# 大人になるという事
アスラ王立学校での卒業パーティが終わったあと、ララの旅立ちを見送り、子供たちが全員旅立った自宅で4人で夜を過ごした日から、3日ほど経ったある日の午前。
チャイム代わりの鈴が鳴った。
「はーい、今出ます」
家事をしていたシルフィがパタパタと玄関に駆け寄り、ドアを開けた。
ドアを開けた先にいたのは、赤い癖っ毛が特徴の末っ子、クリスだった。
「わぁ! クリス、どうしたの? そのままアスラで働くんじゃなかったの?」
自分よりもちょっと背が高くなったクリスに聞く。
「あはは……ごめんね、白ママ。ちょっとここで話すには多いから、中に上がっていい?」
そうやって苦笑しながらクリスは言う。
「もちろん。実家なんだから遠慮しないで」
そうやってやり取りしながら家の中に上がり、リビングのテーブルに座る。
シルフィが紅茶の入ったカップと、軽いお茶請けのお菓子を持ってきて、クリスの向かいに座った。
「それで、急に帰ってきてどうしたの? なんか大変なことでも起きた?」
心配そうに聞いてくるシルフィ。
「いや、全然そんな大変なことじゃなくてね。卒業パーティでも言ったけど、私、アスラ王国で働くことになったんだけどね。アスラ側での準備や書類手続きとかで半年掛かるらしくて、ルーク様から『実家に戻ってパパの仕事を手伝ってきなさい』って言われたんだよね。だから半年、またお世話になるね! 白ママ」
それを聞いたシルフィは、顔を綻ばせた。
「そっかぁ。またクリスと暫く過ごせるのは嬉しいよ。みんな独り立ちしちゃったからさ」
「大丈夫よ! ママ、私がママたちとパパを元気にするわ!」
そんなエリスそっくりの出で立ちで言うクリスに、シルフィは微笑みながら、
「ありがとう」
と言った。
「そういえば、パパたちは仕事?」
「うん。でも昼には帰ってくるんじゃないかな。今日、ルディは魔法大学に特別教師として呼ばれて授業をするって言ってたよ。ロキシーも今日、学校がお昼までだから、一緒に帰ってくるんじゃないかな? エリスも騎士団の稽古が午前中までって言ってたから、みんなすぐ帰ってくると思うよ」
そう答えたシルフィは、そろそろお昼だからご飯を作る準備をしようかな、と言い、クリスに自室へ荷物を置いてきなさいと言った。
クリスはそのまま荷物を自室へ持っていく。
久しぶりに帰ってきた実家の自室は昔から変わっていなくて、懐かしさを覚える。
部屋が埃を被っていないのを見るに、ママたちが定期的に部屋を掃除してくれているのだろう。
そんなママたちに感謝と愛しみを感じながら荷物を置いて部屋を出る。
そのまま、おばあちゃんたちの部屋へ行き、ドアを開けて挨拶をすると、おばあちゃんたちと少し話をした。
リーリャおばあちゃんは涙ぐみながら、
「立派になりましたね。クリスお嬢様」
と言って、クリスを抱き締めながら褒めてくれた。
ゼニスおばあちゃんは、相変わらず何も話せないけど、優しく抱きしめてくれて、頭を撫でてくれた。
そんなおばあちゃんたちを見ていると、自分も涙脆くなり、三人で少し泣いてしまった。
そうしていると、玄関のドアがガチャリと開いた。
二人にもう一度お礼を伝え、みんなを驚かせようと出迎えに行く。
家に帰ってきたルーデウスとエリス、ロキシーの三人は、出迎えに来た人物を見て驚いた。
「クリス!? どうしたんだ!? アスラに住むって話じゃなかったのか?」
ルーデウスは驚きながら、困惑した表情を浮かべて尋ねる。
「まぁまぁ、パパ落ち着いてよ。まずは上がって、ご飯食べながら話そ?」
「あ、あぁ……」
困惑しながらも、ルーデウスは家に上がり、リビングへ向かう。
