カーネイジ転生、なお、スパイディはペニー・パーカーとする 作:鴉の子
──────さて、俺は今、ワシントンD.C.に来ている。
SNSにはサプライズ臨時出店ということでいい感じにお客さんが集まってきた。ちなみに学生向けということで学力大会の近くで許可もらえるところを探したので抜かりはない。
「うわはははは!」
学生はこういうサプライズ出店に弱い! 当然自由時間にはやってくる! 昼飯とかで!
売り上げ〜! いつもの1.5倍! 旅行気分のガキから巻き上げるのは楽しいぜ!
あ、待ってね、お肉もうちょっと盛ってあげる。
「おっと、そこのチップスを持ってる子!」
呼び寄せて、袋の中に野菜と肉を詰めて、チーズをかける。
「はいサービス、大会午後も頑張れよ〜」
「えっ、あの、お金は」
「いいのいいの、今日使い切らないといけないんだから」
「あっちょっと、お金多い、学生ドリンク無料! ポテトサービスはケバブ頼んだ人だけ!」
『……赤字では?』
「ふ、黒字だ。抜かりない」
普段からあちこち駆けずり回って安い野菜と肉を仕入れている企業努力が光るのだ、こういう時。
「大人は割引ないけど、はいこれ」
先生や引率の人に手渡すのはNYのバーの割引チケット、知り合いがやっているやつ。
「来てくれたら案内するよ、そこ、知り合いがやってる店だから店主に俺の紹介って言ってくれたら多分呼んでくれるから」
「本当は酒の一本でもサービスしたいけど、みんな仕事中だろ? 我慢してくれよ」
ぱたぱたと手を振って、みんなが楽しそうに食事をするのを見て満足する。
「……ちょっと! ちょっとクレタスさん! なんでいるんですか……!」
小声で話しかけてくるペニー、小さいから体を乗り出して聞くしかない。
「え、ビジネス」
「嘘でしょ!」
『肯定、嘘、ペニーを気にかけて付いてきた』
「……子供扱いしないでくださいよ!」
「子供扱いなんてしてないけど、頑張る女の子が気になるのは当然だろ?」
危ないからな、マジで。本当に死ぬかもしれないことをわかってるのだろうか本当に。
「…………女の敵!」
「昔おんなじこと言われたよ」
「やっぱりそうじゃないですか!」
ぷんすかしている、可愛いなやっぱり。
「一人でも出来ますから! クレタスさんこそ、ヒーロー初心者なんですから! 気をつけてくださいね! サンド一つ、大盛りで!」
「はいはい、サービスで特盛ね」
ちょっと見栄張ってるけどもっと食べるからお肉は気持ち増やしとこ。
「あ、ペニーもここに来てたんだ、すいません、俺も同じの!」
ペニー後ろから、丸々としたあどけない少年がやってくる、スプライトの入ったカップを渡しながら、ちょっと待ってな、笑顔で答えて。
「君がネッド?」
「え? あ、はい、そうです、なんで名前を……?」
「ペニーから聞いたよ、“椅子の人”なんだろう。頑張って」
ちょっとだけ、周りに見えないように、彼にだけ見えるよう迷彩を解除して、顔を、カーネイジの姿に変化させて、ピース。
「あっ……えっ、あっ! スパイダーフレンズのカーネ……ふぐっ」
あぶなっ、ダリアがすんでで口を塞いだから間に合った。
「何その名前」
ああ、スパイダーマンの友達だから? 安直すぎる。
「声は小さくね、ま、ほら。たまたま知り合った超人だ。NYならいっぱいいるだろ?」
ヘルズキッチンの弁護士とか。SNS訴訟にも強くて頼りになる。
「それじゃ、いろいろ手伝うからさ、そのあたりよろしくね」
「……(ペニー、信用できるのこの人?)」
「(いい人だよ! 倒れてたところ助けてくれたし……うちの学校の先輩だよ!)」
うーん、小声で相談してるのが丸わかりである。わかる、俺も正直胡散臭いと思う。
「とりあえず、頑張れよ。大会もサボらずにな」
「それはまぁ、頑張ります!」
「俺も!」
うん、いい子達だ、俺とは違う。衒いなく、心からいいことをしようとしている。だから、まぁ、助けてやるのは人としてやらなきゃ行けないと思う。
『……入れ込みすぎでは?』
「まさか、確かにまぁ、色々厄介ごとに巻き込まれるだろうけど。それなら先に頭から突っ込んだほうが楽しいだろう?」
自由にやるというのは、そういうものだ。数少ない、家族から教わった僅かなこと、自由に生きるには自分から動き回ることだ。
「さて、夜に抜け出すのは確実だな、あの子は」
昼食の時間もそろそろに、いい加減人がまばらになってきたため、自分の食事をしながら。
『肯定、おそらく、バルチャーはダメージコントロール局の輸送トラックを狙う』
「…………なんでそんなこと知ってるんだお前」
『トニー・スタークに渡された機器からネットワークに勝手に買ったラップトップからハッキングしてアクセス。ダメージコントロール局の輸送スケジュールをチェック』
「…………勝手に買った!?」
『肯定』
「ああーっ!?!? 俺の貯金!?」
アプリで見たら1500ドルくらい減ってる!! 別に今すぐ困るわけじゃないが!! 結構ショック!!!
