「刀の錆にしてやる!」と言うと、本当に眼の前の人・物を『刀の錆』に変換する魔法   作:水葉わいん

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第4話

 

 

「……ありがとうございます」

 

 少女はそう言うと――幾つもの涙を流した。

 

「へ!? なんで泣いて……」

 

「ぐすっ……私……このまま一生、この呪いを背負って生きていかなきゃいけないんだって……ずっと思ってたので……」

 

「ああ……」

 

 一生、治るはずのない病にかかった時の気持ちは痛いほど知っていた。

 

 呪いも似たようなものだ。

 だからこそ――自分のことのように嬉しくなった。

 

「良かった。君のことを治せて」

 

 俺の心の中がじんわりと温かくなっていく気がした。

 

「さっ、いつまでもこんな路地裏に居たら気も滅入るし、早く行こうか」

 

「はい……ぐすっ……」

 

 俺は泣きじゃくる少女の手を引っ張って、路地裏から出る。

 

 その時、通行人の一人がギョッと驚いたように俺と少女を見ると……何を想像したのか、軽蔑したような目で俺を睨んだ。

 

 ち、違うんですよ……。

 

「ええっと……宿、とりあえず、宿行こうか!」

 

 このままだと、通行人に奇異の目で見られてしまうため、俺はそう提案した。

 

「はい……わかりました……」

 

「よしっ、じゃあ近くの宿は……」

 

 御者さんから貰った地図によると『紅葉亭』という宿屋が評判もよく、ここから近いらしい。

 俺は早足でそこへ向かった。

 

「――あのぉ、この宿に一週間、泊まりたいんですけど……」

 

 宿屋に入るなり俺は女将さんらしき人物に尋ねた。

 

「はいよ! ……って、どうしたんだい……?」

 

 女将さんは心配そうに少女を見つめる。

 

 もう既に泣き止んでいたが……目は真っ赤であり、さっきまで泣いていたのが丸わかりだ。

 

「……もしかして、何かしたのかい? あんた、そんなことをするようには見えないけど……」

 

 怪訝そうに俺と少女を見比べる女将さん。

 い、いや、違うんすよ……。

 

 俺が否定しようとした時――少女が口を開いた。

 

「……ち、違うんです……私……嬉しくて……」

 

「嬉しかった……?」

 

「はい……! ご主人様が……一生治らないと思ってた病気を治してくれて……」

 

 泣きすぎて充血した瞳で、少女は俺を見上げると……俺の腕に小さく抱きついてきた。

 

「へぇ、そうだったのかい……! 疑って悪かったよ」

 

「ああいえ、勘違いしてしまうような状況でしたし……構いませんよ」

 

「そうかい? でもお詫びも兼ねて、一日分の宿泊費はタダにしておくよ」

 

 女将さんは心底申し訳なさそうに謝ると、そう言った。 

 

「ほ、本当ですか……!?」

 

「勿論さ……! じゃあ、六日だから……銀貨六枚、貰うよ」

 

「じゃあ……これで」

 

 俺はピッタリ銀貨六枚を支払う。

 

「うん、確かに銀貨六枚受け取った。じゃあ、鍵は……これね。部屋は2階にあるよ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 俺は小さく頭を下げると、鍵を受け取った。

 

「ああそうだ、もう夕方だし、晩御飯食べるかい? うちには食堂もあるんだよ」

 

「そうなんですか……?」

 

 確かに、少し腹が減っている気がする。

 

「今なら、タダにしておくけど……どうだい?」

 

「じゃあ……二人分、お願いします!」

 

 タダという言葉が決め手だった。

 

「あいよ! 空いてる席に座っておいで」

 

「ありがとうございます……!」

 

 いやぁ、いい女将さんだな。

 御者さんのオススメは間違いなかったらしい。

 

 本当に助かった。

 

 俺たちは隣の部屋にある食堂に行くと、適当な席に座って料理が来るのを待つ。

 

