とある3期生のオルタナティブ~ウサギとエルフと騎士と船長~   作:ジョウジ

24 / 27
番外8話:エンターテイナーたちの反逆

黒い森を支配する、重く冷たい静寂。

 

るしあの放った冷酷な宣告が響き渡り、ノエルたちは武器を落としたまま、ただ涙を流してうずくまっていた。

 

「……やりなさい」

 

るしあが、感情を押し殺した震える声で急かす。

 

(お願い。立ち上がってよ……!)

 

誰も動かない。動けるはずがない。

 

完全な詰み。悲劇的で、あまりにも美しい自己犠牲のシナリオが、ついに完遂されようとしていた。

 

――しかし。

 

「……っ、ふ、くくっ……」

 

不意に、うずくまっていた四人の中から、くぐもった笑い声が漏れた。

 

兎田ぺこらは、両手で顔を覆いながら、肩を小刻みに震わせていた。

 

「あーっはっはっはっは! ぺーこぺこぺこぺこ!」

 

黒い森の張り詰めたシリアスな空気を木端微塵に粉砕する、腹の底からの大爆笑。

 

ぺこらは顔を上げ、涙と鼻水を袖で乱暴に拭いながら、立ち上がった。

 

「あー、お腹痛いぺこ! なんなのこの空気! 悲劇のヒロイン? 美しい自己犠牲? ……笑わせるんじゃねえぺこ!」

 

ぺこらは腰に手を当て、ぐるりとフブキたるしあたちを指差した。

 

「あんたたち、自分たちが何者か忘れたぺこか!? 私たちはホロライブぺこよ! 綺麗なお涙頂戴の台本(ファンタジー)なんか、似合うわけないじゃんか!!」

 

その言葉が響いた瞬間。

 

結界の入り口で、フブキとミオの目が見開かれた。

 

るしあの肩も、ビクッと跳ねる。

 

「な、なにを言ってるの……! ふざけてる場合じゃ――」

 

「ふざけて何が悪いぺこか!!」

 

ぺこらの怒声が、黒い森にビリビリと響き渡る。

 

「本気の感情をぶつけないと、この世界の壁は壊せない? だから本気で憎ませようとした? ……バカじゃないの!? 感情なんて、悲しみや憎しみだけじゃないぺこ!!」

 

ぺこらの言葉に、地面にへたり込んでいたノエルとマリンが、ハッと顔を上げた。

 

フレアもまた、目を丸くして目の前のウサギの背中を見つめている。

 

「百年待たされてわかったぺこ。この世界は綺麗すぎる。設定に忠実すぎるぺこ。だから……退屈なんだよ」

 

ぺこらは不敵に笑い、インベントリから大量の『TNTブロック』を取り出し、両手に構えた。

 

「システムが悲劇を望むなら、そんなルール(台本)、ぺこらたちがぶち壊してやるぺこ! お前らを殺して帰るくらいなら、全員巻き込んで大爆笑しながら死んでやるぺこよ!!」

 

その破天荒すぎる宣言に、ココが呆れたように低く唸った。

 

「……おいおい、正気かよ先輩。ただの『プロレス』じゃシステムは騙せねえって、フブキ先輩が言ったばかりだろ?」

 

「プロレスが『偽物』なんて、誰が決めたんだワ!」

 

マリンが立ち上がり、ドヤ顔で言い放つ。

 

「船長たちはエンターテイナーだゾ! 本気のプロレス(おふざけ)で、本気の熱狂(感情)を生み出して、システムの計算なんかオーバーフローさせてやるんだワ!!」

 

「……マリンちゃんの言う通りだね」

 

ノエルが、落としていた巨大なメイスをガシッと拾い上げた。その瞳からは悲哀の涙が消え、いつもの「脳筋騎士」の闘志が燃え上がっている。

 

「るしあちゃん。ココ会長、かなたちゃん、先輩たち。団長、悲しいのは嫌い! だから……力ずくで、全員一緒に笑って帰るよ!!」

 

最後に、フレアがエルフの長弓を構え、その先端に極大の炎を灯した。

 

「そういうこと。私たちに設定通りのシリアスなファンタジーを押し付けようったって、そうはいかない。……見せてやるよ。これが、私たちの現実(オルタナティブ)だ!!」

 

四人の眼差しに、もう迷いはなかった。

 

絶望の淵に沈んでいたはずの3期生たちは、悲劇のシナリオを真っ向から否定し、最高にカオスで熱い「反逆の狼煙」を上げた。

 

その光景を見た瞬間――防衛側のメンバーたちの間で、限界まで張り詰めていた緊張の糸が、プツン、と音を立てて切れた。

 

「……あはっ」

 

