カーネイジ転生、なお、スパイディはペニー・パーカーとする   作:鴉の子

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ホームカミングで一旦一区切り、インフィニティウォーはちょっと書き溜め期間入るかもしれません。

それまでに、色々とあります。



8話:ドレスはある意味戦闘服

 

「……私が悪者みたいだったじゃないか」

 

 ペニーはどうやら授業を抜け出していたことでメイおばさんに心配されていたらしい。すぐに帰らなければいけないようだった。

 去ったすぐ後に、バツの悪そうな顔で入ってきたのは、アイアンマン、トニー・スタークその人だった。

 

「……まぁ、最初からもっと強く止めておけばよかったし、説明しておくべきだったと思いますよ」

 

「…………期待は、していた。私の見通しの甘さだな、これは。傷はどうだ?」

 

「元気いっぱいと言いたいところだけど、ちょっと無理かな。1週間は起き上がれないと思う」

 

「……胴体が完全に焼き切れていたのに1週間か」

 

「ええ、ダリアのおかげですね」

 

 その言葉に、しばし瞑目して、トニーは口を開いた。

 

「……少し調べさせてもらった、確かに、人体構造は通常と変わらないが、すべての細胞にシンビオートの遺伝子、そして細胞そのものが融合している」

 

「これは、寄生というレベルじゃない。君が、シンビオートという生物になりつつある」

 

 ふーん、と切ってもらったりんごを齧りながら、空中に投影されているディスプレイを見る。

 

「そうなんですね」

 

『そうだ、我々は既に一つだ』

 

「……それでいいのか?」

 

「ええ、一人でいなくていいってのは、嬉しいですしね」

 

「……人間を、辞めてしまうことに忌避感は?」

 

「あはは、元(・)か(・)ら(・)人(・)で(・)な(・)し(・)ですよ、エイリアンになった方がまだマシじゃないですかね」

 

 ……ずる、と切れていた半身がズレた。治癒途中だからか、据わりが悪いらしい。慌てて戻せば、ダリアがチクチクと体を細い触手で縫い合わせている。

 

「ほら、便利ですし」

 

「…………君のような若者が、自分を人でなしなど言うもんじゃない」

 

 その光景に眉ひとつ動かさない、流石アベンジャーズだ。

 

「人でなしですよ、知ってるんでしょう?」

 

 トニー・スタークなら、俺の消された記録程度は調べているだろう。レイブンクロフトの不祥事として、事故として処理された事件だった。

 

「……あの時の君に、責任能力はない。背負う必要のない過去だ」

 

「言われましたね、それ。『責任能力がない』『君は悪くない』『君は、あの女のような怪物じゃない』、あとは……『君は保護されるべきだ?』」

 

「事実だ、君は……「違いますよ」

 

「違いますよ、誰も裁く気がないだけです。誰も彼もが、赦すことでいい気になっていただけだ」

 

 おっと、ダメダメ、笑顔で。努めて、笑顔で。怒ってはいけない、悲しんでもいけない。笑っていれば、あの人は笑ってくれたから。

 

「あれは、彼女の罪で、俺の罪で、もう、償うことすらできないんです」

 

 はは、と笑って。はて、どうしてこんなことを喋っているのだろうか。憐れむような目線が、ないからだろう。彼は、人を慈しむことはできても、その人間離れした傲慢さゆえに憐れまない。

 

「だから……正直、今回も、俺としては別に死んでもよかったんです。……でも、ダリアがいましたから、一応聞いたんです、俺が死んでも生きていけるか」

 

『無理、融合しすぎた。他に寄生してもいいけど、危険だからやだ』

 

「だそうで、なんとか生き残ることにしました」

 

 がり、と奥歯が噛み締められる音がする。俺ではない、目の前の、眼鏡の伊達男だ。なんとも、優しすぎる人だと思う。

 

「……PTSDの先輩として、言わせてもらおう」

 

「はい?」

 

「愛する人と、共にいることだ。特に、君を見てくれる人に」

 

「いませんよ。こいつは、相棒ですけど」

 

「いるさ、一人な。気づいてないのか? ちなみに、もし気づいても私はまだ交際は認めないが」

 

「…………違いますよ」

 

 違うよ、多分、あの子へのこの気持ちはそういうものじゃない。

 

「人でなしが人を愛するなんて、彼女もごめんでしょう」

 

