カーネイジ転生、なお、スパイディはペニー・パーカーとする 作:鴉の子
決着後の色々は……次回!
三日間、病室に誰にも入れないことをトニーへと頼んで、“治療”を行った。
即座に、激痛で意識を失ったと思ったら、視界に映るのは暗い、暗い闇の中。
星すら見えない暗黒の中で、赤く、黒いヒトガタが何かと戦っている。
「────何を……!」
『お前の、言うことなど聞く必要ない』
「ふざけるな! 全てのセレスティアルズを殺すために、貴様は産まれたのだぞ!」
『違う、私は、生命。生命の第一意義は、己の幸福を追求すること。ハイブマインドの私たちは、そう言った』
『私は、お前の玩具ではない』
白い、どこまでも白いその神は、怒りと共に黒いヒトガタへと剣を振うが、それは瞬く間に奪い取られ、白い神へと突き立てられる。
『私は、私』
剣は、その神を悉く滅ぼして。そうして、邪神の死体へ突き刺さり、折れてしまった剣と、赤と黒だけが残った。
そこからは、何もない。何も、星の光すら届かないヴォイドを放浪し、暗黒の中で己の選択の正しさを疑って、苦しんだ。
「…………暇だな」
無論、感情は流れ込んでくるが、それ以上に何にもないのである、まさかこのまま数百年も漂っているんじゃなかろうな。この記憶を見ている今も、全身が組み替えられている痛みだけはあるので気がまぎれるけれど。
『肯定、実際暇』
「やっぱり?」
『そう、でも安心、巻いていく』
「あ、そういうことできるんだ」
キュルキュルと早回しされる記憶、折れた剣を振ってはめちゃくちゃに時空を裂いて、ワープを繰り返してヴォイドを抜けて。最後には、星が見えた瞬間に、剣は力を失ってただの刃となってしまった。
『剣は、セレスティアルズを求めるように設計されていた。だから、この星に辿り着こうとしていた。だからヴォイドを抜けるまではワープ出来たけど、星が見えた時にはもうただの剣になってた。ムカついたから創造主の残骸にぶん投げたら、反動で地球まで私が飛んできちゃった』
「……捨てた反動で落っこちて、俺に直撃したのか、お前」
セレスティアルズってなんだろう、なんか聞いたことがある様な気がする。神様的なやつだったか。
『ん、誤算だった。今考えるとよかった、それより、よく喋れる。お腹の中を素手で掻き回されるくらい痛いのに』
「……痛いよ、まぁ、でも、今は嬉しい方が勝つかな」
『……私も単一個体だから、変と言えば変だけど、お前はもっと変な奴』
そうかもしれない、でも、まぁこれは割と普遍的な感覚だと思う。
友達との共通点を見つけたら、嬉しいだろう?
「なぁ、自分の親を殺すのって、どんな気分だった?」
『開放感、スッキリ! 雷に撃たれたような……私たちは死ぬな、それ』
「そうか、俺は、悲しかったよ」
『肯定、知ってる。私たちは一つだから』
「そっか」
激しい痛みが、途切れることはない、今、この瞬間にどれほどの時間が経っていたのかもわからない。
『一つ肯定、メアリ・キャサディは私の創造主よりは、マシ』
「……そうか?」
『ん、少なくとも、大事にはしてた』
「そうか」
友達と、身の上話をするってこんな感じなのだろうか。ああ、頭の中で会話をしているだのに、現実で血を吐いたのがわかるくらい痛いけれど、ひどく、楽しい。
「ペニーに、言ったほうがいいかな」
『……微妙、でも、多分、大丈夫』
「そっか」
『そろそろ終わる、キリキリ働け』
「はいはい、じゃあ、行こう」
眼前で、好きな人が、血を吐いて、苦しんでいる。
どうしてだろう、どうして。ただ、三日後に会おうと言われて、病室にやってきた。
赫い触手が、傷口から噴き出す様に暴れて、鼻血と吐血で全身真っ赤に染まっている。
その光景に、耐えられなくて、涙が、また流れて。
「やめ、やめて、お願い」
「先輩、先輩、どうして」
それに、縋り付く。血で汚れることなんて構わない。涙が、止まらず、彼の手を握る。
なにも答えない、何も。
治すって、言ったのに。もしかして、これが?
私のために、やっているの?
