とある3期生のオルタナティブ~ウサギとエルフと騎士と船長~ 作:ジョウジ
――ギュイィィィィン……ドゴォォォォォンッ!!
ロボ子さんの両腕から放たれた極太のプラズマ砲が、ぺこらの展開した水流の盾を一瞬で蒸発させ、分厚い丸石の防壁ごと粉砕した。 凄まじい熱風と爆発が吹き荒れ、四人は地面を転がるようにして回避する。
「あっちぃ!? ぺこらの防壁が紙クズみたいに吹き飛んだぺこ!」
『あうぅぅ……ごめんなさい、痛いよね、熱いよね……! でも、みんなをデリートしなきゃ……!』
上空に浮かぶロボ子さんは、ボロボロと大粒の涙を流して泣きじゃくっている。しかし、その背部のミサイルポッドは次弾の装填を完了し、両腕の重火器はミリ単位の狂いもなく的確にマリンの急所をロックオンしていた。
(……なんて理不尽な戦闘なんだ。こっちを本気で心配しながら、ガチの殺意で殺しにきている……!)
フレアは歯を食いしばりながら、炎の矢を上空へ放つ。しかし、ロボ子さんは青白いブースターを吹かして軽々とそれを回避した。
「ゼェ……ハァ……っ! な、なんで船長ばっかり狙うのぉ!?」
「マリンが諸悪の根源(バグの発生源)だからだよ! ほら、スタミナ切らさないで走る!」
すっかり息が上がり、今にもへたり込みそうになっているマリンの襟首をノエルが掴み、引きずりながらレーザーの雨を躱していく。
「このままじゃジリ貧ぺこ! ロボ子先輩を『壊さずに』止めるしかないぺこ!」
「どうやって!? 接近しようにも、あの弾幕じゃ近づけないよ!」
「ぺこらに任せるぺこ! ――おい、そこのぽんこつロボット!」
ぺこらが大きく両手を振り、空中のロボ子さんに向かって叫んだ。
「こっちを狙うぺこ! ぺこらのニンジン型ミサイルの方が、そのぽんこつ火器より百倍強いぺこよー!」
『ぽんこつじゃないもん……! ボクは、高性能だもん!!』
見事に挑発(ヘイト)に乗ったロボ子さんの銃口が、一斉にぺこらへと向いた。 カシャシャシャッ! と数十発のミサイルがぺこら目掛けて降り注ぐ。
「今ぺこ! 団長!」
「任せて!」
ノエルが渾身の力で地面を蹴り、巨大なメイスで『ぺこらの足元の地面』を思い切りカチ割った。凄まじい衝撃波で地面がトランポリンのように跳ね上がり、その反動を利用してぺこらが遥か上空――ロボ子さんの頭上へとカエル飛びのように跳躍する。
「もらったぺこぉぉぉ!」
『えっ……!?』
ぺこらはインベントリから大量の「スライムブロック」と「クモの巣」を取り出し、ロボ子さんの重火器とブースターに絡みつくように投げつけた。 粘着性の高いブロックと糸が関節部や火器の砲身に詰まり、青白い光がプツンと途絶える。
『あわわわっ!? 推力、低下……墜落しちゃうぅぅぅ!』
「フレア、受け止めるぺこ!」
「わかってる!」
フレアが魔法で風のクッションを作り出し、落下してくるロボ子さんをふんわりと地面に着地(拘束)させた。
「はなして! 離してよぉ! マリンちゃんを排除しないと、世界が壊れちゃうの!」
地面でスライムまみれになりながらも、ロボ子さんは必死に身をよじって抵抗する。 そこへ、ノエルに引きずられてようやく追いついたマリンが、ゼェゼェと息を切らしながらロボ子さんの前に顔を出した。
「だ、だから……違うんだワ……! ぜぇ……」
『マリンちゃん……!』
「船長は、ウイルスなんかじゃない……! ただの『永遠の十七歳』っていう、悲しき持ちネタを……全力でやっただけなの! 世界を壊す気なんてないんだワ!」
マリンの必死の弁明に、ロボ子さんの目がパチクリと瞬きをした。
『持ち……ネタ……?』
ロボ子さんの瞳の奥で、赤いスキャン光が高速で点滅する。
