【TS】女体化したのび太が出木杉と付き合う話。   作:うばシャーク

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並行世界

「ドラえも〜〜ん!」

 

 とある日曜日の早朝。二十一世紀に来てから百万回ほど聞かされたお馴染みのセリフにより、ドラえもんは叩き起こされた。

 

「ふぁあ……何だい、のび太くん」

 

「ドラえもんっ。空き地であやとりしてたら、みんなに『女の子みたい』ってバカにされたよぅ!」

 

 押し入れの襖を開け、眠い目を擦りながら出てきてみれば、のび太の不満はいつも通り。これはまた何かの秘密道具で解決してくれと言ってくるパターンだろう。

 

「ああー、それは災難だったねぇ。ふぁ……僕はまだ眠いから寝るよ。おやすみぃ」

 

「そんなぁ!? 寝ないで、ドラえもん! ねぇ悔しいよ! 何とかしてぇ……!?」

 

 襖の扉を閉めようとするドラえもんと、手を挟んで閉めさせまいとするのび太。いい加減うんざりしてきたドラえもんは、ヤケクソに襖を開け放ってのび太に叫ぶ。

 

 

「えぇぇい!! うるさぁい! どうしろっちゅうんじゃぁ〜〜っ!!」

 

 

「うわぁ──っ!?」

 

 反動で間抜けに吹っ飛ぶのび太。忘れてはいけないが、こう見えてドラえもんは体重一二〇キロの巨漢である。パワーもハンパない。

 

「いっ、てて……ど、ドラえもん、秘密道具で何とかしてよぅ〜」

 

「はぁ、まあそう来ると思ったよ、のび太君」

 

 起き上がるのび太に、ドラえもんは心底呆れた目を向ける。

 

「全く。近ごろ君は秘密道具に頼りすぎだよ。ちょっとは自分の力で解決したら?」

 

「自分の力でって、どうやって? あ、じゃあ、自分の力で解決するための秘密道具かして〜?」

 

「ズコ──!?」

 

 のび太の屈託のない発言に押し入れからずり落ちるドラえもん。やれやれ。コイツには何を言っても通用しない。

 

 ──今日という日は、教育が必要だな。

 

 ドラえもんは子守りロボットとしての本分を思い出し、ふっと思いついた一計を案じた。

 

「……そう言うなら、のび太くん。秘密道具を貸してあげたら、その後は自分の力で努力するって約束できる?」

 

「うん! するする! 約束するよ!」

 

「よしきた! ふっふっふっ──じゃあ、今回はこれを貸してやろう!」

 

 言うなりドラえもんは、舌を出しながら整理されていない四次元ポケットの中をゴソゴソと漁り始める。ワクワク顔でのび太はそれを見守る。

 

 そして──。

 

 

 

「も し も ボ ッ ク ス 〜 〜 !!」

 

 

 

 てってれー!!

 

 ……と、聞こえてきそうな様子で取り出したのは、どう考えてもポケットに入り切らない大きさの公衆電話を模した電話ボックス。

 

 

「うひょ〜っ! 待ってました〜!!」

 

 

 手を叩いて喜ぶのび太の横で、もしもボックスがズシンと音を立ててのび太の部屋の畳の上に現れる。ボックスに入って受話器に願いを告げるだけで、世界を「もしも」の世界に変えてくれる。

 

 これまでに何度も使ったことのある。

 のび太にとってもお馴染みの秘密道具だ。

 

「さ、君なら使い方は分かるだろう? もしもボックスに願いを告げたら、願いが叶って世界が変わる──その後は、君の力で頑張るんだぞ?」

 

「うん! わかった! 早速願いを告げてみるよ!」

 

 ホクホク顔でもしもボックスの中に入るのび太。ドラえもんはしめしめと思いつつ、何も知らず嬉しそうな表情ののび太を見送る。

 

 

 

「もしも」

「あやとりがバカにされない世界に」

「なったら…………!!!!」

 

 

 

 ジリリリリリリリリリリリリリリ!!!!