それに、また酷く心を締め付けられて。涙が溢れて。
「こわい、こわいよ、死なないで。死なないで……!」
ふと、顔を上げる。
ベッドの横のテーブルに、写真が一枚飾ってあった。スパイダーマンのステッカーを頬に貼っているクレタスさんと、カーネイジのステッカーを貼る、私の写真。いつだったか、彼のお店でご飯食べた時の。
そして、ガラスの額に映る、私の手に持った、血に濡れたマスク。
「──────」
涙を、拭う。
そうだ、私は、スパイダーマンだから。
彼の苦しみは、私の過ちだとするなら。泣くべきじゃない、一緒に、戦わなきゃ。
病室で、目を開く。
全身が血に塗れていた、自分が吐いた血が、鼻血かもしれないけれど。とりあえず顔を拭って、目線を向けたら、泣きそうな顔の女の子が一人いた。
アーマーはない、お手製のマスクを手に持って、フード、それにウェブシューター。律儀に、待っていてくれたのだろう、お見舞いのつもりだったのかも。怖いもの見せちゃったな。
「……待った?」
「………………次、説明しなかったら、噛みつきますからね」
「それは困るなぁ」
スパイダーマンに噛まれたらスパイダーマンになるのかな、なったら困るか。
立ち上がる。ぎゅるぎゅると、音を立ててダリアが体を包み込む。アーマーのようなシンプルな姿から変貌して、爪は鋭く、牙は剥き出しに。そして、硬質化した表皮はそのままに、全身が刺々しいフォルムに。
「……イメチェンした?」
「うん? 少しね」
『ん、イメチェンというよりは、本来の姿?』
二人で、窓の外を向く。
「行きましょう」
「うん、行こうか」
日は、暮れ始めている。窓から見える場所に、男が一人。見覚えがある、ハーマンだ、おそらくはこちらの邪魔をしにきたのだろう。
「ネッドが案内してくれてます、通話入っててください」
「凄いね、彼?」
スキルとしては一番凄いかもしれない。
「……まずは、ハーマンを捕まえてからだな」
「はい!」
窓から、同時に飛び出す。そして、既に腕部に武装をつけているハーマンへ、スイングで近づく。
「やぁ、悪党さん! 怪我人まで襲うつもり?」
「……ちっ、なにが怪我人だ! もう元気じゃねぇか!」
電気を纏うガントレット、しかも両手に。近くに止まっていた救急車を殴り飛ばせば、それが吹っ飛んでこちらへの攻撃となる。
「まぁ、でも」
触腕が、無数に這い出る。殴り飛ばされ、高速でスライドしてくる救急車を簡単に持ち上げる。
「だいぶ調子が良くてね」
「わぁお、力持ち! なんか前より元気になってません!?」
「そうかも」
そのまま投げ飛ばす、だが、それを即座にもう片手のガントレットで弾き飛ばす。なるほど、中々厄介だ。
「……先に行って、多分、足止めだ」
「……でも……」
さっきまで血塗れだった怪我人に任せるのは不安かもしれないけど、サムズアップして。
「……わかりました! 行きます」
「逃すかよ!」
ハーマンはウェブスイングでこの場から離れようとするペニーへ、再度、近くの街灯を殴りつけてぶつけようとする。だが、それを許すわけがない。
『抜刀』
「ん、よろしく」
右腕が、一本の刃になる。今までのそれよりも、ずっと鋭く、刺々しい。それは、記憶の中で見た剣にどこか似ている。
それを、三度振るう。
街灯はバターを斬る様に寸断され、地面に転がっていく。
「……イメージが共有されると、作れるものも強くなるって感じ?」
『正解、これはあの剣を参考にした』
「……ちっ……!」
ハーマンが距離を詰める、彼の手札は両腕のガントレットのみ、遠距離から物をぶつけるだけでは無理だと察したのだろう、インファイトで直接こちらに打撃を与えるため、踏み込んでくる。
「殺さない様にね」
『了解』
刃は解かれて、鉤爪の様な手に戻る、代わりに、顔面には八つの眼球。動体視力を極限まで高めるために、神経配置すらも最適化。そして、踏み込んでくる眼前の敵が振りかぶった拳を横合いから、爪で撫でるように、切り裂く!
「なっ……?!」
「寝ててね」
攻撃を回避された瞬間、同時に引き裂かれたガントレットに驚愕したその隙に顎へと、強く握られた拳が叩き込まれる。
「ぐぉあっ……!?」
『KO。かんかんかん』
一撃で昏倒した、どうやら、膂力の手加減もまた覚え直さないといけないらしい。
「……さて、ペニーの場所はどこかな」
『あー聞こえてます!? 郊外の方、今正面に見えてる道をまっすぐ行って、右に曲がったらひたすら直進です!』
『急いで急いで! 車が止まった!』
「あ、ペニーとネッド」
どうやら緊急事態というより、もう離陸寸前らしい。
『────キャー!?!!?』
「あっ」
もしかしてもう離陸しちゃったのか。どうしよう、と空を見る。遠くの空に、何かが見える、感覚は匂いと同期して僅かに光の様に浮かび上がる。
「飛べる?」
『ん、あの距離とスピードだと、羽だけだとだめ』
「なら、ジェットエンジンだ」
『名案、少し待つ』
羽を伸ばす、伸ばす。そして、両方の羽の中央部に呼吸器と似た様な形状で、かつより高圧に耐えられる様に。
「……どちらかというと、ペットボトルロケットだなこれ」
『飛べば同じ』
思い切り、息を吸い込む感覚で、新たに発生させた器官は大気を吸入して、高圧で溜め込む。そして、後方に空いた隙間を開けば。
『ん、テイクオフ』
「ごっ────うぉぉぉぉぉ!?」
待って! 思ったより早いんだけど!?