『……エラー要因の、再解析を実行。対象のデータから悪意(ウイルス)は検出されず。事象の原因は……単なる、強すぎる思い込み(ギャグ)によるシステムの論理矛盾……?』
赤いターゲットマーカーが消え、ロボ子さんの瞳にいつもの優しい光が戻った。
『……なんだぁ。本当に、ただのバグだったんだ』
ロボ子さんは急に全身の力を抜き、ぽろぽろと大粒の涙をこぼしながらマリンに抱きついた。
『よかったぁ……! ボク、みんなを殺さなきゃいけないかと思って、すっごく怖かったんだよぉ……!』
「よしよし、怖かったねぇ。船長が悪かったワ……(なんでギャグで殺されかけた船長が慰めてるんだろう)」
ともあれ、誤解は解け、戦闘は無事に終了した。 拘束を解き、四人は焚き火を囲んでロボ子さんとお茶を飲んでいた。
「それにしても、なんであんなに焦ってたの?」
フレアが温かいマグカップを差し出しながら尋ねると、ロボ子さんは少し表情を曇らせた。
「だって、この世界(ホロアース)は、そらちゃんが自分の存在(データ)を削って維持してるから……。あんな致命的なバグが起きたら、そらちゃんが死んじゃうかもしれないって焦っちゃったの」
「そら先輩が、この世界を……!?」
ノエルが驚きで目を丸くする。
(つまり、この世界には明確な『寿命』があるってことか……?)
フレアは顎に手を当て、深刻な事態に思考を巡らせる。しかし、ロボ子さんの口からこぼれた言葉は、さらに重要な事実をはらんでいた。
「それにね、ボクもよくわからないんだけど……フブキちゃんやミオちゃんたちが、何か隠し事をしてるみたいなんだ」
「フブキ先輩たちが?」
「うん。世界中に散らばったみんなを『現実(あっち)』に帰すために、何か特別な計画をコソコソ進めてるみたいなの。でも、ボクには『ロボ子さんは純粋なシステム側だから、関わらないで』って、全然教えてくれなくて……」
その言葉を聞いた瞬間。 長寿組であるぺこらとフレアの背筋に、冷たいものが走った。百年以上前。この世界で孤独にさまよっていた時に出会った、あやめたちの姿。絶対に自分たちだと気づいていたはずなのに、冷たい目で「近づくな」と突き放された、あの記憶。
(……あの時、あやめ先輩が私たちを突き放したのは、ただの冷たさじゃなかった……?)
「それって、もしかして……」
フレアが何かを言いかけた時、ロボ子さんが立ち上がって服の汚れをパンパンと払った。
「あ、ボクはそろそろ世界の修復作業に戻らなきゃ! マリンちゃん、もうあんまり無茶な自己暗示(バグ)は起こしちゃダメだよ?」
「う、うん……肝に銘じるワ……」
「じゃあね! またあとでねー!」
ロボ子さんは明るく手を振り、背中のブースターを吹かして青空の彼方へと飛んでいった。
嵐のように去っていった先輩を見送り、四人の間に重い沈黙が落ちる。
「……なぁ、フレア。さっきのフブキ先輩たちの話……」
「ああ。まだ確証はないけど、嫌な予感がする」
「うーん? 団長、よくわかんなーい! 船長のせいで危なかったけど、とりあえず誤解が解けてよかったね!」
「ちょっと! 団長、なんでそういう時だけ船長を悪者にするワケ!?」
いつも通りにじゃれ合いを始める人間組を横目に、長寿組の二人は密かに視線を交わした。
(フブキ先輩たちの計画。この世界の寿命。そして……絶対に私たちだと分かっていたのに、冷たく突き放されたあの日の記憶)
頭の中で、冷たいパズルのピースが少しずつ嫌な形に組み上がっていく。前を歩くノエルたちの賑やかな笑い声が、今日ばかりはなぜかやけに遠く、儚いもののように感じられた。太陽の光を遮るほどに深く、暗い黒い森。その最深部で待っているはずのネクロマンサーの存在だけが、言い知れぬ不安を抱える彼女たちにとって、縋るべき唯一の「希望」だった。