コナタとカナタ 作:みく
■
カナタとコナタが乗船したのは、運送用の貨物船だった。
内装の一部は簡易的な客室に改造されているらしく、そこを二人で使うことになった。
部屋の中には小さなクローゼットと机、そしてベッドが一つだけあった。
コナタは荷物を机に置くと、ベッドの上にゆっくりと身体を横たわらせた。
「アルマヴェラへは明後日、到着するんだって」
カナタはクローゼットの中を確認しながら、ふと呟いた。
その言葉にコナタはがばりと起き上がって、カナタの方へ向かって首を傾げた。
「えっ……? ここに、泊まるの?」
「うん。だから二日間はここで寝られるよ」
「そっかぁ……」
これまでの旅路において、コナタが何かを決めたことは一度もない。
旅程や移動方法は全てカナタが一人で決めて、コナタはそれに従うだけだった。
だが、コナタはそれに異論を呈したこと、それも一度もなかった。
元より知識がない自分が考えるより、カナタが決めた方が正しいと思っていた。
「ごめんね、先に言えばよかった」
「ううん、大丈夫。それに、久しぶりにゆっくり眠れるから」
ルフィドに限らず、これまでコナタとカナタは廃屋や廃墟を転々としながら生活してきた。
選ぶ基準は屋根と壁があり、国の警備や自警団体に見つからないような、日陰の場所。
ある時はゴミに埋もれながら寝ていたし、ある時は洞窟の中で暮らしていた。
いずれにせよ、穏やかに睡眠がとれるような環境でなかったのは確かだった。
それに比べれば、ベッドが用意され、誰にも邪魔されない客室は、とても贅沢に感じた。
「盗みはアルマヴェラに到着する日の、早朝にやろう」
カナタから渡された言葉に、コナタがはたと顔を上げる。
「こ、ここでも……盗むの?」
「うん。この船には私たちに必要なものが積んであるの。でも、逃げ場がないのも同じ。だから、この船を降りるその日に盗んで、そのまま逃げちゃえばいいんだよ」
「そうなんだ……」
「心配しないで。いざという時の方法も、考えてあるから」
カナタはそうやって言葉を並べながら、ベッドに腰を下ろすコナタの前に立った。
その傷で覆われた顔には、いつものような揺らぐ炎のような笑みが浮かんでいる。
コナタは思考していなかった。ただ、こちらを見下ろすカナタの顔をぼうっと見上げていた。
後ろで手を組むカナタを見て、やっぱりそっくりだなあ、とコナタは思った。
「大丈夫だからね、コナタ」
カナタの指先がコナタの頬に触れる。
暖かい。柔らかな熱の灯った指先に、コナタは自然と自らの手を重ねた。
「私がコナタを守ってあげる。コナタには、私だけがいればいいの」
コナタが重ねた手で、カナタの指先を握る。
カナタの体温が手のひらへじんわりと伝わって、それが嬉しいとコナタは思った。
カナタの言う通りに生きていれば、ずっとこの温もりを感じられるとコナタは信じている。
いっそのこと、カナタと二人で混ざり合えればいいのにとコナタは思った。
「うん……。ボク、カナタちゃんと一緒が、いい……」
「ありがとう、コナタ。じゃあ、最初にこれだけは言っておくね」
陶酔するような熱を瞳に灯すコナタに向けて、カナタが口を開く。
「アルマヴェラは宝石の国。だから私たちは、宝石を手に入れなきゃいけないの」
「宝石……?」
コナタはアルマヴェラという国について何も知らない。
というより、カナタが口にする国を自分も知っていた試しがなかった。
だがアルマヴェラのように、何かを持って行かないといけない国というのは初めてだった。
コナタの口にした疑問に、カナタが優しく頷いてから答える。
「アルマヴェラは入国する時、身分証の代わりに宝石を提示しないといけないの」
「……宝石を、身分証がわりにしてるの? なんだか、不用心じゃないかな」
「そうでもないよ。誰かに見せられるような宝石を持ってるってことは、それだけ立場のある人間だって言う証明になるの。前時代的、って言われればそうかもしれないけど」
「へえー……」
「不安?」
コナタは頷いた。初めて聞く制度へ対する、自分の経験のなさが足元をふらつかせた。
カナタはそこで、立てた人差し指を口元へ当てた。
「大丈夫だよ。私とコナタならうまくできる」
「そう、かな……」
「それとも、コナタは私のことを信じてくれないの?」
「…………それは」
不安を顔に表すコナタを、カナタは諭すように優しく抱きしめた。
暖かい。その温もりは、コナタの頭に次々と浮かぶ不安をだんだんと曖昧にしていった。
カナタと一緒にいればなんとかなる。カナタと一緒にいれば自分でも生きていける。
コナタは総ての思考を排して、そう結論づけた。
「たくさん話したから疲れたでしょ? 今日はもう寝よう、コナタ」
「うん……」
抱き合った二人は、衣服もそのままにベッドへゆっくりと倒れ込む。
カナタの体温を感じていると、コナタは次第に瞼を閉じていた。
■