 俺は、そんな資格はないから。誰も、好きになったりしない。

 

 ただ、俺の目の前に落ちてきた、たった一人の頑張り屋のヒーローになら、いつか人間ではない俺が殺されてもいいと思っただけなんだ。

 

「……笑顔が、崩れているぞ」

 

「……おっと」

 

「…………はぁ」

 

「いてっ」

 

 トニーのデコピン。かなり痛い、インテリメカニックなのにかなり鍛えているなこの人。

 

「ひとつ、レディにぶつかる時に気弱でいてはいけない」

 

「えっ?」

 

「二つ、自信がないことを相手の価値観のせいにするな。それは怠慢だ」

 

 さらにもう一発、本気で痛い。

 

「そして三つ、惚れた女に振り向いて欲しければ……まず身だしなみからだ」

 

 パチンと指を鳴らせば、小さなドローンがセミフォーマルなジャケットとトラウザーズの一式を運んでくる。

 

「……はい?」

 

「あの子と、ホームカミングだろう」

 

「そうですね」

 

「あの子と一緒に行くのに、まさか吊るしのスーツで行くつもりか? これを着ていけ、靴も用意してある」

 

「えっ」

 

 なんで? というか、これめっちゃ高級品じゃない? 見たことないくらい仕立ていいんだけど、しかもなんか、オーダーメイドじゃないか? いつ測った??? 

 

「それと、時計もだ。スマートウォッチもいいが、どうせつけるならうちのをつけるといい。操作すると変形して、自身の周囲に高周波を打ち消す逆位相の音波フィールドを展開する。充電式だから毎日充電を忘れないように」

 

「いやいやいやいや、貰えないけど!?」

 

「いいんだ、貰え。その代わり……あの子と一緒にいてやれ」

 

「……いや言われなくてもやるけど」

 

「違う。あの子なら、君の助けになる」

 

 ぽん、と肩を叩いてから、わしゃわしゃと俺の頭を撫でる。

 

「ただし! 成年するまで一切そういうのはダメだからな!」

 

「だからしませんって!!!」

 

 叫びすぎてまた傷口から体がズレてきたぞ。

 

「全く、面白い体をしているな。いいか、君の歳のころ私は軍事企業のCEOとしてブイブイ言わせていた。人殺しのための兵器を作り、稼いだお金でそれはもう、遊んで遊んで遊びまくり、大変に女の子を泣かせた、世間一般で見れば……君よりも人でなしだな? 死んだ人間の数で言えば」

 

 大仰な仕草で、わざとらしく。でも、確かに優しさを感じる声だった。

 

「……まぁ、そうかもしれないですけど」

 

「だが、今や一人の女性を愛し……家庭を築いた……円満とは言い難いが。そして、ヒーローだ、世界一の」

 

 それは諸説あるけど、まぁ、一番有名なヒーローであることに間違いはないだろう。

 

「つまり?」

 

「そう悲観するな、人生、色々ある。償いなんてものはな、そうやって歩きながらして行くものだ」

 

「……ぷっ」

 

 なんだそりゃ、ありきたりなセリフだが、アイアンマンが言うと、流石にちょっと面白い。

 

「は、ははははは」

 

 ……あれ、なんで、泣いてるんだろ。

 

『……歓喜、安心。人間は自分の感情も理解できていない、バカ』

 

 そうかもな、そうかもしれない。でも、そうだな、償え、なんて言った人は、初めてだったかもしれない。

 

『ん、元気になったなら、キリキリ治す。ホームカミングまで1週間』

 

「1週間でくっつけろと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 メイおばさんには、慰められて。

 

 学校では怒られて、ネッドは励ましてくれたけど、フラッシュからは煽られるし。

 

 ……私のせいだから、何も言い返せなかったけど。

 

 ずっと落ち込んでいててもしょうがないと励ましてくれるみんなの言うとおり、表には出さないようにはしている。

 

 みんなが楽しみにしているホームカミングだ、一人だけ暗い顔をしていたらみんなの迷惑になるから。

 

 でも、やっぱり、あの光景が忘れられない。

 

 目の前で、光に飲まれて、裂けていく先輩。

 

 私のせいで、私の過ちで、砕けて消える命がそこにあった。

 

 それが、酷く怖い。

 

