とある3期生のオルタナティブ~ウサギとエルフと騎士と船長~   作:ジョウジ

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番外6話:死霊使いの覚悟と、先輩たちの優しさ

太陽の光すら届かない、鬱蒼とした黒い森の最深部。

 

死霊使い(ネクロマンサー)の少女――潤羽るしあは、無数の骸骨の騎士(スケルトン)たちに囲まれながら、冷たい玉座の上でただ静かに目を閉じていた。

 

公式年齢、およそ一千六百歳。

 

魔界の住人である彼女もまた、この世界のバグにより、途方もない大昔にスポーンさせられていた。そして、記憶を取り戻した彼女は、自分の置かれた『残酷な真実』をいち早く悟り、この黒い森の奥深くに引きこもっていたのだ。

 

(……私はもう、あっち(現実)には帰れないデータなんだから)

 

現実世界における「潤羽るしあ」というVTuberは、すでにホロライブの表舞台から去っている。

 

だからこそ、大好きな3期生の同期たちがこの世界にスポーンしてきても、自分から会いに行くことはできない。もし再会してしまえば、いずれ必ず訪れる「永遠の別れ」の時に、彼女たちを深く悲しませてしまうからだ。

 

だから、ここで一人で消える。

 

それが、るしあが選んだ優しくて悲しい選択だった。

 

しかし。

 

そんな彼女の孤独な聖域に、三つの影が足を踏み入れた。

 

「るしあちゃん」

 

「フブキ先輩……、ミオ先輩、あやめ先輩……」

 

玉座からゆっくりと立ち上がるるしあの前に現れたのは、悲痛な覚悟を瞳に宿した和風組の三人だった。

 

フブキたちは、世界の崩壊が迫っていること、そして、後輩たちを現実に帰すためには「次元の壁を壊すための、魂からの本気の感情(殺意や絶望)」が必要であることを、るしあに告げた。

 

「……なるほど。誰かが、あの子たちから本気で憎まれる『悪役』にならなきゃいけないんですね」

 

るしあは、一切の動揺を見せずに静かに頷いた。

 

そして、冷気と共に自らの杖を強く握りしめる。

 

「だったら、私がやります」

 

「るしあちゃん……?」

 

「私が、あの子たちを本気で絶望させる『壁』になります。私がすでに帰れないデータであるという残酷な現実を突きつけて……『私を殺して生き残れ』と本気で攻撃すれば、あのバカたちはきっと、限界まで感情を爆発させるはずだから」

 

るしあは、同期たちの優しさを誰よりも知っている。

 

だからこそ、自分が「置いていけ」と言えば、3期生は『ふざけるな、絶対に連れて帰る!』と本気で怒り、泣き叫び、壁を壊すほどの強大なエネルギー(魔法や物理の衝突)を生み出してくれると計算したのだ。

 

それは、同期である自分だからこそ引き出せる「極限の感情の衝突」だった。

 

自分の命(データ)を盾にして、大好きな同期たちを現実に叩き返す。るしあの声には、一切の迷いがなかった。

 

しかし。

 

「――ダメだよ、るしあちゃん」

 

フブキが、泣きそうな顔でるしあの言葉を遮った。

 

「もしそれで壁が壊せて、あの子たちが現実に帰れたとしても……あの子たちは一生、『るしあちゃんを置いてきた』、あるいは『自分たちの手でるしあちゃんを壊した』っていうトラウマを抱えて現実を生きていくことになるんだよ」

 

「っ……」

 

「そんな地獄、あの子たちに背負わせられない。……同期同士で殺し合わせるような悲劇は、絶対にダメだよ」

 

フブキの痛切な言葉に、るしあの肩が震えた。

 

「私たちがやるんよ」

 

フブキの隣で、あやめが一歩前に出た。

 

「余たちが、絶対に越えられない悪役になる。……後輩どもを泣かせる泥被りは、先輩である余たちの役目だ」

 

「あやめちゃん……」

 

「るしあちゃんは、この黒い森の最深部で結界を張って、姿を隠していてほしいの」

 

ミオが、るしあの両手を優しく包み込んだ。

 

「私たちが、あの子たちの心を鬼にして折るから。……るしあちゃんは、あの子たちと戦わないで」

 

それは、後輩を想う先輩たちの、あまりにも不器用で、深すぎる「優しさ」だった。

 

現実(あっち)に帰れないるしあに、せめて最後くらい、大好きな同期と傷つけ合うような悲劇を味あわせたくない。そんな先輩たちの血を吐くような思いやりに触れ、るしあの目から、張り詰めていた糸が切れたように大粒の涙がこぼれ落ちた。

 

「……うぅっ、先輩……っ」

 

るしあは、ミオの胸に顔を埋め、子どものように声を上げて泣いた。

 

本当は、誰よりも3期生に会いたかった。ノエルに抱きついて、フレアに甘えて、マリンと口喧嘩をして、ぺこらと笑い合いたかった。

 

その叶わぬ願いを押し殺し、悪役になろうとした彼女の心を、先輩たちの優しさが溶かしてくれたのだ。

 

「わかり、ました……。私は、ここで……結界を張って、待ってます」

 

「うん。任せておいて」

 

フブキは、るしあの頭を優しく撫でた。

 

こうして、るしあは黒い森の奥で姿を隠し、フブキ・ミオ・あやめの三人が、千本鳥居の防衛線(本編第10話)に立つことになったのだ。

 

しかし。

 

泣きじゃくりながらも、るしあの心の奥底には、冷たく研ぎ澄まされたもう一つの『覚悟』が残っていた。

 

(フブキ先輩たちは、優しすぎる。……もし、あのバカたち(3期生)が先輩たちに勝てなかったら。先輩たちが、悪役を演じきれなかったら……)

 

その時は、自分が同期の前に立ち塞がる。

 

先輩たちの優しさを無駄にしないために。そして、大好きな同期たちを絶対に現実に帰すために。

 

死霊使いの少女は、黒い森の闇の中で、静かにその時を待ち続けていた。

 

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