 待つ間、暇なので俺はふと、気になったことを少女に聞いた。

 

「そういえばさ。名前、聞いてなかったよね」

 

「名前……。私の名前は……ティアです」

 

「ティア……ね。俺はライ。よろしく」

 

「ライ様、ライ様……はい、覚えました!」

 

 少女は噛み締めるように俺の名前を繰り返した。

 

 そうこうしていると、料理が席に届く。

 シチューとパンか。

 シンプルだが、凄く美味しそうだ。

 

「……? 私も同じものを食べるんですか……?」

 

「うん、そうだけど? 何か嫌いなものとかあったか?」

 

「い、いえ……。奴隷は……適当なものを食べさせられるのが普通なので……」

 

「適当なもの? ……でも、ちゃんと食事しなきゃ元気でないだろ。冷めないうちに食べなよ」

 

「わ、わかりました」

 

 俺たちは黙々と食事を進めていった。

 

 シチューの中には肉がたくさん入っており、非常に美味しかった。

 本当に良い宿だな、ここ。

 

 ふと、ティアに視線を向けると……彼女はお腹が空いていたのか、物凄いペースで食べていた。

 

 そんなに急いでもシチューもパンも逃げていかないのに……。

 

「凄く、美味しかったです」

 

 気がつけば、ティアは食べ終わっていた。

 

「随分と気に入ったみたいだね。また明日もここで食べるか」

 

「い、いいんですか?」

 

「ああ。ここの料理が美味しいのは同感だからな」

 

 俺も食べ終わると席を立ち上がると、厨房にいた女将さんに感謝を告げる。

 

「ごちそうさまでした。美味しかったです!」

 

「おお、そりゃあ良かったよ!」

 

 女将さんは嬉しそうに表情を綻ばせた。

 

「じゃあ、部屋に行くか」

 

「うん」

 

 階段を上がって部屋に向かうと、部屋の扉を開いた。

 

 部屋はそこそこ広く、二人で生活する分には問題は無さそうだ。

 

 ただ……唯一、問題があるとしたら――

 

「ベッドが一つだけ……ね」

 

 俺は少女に目を移す。

 

 ここは紳士らしく俺は椅子で寝る。

 ……と言いたいところだが、久しぶりの外出で俺も疲れていた。

 

 ……一緒に寝るか。

 

「――あ、あの……」

 

 すると、突然、少女が俺の腕を掴んで話しかけてきた。

 

「どうした?」

 

「……ご、ごめんなさいっ! 私……貴方が下衆だと勘違いして……呪いを解呪できるのも嘘だと決めつけて……最低でした」

 

 少女は俺の前に跪くと、深く頭を下げた。

 

 その姿から彼女が深く反省していることは、見ているだけで簡単にわかった。

 

「いいよ」

 

「え……?」

 

 俺の言葉が予想外だったのか、少女はキョトンと目を丸くする。

 

「責めて欲しかったのかもしれないけど、俺は責めない。償いたいと思うなら、自分なりの方法で償ってくれ」

 

 俺は別に無礼をされたことに対して気にしちゃいない。

 でも、償いたいなら、勝手に償ってくれ……というだけだ。

 

「……罰を与えないことが……罰ってことですか……?」

 

 少女はブツブツと呟くと――

 

「……わかりました。私、頑張ります!」

 

 自分なりに納得したのか、覚悟を決めた真っ直ぐな瞳を向けてきた。

 

「……? お、おう。まあ……頑張ってくれ」

 

「任せてください。戦闘でも家事でもなんでもしてみせます!」

 

「ああ……って、戦闘できるのか?」

 

「勿論です。私、勇(・)者(・)の(・)末(・)裔(・)ですし」

 

「へえ、勇者の末裔かぁ……え、勇者の末裔!?」

 

 それは、あまりにも予想外すぎる一言だった。

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