 

 電話のベルが鳴り響く。

 その途端。

 願いは聞き届けられ、世界は改変された。

 

◇◇◇

 

「──もう、変わったの、かな?」

 

 のび太は訝しみつつ、もしもボックスの外に出る。見た限りのび太の部屋には変化がなく、いつも通りの光景が広がっているだけだった。

 

「あ、あれ……ドラえもん……?」

 

 しかし、一点いつもと違う点がある。ドラえもんがどこにもいない。部屋の押し入れを見ても、布団が詰まっているだけで、ドラえもんの姿はどこにも見当たらなかった。

 

「うーん、世界が変わった影響で、別のところにいるのかな?」

 

 もしもボックスは願いを叶える代わりに、その影響で思いもよらない変化を巻き起こすことのある秘密道具だ。

 

 ほんのわずかな変化であっても、バタフライエフェクトのように世界のあり方を大きく変えてしまう。ドラえもんが今部屋にいないことくらい、些細な変化かもしれない。

 

「ま、そのうち見つかるでしょ。空き地に行ってみようっと」

 

 気楽な考えで、のび太は机の引き出しからあやとりを取り出し、ポケットにしまってから空き地に向かう。

 

 今度こそみんなに得意のあやとりを披露して、ジャイアンやスネ夫に褒めさせてやる。そしてあわよくばしずかちゃんにも。

 

 うきうきする気持ちを抑えきれず、のび太はスキップしながら階段を降りて玄関の外に出た。

 

 

「あら、のびちゃん。おはよう」

 

「おはよう、おばさん!」

 

 

 空き地へ行く途中、商店街の通りを歩くと、休日の通りはにぎわっており、近所の顔見知りにしきりに声をかけられる。

 

(あれ、気のせいかな? ちょっと僕の声がいつもより高い……?)

 

 喉の調子が悪いのかと、のび太は怪しんだが、気にせずに進む。そして、そういえば眼鏡もかけていないな、と今更ながらに思い当たる。

 

 

「おお、のび子ちゃん。今朝は早いね」

「あら、のび子ちゃん。遊びに行くの?」

「気をつけてね、のび子ちゃん」

「のび子ちゃん。お母さんによろしく」

 

 

(何だ? みんなして「のび子ちゃん」って。僕は「のび太」だぞ……?)

 

 

 変に思いながらも、のび太は空き地に到着した。そこではすでに子供達が野球したり、縄跳びをしたり、みんなで思い思いの遊びをしている。

 

 

 

「おーい、みんなー! 見て見て────!!」

 

 

 

 のび太はその輪の中へ、喜び勇んで駆け寄った。野球をしていたジャイアンにスネ夫、縄跳び中のしずかちゃんがぱっとこちらを振り向く。

 

 

「おお、のび子!」

「あっ、のび子だ──!」

「のび子ちゃーん!」

 

 

(──何だ、いよいよ何かおかしいぞ……!?)

 

 警戒心が頂点に達したのび太は、思わず前を見たまま首を傾げたせいで、足元の小石に気づかずにずっこける。

 

「──うわぁ……っ!?」

 

 ずしん!

 

 その場で尻もちをついたのび太は、痛い尻をさすりつつ、涙目になって文句を言った。

 

「いったぁ、何なんだよ、もう!」

 

「……!? お、おい、の、のび子……!」

「……ああっ、お、おい、のび子ってば!?」

 

「きゃあ、のび子ちゃん……!?」

 

 

「え、みんな、何、どうしたの……?」

 

 

 しずかちゃんはともかく、いつもからかってくるはずのジャイアンやスネ夫が、今日は心配するどころか何故か顔を赤くしてこちらを見ている。

 

 のび太は訳が分からず困惑した。

 

「あ、あの、のび子ちゃん──スカートが……」

「えっ、スカートって?」

 

 顔を赤くしながら、気づかわしげに近づいてきたしずかが、横にしゃがみ込み、耳元で他の子に聞こえないようにそっと告げる。のび太ははてと思いつつ、何となく自分の足元を見下ろした。

 

 

 

「って、えぇ────…………ッ!?」

 

 

 

(な、何だこれ!?)

