第三話「幻想郷」
私は今日人生で一番衝撃を受けていた、目の前の女性は信じられないことを淡々とつげる。私は幻想郷という忘れられたモノが集まる幻想郷に飛ばされたらしいこと、彼女の名前は八雲紫といい、そこの管理者をやっており「境界を操る程度の能力」?を持っていること、そしてその能力をもってして、私のキョウキを抑えていること…
信じられない出来後はいろいろと体験したが、まだ慣れていないことを少し恨めしく思うと同時に、まだ壊れていないことに少し安堵する。これをすぐに受け入れられるなんて、正気の沙汰じゃない。
私がキョウキと呼んでいるものは私の罪で、自殺の直接的な自殺の原因、人を狂わせる能力のこと、思い出すだけで体が震える能力のこと…
そんな能力を彼女は簡単に押さえつけたらしいのだ、私が死ぬ覚悟で葬ろうとしたものを。
窓「分かりました…」
私は精一杯そう絞り出した、私は色々な感情が体を動かすのを阻害する。感謝?感激?悲しみ?後悔?それともあっけなかったことによるやりきれなさ?それとも…
言葉で表せる類じゃないことはわかっているけど、どうにかして落ち着かせるために今の自分の考えを把握したかった。
きゅう…と喉の奥で音が鳴る
紫「大丈夫?あなた?尋常じゃなく震えているけど」
窓「いえ、少し時間を…」
紫「ええわかったわ…と、言いたいところだけど今の私には時間がないのよね…」
紫さんが手を横に一閃すると、心がゆっくりと収まって行き、先ほどまで信じられなかったことがすうっと入ってくる。何かされた?
紫「ごめんなさいね、感情と理性の境界、理解と不信の境界を弄ったわ」
思ったより境界を操る程度の能力は融通が利くらしい、夢といい、感情といい。少し怖いと思うが、それよりも今はありがたかった。それと同時にやはり今起こっていることはただ事じゃない事を再認識する。
窓「いえ、取り乱してすいません、まずはお礼を言うべきなのに」
紫「仕方ないわ、いろいろ特殊なのだし、状況も…もちろんあなた自身もね」
窓「特殊ですか…」
紫「まぁ、追々分かってくると思うわ、今伝えなくてはいけないことは2つ。まずは、貴方が幻想郷の住民になったこと」
窓「わたしがですか?どういうことですが?」
紫「ええ、あなたは現実にはじき出されてここにたどり着いた、おそらく外に戻ってもこっちに戻ってくるか、最悪消滅してしまうわ」
窓「ええ!戻れないんですか…というか消滅!?…いえ、未練はもうありませんが」
紫「そう、まぁそうよね、あんな事するくらいですもんね。」
窓「…えっと、二つあるんですよね?」
にやり、と笑う紫さん…。人が悪い、いや人じゃないか…
紫「もう一つは、あなたはこの幻想郷で過ごす上で自分の能力をコントロールしなくてはいけないことよ」
窓「え?使いこなす?もう封印したんじゃ…」
紫「一時的にあなたから出てこられなくしただけよ、あなたの能力はあなたが思っている以上にあなたの存在に癒着しているわ、完全に消し去ることはできないし、できたとしてもあなたの存在ごと封印しなくてはならないわ、あなたは向き合わなくてはいけないの」
また恐怖が頭をもたげて来る、あれにまた向き合う?やっぱり今すぐ死んだほうが楽だろうか?そんな考えが出てくるがすぐに消える。紫さんの能力のおかげだろう。
紫「そんな顔しないの、大丈夫できる限りサポートするわ、今だって大丈夫でしょう?」
窓「っ!?…はい、すいません」
紫「とはいってももうじき冬がくるから私は動けなくのなるのだけどね、でも大丈夫よ、私より適任がいるから」
窓「えっ、どういうことですか?」
また不安になるが、無理やりそれが収まる、心が揺れすぎて気持ちが悪い
紫「これからあなたは能力が安定するまで、ある場所で生活してもらうわ、いつまでかかるかはあなた次第だけど」
窓「はぁ…なるほど…。抑えられる人がゴロゴロいるんですね…」
紫「そんなものよココはね。」
窓「…ははは」
ダメだ、意識が遠のく…
紫「あなたがお世話になるところのことだけど…。あらら、まぁ詳しいことは今言っても頭に入らなそうね…」
