とある3期生のオルタナティブ~ウサギとエルフと騎士と船長~ 作:ジョウジ
夕暮れの荒野。 白銀ノエルは息を切らしながら、身の丈ほどある巨大なメイスを両手で構えていた。 背後には、足をくじいてへたり込んでいる宝鐘マリン。そして周囲を取り囲んでいるのは、獰猛な四つ目のウルフの群れだ。
(崖の上では、フレアとぺこらがポップコーンをかじるような気楽さで見下ろしながら、いつでもTNTを落とせるよう準備している)
ウルフたちが低い唸り声を上げ、ジリジリと距離を詰めてくる。 ノエルは騎士としての強い使命感に燃えていた。
『私が、マリンを守らなきゃ……! だって今日で、私も立派な十八歳の騎士になったんだから!』
ウルフの一匹が、鋭い牙を剥いて飛びかかってきた。ノエルが渾身の力でメイスを振り上げようとした、まさにその瞬間だった。
――バチッ!!
脳裏に、強烈な雷が落ちた。 視界が白く染まり、無数の記憶が滝のように流れ込んでくる。
『団長さぁ〜、また脳筋プレイして〜!』
『えへへ、だって細かいギミックわかんないし! 物理で殴れば解決するじゃん! 牛丼うまっ!』
ホロライブ3期生。白銀ノエル。 己の魂の在り方を思い出した瞬間、ノエルの瞳から「悲壮な騎士の覚悟」がスッと消え失せた。
「……あれ?」
ノエルは構えていた重いメイスを、ゴトリと地面に落とした。
『だ、団長!? 何やってるの!? 武器捨てちゃダメなやつだワ!』
背後でマリンが悲鳴を上げる中、ノエルは飛びかかってきた巨大なウルフの顔面に向かって、無造作に右ストレート(素手)を放った。
――ドゴォォォォン!!
空気を切り裂くような破裂音と共に、ウルフははるか彼方の空へと飛んでいき、キラリと星になった。 それを見た残りの魔物たちは「あ、これヤバい奴だ」と本能で察し、蜘蛛の子を散らすようにドン引きして逃げ出していく。
「あー、疲れた! なんで団長、こんな重いメイスなんて背負って歩いてたんだろ。もう歩きたくなーい! 誰か牛丼持ってきてー!」
立派な騎士は完全に消え去り、そこにはいつもの「ぽんこつで脳筋な団長」がいた。崖の上から、我慢しきれなくなった大笑いが降ってくる。
「フハハハ! 武器捨てるなぺこ! 相変わらずの脳筋ゴリラぺこ!」
「ほんと、アホらしくて最高だね」
崖からひらりと飛び降りてきたエルフとウサギを見て、ノエルは目を丸くした。そして、一瞬で顔をくしゃくしゃにして泣き出した。
「ふーたん!! ぺこらっちょ!!」
猛ダッシュで突っ込んできたノエルが、フレアの胸に思い切りダイブする。
「ぐぇっ!? ちょっ、ノエル、重……STR高すぎ!」
「うわあああん! ふーたん! 団長、ずっと真面目な騎士やってて肩凝ったよおおお!」
(……よかった。本当に、いつものノエルだ)
フレアは肋骨が軋む痛みに耐えながらも、泣きじゃくる相方の背中を愛おしそうに強く抱きしめ返した。
「おっせーぺこよ団長! ぺこらなんて百年以上も待たされたぺこ!」
「えっ!? 百年!? ぺこらっちょ、お婆ちゃんじゃん!」
「誰がお婆ちゃんぺこか! ぶっ飛ばすぺこよ!」
涙と笑いが入り混じる、騒がしくて温かい再会の時間。 しかし、そんな三人の感動的な空気を、震える声が引き裂いた。
『えっ、なになに!? 誰!? 団長のお友達!? てか、なんでこの人たち、空から降ってきたの!? 怖い!』
まだ十六歳のままのマリンが、地面にへたり込んだまま、オロオロと三人を指差している。
フレアはノエルの背中を撫でながら、目を白黒させている赤髪の少女に優しく微笑んだ。
(あと少しだ。あのうるさい海賊が『十七歳』になるまで)
ファンタジーの掟を物理で粉砕した騎士が加わり、一行の騒がしさはさらに加速していく。