「刀の錆にしてやる!」と言うと、本当に眼の前の人・物を『刀の錆』に変換する魔法 作:水葉わいん
「ゆ、勇者って……過去に魔王を倒して、世界を救ったとされる英雄のこと?」
「はい!」
「それで君はその末裔……ってこと?」
「そうですっ!」
「ま、マジかよ……」
こんな少女が勇者の末裔だなんて、誰が予想できたか。
俺、とんでもない子を買ってしまったんだな……。
「でも……勇者の末裔だからこそ、私は呪いにかかってたんです」
ティアは苦い顔で言った。
「どういう意味だ?」
「勇者達は魔王は倒したのはいいんですが……魔王の最期の抵抗で生まれる子供が呪いにかかるようになってしまったんです」
「じゃあ……ティアはそのせいで呪いに?」
「はい……。そういうことになります……」
なるほど。
あんなに強い呪いにかかっていたのも、あれが魔王からの呪いであれば説明がつく。
そういうことだったのか……。
「――でも、私は御主人様のお陰で呪いを解くことができました。この力を御主人様のために存分に発揮できます……!」
「そりゃあ頼もしいな」
「はい。ですから、この身を犠牲にしてで絶対に御主人様を守ります」
「おお……そりゃあ助か……ん?」
なんか、やけに重くないか?
「別にそこまでの覚悟じゃなくてもいいんだけど……」
「ダメです。どうせ御主人が助けてくれなきゃ後数年で無くなってた命ですから……御主人に尽くすのは当然です」
「そう……なのか?」
「はい。これは譲れません」
ムスッとした表情を浮かべるティア。
まあ……月日が経てば、考えも変わるかもしれないし、無理に否定することもないか。
「ふぁぁぁ……」
大きな欠伸が口から漏れ出た。
今日は色々なことがあったし、疲労が溜まっていたのだろう。
体を拭いて寝るか。
その時、ふとティアの体が目に入った。
彼女の銀髪は煤のようなもので黒ずんでおり、来ている服はボロ切れ同然。
腕や足は泥で酷く汚れていた。
「……ティア、体、洗おっか」
「体ですか? も、もしかして臭かったですか!?」
「いや、そうじゃないけど……これから一緒に過ごすなら、ティアには清潔であってくれた方が俺としては助かるというか……」
俺の言葉を聞いたティアは自身の体をまじまじと見つめる。
どれほど汚れているか気づいたのか、彼女はハッとした表情を浮かべた。
「そういうことでしたか……。桶とタオルがあれば、勝手にやりますよ」
「……いや、石鹸も使おうか」
「せ、石鹸ですか!? そんな高価なもの、私なんかが使うわけにはいかないですよ……!」
「いやいや、できる限り清潔であって欲しいし……」
「で、でも……」
ティアは未だに躊躇っていた。
確かに石鹸はこの世界では高価だ。
しかし……日本の時の感覚が残ってる俺としては石鹸は使いたいし、使って貰いたい。
「……そこまで言うなら、勝手に洗うぞ?」
「ふぇ!?」
「いや勿論、髪だけな? 体は自分で洗ってくれ?」
「ご、御主人様がそう言うなら……」
ティアは桶とタオルを持ってくると……俺の前にちょこんと座った。
へ? 脅し文句みたいな感じで言ったつもりなんだけど……?
本気で捉えられてる?
しかし、ティアがここまで乗り気だと……こっちも引くに引けない。
俺は家から持ってきた石鹸を鞄から取り出す。
「……よ、よし、じゃあ洗うぞ」
勿論、女の子の髪の毛なんて洗ったことは無い。
俺は緊張で震えた手で、そっと髪の毛に触れると痛めないように優しく洗っていく。
すると、みるみるうちに桶の水が黒く濁っていった。
同時にくすんだ灰色をしていた髪の毛も……どんどんと光沢を増していく。
次第に髪は本来の色を取り戻し、艶やかな銀色になっていった。
「んっ……」
心地いいのか、くすぐったいのか、ティアは目を閉じたまま、小さく嬌声を漏らした。
「気持ちいいか?」
「はい……!」
「そっか。なら良かったよ」
桶を何度も替えながら髪を洗い続けると……髪はようやく綺麗になった。
俺は少し遠くからティアを俯瞰する。
絹のように艷やかな銀髪は、思わず見惚れてしまう程、美しかった。
……こりゃあ、凄えな。
「よしっ、ティア。体も石鹸で洗ってきてくれ」
「か、体もですか……?」
「うん。絶対にそっちの方がいい。嫌なら俺が勝手に洗うぞ?」
「っ~~~!? じ、自分で洗ってきますっ!」
ティアはひったくるように桶と石鹸を取ると、隣の部屋に逃げていった。
数十分後……よくやく扉が開く。
そこには――正真正銘の美少女がいた。
「あ、あの……洗えました」
ティアは少し恥ずかしそうに身を捩らせる。
「……凄いな。体を清潔にするだけでここまで変わるのか……」
血色が良い整った顔立ち、白磁のようなキメ細かな肌。
ティアはさっきとはまるで別人のように美しかった。
「えっと……御主人様? 何か私、変でしたか……?」
不安げに首を傾げるティア。
しまった。つい見つめすぎた……。
「いや、変とかじゃなくて……。えっと……随分とイメージが変わったなって思ってさ」
「そ、そうですか?」
「ああ。凄く良くなったよ」
可愛くなったとか、美しいとか……そんな歯が浮くようなセリフは流石に言えなかった。
前世ではベッドの上で一生過ごしてたんだ。
そんな女慣れしたこと、言えるわけないだろ……!
「ご、御主人様に喜んで頂けたのなら……良かったです」
ティアは照れたのか僅かに頬を赤く染めていた。
「じゃあ、俺も体を洗うか。ティアは……眠かったら、勝手に寝ててもいいぞ」
「そんな……! 御主人様を置いて先に寝るなんて、絶対に出来ません……!」
ティアは首をブンブンと横に振り、強く否定した。
「そこまで言うなら、待ってて貰ってもいいけど……」
俺は隣の部屋で石鹸を使って体と髪を洗っていく。
そうして、また部屋に戻った時――ティアは俺が体を洗いに行った時と同じ場所に立ったまま俺を待っていた。
まるで忠犬ハチ公だ。
「せ、せめて椅子に座って待っててくれて良かったんだけど……」
「そんなこと出来ませんよっ!。じゃ、じゃあ、寝ましょうか。私は……角の床を使わせてもらいますね」
ティアは枕も何も持たずに、床の上で横になろうとする。
「い、いやいやいや! ベッドは十分広いんだし、ベッドを一緒に使えばいいんじゃ……それが嫌ならせめて椅子を繋げて、その上に寝ればいいんじゃないか?」
「そ、そんな私が御主人様と一緒に……」
すると……ティアは突然、頬を真っ赤に好調させた。
「……わかりました。そういうことでしたら」
「……?」
俺は不思議に思いながら、部屋の灯りを消し、ベッドに横になる。
すると、直ぐにティアもベッドに乗ってきた。
なんだ、意外と素直じゃないか。
隣に美少女がいるという状況に少しドギマギしつつも、俺が目を閉じようとした――その時。
「――ご、御主人様……このティア、全身全霊でご奉仕させていただきますね」
「……へ?」