あまりに現実感がない、画面の向こうからドラマを見ているようだ。これが夢ではないとわかることは私に対する最大の皮肉だろうか。
紫「今日はこのぐらいにしましょう、しばらく生活してもらう場所は明日連れて行くから今日はここに泊めてもらうといいわ、幽々子にはもう許可とってあるから大丈夫」
紫さんが私の様子を見て、話を切り上げてくれるたことはありがたかった。
幽「もう難しいお話おわったかしら?妖夢がご飯作り終わったから一緒に食べましょ~」
そこに空気を読んだかの用に幽々子さんが入ってくる。幽々子さんの乱入は偶然だと素直に受け入れられないのは私のせいじゃないと思う。外でみていたのかな
縁側で食べた饅頭がまだ胃の中で存在を主張しているが、せっかくなのでいただこう。
幽々子さんの緊張感のない声がありがたかった。
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私は魂魄妖夢、西行寺幽々子様のしがない従者をやっています。種族は半人半霊、特技は剣術、好きなものは幽々子さま、趣味は辻斬り、座右の銘は「切れぬものなどあんまりない!」。そんなわたしが、なぜ今玄関で立ち尽くしているのか?それを説明するには時間が少し必要になります。
私の主人は、その、なんというか食事を多くなさるのです。ええ、量が少々…いやこの際申しますとすごく多いのです…。そして、とても美味しそうに食べるのです。幽々子様の美味しそうに食べる姿を見るととてもしあわ…げふん…失礼しました。今日買い物をして、今両手いっぱい食料を、え?もちろん一日分じゃありません半日分です。表に台車が有りそこに残りは載せています、ええ一回じゃ運び込めませんので。いっぱいいっぱいです、いろんな意味で。
そんなわたしの目の前にあるのは幽々子様のものではない靴が二揃え、一つは紫様のものでしょう、よく遊びに来られるので見覚えがあります。玄関から入らない方ではありますが、ちゃんと靴は玄関にあります、なぜかそこは律儀です。ええ、ちゃんと玄関から入って頂ければ私の心臓に優しいのですが。もうひとつの真っ赤な靴は見たことないですね、珍しいお客様でしょうか?大きさとデザインから推測するに女の子でしょう。
お客様が来ると夕飯の量がどんと増えます。もちろんお客様の食べる分をお出ししなくてはいけないので増えるのですが、問題はそこではありません。むしろそこは誤差の範囲内です。では、なぜお客様がふえて困るのか?それはすぐにわかるでしょう。
私は靴を脱いで、台所へ向かいます。途中ですれ違った霊に残りの食料を持ってくるように指示をし、自分の分を台所に置きました。水を一杯飲み、一息つきます。
覚悟を決めて我主人のもとへ向かいましょう、現実逃避をしていても、幽々子様の胃の空きが増えるだけです。
魂魄妖夢(以下妖夢)「幽々子様、ただいま戻りました」
幽「あら、おかえり妖夢。ご苦労さま、お腹すいたわ」
妖夢「はいただいま、夕餉の準備をします」
幽「その事なのだけど、今日は客人として私たちの他に二人いるわ、ひとりは紫、もう一人は貴方の会ったことないことのない子なのだけど」
妖夢「あったことのない方ですか?珍しいですね」
幽「ええ、また夕食のときにでも紹介するわ、それで…」
っ!?来た
妖夢「は、はい、お客様の分の夕餉はどうしますか?」
幽「準備してちょうだい、私と同じ量で構わないわ」
私と同じ量…
妖夢「あ、あの、やはり量は減らした方が良いのでは?」
幽「妖夢…」
妖夢「ひゃ、ひゃい!」
幽「あなたがもし客人として招かれた際、主人と料理の量に差があったら気分はいいかしら?」
妖夢「えっと、い、いえ、あまりいい気はしません」
幽「そうよね、普通はそう思うわよね…あなたは、そんな厚顔無恥な主人に私になれっていうのかしら?」
妖夢「申し訳ありません、すぐにご用意いたします」
幽「ふふ、わかればいいわ、余るようなら私が何とかするから気にしないで作りなさい」
妖夢「承知しました」
やはりこうなってしまいましたか、やはり。もちろん幽々子様の量を減らすという選択肢もないのでしょう。まぁ玄関で覚悟は済ませてきています。三倍頑張ればいいだけです。