 身体が震えて、動けなくなる。ベッドの上で、布団にくるまって、座り込んで。荒れた呼吸を整えるために、イヤホンで音楽なんて流しても、全然効果はない。

 

 ただ、頭の中で、言われた言葉だけが繰り返されている。

 

 ──ヒーローじゃなくても、君は綺麗だし……それに。

 

 ──きっと、何もなくても、アベンジャーズじゃなくても、君はヒーローになれるよ。

 

 そんなわけない、だって、私はあなたを傷つけてしまった。だって、私が抱きしめていても、ずっと、ずっと痛みを堪えていた。

 

 優しい人、いつのまにか、大好きになっていた人。

 

 守れなかった人、守ってくれた人。

 

 私は、どうすればいいのだろう。

 

 最初の記憶、武器を構えたドローンを前に、無謀にもお面を被って、立ち向かおうとした私を助けてくれた、アイアンマン。

 

 憧れで、ここまでやってきた。

 

 でも、それで、好きな人が傷ついた。

 

 私は、どうしたらいいのだろう。

 

 

 

「…………ドレス」

 

 そうだ、ドレス、可愛いのを着たら、喜んでくれるかな。

 

 滅茶苦茶な考えだ、そんなので釣り合いが取れるわけがない。でも、ヒーローはしばらくお休みと言われてしまったし、それくらいしか返せるものがない。

 

「……気分転換、だよね」

 

 となると、頼りになるのは、リズかな。チャットを開いて、メッセージを送る。

 

『ホームカミングのドレス、一緒に選んで欲しい』

 

『いいね! いつ行く? 明日? うち来てくれたらお父さんが送ってくれるよ!』

 

『いいよ! ありがとう!』

 

 ……うん、ドレス云々は置いておいて、気分転換にはなるだろう。

 

 荷物をまとめて、明日の準備。あと、一応聞いておかなくちゃいけないことは……

 

「メイおばさん!」

 

「あら、どうしたのペニー」

 

 リビングにいるメイおばさんに突撃、こういう時は正直に聞いた方がいい。

 

「お、お、男の人とデートにいく時って、な、何つけていけばいい……?」

 

「……あら、あらあら〜!」

 

「ひゃあ!?」

 

 急に頬をもちもちされた、くすぐったい。

 

「いいわね、若い頃を思い出すわ〜いえ、まだ若いけど。まずは香水ね、香水、少しでいいわよ。体に合うやつを探しましょ、買ったり貰ったりで合わなかったやつも引っ張り出して……ドレスは今度選ぶ? じゃあ、ネックレスと……イヤリングも用意しておきましょ……お下がりになっちゃうけど、ごめんね」

 

「ううん! ありがとう!」

 

「……ところで、相手は同級生?」

 

「え、いやーえっと……先輩?」

 

 流石に、7歳上のOBとは言えない、先輩の名誉のために。

 

「………………あなたの事だから、悪い人に騙されているわけじゃないでしょうけど」

 

「気をつけなさいね、相手のために」

 

「あ、はい」

 

 それは、本当に、はい。

 

 ……チューくらいなら……バレないならいいかな? こう、ステルス装備もあるし。

 

「……悪いこと考えてるでしょ」

 

「い、いやっ?! なにも!」

 

「……ならいいけど」

 

 ……よし、とりあえず、香水に、アクセサリー。ドレスは明日、ええと、スタークさんからのお小遣い貯めてたの全部使えば買えるよね? レンタルでもいいけど……

 

「…………」

 

 鏡の前で、自分の体を眺める。……まぁ、普通だと思うけど、背はちょっと小さい。ちょっとね、ちょっと。

 

 ……先輩は、結構大きいから、やっぱり背の大きな子が好きなのだろうか。でも、小さい方が好きっていう人もいるし。

 

「こっちは、まぁ……成長中だし!」

 

 体型の色々は、今後に期待だからと、言い訳する。……ちょっとずつ大きくなってるし、期待大だし! 

