「刀の錆にしてやる!」と言うと、本当に眼の前の人・物を『刀の錆』に変換する魔法 作:水葉わいん
「……ありがとうございます」
少女はそう言うと――幾つもの涙を流した。
「へ!? なんで泣いて……」
「ぐすっ……私……このまま一生、この呪いを背負って生きていかなきゃいけないんだって……ずっと思ってたので……」
「ああ……」
一生、治るはずのない病にかかった時の気持ちは痛いほど知っていた。
呪いも似たようなものだ。
だからこそ――自分のことのように嬉しくなった。
「良かった。君のことを治せて」
俺の心の中がじんわりと温かくなっていく気がした。
「さっ、いつまでもこんな路地裏に居たら気も滅入るし、早く行こうか」
「はい……ぐすっ……」
俺は泣きじゃくる少女の手を引っ張って、路地裏から出る。
その時、通行人の一人がギョッと驚いたように俺と少女を見ると……何を想像したのか、軽蔑したような目で俺を睨んだ。
ち、違うんですよ……。
「ええっと……宿、とりあえず、宿行こうか!」
このままだと、通行人に奇異の目で見られてしまうため、俺はそう提案した。
「はい……わかりました……」
「よしっ、じゃあ近くの宿は……」
御者さんから貰った地図によると『紅葉亭』という宿屋が評判もよく、ここから近いらしい。
俺は早足でそこへ向かった。
「――あのぉ、この宿に一週間、泊まりたいんですけど……」
宿屋に入るなり俺は女将さんらしき人物に尋ねた。
「はいよ! ……って、どうしたんだい……?」
女将さんは心配そうに少女を見つめる。
もう既に泣き止んでいたが……目は真っ赤であり、さっきまで泣いていたのが丸わかりだ。
「……もしかして、何かしたのかい? あんた、そんなことをするようには見えないけど……」
怪訝そうに俺と少女を見比べる女将さん。
い、いや、違うんすよ……。
俺が否定しようとした時――少女が口を開いた。
「……ち、違うんです……私……嬉しくて……」
「嬉しかった……?」
「はい……! ご主人様が……一生治らないと思ってた病気を治してくれて……」
泣きすぎて充血した瞳で、少女は俺を見上げると……俺の腕に小さく抱きついてきた。
「へぇ、そうだったのかい……! 疑って悪かったよ」
「ああいえ、勘違いしてしまうような状況でしたし……構いませんよ」
「そうかい? でもお詫びも兼ねて、一日分の宿泊費はタダにしておくよ」
女将さんは心底申し訳なさそうに謝ると、そう言った。
「ほ、本当ですか……!?」
「勿論さ……! じゃあ、六日だから……銀貨六枚、貰うよ」
「じゃあ……これで」
俺はピッタリ銀貨六枚を支払う。
「うん、確かに銀貨六枚受け取った。じゃあ、鍵は……これね。部屋は2階にあるよ」
「はい、ありがとうございます」
俺は小さく頭を下げると、鍵を受け取った。
「ああそうだ、もう夕方だし、晩御飯食べるかい? うちには食堂もあるんだよ」
「そうなんですか……?」
確かに、少し腹が減っている気がする。
「今なら、タダにしておくけど……どうだい?」
「じゃあ……二人分、お願いします!」
タダという言葉が決め手だった。
「あいよ! 空いてる席に座っておいで」
「ありがとうございます……!」
いやぁ、いい女将さんだな。
御者さんのオススメは間違いなかったらしい。
本当に助かった。
俺たちは隣の部屋にある食堂に行くと、適当な席に座って料理が来るのを待つ。
待つ間、暇なので俺はふと、気になったことを少女に聞いた。
「そういえばさ。名前、聞いてなかったよね」
「名前……。私の名前は……ティアです」
「ティア……ね。俺はライ。よろしく」
「ライ様、ライ様……はい、覚えました!」
少女は噛み締めるように俺の名前を繰り返した。
そうこうしていると、料理が席に届く。
シチューとパンか。
シンプルだが、凄く美味しそうだ。
「……? 私も同じものを食べるんですか……?」
「うん、そうだけど? 何か嫌いなものとかあったか?」
「い、いえ……。奴隷は……適当なものを食べさせられるのが普通なので……」
「適当なもの? ……でも、ちゃんと食事しなきゃ元気でないだろ。冷めないうちに食べなよ」
「わ、わかりました」
俺たちは黙々と食事を進めていった。
シチューの中には肉がたくさん入っており、非常に美味しかった。
本当に良い宿だな、ここ。
ふと、ティアに視線を向けると……彼女はお腹が空いていたのか、物凄いペースで食べていた。
そんなに急いでもシチューもパンも逃げていかないのに……。
「凄く、美味しかったです」
気がつけば、ティアは食べ終わっていた。
「随分と気に入ったみたいだね。また明日もここで食べるか」
「い、いいんですか?」
「ああ。ここの料理が美味しいのは同感だからな」
俺も食べ終わると席を立ち上がると、厨房にいた女将さんに感謝を告げる。
「ごちそうさまでした。美味しかったです!」
「おお、そりゃあ良かったよ!」
女将さんは嬉しそうに表情を綻ばせた。
「じゃあ、部屋に行くか」
「うん」
階段を上がって部屋に向かうと、部屋の扉を開いた。
部屋はそこそこ広く、二人で生活する分には問題は無さそうだ。
ただ……唯一、問題があるとしたら――
「ベッドが一つだけ……ね」
俺は少女に目を移す。
ここは紳士らしく俺は椅子で寝る。
……と言いたいところだが、久しぶりの外出で俺も疲れていた。
……一緒に寝るか。
「――あ、あの……」
すると、突然、少女が俺の腕を掴んで話しかけてきた。
「どうした?」
「……ご、ごめんなさいっ! 私……貴方が下衆だと勘違いして……呪いを解呪できるのも嘘だと決めつけて……最低でした」
少女は俺の前に跪くと、深く頭を下げた。
その姿から彼女が深く反省していることは、見ているだけで簡単にわかった。
「いいよ」
「え……?」
俺の言葉が予想外だったのか、少女はキョトンと目を丸くする。
「責めて欲しかったのかもしれないけど、俺は責めない。償いたいと思うなら、自分なりの方法で償ってくれ」
俺は別に無礼をされたことに対して気にしちゃいない。
でも、償いたいなら、勝手に償ってくれ……というだけだ。
「……罰を与えないことが……罰ってことですか……?」
少女はブツブツと呟くと――
「……わかりました。私、頑張ります!」
自分なりに納得したのか、覚悟を決めた真っ直ぐな瞳を向けてきた。
「……? お、おう。まあ……頑張ってくれ」
「任せてください。戦闘でも家事でもなんでもしてみせます!」
「ああ……って、戦闘できるのか?」
「勿論です。私、
「へえ、勇者の末裔かぁ……え、勇者の末裔!?」
それは、あまりにも予想外すぎる一言だった。