(何で僕がこんなものを……っ!?!?)

 

 足元を見た瞬間、のび太は衝撃を受けた。何故か履いていたズボンがスカートに変わっている。慌ててスカートの前を押さえつつ、理解できない変化に戸惑う。

 

 考えてみればそれだけではない。

 

 甲高い声。

 外した眼鏡。

 のび子と呼んでくる周囲の人々。

 

 おそるおそるのび太は、空き地にあった水たまりの中を覗き込んだ。

 

 

「……!? だ、誰だ!? この子─────────ッ!?」

 

 

「お、おい、のび子、大丈夫か?」

「今日はちょっと変だぞ?」

「転んでおかしくなっちゃったのかしら?」

 

 水溜まりの中に映り込んだ見知らぬ姿に、のび太は衝撃を受けて叫ぶ。そこにいたのは、どこか自分の母に面影のある一人の少女だった。

 

 年恰好は自分に近く、いつも自分の着ている黄色いシャツを着ていて、下の服だけ紺のズボンからスカートに変わっている。

 

 スカートがまくれたのを見られて顔を赤くしながらこちらを覗き込む少女。状況からして、それは間違いなくのび太自身の姿だった。

 

 混乱するなか、のび太はふっと思い当たる。

 

(はっ……そういえば、もしもボックスに願い事をする前、僕がドラえもんに言ったのって……?)

 

 

 

"ドラえもんっ"

 

"空き地であやとりしてたら、みんなに『女の子みたい』ってバカにされたよぅ!"

 

 

"もしも"

"あやとりがバカにされない世界に"

"なったら…………!!!!"

 

 

 

"ジリリリリリリリリリリリリリリ!!!!"

 

 

 

(ま、まさか……? これって……!?)

 

 のび太は頭をよぎった嫌な予感に青ざめる。まさか、あの時もしもボックスが叶えた願い事って──。

 

(ぼ、僕が願ったから? あやとりをバカにされたくないって願ったせいで、もしもボックスが『女の子になればバカにされない』って思って、その願いを叶えちゃったってことぉ……!?)

 

 

 

「…………た、大変だ!? ドラえも〜〜ん!!!!」

 

 

 

「お、おい、のび子……!?」

「どこに行くの!?」

「のび子ちゃーん……!?」

 

 様子のおかしいのび太、いや、のび子を心配する三人をよそに、のび太は慌てて家に戻る。早くドラえもんを見つけて何とかしてもらわなくちゃ。

 

 しかし、部屋のどこを探してもドラえもんは見つからない。押し入れにも相変わらず布団が詰まっているだけで、机の引き出しを開けてもタイムマシンは出てこず、挙げ句の果てにさっきまでは部屋に置いてあったはずの「もしもボックス」までなくなっている。

 

(ど、どうなってるんだ!? 僕は女の子になっちゃうし、ドラえもんまで……!?)

 

 

「うっ、うぅ……ねぇ、どこにいるの!?」

 

 

 

 

「……ドラえも────────────ん!!!!」

 

 

 

 

 誰もいない部屋の中で、耳をつんざくようなのび太の悲鳴が響き渡った。

 

◇◇◇

 

「うっしっしっ……!」

 

 ちょうどその時。のび太は気づかなかったが、押し入れの中で小さく声がしていた。

 

(のび太くん、気づかないだろうなぁ)

 

 ドラえもんはほくそ笑みながら、「押し入れの中」から聞こえるのび太の声に耳を澄ませる。

 

 そう、押し入れの中だ。

 

 部屋の中にはのび太の姿はなく、もしもボックスが鎮座しているだけ。ドラえもんは押し入れの布団の上でくつろぎながら、どこからか聞こえてくるのび太の悲鳴を聞いている。

 

 ドラえもんは押し入れの奥の壁に顔を近づけ、誰にともなく内心で独りごちる。

 

(まったく、のび太くんったら。最近すーぐ秘密道具に頼ろうとして。今日という日は、このもしもボックスに似てる見た目の『パラレルボックス』でこらしめなくっちゃ……!)

