とある3期生のオルタナティブ~ウサギとエルフと騎士と船長~   作:ジョウジ

12 / 16
第12話:慈愛の死霊使い

 黒い森を包み込んだ絶望の静寂を破ったのは、マリンの悲痛な叫びだった。

 

「なんでだよ、るしあ……! 船長たちだよ!? 一緒に海賊船に乗るって約束したじゃんか! なんでこんなことするの!」

 

 涙声で叫ぶマリンに、るしあは表情一つ変えずに杖を向けた。

 

「……五月蠅い」

 

 るしあの呟きと共に、足元の地面から凄まじい冷気が爆発的に広がり、巨大な氷の槍となって3期生たちへと襲い掛かった。

 

「フレア!」

 

「わかってる! 燃やせぇぇぇっ!」

 

 ノエルの叫びに呼応し、フレアが長弓から極大の炎の魔法を放つ。しかし、紅蓮の炎はるしあの放つ絶対零度の氷槍に触れた瞬間、ジュゥゥゥッという音と共に呆気なく凍りつき、砕け散ってしまった。

 

「嘘でしょ……私の炎が、凍らされた……?」

 

 フレアが愕然と呟く。 エルフの魔法すら凌駕する、底知れぬ魔力。さらに、無数のスケルトンたちが一斉に武器を構え、四人を包囲する距離をじりじりと詰めてくる。

 

「るしあちゃん……お願い、目を覚ましてよ! 一緒に帰ろう!?」

 

 ノエルがメイスを捨て、両手を広げて一歩前へ出ようとした。しかし、その足元にドスゥゥゥンッ! と、巨大なオレンジ色の尾が叩きつけられ、地面がクレーターのように陥没する。

 

「近づくんじゃねえ」

 

 見上げるような巨躯のドラゴン――桐生ココが、低い唸り声と共に威圧する。その背に乗るかなたの瞳も、悲痛なほどに冷たい。

 

「ココ会長……かなたちゃん……どうしてぺこか! なんでこんなことするぺこか!」

 

 ぺこらが震える声で叫ぶ。

 

「ロボ子先輩から聞いたぺこ! この世界には寿命があるって! フブキ先輩たちは、何かを隠してるって! ……全部話してほしいぺこ! 私たちは仲間じゃ――」

 

「仲間だからだよ」

 

 ぺこらの言葉を遮ったのは、鳥居の奥から歩み出てきたフブキの、絞り出すような声だった。ミオとあやめも、これ以上は見ていられないとばかりに顔を伏せている。

 

「フブキ……先輩?」

 

「この世界は、もうすぐ終わる。だから、君たちだけでも『あっち(現実)』に帰さなきゃいけないんだ。……でも、この世界の壁を壊して外に出るには、生半可な力じゃ足りない」 フブキは痛む胸を押さえるように、自らの巫女装束を強く握りしめた。

 

「魂からの本気の感情――怒り、悲しみ、生への執着。それが極限まで高まった時に発生するエネルギーを物理的に衝突させないと、空の壁(次元の結界)は壊せないんだよ。……ただの『プロレス』じゃ、システムは騙せない」

 

「……え?」

 

 フレアの目が大きく見開かれる。

 

「だから……私たちが、本気で憎まれなきゃいけなかった。本気の殺意を引き出すための『壁』にならなきゃいけなかったんだよ」

 

 ミオが、ポロポロと涙をこぼしながら告げた。その残酷な真実に、四人の思考が真っ白に染まる。自分たちを本気で絶望させようとしていた理由。それは、自分たちを『本気で戦わせ、そのエネルギーで現実へ帰すため』だったというのか。

 

「待って……待ってよ!」

 

 マリンが頭を抱えて叫ぶ。

 

「だったら、先輩たちも一緒に帰ればいいじゃない! なんで自分たちだけ悪役になって残ろうとするの!? みんなで一緒に――」

 

「帰れないんだよ」

 

 重く、静かな声が響いた。声の主は、白髪のネクロマンサー――るしあだった。その瞳に、初めて「冷酷なガラス玉」ではない、痛みを堪えるような悲しい光が灯る。

 

「私と……ココ会長は。もう、あなたたちのいる『あっち』には、帰れない。私たちは、この世界に残されたただのデータ(幻影)だから」

 

「るし、あ……?」

 

 るしあの言葉は、現実世界における『卒業(あるいは契約解除)』という、絶対に覆らないメタ的な事実を意味していた。公式のファンタジー世界であるこの仮想空間(ホロアース)だからこそ、彼女たちは形を保って存在できている。だが、次元の壁を越えた先の現実には、もう彼女たちの居場所(席)は用意されていないのだ。

 

「そんな……嘘だ、嘘だぺこ! るしあは、ここにいるじゃないか!」

 

 ぺこらが泣き叫ぶ。

 

「るしあ先輩の言う通りだ」 ドラゴン(ココ)が低く喉を鳴らした。

 

「私たちはもう帰れねえ。でも、先輩たちは違う。だから、私たちのこの命(データ)を削り切るくらいの『本気の感情』をぶつけてこい。私たちを殺して、そのエネルギーで壁をぶち破れ!」

 

「私は、ココ会長を一人にはしない。ここで一緒に残る」

 

ドラゴンの背の上で、かなたが純白の翼を広げ、真っすぐにノエルたちを見下ろした。

 

「だから、先輩たちも本気で来てください! じゃないと、ここで全員一緒に消えるだけだよ!」

 

 絶望の宣告だった。大好きな仲間たち。一緒に笑い合った先輩や後輩。彼女たちを現実へ帰すために、自らを犠牲にして立ちはだかった「慈愛の悪役」たち。現実に帰るということは、ここで彼女たちを自らの手で殺し、永遠の別れ(忘却)を受け入れるということに他ならなかった。

 

「……できるわけ、ないじゃん」

 

 フレアの震える手から、エルフの長弓がポロリと滑り落ちた。ノエルは地面に膝をつき、両手で顔を覆って咽び泣いている。マリンも、ぺこらも、誰もが戦意を完全に喪失し、その場に崩れ落ちた。

 

「私たちに……るしあを、ココ会長を……みんなを殺して、自分たちだけ生き残れって言うの……?」

 

 ノエルの悲痛な嗚咽だけが、黒い森に響き渡る。

「……そうだよ」

 

るしあが、一筋の涙を頬に伝わせながら、ゆっくりと杖を振り上げた。

 

「だから……私を。私たちを殺して、行きなさい」

 

 無数のスケルトンが、そしてあやめの双剣が、動けなくなった四人へと無慈悲に迫る。 優しすぎる悪意と、重すぎる真実の前に、ホロライブ3期生は完全に敗北し、絶望の淵へと沈み込んでいった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。