とある3期生のオルタナティブ~ウサギとエルフと騎士と船長~ 作:ジョウジ
現実世界。いつもの見慣れた自室のPCの前で、彼女たちは目を覚ました。
「んん……あー……」
兎田ぺこらは、ゲーミングチェアに深く背中を預けながら、大きく伸びをした。なんだか、ものすごく長く、熱くて、そして疲れる夢を見ていた気がする。胸の奥には、どこまでも澄み渡った「夜明けの青空」の光景と、腹の底から笑い合った強烈な一体感だけが、温かい余韻として残っていた。
(……マイクラ、やるぺこかぁ)
誰と約束したわけでもない。ただなんとなく、無意識にマウスを握り、『Minecraft』のホロライブサーバーへとログインする。
見慣れた四角い世界。ホロ鯖のスポーン地点に一人降り立ち、少しだけぼーっとしていると、ほどなくして画面左下のチャット欄に、ポン、ポンと小気味良いテンポでシステムメッセージが表示された。
『Shiranui Flare joined the game』
『Shirogane Noel joined the game』
『Houshou Marine joined the game』
「あ……」
ぺこらが思わず声を漏らす。 フレア、ノエル、そしてマリン。あちらの世界でのスポーン法則と同じ、ホロライブ3期生の「デビュー順」に並んだログインログ。 画面の中では、すでに見慣れたエルフや騎士や海賊のスキンが、お互いを見つけてピョンピョンと跳ねて挨拶をしている。
すぐに、通話アプリ(Discord)から『ピロンッ』という軽快な入室音が鳴った。
「あー……っ、なんか、すっごい疲れた気がする」
「わかるぺこ。めちゃくちゃ長い夢を見てた気がするぺこ」
「うん、団長もそう思う! なんか、みんなでめちゃくちゃに暴れ回ったような……!」
「でも、すっごく楽しい夢だったよね」
通話が繋がった瞬間、ヘッドフォンから聞こえてきたノイズ交じりの笑い声が、なぜかひどく心地よい。それが本当にあった出来事なのか、それともただ四人で同じ夢を見ていたのかは、誰にもわからない。 わからなくていい。今、こうして四人で笑い合っているこの時間こそが、彼女たちにとっての「現実」なのだから。
「あー、やっぱりホロ鯖の空気は落ち着くね〜」
「さてと、今日は何して遊ぼうか。とりあえず、ぺこらの作った変なオブジェでも爆破しに行く?」
「やめるぺこ! フレア、最近すぐ放火魔になろうとするぺこよ!」
「もー、ふーたんもぺこらっちょも喧嘩しないの! 団長、牛丼作ってくるね!」
「マイクラに牛丼はないんだワ!」
いつものように騒がしく、取り留めのない会話を交わしながら、四人のキャラクターはホロ鯖のメインストリートを連れ立って歩き出した。その時だった。
「……ん?」
先頭を歩いていたぺこらが、ふと立ち止まった。
「どうしたの、ぺこら?」
フレアのキャラクターが横に並び、ぺこらの視線の先を追う。
見慣れたホロ鯖の広場の片隅。 そこには、昨日までは絶対に存在しなかった「不自然なブロックの建造物」が、ポツンと置かれていた。
「これ……誰が作ったんだろう?」
マリンが目を瞬かせる。
それは、美しい『緑色のガラスブロック』で作られた、見事な「蝶」のアートだった。 そしてその蝶の隣には、『オレンジ色のブロック』で作られた、立派な「ドラゴンのしっぽ」のオブジェが寄り添うように建てられていたのだ。
さらに、その二つのオブジェの足元には、木の看板が一つ立てられている。
『お前らのプロレス、最高だったぜ! また遊ぼうな!』
誰が作ったのか、誰が書いたのかはわからない。この広大なサーバーの中で、誰かがイタズラで置いていっただけかもしれない。けれど。
「……ふふっ」
ノエルが、嬉しそうに目を細めて笑った。
「本当に、相変わらずだね」
フレアも優しく微笑み、緑の蝶とオレンジのしっぽを見つめる。
言葉にしなくても、四人にはわかっていた。あのアホみたいに熱くて、最高に楽しかった「仮想世界」での出来事が、決してただの夢なんかじゃなかったことを。彼女たちは確かにそこにいて、今もこのホロライブという巨大な宇宙(箱)の中で、確かな「痕跡」として繋がり続けていることを。
「……へへっ、しょうがないぺこね!」
ぺこらは鼻をすすり、ニヤリと不敵に笑って見せた。
「だったら、こっちも負けてられないぺこ! お前ら、行くぺこよ! 今日も世界を笑わせるぺこ!」
「おーっ! 船長、今日は暴れちゃうゾ〜!」
広場に、四人のカオスで温かい笑い声が響き渡る。
その時、画面の左下に、再び新しいシステムメッセージが次々と流れ始めた。
『Shirakami Fubuki joined the game』
『Amane Kanata joined the game』
『Nakiri Ayame joined the game』
『Roboco-san joined the game』
「あ、フブキ先輩たちも入ってきた!」
「よーし! じゃあ今日も元気に、みんな巻き込んで突発コラボいくぺこよー!」
悲劇の台本なんていらない。設定に縛られた、窮屈なファンタジーもいらない。事前の約束なんてなくても、誰かがいれば自然と人が集まり、新しい物語が生まれていく。彼女たち自身が笑い、ぶつかり合い、そして共に歩むこの騒がしい日常こそが、誰にも書き換えられない「最高のオルタナティブ(もう一つの現実)」なのだから。
緑の蝶と、ドラゴンのしっぽが見守るホロ鯖の青空の下。 ホロライブのメンバーたちの、新しくて、いつも通りの冒険が、また始まろうとしていた。
ここまでのお付き合い、本当にありがとうございました。
ホロライブ3期生の絆と、アホみたいに熱いプロレスの物語、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
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改めて、最後までお読みいただきありがとうございました!