『ん、減るものではない。私たちの資産からすれば端金』
「今は儲かってるけど不安定な仕事だから貯金してるの!!」
『きちんと投資と不動産を運用しているのに?』
「あれは俺の動かせる金じゃないからダメだ、私生活に使う分は決めてる」
いつか、どうにもならなくなった時のためのお金として、知り合いを通じて置いてある分だけから、自由に触れるものではない。そうしないと、人間簡単に持ち崩すからな。
『
「仕事にしてる料理が趣味なんですーっ!!!」
というか趣味くらいあるわ、花育てたり、本読んだり。
「……ええい、まぁいいや、経費にしちゃえ。領収書は?」
『確保済』
「よし、偉いぞ」
そのあとぼちぼち来た客に残りをきちんと売り切って、僅かに余った分はダリアがむしゃむしゃと食べ切り、今回のサプライズ営業は終わりだ。
夕方になれば、やらねばならないことがある。まずは、トラックを駐車できる場所を探して、その後、ダリアが探し出したルートを先に把握しておく。
おそらく、ここから最短距離で行ける場所にペニーは同じように向かうだろう、こちらには最新機器などないので……もっと原始的に、出発した彼女を匂いを追って追いかけるべきだろうか?
「……バルチャーは何を狙ってるんだ?」
『おそらく、ウルトロンの残骸や、チタウリの武装の残骸』
「それで武器作って売るのか、なるほど、仕入れ値0なのはいい商売だな」
ちょっと羨ましい、ちょっと。
「……さて、手伝うにしてもどうしようかな」
まさか一緒に捕まえに行くのは流石に、本人も嫌がるだろう。とりあえずついていって、危なそうになったら助けに入るべきか。
……いや、その前に、ここからだいぶ離れているな? 送ってあげるべきだな。
とりあえず、メッセージだけ送っておこう。
『車で連れていくから、ナビしてくれ』
『ありがとうございます! ホテルの近くで待ってて!』
…………このメッセージだけ見られたらまずいんじゃないか?
そう思った瞬間に無数の通知、いつのまにか友達欄に入っている、トニー・スタークの表示。
『どういうつもりだ』
『誤解だ! スパイダーマン活動の手伝い!』
『……嘘は言ってないな、見てるからな』
『暇人か? 社長だろあんた!』
『片手間でやるくらい簡単なことだ』
『あと、教え子のチャットを勝手に見るな。犯罪、プライバシーの侵害』
『君とのしか見ていない、厳密に言えば、君の監視だ』
……おっと、これは本当だろう。ソコヴィア協定は一応存在はするが、なんというか、各国で色々とふわふわしている。実運用にあって、完全に適用されてるとは言い難い。
知り合いにもいるしな、色々。
だから、自分のとこのインターンの娘に近づく超人は監視するし、逆に言えば、そうして俺のことを保護してくれているのだろう。
「なんともまぁ、甘い人だな」
『肯定』
時間は変わって、夜。
……フラッシュに突っかかられながらも、なんとかしてホテルを脱出するペニーだったが……その際に。
「やい、明日サボるなよ! パーカー」
「サボりたくてサボってるわけじゃないから!」
「へっ、男と遊んでるって言われてんの知ってんだからな!」
笑いながら、フラッシュに言われた言葉がぐるぐると頭の中で繰り返される。
「なんだよ、もう。こっちは真面目にヒーローやってんのに」
別に、その、先輩は彼氏とかではないし。そもそも年上だし。そりゃあ、まぁ、うん、ちょっとそういうことを思わないこともないけど。
優しいし、ご飯美味しいし。結構、頼りになるっぽいし?