 

 ドラえもんの視線の先には、部屋の畳の上に鎮座するもしもボックスらしき秘密道具。しかし、よく見るとそれは微妙に見た目が違っている。

 

 もしもボックスが全体赤色なのに対し、そのボックスは表側の外装が赤、裏側が青に塗り分けられており、見る方向によって色が変わっている。

 

 そう。それは本当はもしもボックスではなかった。のび太はドラえもんの策略にまんまとハマり、ドラえもんのおしおきを受けていたのだ。

 

(これは二十二世紀で最近発明されたばかりの秘密道具──その名も「パラレルボックス」)

 

(もしもボックスと違って願い事を言うと、願いを言った人を言った願い事通りの「並行世界」に移動させてしまう秘密道具さ……!)

 

(最近発明されたばかりだから、のび太くんが知らないのも無理はないね。うっしっし……)

 

 パラレルボックスは、願いを言った人を願い通りの並行世界に移動させられる反面、願いの内容があいまいだと「願いの内容以外の部分」が移動先の並行世界に反映されていないことがある。

 

 つまり。

 

 あやとりをしてもバカにされない世界。

 

 その願いだけをパラレルボックスが聞き取った結果、のび太が当然だと思い込んで伝えなかった、自分が「のび太」のままで、ドラえもんがいる、という条件が抜け落ちた並行世界にのび太を移動させたということである。

 

(ふぅ、まさかのび太くんが女の子になるとは思わなかったけど。のび太くんの望み通り『あやとりをしてもバカにされない世界』に行けたことだし)

 

(せいぜい向こうの世界で、自分がいかに怠け者だったか、そして僕という存在のありがたみを思い知るがいい……!)

 

(僕はその間、このパラレルボックスとセットでついてくる『並行世界通り抜けミラー』を押し入れの布団の陰に立てかけて──よし、これで向こうの世界から見ても気づかれないようにこっそりのび太くんを観察できるようになったぞ!)

 

(あとはこっそりのび太くんが部屋にいないうちにあっちの世界にあるパラレルボックスを四次元ポケットに戻して元の世界に戻ってっと──よし、これであとはのび太くんを見守って、反省してから元の世界に戻すだけだ)

 

 

「あ〜ん……んー、どら焼き、おいし〜!」

 

 

 ドラえもんはのび太の叫び声を聞きながら、押し入れで優雅にどら焼きを食べ続けた。

 

◇◇◇

 

「──ま、ママ、ドラえもん知らない……!?」

 

「ドラえもん? 誰ですか?」

「ママはそんな人知りません!」

 

「──みんな! ドラえもん見なかった!?」

 

「どらえもん?」

「何だ、それ〜?」

「私、知らないわ……」

 

 

 

「そ、そんな─────……っ!?」

 

 

 

 家でママに、商店街で道ゆく人に、空き地でジャイアン、スネ夫、しずかちゃんに居場所を尋ね、それでもドラえもんを知らないと言われたのび太は絶望していた。

 

 普段であればもしもボックスに願ってもう一度元の世界に戻せばいいのだが、今は何故かそのもしもボックスまでもが部屋から消えてしまった。

 

 完全に帰り道を塞がれ、八方塞がりになったのび太は必死にみんなに説明する。

 

「あ、あの、みんな……! 実はこの世界は、もしもボックスで作り変えられた世界で、本当は僕は『のび子』じゃなくて『のび太』だし、これは全部、ドラえもんっていう二十二世紀から来た子守りロボットのせいなんだよ……!?」

 

