とある3期生のオルタナティブ~ウサギとエルフと騎士と船長~ 作:ジョウジ
一方その頃
鬱蒼とした黒い森で、3期生と防衛組の先輩たちによる、世界の存亡を懸けた絶望とプロレスの死闘が繰り広げられていた頃。
そこから遥か遠く離れた、のどかな平原では。
「すいちゃーん! 見て! ウチの集めた木材で作った、超絶エリートな拠点が完成したにぇ!」
「あはは、何このダサい小屋。隙間風すごいじゃん。……ちょっと流星(メテオ)落としてみていい?」
「やめろ!? なんで杖構えてガチの詠唱始めてるの!? 絶ッ対フリじゃないからね!」
さくらみこと星街すいせいは、せっかく剣と魔法の異世界にスポーンしたというのに、いつものゲーム配信とまったく同じ、情け容赦ないバチバチのプロレス(主にすいせいによる恐喝)を繰り広げていた。
彼女たちもまた、他のメンバーと同様にこの世界にスポーンし、記憶を取り戻した存在である。
しかし、二人のスポーン地点はたまたま近く、合流も早かった。そして何より、争いごとや世界の真実などには一切首を突っ込まず、「二人だけの秘密基地を作って(そして壊して)遊ぶ」という、完全なる『蚊帳の外』のルートを辿っていたのである。
ドズゥゥゥン……ッ!!
不意に、遠くの空から腹の底に響くような爆発音が轟いた。
見上げれば、世界の限界(オーバーフロー)を告げる真っ赤なエラーの空が広がり、遠くの森(黒い森)の方角からは、天を衝くような巨大な黒煙が上がっている。
「ぎゃあああ!? な、何!? なんか遠くでめっちゃヤバい爆発音しなかった!?」
みこは自分の作った小屋の後ろに隠れながら、パニックになって叫んだ。
「あー……」
すいせいは、赤い空と黒煙をチラリと一瞥し、まったく興味なさそうに視線を戻した。
「ぺこらあたりが、また変な大魔法でも暴発させたんじゃない? それよりみこち、持ってるレア魔石全部ちょうだい。出さないならこの家、今すぐ更地にするから」
「いや絶対ぺこらの魔法のレベルじゃなかったって!! 世界の終わりみたいな音してたじゃん!! ……ってなんでこの状況でカツアゲしようとしてんのすいちゃん!?」
「いいから早く出しなよー。3、2、1……」
「あーっ! わかった、わかったから! 渡すから撃たないでぇ!」
遥か彼方で同期や後輩たちが血を吐くような思いで戦っているというのに、この平原だけは、異常なまでの通常運転(みこめっと空間)に包まれていた。
――そして、数分後。
ついに3期生たちが次元の壁を破壊し、世界が眩い光に包まれた。
真っ赤だった空が砕け散り、美しい『夜明けの青(Dawn Blue)』が広がる。
同時に、みことすいせいの身体も、足元から淡い光の粒子となって空へ溶け始めていた。
「えっ!? にぇ!? すいちゃん、なんかウチら光り始めたんだけど!?」
「えー、何これ。せっかくみこちからアイテム巻き上げるところだったのに。……誰? いきなりサーバー落としたの」
すいせいは、消えゆく自分の手を見つめながら、心底不満そうにため息をついた。
世界の真実も、誰かの自己犠牲も、悲劇の台本も。
何一つ知らないまま、ただ理不尽に恐喝ごっこを中断されただけの二人。
「ちくしょう、ウチのエリートハウスがぁぁ……!」
「まあいっか。……みこち、あっち(現実)に帰ったらさっきの魔石の分、なんか奢ってよね」
「理不尽すぎるだろ!!」
二人は空に溶けていく中、最後までいつも通りにギャーギャーと騒ぎながら、現実世界へと帰還していった。
***
――そして、現実世界。
いつものDiscord(通話アプリ)のホロライブサーバー。
大広間のボイスチャンネルには、先ほどホロアースから生還したばかりのメンバーたちが集まっていた。
『本当に……みんな、一緒に帰ってこれてよかったんよ……っ』
『……フブキ先輩。ウチら、先輩たちのこと絶対に置いていったりしないぺこよ』
『ノエル、ずっと怖かったんだからね……っ。るしあちゃんも、会長も……笑顔で、見送れて本当によかった……』
誰もが死を覚悟し、そして奇跡的に生還した、かけがえのない絆。
あの世界で再会できた卒業生たちへの感謝。
世界で一番優しくて、温かい安堵の余韻が、チャンネル全体を包み込んでいた。
――ポロロン♪
その時、通話チャンネルに二つのアイコンが入室してきた。
みこと、すいせいだった。
『ちょっとおおおお!! 誰!? いきなりサーバー落としたの!!』
入室するなり、みこの鼓膜を破るような大声が響き渡った。
『すいちゃんがウチの家を魔法で消し飛ばそうとしてて、必死に抵抗してるところだったのに!!』
『そうだよー。せっかくみこちからレア素材カツアゲしようとしてたのに、マジで最悪ー。空気読んでよねー』
怒り心頭といった様子の、みこめっとの二人。
『…………』
『…………え?』
エモい余韻に浸っていたフブキたちの間で、時間がピタリと止まる。
悲劇の別れ? 涙の死闘? 何それ美味しいの? と言わんばかりの、完全な『蚊帳の外』からのクレーム。
『……あんたたち、今までどこで何してたぺこか?』
ぺこらが、感動の空気をスッと引っ込めて、地を這うような低い声で尋ねた。
『何って、二人で拠点作ってアイテムの奪い合いしてたけど?』
『すいちゃんに身ぐるみ剥がされそうになってたにぇ! そっちこそ何かやってたの? 遠くでぺこらが爆破テロやってる音は聞こえたけど』
悪びれもせず言い放つ二人に、通話チャンネルに数秒の沈黙が落ちた後――。
『ふ、ふざけるなぁぁぁぁっ!! こっちはみんなで血みどろの死闘(プロレス)やってたぺこよ!! なんであんたたちだけいつも通りのサバイバル生活やってんのさ!!』
『ずるいんだワ!! 船長なんて、17歳だって言っただけで特大のエラー起こして、さっきロボ子先輩から本気でお説教されたんだゾ!?』
『ほんとだよー。ボク、あの時システムが崩壊するかと思って、本気で焦ったんだからね』
通話の隅で、ロボ子さんが呆れたように笑いながら同意する。
『いや待って!? マリンのせいだったの!? どゆこと!?』
先ほどまでの感動的な空気は木端微塵に吹き飛び、いつものギャーギャーと騒がしい、ホロライブの日常が戻ってきた。
「……あははっ」
通話の片隅で、フブキが思わず吹き出す。
続いてミオが笑い、あやめが笑い、全員の明るい笑い声が重なっていく。
誰も置いていかない。誰も犠牲にならない。
この最高に騒がしくて、ポンコツで、優しさに満ちた仲間たち(現実)が、ウチらはやっぱり大好きなんよ。
フブキは、ヘッドセットの奥から聞こえる賑やかな口論を聞きながら、心からの笑顔で呟いた。
「さあみんな、今日も元気に遊ぶんよー!」