とある3期生のオルタナティブ~ウサギとエルフと騎士と船長~ 作:ジョウジ
黒い森を支配する、重く冷たい静寂。 骸骨の軍勢とあやめの双剣に包囲されながらも、ノエルたちは武器を落とし、ただ涙を流してうずくまっていた。
「……やりなさい」
るしあの、感情を押し殺した震える声が響く。
「私たちを殺さなきゃ、現実には帰れない。……お願いだから、生きて帰ってよ!」
しかし、誰も動かない。動けるはずがない。 自分たちを逃がすために、自らの存在)を消し去る覚悟で立ち塞がった仲間たちを、どうして傷つけることができるだろうか。 フブキも、ミオも、あやめも、かなたも、ココも。そしてるしあも。 誰もが痛む心を必死に隠し、「悪役」としての仮面を被りながら、後輩や同期からの『本気の殺意』を待っていた。
完全な詰み。悲劇的で、あまりにも美しい自己犠牲のシナリオ。
――しかし。
「……っ、ふ、くくっ……」
不意に、うずくまっていた四人の中から、くぐもった笑い声が漏れた。
「ぺこら……?」
フレアが涙声のまま隣を見下ろす。兎田ぺこらは、両手で顔を覆いながら、肩を小刻みに震わせていた。最初は泣いているのかと思われた。だが、違う。
「あーっはっはっはっは! ぺーこぺこぺこぺこ!」
黒い森の張り詰めたシリアスな空気を木端微塵に粉砕する、腹の底からの大爆笑。 ぺこらは顔を上げ、涙と鼻水を袖で乱暴に拭いながら、立ち上がった。
「ぺ、ぺこら先輩……?」
ドラゴンの背の上で、かなたが戸惑ったように目を瞬かせる。
「あー、お腹痛いぺこ! なんなのこの空気! 悲劇のヒロイン? 美しい自己犠牲? ……笑わせるんじゃねえぺこ!」
ぺこらは腰に手を当て、ぐるりとフブキたるしあたちを指差した。
「あんたたち、自分たちが何者か忘れたぺこか!? 私たちはホロライブぺこよ! 綺麗なお涙頂戴の台本なんか、似合うわけないじゃんか!!」
その言葉に、るしあの肩がビクッと跳ねた。
「な、なにを言ってるの……! ふざけてる場合じゃ――」
「ふざけて何が悪いぺこか!!」
ぺこらの怒声が、黒い森にビリビリと響き渡る。
「本気の感情をぶつけないと、この世界の壁は壊せない? だから本気で憎ませようとした? ……バカじゃないの!? 感情なんて、悲しみや憎しみだけじゃないぺこ!!」
ぺこらの言葉に、地面にへたり込んでいたノエルとマリンが、ハッと顔を上げた。フレアもまた、目を丸くして目の前のウサギの背中を見つめている。
「百年待たされてわかったぺこ。この世界は綺麗すぎる。設定に忠実すぎるぺこ。だから……退屈なんだよ」
ぺこらは不敵に笑い、インベントリから大量の『TNTブロック』を取り出し、両手に構えた。
「システムが悲劇を望むなら、そんなルール、ぺこらたちがぶち壊してやるぺこ! お前らを殺して帰るくらいなら、全員巻き込んで大爆笑しながら死んでやるぺこよ!!」
その破天荒すぎる宣言に、ココが呆れたように低く唸った。
「……おいおい、正気かよ先輩。ただの『プロレス』じゃシステムは騙せねえって、フブキ先輩が言ったばかりだろ?」
「プロレスが『偽物』なんて、誰が決めたんだ?」
次に立ち上がったのは、マリンだった。埃まみれのコートを払い、いつものふてぶてしい、けれど最高に頼もしいドヤ顔を浮かべる。
「船長たちはエンターテイナーだゾ! 本気のプロレス(おふざけ)で、本気の熱狂(感情)を生み出して、システムの計算なんかオーバーフローさせてやるんだワ!!」
「……マリンの言う通りだね」
ノエルが、落としていた巨大なメイスをガシッと拾い上げた。その瞳からは悲哀の涙が消え、いつもの「脳筋騎士」の闘志が燃え上がっている。
「るしあちゃん。ココ会長、かなたちゃん、先輩たち。団長、悲しいのは嫌い! だから……力ずくで、全員一緒に笑って帰るよ!!」
最後に、フレアがエルフの長弓を構え、その先端に極大の炎を灯した。
「そういうこと。私たちに設定通りのシリアスなファンタジーを押し付けようったって、そうはいかない。……見せてやるよ。これが、私たちの現実(オルタナティブ)だ!!」
四人の眼差しに、もう迷いはなかった。絶望の淵に沈んでいたはずの3期生たちは、悲劇のシナリオを真っ向から否定し、最高にカオスで熱い「反逆の狼煙」を上げた。
「……あはっ」
あやめが、双剣を構えたまま、思わず吹き出したように笑いをこぼす。
「なるほどな。……やはり、余たちの可愛い後輩は、こうでなくてはな!」
フブキも、ミオも、そしてるしあも。あっけにとられていた「悪役」たちの顔に、隠しきれない安堵と、呆れ混じりの笑みが広がっていく。
「……しょうがないぺこね! 先輩たちもるしあも、かかってこいぺこぉぉぉ!!」
ぺこらの咆哮と共に、黒い森を揺るがす前代未聞の「本気のプロレス(大乱闘)」が幕を開けた。