とある3期生のオルタナティブ~ウサギとエルフと騎士と船長~ 作:ジョウジ
ピキピキピキッ……!!
黒い森の上空で、空そのものがガラスのようにひび割れていく。78歳のババアの超高速機動、際限なく増殖するTNTブロックの爆発、そして全員の腹の底からの大爆笑。悲劇のシナリオをガン無視した「本気のプロレス」から生まれる莫大なエンタメエネルギーに、仮想世界のシステムは完全にオーバーフローを起こしていた。
『ERROR : FATAL SYSTEM OVERLOAD』
空に広がる赤いエラー画面が明滅し、次元の壁が崩壊しかけている。しかし。
「……まずい! システムが自己修復(オートヒール)を始めた!」
フブキが上空を見上げて叫んだ。 割れかけた空の亀裂を縫い合わせるように、緑色のデータコードが走り、次元の壁が強引に形を保とうとしている。
「ふざけるなぺこ! ここまでやって、まだ足りないって言うぺこか!?」
ぺこらが大量の汗を流しながら、空に向かって吠える。3期生の体力も、防衛側の力も、すでに限界に近かった。あと一歩、あとほんの少しだけエネルギーを叩き込めば、この分厚い壁を完全にぶち破れるのに。
その時だった。
――ギュイィィィンッ! ドゴォォォォンッ!!
突如、森の彼方から飛来した『極太のプラズマ砲』と『無数の魔法陣から放たれた魔力弾』が、システムが修復しようとしていた亀裂に容赦なく叩き込まれた。
「えっ……!?」
フレアが息を呑んで振り返る。
『もう、ぽんこつなんて言わせないんだから! ボクも手伝うよ!』
上空に浮かんでいたのは、背部のブースターを全開にし、全武装を展開したロボ子さんだった。
さらに、その足元の森の木々を蹴りながら、見覚えのあるメンバーたちが次々と姿を現す。
「あてぃしらの出番をギャグだけで終わらせる気かー!」
「あんたたちばっかりカッコつけさせないわよ!」
魔法の箒にまたがったシオンと、巨大な錨に乗ったあくあ。魔法都市でギャグ次元に吹き飛ばされたはずの天才魔法使いコンビが、今度は味方として超絶シリアスな魔力障壁を展開している。
「まつりちゃんも来たでー! お前ら、やっちまえー!」
「もう、授業をサボってまで来ましたのよ? 感謝してくださいな」
夏色まつりが金色のオーラ(神の力)を放ちながらチアリーディングでバフをかけ、癒月ちょこが悪魔の翼を広げて魅惑の魔法でサポートに回る。
「ロボ子先輩! あくあ先輩たちも……!」
ノエルが歓喜の声を上げた。道中で出会った仲間たちが、システムの修復を食い止めるために集結してくれたのだ。
『まだまだ! これで終わりじゃないぞ!』
『――Hey、楽しそうなパーティーやってんじゃん!』
ロボ子さんの声に続くように、上空から聞き慣れた英語交じりのクールな声が響いた。 次の瞬間。システムが懸命に修復しようとしていた次元の壁のド真ん中を、三日月のような「ピンク色の極太の斬撃」が、紙を裂くように真っ二つに切り裂いた。
「カリオペ!?」
割れた空の向こう側に浮かんでいたのは、巨大な死神の鎌を肩に担ぎ、ニヤリと笑うピンク髪の死神――森カリオペだった。
『What's up, 3期生! 私たちも混ぜてくれよ!』
カリオペの声に呼応するように、割れた空の向こうから次々と見覚えのある姿が現れる。巨大な水流とサメのオーラを纏って三叉槍を振るう少女(がうる・ぐら)、輝く三日月を無数に降らせる魔術師(ムーナ・ホシノヴァ)、そして時間を司る黄金の歯車……。
サーバーの垣根も、次元の壁も越えて。 「ホロライブEnglish」と「ホロライブインドネシア」の面々――頼もしすぎる海外の仲間たちが、空の亀裂の向こうから一斉に顔を覗かせたのだ。
『Go, go, go! 援護するぞ!』
『一緒にぶっ壊しちゃえー!』
「お前ら……!」
マリンが、78歳の腰を押さえながら感極まって涙ぐむ。
「……あははっ! 最高ぺこ! これで全員揃い踏みぺこよ!」
ぺこらが、残されたすべてのTNTブロックを空に向かって射出した。フレアの極大の炎、ノエルのメイスの全力の衝撃波、マリンの海賊船の主砲。 それに合わせて、フブキ、ミオ、あやめ、かなた、るしあ、ココたちも、持てるすべての魔法と技を上空の「システムの壁」の一点に向かって放つ。
道中で出会ったJPの仲間たち。そして海外勢からのアベンジャーズのような援護射撃が、そこに合流した。ホロライブという巨大な宇宙(箱)のエネルギーが、完全にひとつになった瞬間だった。
――ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
世界が、真っ白な光に包まれた。赤いエラー画面も、緑の修復コードも、何もかもが光の奔流の中に溶けていく。 パリンッ、という澄んだ音と共に、空を覆っていた分厚い見えない壁が、木端微塵に砕け散った。
光が収まり、土煙が晴れていく。
「……あ」
ノエルが、空を見上げて声を漏らした。
彼らを閉じ込めていた仮想の空は、もうどこにもなかった。 そこにあったのは、目が痛くなるほどに澄み渡った、美しい「夜明けの青」だった。 次元の壁は完全に打ち破られ、現実世界への道が開かれたのだ。
「……やった、やったぺこ! ついに壊したぺこよ!」
ぺこらが両手を突き上げて歓喜の声を上げる。
戦いを終えた仲間たちが、互いの顔を見て笑い合う中。 るしあとココの体が、足元から淡い光の粒子となって、ふわりふわりと空へ溶け始めていた。
「るしあ、ココ会長……」
ノエルが涙ぐみながら二人を見る。
「泣かないで、ノエル」
るしあが、今までで一番優しく、温かい笑顔を向けた。 「本当に、最高のプロレスだったよ。……悲しいシナリオなんか、私たちには似合わないもんね」 「あばよ、クソガキども! お前らの本気、最高に面白かったぜ!」 ココが豪快に笑いながら、サムズアップを作って見せた。
それは、システムによって強制された「消滅」ではなかった。 悲劇の台本を自らの手で書き換え、役割を全うした彼女たち自身の、最高に晴れやかな「卒業」だった。
「……うんっ! またね、るしあ、ココ会長!」
フレアが、泣き笑いの顔で大きく手を振り返す。マリンも、ぺこらも、ノエルも、そして先輩や後輩たちも全員が、光となって消えていく二人の仲間に向かって、笑顔で手を振り続けた。
「またねー!」
夜明けの青空の下、るしあとココが光の中に完全に溶けて消えると同時に。3期生の四人の意識もまた、温かい光に包まれながら、ゆっくりと現実の世界へと引き戻されていった。