……まだ、でもどういう人かは、いまいちわからない。優しいのはわかる、多分、私以外にも優しくて、いい人だ。
でも、指先が触れた時、とても、寂しそうな声が聞こえた。精神感応は、人に対してはあまりやらないように意識的に封じているけど、あの時は、思わずわかってしまった。
ずっと、傷ついてきた人の痛みだった。私が、父と母を失った時と、ベンおじさんを亡くした時と同じか、あるいはもっと複雑な。
ずっと、ずっと痛んでいることを言わない人なのかもしれない。まだ、出会ったばかりだけど、少しだけ、一緒にいたくなる理由だった。
そんなことを考えながら、ガチャガチャと鞄から展開するメカスーツ、
このスーツのおかげで、どうやら私は機械とかに精神的に繋がれることを知った、人には、ちょっとしか出来ないけれど。元々は、勝手にスタークさんのスーツを勝手に遠隔で動かしちゃったのでわかったんだけど。
「えーっと、補助輪モードは切ってもらったから……よし」
「私なら出来る、私なら出来る! やるぞー!」
走り出して、壁を蹴る。視界の下にクレタスさんの車が見えた。
すとん、と着地してフロントガラスを叩く。ぽん、と通知がなって通話が繋がる、ハンズフリーで通話をかけてくれたらしい。
「出発、お願いします!」
「OK! 頑張るぞ」
トレーラーが走り出す。スムーズな発進とエンジン音からして、ただのガソリン車じゃないらしい、どこで調達してきたんだろうこんなの。
「どれくらいスピード出せばいい?」
「このくらいで! 多分、ちょうどよく追いつけるはず。ナビするので直進!」
「OK!」
車は進む、時速80〜100kmほどで進んでいき、そう時間はかからずに、見えてくるのはダメージコントロール局のトラック。3台で車列を組んでいる、あまり近づきすぎれば警戒されるだろう。ピッタリと、しかし距離を離しながら着いていく。
「…………来た!」
上空から、静かに、バルチャーが飛来する。コンテナへと何かを投げつけると、そのまま着地、するりと内部へと入り込んだ。
「クレタスさん! 私行きます! 離れてて!」
「……怪我するなよ」
「努力する!」
飛び出して、トレーラーの中から荷物を取り出したバルチャーへとスパイダーマンは近づいていく。
「はい! そこの鳥おじさん! 人の物は取っちゃダメって教わらなかった?」
腕部アームから飛び出したウェブが、バルチャーが盗み出した荷物を引き寄せる。
「……」
無言で、怒りを込めたような動きで、バルチャーがスパイダーマンを見つめる。
「あっやば」
突っ込んでくるバルチャーをすかさず回避! 反撃として空中のバルチャーへと向かってウェブを発射するが……
「あれっ!?」
2本のウェブがあらぬ方向へと飛んでいく。
「ちょっと! SP//dr!? なにこれ!?」
『ウェブスプリットモードです』
「元に戻してよ!」
『任せたのはあなたですが……』
うわーんSP//drごめん! 私のせいだ! 精神感応で操作できるとはいえ、機能が多すぎる!
「って、うわっ!」
再度、バルチャーが飛来、羽根で身体を叩き、コンテナの中へと叩き込まれてしまう。
「うわっ、何これ、物質移相器だ!?」
壁を通り抜けるためのハイテクマシーンに驚愕したところで、気がつく。あっこのままだと閉じ込められる!
