とある3期生のオルタナティブ~ウサギとエルフと騎士と船長~   作:ジョウジ

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第10話:和の防衛線

 黒い森の奥深く。太陽の光すら届かない鬱蒼とした木々の合間を縫って、四人は歩みを進めていた。 目的地である「ネクロマンサー」がいるとされる最深部まで、あとわずか。

 

 しかし、突如として周囲の空気が一変した。

 

「……何だ、ここ。急に景色が変わったんだワ」

 

 マリンが息を呑む。 ファンタジー世界の暗い森が、見えない境界線を越えた途端、真っ赤な「千本鳥居」が延々と連なる和風の空間に切り替わっていたのだ。鳥居の足元には青白い狐火が浮かび、幻想的だがひどく冷たい空気を放っている。

 

 その千本鳥居の入り口に、三つの影が立ち塞がっていた。 白髪にケモ耳を持つ巫女装束の少女――白上フブキ。黒髪に赤いメッシュの入った獣人の少女――大神ミオ。そして、二本の角を生やし、背に双剣を背負った鬼の少女――百鬼あやめ。

 

「……やっぱり。あの時の」

 

 ぺこらの顔が強張る。百年以上前、孤独に世界をさまよっていた時に、冷たく突き放してきた先輩たちだ。

 

「ここから先へは行かせないよ、3期生」

 

フブキが、温度のない冷たい声で静かに告げた。

 

「るしあちゃんは、この先にいる。でも……君たちには会わせられない」

 

「どうしてですか、フブキ先輩!」

 

 フレアが前に出て叫ぶ。

 

「ロボ子さんから聞きました! この世界には寿命があるって! フブキ先輩たちは、何かを隠してずっとコソコソ動いてた! ……私たちに、るしあを会わせちゃいけない理由があるんですか!?」

 

 フレアの痛切な問いかけに対し、フブキとミオは無言で目を伏せた。その沈黙を破るように、あやめがゆっくりと一歩前に出る。

 

「理由は言えぬ。……だが、どうしても進むと言うのなら」

 

 チャキッ、と鋭い金属音が鳴る。 あやめが背中の双剣『阿修羅』と『羅刹』を抜き放ち、少しだけ目を伏せた。

 

「余たちが、相手をする。……恨んでくれてもいい、後輩ども!」

 

ドンッ!! あやめの足元の地面が爆発したかのように弾け、彼女の姿がフッと消えた。

 

「速っ……!?」

 

 ノエルが反応する間もなく、あやめは一瞬で四人の懐に潜り込んでいた。赤と黒の鬼火を纏った双剣が、嵐のような連撃となって襲い掛かる。

 

――ガキンッ! キィィィンッ!!

 

「くっ、うおおおおっ!」

 

 ノエルが巨大なメイスを盾にして必死に防御するが、一撃一撃が重く、凄まじい衝撃に腕が悲鳴を上げる。

 

「遅い遅い! 騎士団長というのは、そんなものか!?」

 

 あやめは威勢よく笑いながら、舞うようにメイスの死角へ回り込み、次々と斬撃を叩き込んでいく。それは、誰もが息を呑むような、美しくも圧倒的な剣舞だった。

 

「団長から離れるぺこ!」

 

 ぺこらがあやめの背後から大量のTNTブロックを射出しようとした、その瞬間。 『ストップ!!』 後方に控えていたミオの、怒気を孕んだ鋭い一喝が響き渡った。

 

「ビクゥッ!?」

 

 ミオから放たれた強烈な『母性の圧』に当てられ、ぺこらの身体が怒られた子どものように強制的に硬直(スタン)させられる。

 

「えっ、体が動かないぺこ!? なんでミオ先輩、悲壮な顔してるのに背中に謎の筋肉鳩オバケ(ハトタウロス)が浮いてるぺこか!?」

 

「よそ見してる場合じゃないよ!」

 

 空中に跳躍したフブキが、白刃を抜いてフレアとマリンへ斬りかかる。

 

「フレア、お願い!」

 

「燃やせぇぇぇっ!」

 

 マリンをかばい、フレアが至近距離から極大の炎の魔法を放つ。しかし、フブキは刀を鞘に納め、凛とした声で言葉を紡いだ。

 

――『No wife, Friends(ノーワイフ、フレンズ)』!

 

 パァァァンッ!!

 

 フブキを中心に、絶対に越えられない『拒絶の結界』が展開される。フレアの放った炎は結界に触れた瞬間に無力化され、弾き飛ばされたフレアとマリンは地面を転がる。

 

「あーっ! もう、全然歯が立たないんだワ! 強すぎる!」

 

 マリンが涙目で抗議するが、フブキは冷酷なまでに追撃の歩みを止めない。

 

「どうしたどうした! 3期生はその程度か!?」

 

 あやめの双剣がノエルのメイスを弾き飛ばし、そのままフレアの首元へと刃を振り下ろす。

 

「しまっ……!」

 

 フレアは目を瞑り、死を覚悟した。しかし。

 

――ヒュンッ。

 

振り下ろされた凶刃は、フレアの首の皮一枚を撫でるように、ギリギリの軌道で外れていた。

 

「……え?」

 

 地面に倒れ込んだフレアは、驚きと共に目を見開いた。

 

 偶然外れたわけではない。あやめの攻撃は、さっきからずっとそうだ。 恐ろしい手と圧倒的なプレッシャーで蹂躙してくるが、『絶対に致命傷になる軌道』だけは、彼女自身の意志で精密に外されている。

 

(……なんで?)

 

 フレアは這いつくばったまま、双剣を構えて自分を見下ろすあやめの顔を見た。

 

「ほら、立ってこい! まだまだ終わらんぞ!」

 

 あやめは威勢よく笑っている。しかし、その強者の笑みの奥で……あやめの真っ赤な瞳は、今にも泣き出しそうに悲痛に揺れ動いていたのだ。

 

(……あの時、私たちを突き放したのは、嫌いだったからじゃない……?)

 

冷たいパズルのピースが、フレアの頭の中で一つに繋がろうとしていた。和の防衛線が放つ「慈愛に満ちた殺意」の真意にフレアが気づきかけた、その時だった。

 

『――そこまでになさい』

 

戦場を凍りつかせるような、絶対零度の冷たい声が響いた。鳥居の奥から、静かに歩み出てくる一つの影。その姿を見た瞬間、3期生の四人は息を呑み、そして弾かれたように名前を叫んでいた。

 

「「「るしあ(ちゃん)!!」」」

 

待ち焦がれた、五人目の仲間。しかし、現れたネクロマンサーの纏う空気は、四人がよく知る彼女のものではなかった。見覚えのある、白髪の姿。だが、いつもなら真っ先に抱きついてくるはずのその瞳には、かつての温かな光は微塵も残されていなかった。

 

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