「刀の錆にしてやる!」と言うと、本当に眼の前の人・物を『刀の錆』に変換する魔法 作:水葉わいん
――異世界転生だ。
生まれて直ぐ俺はそう確信した。
最初は嬉しかった。
前世は病気でずっと寝込んでいて、ロクに外で遊べず、部屋の中でずっとアニメを見たり、本を読んだりしてたんだ。
もう一度、チャンスを貰えたってだけで嬉しい話だ。
だが――問題が発生した。
『――顔に黒い痣があるってことは……こ、この子、呪いを持ってるわよ……!』
『なんだと……! 悪魔の生まれ変わりじゃないかッ!』
生まれて直ぐに言われた言葉がこれだ。
呪い。
それは対象者の体力を徐々に蝕み、いずれ死に追いやる最悪のバッドステータス。
さらに周りから呪いが感染るとか、悪魔の生まれ変わりだとか、散々なことを言われて迫害される。
最もクソなのが呪いの解呪方法が未だ
つまり、不治の病。
『この子……どうしましょう……』
『……我がウィルス伯爵家に呪いの子が生まれたなんて知られるわけにはいかん。しかし……殺すのは信仰に反する……』
『せ、折角、生んだ子なのに殺すなんてダメよ……!』
『……わかった。じゃあ、大人になるまで物置の小屋に軟禁しておくのはどうだ?』
『……ええ、そうしましょう。それがいいわ』
俺が生まれたのは貴族の家だった。
しかし……呪いのせいで、俺は軟禁されてしまった。
最悪だ。
前世は病気で死んだと思ったら、なんで今世も似たような状況になるんだよ。
呪いのせいで迫害されるから、前世よりもさらにタチが悪い。
「……暇だな」
薄暗い物置部屋で、俺は呆然と呟いた。
「また本でも読むか」
俺は物置部屋に放置されている本を手に取る。
気合でこの世界の文字を覚えた俺は、生まれてからの15年間、ただひたすらに本を読み続けていた。
この部屋に本が何百冊も置いてあって本当に良かった。
世界の歴史、御伽噺、小説などなど、置いてある本の種類は様々。
特に俺がお気に入りなのが――魔導書だ。
前世では魔法なんて概念、無かったからだろうか。読んでいて結構楽しい。
……ただ問題なのが魔導書に書かれているのが全て意味不明な魔法こと。
「リンゴの皮を綺麗に剥く魔法とかヒヨコの雄と雌を見分ける魔法とか絶対に使わないだろ……」
用途があまりにも限定的すぎるんですけど。
誰だよ、こんな魔法生み出した奴。
ふざけてんだろ……。
しかし、これら意味不明な魔法も俺にとっては最高の暇潰しだ。
食事と睡眠以外の時間全てを使っていたら……いつの間にか、全ての魔法を10年くらいで習得してしまった。
「これから、どうしよ……」
小屋から抜け出すことも可能だろう。
しかし……本によると、ここは強力なモンスターが蔓延る森の中らしい。
俺なんかじゃあ、直ぐにモンスターの餌になるだろうな……。
「うーん……」
俺が頭を悩ませていた――その時だった。
小屋の扉が軽くノックされた。
飯だろうか?
いや、それにしては早いような……?
俺は不思議に思いながら、扉を開けると……髭を生やした中年の男性がいた。
俺の父親だ。
父親は鋭い眼差しで俺を見つめると、口を開き――
「――お前は今日から自由だ。この街から出ていってくれ」
開口一番、そう言った。
………………嘘でしょ?
――◇――◇――◇――
「本当に追い出されちゃったよ……」
いつか追い出されることは予想していた。
けれど……その日がまさか、今日なんて……。
俺は父親に強制的に乗らされた馬車に揺られながら、ぼうっと物思いに耽る。
馬車の行き先は、近くの街だ。
着くまでに、これからの身の振り方を考えなければ。
まずは、俺が出来ることを整理してみるか。
真っ先に思いつくのは魔法だ。
俺が習得した魔法は
・リンゴの皮を綺麗に剥く魔法
・ヒヨコの雄と雌を見分ける魔法
・『刀の錆にしてやる』と言うと、対象を錆に変換する魔法
この三つだ。
「……どれも使えねええええ!!!」
思わず、叫び声が出た。
驚いた御者がギョッとした様子でこちらを見てきたので、頭を下げておく。
いやでも、こんな反応をしてしまうのも仕方がないじゃないか。
全部、使えないし……最後の〈『刀の錆にしてやる』と言うと、対象を錆に変換する魔法〉に関しては、どう考えてもふざけてるだろ!
『刀の錆にしてやる』って、相手を殺すっていう例えみたいなもんでしょ?
なんで、そのまま錆に変換してんのさ!
神様、冗談とか通じないタイプなの!?
「はぁ、はぁ……マジでふざけてやがる……なんで、こんなクソみたいな魔道書しか無かったんだよ……」
派手に火や風が出る魔法は……何処へ?
別に物を錆に変換したところで使い道無いって……。
俺は深くため息を漏らした。
その時――ハエが目の前を通りかかった。
「……うげっ、どっか行ってくれよ……」
ふと疑問が脳裏をよぎった。
そういえば――生物も錆に変換できるのだろうか。
いや、流石に無理か……?
「まあ、物は試しか。〈刀の錆にしてやる〉」
次の瞬間――目の前のハエが淡い光に包まれ、光の粉になって俺が腰に差していた剣に吸い込まれていった。
「……え? マジで出来ちゃった?」
剣を取り出してみると、刃にはビッシリと錆が付いていた。
……嘘でしょ?
マジで成功しちゃった……。
「この魔法、生物相手にも発動可能だったのかよ……」
ということは……もしかして、モンスターにも発動できるのか?
だとしたら……この魔法、相当強くないか?
「これなら、モンスターと少しは戦えるぞ……!」
消費魔力は対象の大きさに依存するので、あまり大きなモンスターを倒すのは難しいかもしれない。
だが、とりあえずモンスターを倒す方法を得られたってだけで嬉しい話だ。
「――そういや、少年は何で顔にスカーフなんて巻いてるんだ?」
その時、水を差すように御者が声をかけてきた。
スカーフ。
そうだ、俺は今、呪いによる痣を隠すために顔にスカーフを巻いていた。
「……あーいや、これは……ただの好みです」
「へぇ……そうか。変わった好みだな」
御者の声色には疑いの色があったが、それ以上は何も訊いてこなかった。
そうだよな。
例え、モンスターと多少戦えたとしても、俺には呪いという最悪のバッドステータスがあるんだよな……。
俺は御者に見えないように、僅かにスカーフをずらすと窓に反射した自分の顔を見つめる。
顔の至るところに黒い痣がビッシリと付いていた。
「……呪いも錆に変えられれば良いのに」
心の底から、そう思った。
もう病魔に苦しむ人生は嫌だ。
徐々に自分の身体が衰弱していくことの無力感と惨めさは前世で死ぬほどわかっていた。
思わず、握る拳に力が入る。
気づけば俺は――
「……〈刀の錆にしてやる〉」
無数の黒い痣へ魔法を発動していた。
――次の瞬間、淡い光が俺の顔を包みこんでいった。