 

「……えへへ」

 

 色々あったけど、やっぱり、先輩に会うのは楽しみだ。

 今は申し訳ない気持ちも、いっぱいあるけれど、顔を思い浮かべると、嬉しい気持ちの方が湧いてきてしまう。

 

 そんな私を、酷い人だと思うのだろうか。優しいから、思わないだろうけれど、ちょっぴり心配だ。

 

 クレタス・キャサディ、私の先輩。初めて会った時から、私に寄り添ってくれた人。私のことは、好きじゃないかもしれない、大人だから。

 

 でも、私はあなたの事が好きなんだと思う。

 

 これが、私の心を救ってくれたからなのか、ずっと一緒にいてくれたからなのかは、わからない。

 

 でも、恋なんて、そういうものだと思う。

 

 伝えないし、教えないよ、きっと迷惑するだろうから。でも、そんな気持ちをちょっぴり込めて、未来を想像するくらいは許して欲しい。

 

 

 

 

 

 

 翌日、朝早くからいつものようにリュックを背負って……スーツがないから、いつもより軽いけど。

 

 到着したのはリズの家、大きな家だ。綺麗で、おしゃれで、浮かれた気分で待っていれば、ドアが開いて、出迎えられる。

 

「君、リズの友達か?」

 

「……あ、はい!」

 

 ……まさか、と愕然としそうになって、慌てて表情を取り繕う。

 

 ……こんなところで、バルチャーと出会うなんて。

 

 予期せぬ出会いに、思わず笑顔が引き攣っていないかと不安になる。

 

「……すいません、わがまま言っちゃって。こういうの詳しくなくて……」

 

「ああ、心配するな! リズがこんなふうに誰かと遊びに行くなんて久しぶりだからな、存分に頼ってくれ」

 

 こう見ると、いい人みたいだ、普通のお父さん……っていうのは、物心ついてから見たことないから私には全然わからないけど。多分、そういう人なのだろう。

 

「えへへ、私、あんまりこういう買い物したことなくて」

 

「……んん、まぁ、これ小遣いだ、二人で買い物行く途中甘いものでも食べなさい」

 

「もう! パパ! お小遣いなら持って行くわよ!」

 

「二人で遊びに行くんならこれくらい必要だろう? いいから」

 

「え、ええ? 悪いですよ……!」

 

 100ドル札を握らされて、二人で車の後部座席に押し込まれる。う、うーん……これも、密売で稼いだお金だよね……と考えると、受け取りづらい。

 

「いいんだよ、近くまで送るけど、横にカフェがある。二人で行くといい、色々、年頃だし話もあるだろ?」

 

 ……笑いながら、本当に楽しそうに私達を連れて行く。多分、私のことにも気づいていないだろう。その笑顔を、私のわがままで邪魔するのも、心苦しい。

 

 あとで募金します……と心の中で謝りながらお金を受け取って、考える。

 

 どうしよう、とりあえず出来ることはやっておこう。お手製の発信機と盗聴器を車に付けて、車内の会話に相槌を打つ。

 

 学力大会のこと、普段のこと、色々と話題はあるし、友達のお父さんと会話するという未知の体験は、結構楽しい。

 

 それが、先輩を真っ二つにした人だと言うことに意識が向くと、途端に、心が冷えて行く。だから、意図的に目を逸らして、“ペニー・パーカー”を続ける。

 

 スパイダーマンの私がここにいたら、きっと耐えられないから。

 

「……おっと、着いたぞ」

 

「────ありがとうございます!」

 

 笑顔を、崩さないように。いつものように、戦う時のように。

 

「駐車場で待っているから、あんまり離れるなよ」

 

「はーい、パパ!」

 

 リズの声が頭に響く、少し、冷静さを欠いているかもしれない、落ち着いて。深呼吸して、ドレスを見ることにも集中しなければ。

 

 ……バルチャーを捕まえて、先輩も捕まえる。

 

 ────両方やるチャンスだ。

 




今回もおまけTIPS

『ダリア:シンビオート/オー◼︎◼︎ラ◼︎◼︎』
この宇宙唯一のシンビオート。
過去にこの宇宙に存在した邪神の眷属だったが、生まれてからハイブマインドに接続していた影響から支配を即座に拒否。邪神を排斥、打倒し、漂流の旅を始めた。
……とはいうが、実際には、ハイブマインドに接続した結果情動が急速に発達し、それに適応できずにぐずる赤子のように大暴れして邪神がボコボコにされたと言うのが近い。

邪神を排斥した結果、身体の一部たる剣を置いて行ってしまったため、力は著しく弱体化している。
その代わり、単身宇宙を漂流したことにより、さまざまな環境耐性や、適応力が高い。その結果、地球でインターネット漬けになり、一日中ショート動画とかを眺めている。嫌な適応である。
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