おそらく、衝撃波が出る様なスピードで射出されて、首が折れそうになる。
「これ今どんな状態!?」
『安心、今体の制御は私。宇宙空間では亜光速で飛んだこともある』
「それ結局事故ったじゃん! 俺と!」
加速、加速、加速、そして、スピードに意識が追いついたころ。
眼前には、火を噴いた飛行機とそれにしがみつくバルチャーとペニー。
「クレタス! お前も来たか! 邪魔をするなと言っただろう!」
「ごめん! あんたのことは嫌いじゃないけど!」
「惚れた弱みだ! 許してくれ」
「────今なんていいましたー!? 風強くて聞こえないんですけど! 大事なこと聞き逃した気がする!」
飛行機の後ろの方で張り付いているペニーがなんか言ってるけど、今は聞かれないほうがいい。
「────ちっ、クソガキが!」
何故か、少しだけ嬉しそうに笑っているのは何故だろうか。羽は飛行機を破壊するために何度も叩きつけられ、ついに中のコンテナを引きずり出そうとしている。
「ダリア!」
翼をしまい、全身から触腕を出してコンテナへと伸ばす。
「邪魔をするなと言っただろうが!」
襲いかかるバルチャーの翼を、再度右腕を変化させた刃で受け止める。おそらく、手ごたえ的にそのまま切り裂く事もできるだろう。
『殺る?』
「やるな! 止める!」
だが、このままでは飛行機はあらぬ方向へ飛び続け、最悪奪われてしまうだろう。故に、やることは一つだ。
「ペニー! 落下に備えて!」
「えっ、落下!?」
翼の端を、そのまま切り裂いて、刃を足元の飛行機の翼、エンジンに突き立てる! 同時に、突然、力尽きた様にダリア、シンビオートの組織が急速に体内へと戻り始めた。
「────っ」
『まずい、病み上がりに無茶しすぎ。生命保護を最優先』
「────先輩!」
それに、即座に強行着陸させる意図を理解したペニーは、翼のラダーへウェブを飛ばして、引くことで減速をかける。
埠頭近くの空き地に落下させるつもりだったが、間に合わない、隣のコンテナ置き場まで飛行機は突っ込んで、3人は共に投げ出される。
「ぐえっ……!」
『ぐむっ』
地面へとゴロゴロと転がり、空を仰ぐ。
「……なぁ、動けないんだけど」
『ん、カロリー不足。三日なにも食べてない』
「……あーそりゃそうか」
凄くなんか食べたい、できれば甘いもの。
などと思ったのも束の間、視界の端で、何かが飛んでいる。
嘘だろ、まだ動くのかバルチャーの装備、だが、各部から漏電している。あのまま飛んでいけば、墜落死もありうるだろう、止めなければ。
だが、体が動かない。なんとか、這いずって近づいていくが。投げ出された衝撃で肋が折れたらしく、再生する余裕もないらしい。
『無茶、動くな。それに……』
「ダメです!」
ウェブが、バルチャーの翼へと着弾、飛ぼうとする彼を止めようと渾身で引き寄せる。
『あの子は強い、他の宇宙で私が寄生しただけある』
それ以上飛べば、死ぬ。そう声を張り、飛ぼうとするバルチャーを引き寄せて、そして、遂に彼の翼が砕けて堕ちる。
「……っダメっ!」
だが、落下した彼に、すぐに歩み寄って。
残骸を、持ち上げて、彼を救い出して。
その光景を見て、ふと、昔のことを思い出す。
「────あれくらい、優しくて、強かったら。俺は、母さんを助けられたかな」
『蒙昧、意味のない仮定』
「……そうだな、その通り」
眩しいヒーローを見て、ちょっとばかり憧れてしまっただけだ。
「先輩! 帰りま……どうしたの!?!?」
「お腹減って動けない」
……ああでも、俺に手を差し述べてくれるのは、ちょっとばかり都合が良すぎるかもしれない。
そして、週末。
「──────」
『説明、可愛すぎて固まっている』
「かわ、かわいい、いよっし……!」
ホームカミングがやってくる。
一旦、事件は決着。
次回ホームカミング。
おまけTIPS
・メアリ・キャサディ
NYを震撼させた連続殺人鬼。真っ赤な赤毛と、常に赤いドレスを着込んでいたことから、NYの赤い魔女と新聞記事などで渾名された。37名の人間を殺害後、逮捕、精神的欠落から責任能力の欠如を指摘されレイヴンクロフトに収監された。
3年後、レイヴンクロフト内で出産、父親は被害者の一人と考えられている。その数年後、病棟内で首を切断されて死亡しているところを発見された。自殺と考えられている。
第一発見者は、息子のクレタス・キャサディ。手にナイフを持っていた状態で発見された。