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その後、私が自分の担当のすべての料理を作った時には、厨房は死屍累々でした。いや、確かに死人しかいないのですが…。私の半霊もぐったりしています。あとは簡単な料理と盛り付け、運び込みだけなので担当の霊に任せます。
妖夢「失礼します」
そう言い私は席へと付きました。
紫「妖夢お疲れ様、この量は大変だったでしょう」
紫様は机の上の料理と私を交互に見てそうおっしゃいました。
妖夢「い、いえ、慣れていますから」
この前、瀟洒な笑みを絶やさないことは大切だと教わったので実践してみようと思いますが、引きつっていることが自分でもわかります。
幽「ふふ、ありがとね、妖夢、ああそういえばまだ紹介してなかったわね、あそこにいるのが今日来ているもうひとりのお客さんよ」
机の向こう側で大量の料理の前でうちひしがれている少女があわててこちらを見ます。
妖夢「はじめまして、魂魄妖夢といいます」
窓「えっあなたが妖夢さんですかぁ!?…あう…すいません私は窓付きといいます」
なんであんなに驚かれているのでしょうか…おそらく幽々子様のお戯れでしょうが…
多分、いじら…真面目な性格なのでしょう、後で料理は全部食べなくてもいいことを教えてあげなくてはいけないみたいですね…
妖夢「はい、よろしくお願いしますね」
その後、幽々子様は宴会の様相を呈してきた夕餉で、紫様と随分お飲みになられたようで、窓付き様をお二人でもみくちゃにしたあと、月見酒と称して紫様を庭へと引きずって行かれました。おそらく冬が近く、紫様としばらくお会いできないのが原因でしょう、お別れの前くらいにぎやかな方がいいのでしょう。にしても、窓付き様にとっては天災に近いでしょうが…
妖夢「だ、大丈夫でしょうか?」
窓「う~…はい、なんとか…お酒って怖いですね…」
窓付き様は元々細くしてらっしゃる目を一層細くしてそうおっしゃります。見た感じ私より幼い印象を受けますが…幻想郷では見た目年齢の数百倍生きている方も大勢いますから安心はできません
妖夢「今日は幽々子様も一段と飲まれていましたからね、少し休まれていてくださいすぐに湯浴みのご用意をいたしますから」
窓「あっ…そこまで気にしていただくても…、わ、私にお手伝いできることはないでしょうか?」
窓付き様は真っ直ぐにこちらを見たあとに、すぐに視線を床に落とされました。このように気を遣ってくださる方は久しぶりです。私が感動に打ち震えていると、窓付き様は随分慌てて慌てた様子でこちらを見ていました。
窓「あわ…やっぱり、段取りとかありますよね…余計なことを言ってすみません」
妖夢「いえいえ、お気遣いありがとうございます、でも大丈夫ですよ、窓付き様は大切なお客様ですから。ゆっくりお待ちになっていてください」
窓「うぅ…すいません…でも、あ、あの様付はやめてもらっても構わないでしょうか?」
申し訳なさそうにおっしゃる彼女の頼みを断れるはずもなく、かしこまりましたとだけ言って、夕餉の片付けをはじめるのでした。
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準備を一通り終え居間で幽々子様の帰りを待っていると窓付きさんが湯浴みから帰ってこられました。
妖夢「お湯加減はいかがでしたか?」
窓「はい!とても良かったです……でも私が一番初めにお風呂をいただいて良かったのでしょうか?」
妖夢「もちろんですよ、逆に待たせていては私が叱られてしまいます」
私がにこやかにそう言うと、窓付きさんは少し緊張がほぐれたように見えました。そこから彼女の事情を聞いたのですが…なんというか外来人の方には少々大変なことだったようで疲れが見え隠れしております。庭でさらにお酒を摂取された幽々子様たちが戻ってこられたら、彼女が疲労で本当に冥界の住人になりかねないので彼女を寝室に案内することにしました。まだ少し寝るのが怖いようですが、疲労には勝てないのでしょうフラフラしています。
私は寝室をあとにして庭へと向かいます。本日、最後の仕事をしなくては行けませんからね。