ちょうどお昼ご飯ができたらしく、リーリャたちを呼んできて、家族みんなで食卓につく。
そして食べ始めた頃、エリスが聞いた。
「どうしたのよ? あんた、そのままアスラにいるんじゃなかったの?」
「そうなんだけどね。ちょっと向こうでも色々と準備があるらしくて、半年ぐらい掛かるらしいから、戻ってきた!」
「なるほどね」
そう言ったエリスは、ちょっと嬉しそうな表情を浮かべた。
「その間、何かするんですか?」
ロキシーが尋ねる。
「うん。パパの働いてる事務所の事務手伝いをすることになったの」
「そうなんですね。大変だろうと思いますけど、頑張ってください。何か難しいことがあったら聞きますから」
ロキシーは微笑みながら言う。
その話を聞いていなかったルーデウスは、
「え? 全くそんなこと聞かされてないんだが?」
といった表情になっていた。
「パパは全くそんなこと聞かされてないんだけど、本当にルーク先輩が言ったのか?」
「うん。もうアリエル女王様からオルステッドおじさん宛に手紙も送ってあるよ。あと、これ。ルーク様からパパ宛に手紙もあるから、これ読んどいて」
そう言って渡された手紙を読んだルーデウスは、
「マジかよ……」
と呟いた。
そしてクリスの方を向いて、
「半年、またよろしくな」
と笑顔で言った。
そして皆で、卒業パーティではあまり聞けなかったクリスの学校生活のことだったり、世間話をたくさん話したりしながら、仲睦まじく過ごした。
お昼を食べ終わり、パパとママたちと一緒に暖炉の前のソファに座りながら、ゆったりと過ごす。
「しかし、またクリスと暫く過ごせるなんてなぁ」
そう嬉しそうに、しみじみとルーデウスが呟く。
「そうだねぇ」
シルフィが頷く。
「そういえば、白ママが昔、女王様の護衛をやってたときに着けてた眼鏡って、まだある?」
「うん、多分まだあるんじゃないかな。取ってくるね」
そうして取って戻ってきた眼鏡をクリスに渡す。
クリスはその眼鏡を早速着けてみた。
「おぉ!! 似合ってる! 流石、俺の娘!」
「わぁ! かっこいいね、クリス!」
「眼鏡を掛けるだけで、凄くミステリアスな感じになりますね」
「似合ってるわね!」
みんな三者三様の反応をする。
大変気に入ったのか、シルフィが昔、学生時代に使っていた護衛用の男子用の制服とマントを持ってきた。
「これ! 着てみない?」
そう渡された服たちを、折角ならいいか、と思いながら、クリスは隣の部屋へ行き、昔の白ママの制服を着て、みんなに披露する。
「おぉ……神はもう一人いたのか」
そう呟きながら、後ろに倒れたルーデウス。
「やっぱ、クリスは脚が長くて、スラッとしてるから、かなり似合ってるよ!」
手をパチパチと叩きながら、耳をパタパタとさせて喜ぶシルフィ。
「おぉー! 凄く似合ってますね。昔のルディにちょっと似てますね」
そう苦笑しながら、優しく微笑むロキシー。
「ふん! 流石私の娘ね! 似合って当然よ!」
誇らしいのか、嬉しそうに言うエリス。
みんなが喜んでくれて良かった、と思っていると、シルフィが突然、言った。
「ねぇ、クリス。そのマントと眼鏡、クリスにあげるよ。必要になるか分かんないんだけどさ。僕のアスラの思い出を受け取ってくれると嬉しいんだ」
そう言ってくれる白ママに、クリスは苦笑しながら言う。
「勿論よ! ママが歩き終えた道を、また私が歩き続けるから!」
自信満々に答えると、
「ありがとう」
と、少し涙ぐみながらシルフィが笑った。
思いは紡がれていく。
親から子へ。
そんな家族団欒とした一日を過ごしていった。