とある3期生のオルタナティブ~ウサギとエルフと騎士と船長~ 作:ジョウジ
「東の国」の辺境。 酒場で耳にした「牛丼を貪る銀髪の騎士」の噂を頼りに、フレアとぺこらは見晴らしの良い崖の上から、眼下の街道を歩く二人の少女を観察していた。
「間違いないぺこ。あのアホ毛と、やたらデカい胸……ノエルと船長ぺこ!」
ぺこらが手製の双眼鏡(のような竹筒)を覗き込みながら、ピョンピョンと飛び跳ねて興奮気味に声を上げる。
その視線の先には、身の丈ほどの巨大なメイスを背負いながら、なぜか歩きながら牛丼をかきこんでいる銀髪の見習い騎士――白銀ノエルと、海賊風のコートを着ているものの、すでに息を切らしてヘロヘロになっている赤髪の少女――宝鐘マリンの姿があった。 遠目から見ても、二人ともまだ少しあどけなさが残っているように見える。
『もう歩けない〜! 団長、ちょっと休むべ〜!』
『えー? マリンちゃん、まだ街を出発して十分しか経ってないよ? もっと体力つけないと、立派な海賊になれないよ?』
『うるさい! 船長はまだ十六歳のピチピチ乙女だから、無理しちゃダメな時期なの!』
崖の上で、風に乗って微かに聞こえてくるその会話に、フレアは思わず天を仰いだ。
(……十六歳? ってことは、ノエルも十七歳くらいか。やっぱり、まだ覚醒する年齢に達してないんだ。それにしても……全然変わってない。あいつら、記憶がないはずなのに、やってることがいつものホロライブそのまんまじゃないか……!)
感動よりも先に、激しいツッコミの衝動がフレアの胸を駆け抜けた。記憶がなくても、魂の根幹まではこの世界も書き換えられなかったらしい。
「フレア、大変ぺこ! あいつらの進行方向に、オークの群れが待ち伏せしてるぺこ!」
ぺこらの指差す先、街道の茂みには、凶悪な武器を持った豚頭の魔物たちが十数匹、今まさにノエルたちに飛びかかろうとヨダレを垂らしていた。
「えっ、ちょっと待って! 今のあいつらのレベルじゃ危な――」
フレアが慌てて弓を構えようとした瞬間、ぺこらはすでにインベントリから大量の赤い火薬(TNT)を取り出し、邪悪な笑みを浮かべていた。
「フハハハ! 愚かな魔物どもめ! ぺこらの大事な同期たちに手を出そうとした罪、万死に値するぺこ!」
ぺこらが崖の上からTNTブロックを容赦なく蹴り落とす。 ブロックは美しい放物線を描き、オークの群れのど真ん中にポスッと着地した。
――ドゴォォォォォォォンッ!!!
のどかな街道に、天まで届くような大爆発とキノコ雲が巻き起こった。 凄まじい爆風が吹き荒れ、待ち伏せしていた魔物たちは悲鳴を上げる間もなく、一瞬にして光の彼方へ(文字通り)消し飛んでいく。
眼下の街道では、突如として目の前で起きた大爆発に、ノエルとマリンが腰を抜かしてへたり込んでいた。
『ひぃっ!? な、なんだ!? 今、魔物が勝手に爆発したぞ!?』
『だ、団長のマッスルパワーが空間を歪めたんじゃないのぉ!? 怖いよぉ!』
(……やりすぎだ、バカウサギ……!!)
フレアは顔を引きつらせながら、隣で「ぺーこぺこぺこ!」と腹を抱えて高笑いしているウサギの耳を思い切り引っ張った。
「痛いぺこ! なにするぺこかフレア!」
「過保護すぎるんだよ! あんなの、あいつらからしたらただの天災(テロ)じゃないか!」
「しょうがないぺこよ! あいつらが覚醒するまで、傷一つつけさせるわけにはいかないぺこ!」
かくして、長寿組二人による、仲間に近づく魔物を物理と爆薬で粉砕し続ける「過保護すぎるストーキングの旅」が幕を開けた。 ノエルが十八歳、マリンが十七歳になり、本来の記憶を取り戻すその日まで、あと少し。