろう。
「そこの君、大丈夫かい?」
そうやって立ち上がったコナタに声をかける人間がいた。
男だった。精悍な顔つきと高い背丈に、コナタは少しだけ肩を震わせた。
胸元にある徽章を見て、コナタは彼がこの国の警察組織の人間であることを理解した。
警察に関わるとろくなことがない。カナタがそう言っていた。
「は、はい! ボクは昔からがんじょうなので、大丈夫です!」
「そうかい? 今日は客が多いから気を付けなさいよ」
「ありがとうございます! でも、もう大丈夫ですから!」
コナタはぺこぺこと何度も頭を下げたが、男は依然としてその場から立ち去ろうとしなかった。
その時点でコナタは警戒し、リュックの中にある武器の位置を覚えている限りで確かめた。
「それにしても君、こんなところで一人かい?」
「あ……いえ、家族が今、船のチケットを買ってくれている、ので」
「そっかそっか。家族と旅行か。いいね、僕も仕事がなければよかったんだが」
「は、はあ……」
そこで男は不意に屈むと、視線をコナタと合わせてきた。
「君、船のチケットっていくらすると思う?」
「え?」
「僕の知り合いも旅行が趣味なんだが、毎回チケット代が張るって愚痴を聞かされててね」
「あの……どういう……?」
「……そういえば最近、この国の東区で強盗やスリが頻発してたらしくてね」
「……………………」
コナタは既に脳内で、この男をどうやって黙らせるかを考えていた。
だが、ここはあまりにも人目がある。殺すまではしなくとも、流血させただけで目立つ。
とはいえ口だけで切り抜けるのも難しい。この男は既にコナタを疑いの目で見ていた。
元よりこんな浮浪者のような見てくれで港を歩いていれば、警戒する人間もいるだろう。
「一応、治安維持の一環としてね、身分証を出してくれるかな?」
「み……身分証、ですか?」
コナタは当然、身分証など持っていない。
そもそもこのルフィドへの入国方法も違法で、カナタがなんとかしてくれていた。
いよいよ追い詰められたコナタが、懐へと手を伸ばしたその瞬間、
「コナタ……その男、誰?」
耳に入ってくるカナタの低い声に、コナタがはたと顔を上げる。
その声は低く、視線はコナタの隣に立つ男へ注がれていた。
片方だけ残った瞳には嫌悪と憎悪、それ以外にもいくつかのものが渦巻いていた。
男はその形相に少しだけ表情を歪ませたものの、怯むことなくカナタへと向き直った。
「君はこの子の家族かい?」
「そうだよ。私たち、たった二人だけの家族なの」
「なら、君も身分証を見せてくれないかい? 今、少し確認したいことが……」
「それよりも、これからあなた、少し忙しくなると思うよ」
「?」
きょとんと男が首を傾げる。
その直後、港に混み合う人間の誰かが悲鳴を上げた。
それを皮切りに、次々と悲鳴が連鎖していく。
周囲に広がった混乱に、男は困惑しながらカナタへと言葉を投げた。
「何の騒ぎだ?」
「人が倒れたんだって。頭から血も流してるみたい」
「……なんだって?」
「私たちは船の時間があるから行くけど、あなたはあっちに行かなくてもいいの?」
「……………………」
男はしばし考え、最終的にコナタとカナタの方から顔を背け、人だかりへと駆け出した。
それを眺めていたカナタは、コナタの手を取って逆の方向へと歩き出した。
「あ、ありがとう、カナタちゃん……」
「いいの、コナタ。私もコナタにぶつかった最低な男を、痛い目に合わせておきたかったし」
「…………痛い目?」
「あそこで倒れてるの、さっきコナタにぶつかってきたやつだよ」
「し……死んじゃった、の?」
「さあ? たぶん生きてると思う。コナタはそんなこと心配しなくていいんだよ」
「う、うん……」
カナタが言うならそうなのだろう。手を引かれるコナタはそう思った。
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