「やっばい! どうし……えっ!?」
物質移相器が閉じられる瞬間、触腕がずるりと身体を包み込み、引き上げる。
「やぁ、スパイディ、手間取ってるみたいだな」
即座にトラックの上からスパイダーマンを抱き抱えて、飛び出して、近場の木に捕まるのはカーネイジ。
「えっ、あっ、なんで……?」
「追いかけてる途中で、車を止めて、走って追いかけてきた」
「いや、そうじゃなくて……危ないっ!」
スパイダーセンス、スローモーションになる世界で、上空から襲いかかる気配を感じ取る。
だけど、それよりも早く、カーネイジの触腕はそれを迎撃する。触腕の先に生成された鋸刃はバルチャーの羽を弾く。
「……っ、何者だ」
「カーネイジ、名前を覚えといてくれ」
それを聞いて、荷物を抱えて、バルチャーは遥か遠くへと飛んでいく。
「追わなきゃ!」
『否定、我々では追いつけない』
ありゃあ相当いいエンジン積んでるのは、俺よりもこの子の方がよっぽどわかっているだろうに。
「でも、捕まえないと!」
「今じゃなくていいだろ、ほら」
触腕の先には、小さな破片。
「バルチャーの羽の一部だ、匂いは覚えた」
バキバキと、ダリアがそれを噛み砕く。
「とりあえず、帰るぞ、今度は助手席乗りな」
車にまで二人で戻る、幸い背の高い木々に囲まれている道だったから、スイングですぐに戻ることができたが。
「…………」
「…………」
クレタス・キャサディは思った。
気まずい。
年下の女の子が助手席で明らかに落ち込んでいるのを慰めるのは、基本的に難しい。しかも、殆ど自分が途中で連れて帰ったようなもんだからなおさら。
「まだ、追えました」
「ウェブをつけて? 途中で落ちたら大惨事だ」
「パラシュートあります!」
「そういうことじゃないだろ、多分、落ちたらもっと面倒なことになる、家とかに落ちたら?」
「うっ」
「……別に、説教じゃない……んー……」
しまった、指摘になってしまったかもしれない。嫌われるのだけは勘弁なのだが。
『不器用、心配している、あと、下心の塊』
「は??? ないですけど?」
ない、ないからね。ちょっとしょんぼりしてるのは可愛いなとは思ったけど。
「…………下心、あるんですか?」
ペニーはちらり、と上目遣いでこちらを見てくる。黄金色の瞳が、涙目で揺れている。
「っげほっごほ」
思わず、発言が止まって、咽せてしまった。
『愚か』
うるさい。
「…………ノーコメント」
「えっ」
ちょっと、赤くなるんじゃないよ。もっとこう、びっくりしてキモがるのが今どきの子なんじゃないのか。
「……えっと、よくわかんないんですよね、そういうの……でも、ちょっと嬉しいかも……へへ……」
「ダメダメダメダメ」
ダメだこの子は、マズイぞ。変な男に騙される前になんとかしなければ……
『………………』
ダリアがじとーっとした目でこちらを見ている。いや、目というか、赤白の模様みたいな顔なのだが。
「…………さっきウェブの使い方で困ってたけど」
「え? ああ、色々モードがあって、使いこなせてなくて……」
「……よし、少し練習しよう。森の中ならバレないだろ」
「……付き合ってくれます?」
なんか、含むところを感じるが、気のせいだろ。よし、話を逸らすことに成功した。
そこから、深夜まで練習したのち、ホテルに彼女を帰すこととなった。
ウェブグレネードでぐるぐる巻きになったが、頑張れば切断して逃れられることもわかったしいい収穫である。
……全てが終わった後、フードトラック、その中の寝台で、ダリアが話しかける。
『…………疑問、何故彼女を恐怖している?』
「してないよ、ただ」
「……怖いのは、俺なんだ」
この、奇妙な同居人は、俺のことを全て知っているはずなのに、何も言ってこない。それは、きっとこいつの優しさなのだろうと思う。
『……肯定』
「何をだ?」
『全てを、我々は、一つなのだから』
「そっか、ありがとな」
天上を眺めながら、手元で、小さなナイフをくるくると回す。果物を剥くくらいにしか使えないような、紅い、折りたたみナイフを。
遠い記憶が蘇る。
ママ、ママ、何処に行くの?
クレタス、優しいお花ちゃん、あなたのおかげで、綺麗な場所に行くの。
一本のナイフ、それは、言われるがままに、会いにくる時に持ち込まされた、小さな物。
それは、彼女の首を裂いて。
花のように、血が舞って。
ああ、世界で一番、美しい笑みだったと、今でも思い出す。
その度に俺は、深い水の底に沈んでしまったかのように、恐怖してしまうのだ。
ちょっとだけタワーの爆発の経緯が変わります。
それはそれとして、ピーターの時点でもそうだけど割と惚れっぽいのに自信がないのを反転させると湿度が出ちゃう女の子だと思いました。