とある3期生のオルタナティブ~ウサギとエルフと騎士と船長~   作:ジョウジ

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第16話:痕跡と笑い声

 現実世界。いつもの見慣れた自室のPCの前で、彼女たちは目を覚ました。

 

「んん……あー……」

 

 兎田ぺこらは、ゲーミングチェアに深く背中を預けながら、大きく伸びをした。なんだか、ものすごく長く、熱くて、そして疲れる夢を見ていた気がする。胸の奥には、どこまでも澄み渡った「夜明けの青空」の光景と、腹の底から笑い合った強烈な一体感だけが、温かい余韻として残っていた。

 

(……マイクラ、やるぺこかぁ)

 

 誰と約束したわけでもない。ただなんとなく、無意識にマウスを握り、『Minecraft』のホロライブサーバーへとログインする。

 

 見慣れた四角い世界。ホロ鯖のスポーン地点に一人降り立ち、少しだけぼーっとしていると、ほどなくして画面左下のチャット欄に、ポン、ポンと小気味良いテンポでシステムメッセージが表示された。

 

『Shiranui Flare joined the game』

『Shirogane Noel joined the game』

『Houshou Marine joined the game』

 

「あ……」

 

 ぺこらが思わず声を漏らす。 フレア、ノエル、そしてマリン。あちらの世界でのスポーン法則と同じ、ホロライブ3期生の「デビュー順」に並んだログインログ。 画面の中では、すでに見慣れたエルフや騎士や海賊のスキンが、お互いを見つけてピョンピョンと跳ねて挨拶をしている。

 

 すぐに、通話アプリ(Discord)から『ピロンッ』という軽快な入室音が鳴った。

 

「あー……っ、なんか、すっごい疲れた気がする」

「わかるぺこ。めちゃくちゃ長い夢を見てた気がするぺこ」

「うん、団長もそう思う! なんか、みんなでめちゃくちゃに暴れ回ったような……!」

「でも、すっごく楽しい夢だったよね」

 

 通話が繋がった瞬間、ヘッドフォンから聞こえてきたノイズ交じりの笑い声が、なぜかひどく心地よい。それが本当にあった出来事なのか、それともただ四人で同じ夢を見ていたのかは、誰にもわからない。 わからなくていい。今、こうして四人で笑い合っているこの時間こそが、彼女たちにとっての「現実」なのだから。

 

「あー、やっぱりホロ鯖の空気は落ち着くね〜」

 

「さてと、今日は何して遊ぼうか。とりあえず、ぺこらの作った変なオブジェでも爆破しに行く?」

 

「やめるぺこ! フレア、最近すぐ放火魔になろうとするぺこよ!」

 

「もー、ふーたんもぺこらっちょも喧嘩しないの! 団長、牛丼作ってくるね!」

 

「マイクラに牛丼はないんだワ!」

 

 いつものように騒がしく、取り留めのない会話を交わしながら、四人のキャラクターはホロ鯖のメインストリートを連れ立って歩き出した。その時だった。

 

「……ん?」

 

 先頭を歩いていたぺこらが、ふと立ち止まった。

 

「どうしたの、ぺこら?」

 

 フレアのキャラクターが横に並び、ぺこらの視線の先を追う。

 

 見慣れたホロ鯖の広場の片隅。 そこには、昨日までは絶対に存在しなかった「不自然なブロックの建造物」が、ポツンと置かれていた。

 

「これ……誰が作ったんだろう?」

 

 マリンが目を瞬かせる。

 

 それは、美しい『緑色のガラスブロック』で作られた、見事な「蝶」のアートだった。 そしてその蝶の隣には、『オレンジ色のブロック』で作られた、立派な「ドラゴンのしっぽ」のオブジェが寄り添うように建てられていたのだ。

 

 さらに、その二つのオブジェの足元には、木の看板が一つ立てられている。

 

『お前らのプロレス、最高だったぜ! また遊ぼうな!』

 

 誰が作ったのか、誰が書いたのかはわからない。この広大なサーバーの中で、誰かがイタズラで置いていっただけかもしれない。けれど。

 

「……ふふっ」

 

 ノエルが、嬉しそうに目を細めて笑った。

 

「本当に、相変わらずだね」

 

 フレアも優しく微笑み、緑の蝶とオレンジのしっぽを見つめる。

 

 言葉にしなくても、四人にはわかっていた。あのアホみたいに熱くて、最高に楽しかった「仮想世界」での出来事が、決してただの夢なんかじゃなかったことを。彼女たちは確かにそこにいて、今もこのホロライブという巨大な宇宙(箱)の中で、確かな「痕跡」として繋がり続けていることを。

 

「……へへっ、しょうがないぺこね!」

 

 ぺこらは鼻をすすり、ニヤリと不敵に笑って見せた。

 

「だったら、こっちも負けてられないぺこ! お前ら、行くぺこよ! 今日も世界を笑わせるぺこ!」

 

「おーっ! 船長、今日は暴れちゃうゾ〜!」

 

 広場に、四人のカオスで温かい笑い声が響き渡る。

 

 その時、画面の左下に、再び新しいシステムメッセージが次々と流れ始めた。

『Shirakami Fubuki joined the game』

『Amane Kanata joined the game』

『Nakiri Ayame joined the game』

『Roboco-san joined the game』

 

「あ、フブキ先輩たちも入ってきた!」

 

「よーし! じゃあ今日も元気に、みんな巻き込んで突発コラボいくぺこよー!」

 

 悲劇の台本なんていらない。設定に縛られた、窮屈なファンタジーもいらない。事前の約束なんてなくても、誰かがいれば自然と人が集まり、新しい物語が生まれていく。彼女たち自身が笑い、ぶつかり合い、そして共に歩むこの騒がしい日常こそが、誰にも書き換えられない「最高のオルタナティブ(もう一つの現実)」なのだから。

 

 緑の蝶と、ドラゴンのしっぽが見守るホロ鯖の青空の下。 ホロライブのメンバーたちの、新しくて、いつも通りの冒険が、また始まろうとしていた。




ここまでのお付き合い、本当にありがとうございました。
ホロライブ3期生の絆と、アホみたいに熱いプロレスの物語、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

もしよろしければ、画面下部の評価を入れていただけると大変嬉しいです。皆様からの評価や感想が、何よりの執筆の原動力になります。
改めて、最後までお読みいただきありがとうございました!
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