あやめが、双剣を構えたまま、思わず吹き出したように笑いをこぼす。

 

「なるほどな。……やはり、余たちの可愛い後輩は、こうでなくてはな!」

 

フブキも、ミオも。

 

そして何より、冷酷な死霊使いを演じきろうとしていたるしあ自身が顔を覆い、ポロポロと涙をこぼしながら、心底からの安堵と呆れが入り混じった笑顔を浮かべていた。

 

(……勝てないなぁ、本当に)

 

るしあは、「ふふっ」と声を漏らしながら、泣き笑いの顔で杖を構え直した。

 

(お涙頂戴の台本なんて、あのバカたちには最初から通用しなかったんだ)

 

「……しょうがないぺこね! 先輩たちもるしあも、かかってこいぺこぉぉぉ!!」

 

ぺこらの咆哮と共に、黒い森を揺るがす前代未聞の「本気のプロレス(大乱闘)」が幕を開けた。

 

そこからは、まさにカオスだった。

 

マリンが空から巨大な海賊船を降臨させ、「78歳フォーム」に変身してシステムの処理能力をバグらせる。ぺこらが無差別にTNTをばら撒き、フレアが森を丸焼けにする。

 

悲劇の別れを、アドリブ全開のギャグとプロレスで強引に上書きしていく3期生たち。

 

先輩たちも、もう迷うことはなかった。

 

手加減はしない。全力で彼女たちの「悪ふざけ(エンタメ)」に乗っかり、笑いながら最大の魔法と技をぶつけ合う。

 

誰も死なない。誰も泣かない。

 

ただ、互いの存在を全身でぶつけ合い、笑い合いながら、システムの壁をぶち破るためのエネルギーを無限に増幅させていく。

 

「あははははっ! もっと、もっと熱くするぺこよー!!」

 

そして。

 

ロボ子さんや、海外勢(アベンジャーズ)の乱入という最高のフィナーレを経て。

 

ついに、次元の壁(システムのエラー画面)が木端微塵に砕け散った。

 

真っ白な光が収まり、目が痛くなるほどに澄み渡った、美しい「夜明けの青(Dawn Blue)」が空に広がる。

 

「……やった、やったぺこ! ついに壊したぺこよ!」

 

歓喜の声が上がる中、るしあとココの体が、足元から淡い光の粒子(データ)となって、ふわりふわりと空へ溶け始めていた。

 

それは、システムによって強制された「消滅(デリート)」ではなかった。悲劇の台本を自らの手で書き換え、役割を全うした彼女たち自身の、最高に晴れやかな「卒業」だった。

 

「あばよ、クソガキども! お前らの本気、最高に面白かったぜ!」

 

「本当に、最高のプロレスだったよ。……またね、みんな!」

 

光に溶けて完全に消えていく二人を、全員が笑顔で手を振って見送る。

 

そして、るしあたちを見送った後。

 

3期生だけでなく、フブキ、ミオ、あやめたちの身体もまた、温かい光に包まれ始めた。

 

「……どうやら、ウチらも帰る時間みたいだね」

 

光になっていく自分の手を見つめながら、ミオが優しく微笑む。

 

「うん。悪役としては大失敗だったけど……」

 

フブキは、照れくさそうに狐の耳を揺らしながら、最高に清々しい笑顔で言った。

 

「やっぱり、ホロライブはこうでなくちゃね!」

 

「あっちに帰ったら、またみんなで遊ぶぞ!」

 

あやめの無邪気な声と共に、彼女たちの意識もまた、現実の世界へと引き戻されていった。

 

――そして、現実世界。

 

「あーっ、疲れたんよー!」

 

いつもの見慣れた自室のPCの前で、白上フブキはゲーミングチェアに深く背中を預けながら、大きく伸びをした。

 

頭の中に残っている、最高に熱くて、最高に笑えた『プロレス』の余韻。

 

フブキは無意識にマウスを握り、『Minecraft』のホロライブサーバーへとログインする。

 

四角い世界に降り立ち、フブキは何気なくキーボードの『Tabキー』を押し込んだ。

 

画面上部に表示されたプレイヤーリスト。そこに、自分より少し前にログインしていた四人の名前(3期生)が並んでいるのを見つけ、フブキはくすりと笑った。

 

すぐに通話アプリ(Discord)を立ち上げ、いつものように、賑やかな声が飛び交うチャンネルへと飛び込んでいく。

 

「やっほー! みんな、今日も元気に遊ぶんよー!」

 

悲劇の台本なんていらない。

 

誰かが犠牲になる必要もない。

 

彼女たち自身が笑い、ぶつかり合い、共に歩むこの騒がしい日常こそが、誰にも書き換えられない「最高の現実」なのだから。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。