「はぁ、何言ってんだ?」

「あはは、のび子のやつ、またおかしなこと言ってらぁ」

「もう、のび子ちゃんったら」

 

 のび太──もとい、のび子の必死の訴えに、ジャイアンもスネ夫も、しずかちゃんでさえも本気にしない。

 

「さては、のび子のやつ、また変なSF映画にでも影響を受けたんじゃないの〜?」

 

「ぶはは! そりゃ傑作だな! やい、のび子! そんなに言うなら、何か超能力でも使ってみろ! ウソだったら俺様がギッタギタにしてやる!」

 

「ひゅーひゅー! ジャイアンやっちゃってー!」

 

「ちょ、ちょっと。たけしさん……!?」

 

 

 

(ひぃー!? どうしてジャイアンの乱暴さだけはこっちの世界でも変わってないんだよ……!?)

 

 

 どうやら、こちらの世界でも「のび子」はいじめられっ子らしい。まったく何で都合が悪いことばかり変わってないんだ。のび太はバキバキと指を鳴らすジャイアンに恐怖を覚えつつ、心配してくれるしずかちゃんの陰に隠れる。

 

「ダメよ! たけしさん、スネ夫さんも! のび子ちゃんは女の子なのよ……!?」

 

(し、しずかちゃん! う、嬉しいけど、違う! 違うんだよー……!?)

 

 両手を広げてかばってくれるしずかちゃんに、内心感謝しつつ、複雑な思いになるのび太。そのうちにもジャイアンとスネ夫はこちらににじみよってきている。

 

「違うよしずかちゃん。僕らはただ、のび子が嘘つきだから、おしおきしてあげてるだけだよ!」

 

「そうそう! ウソをつくやつはロクな大人にならないからな! ガっハハっ!」

 

 

「う……嘘じゃ……嘘なんかじゃないもん……!!」

 

 

「あれ〜? じゃあその『どらえもん』は〜? どこにもいないじゃない? ね、しずかちゃん?」

 

「え、ええ。それは……」

 

 

(そ、そんな、しずかちゃんまで……!?)

 

 

「やーい、ウソつき!」

「やーいやーい!」

 

「「うーそつき!! うーそつき!!!!」」

 

 手を叩いて連呼するジャイアンとスネ夫。もはや三人を含め、空き地にいる子どもたちの中で誰一人として、のび子の言うことを信じようとする子はいなかった。

 

 

 

「う、うぅ……そ、そんなぁ…………っ!!」

 

 

 

「あっ、えっ、の、のび子……?」

「お、おいっ、泣くなって!? そんなつもりじゃぁ……!?」

 

「た、たけしさん、スネ夫さん……!!」

 

「わ、悪かったヨォ!」

「あ、謝るから! な? な!?」

 

 からかうだけのつもりが、さめざめと泣き出したのび子を前にして、慌ててかけよるジャイアンとスネ夫。それをたしなめるしずかちゃん。

 

 しかし、のび太はそれ以上に、かけがえのない友達が一人、居なくなったことの衝撃の方が大きかった。

 

(ドラえもん、まさか、もう、会えないの……?)

 

 悲しみでいっぱいに満たされたのび子の目から大粒の涙が溢れ出し、他の子どもたちもいよいよ困惑してしまう。

 

「わ、悪かったよ。俺たち、もう、帰るから……」

「じゃ、じゃあね……」

 

「の、のび子ちゃん、私も、そろそろ……」

 

 気まずい空気のまま、空き地を去ろうとする子どもたち。のび子は泣き止まないまま、しゃくりあげながら両手で目を擦る。

 

 ドラえもんがいなくなった。

 もう二度と会えないかもしれない。

 他の誰も、分かってくれない。

 

 しかし、のび太が本当に絶望しかけた。

 次の瞬間。

 

 

「──みんな、待って!」

 

 

「え……っ?」

 

 空き地から帰りかけた全員を、一人、呼び止めた奴がいた。のび子はぱっとそちらを振り返る。

 

「野比さんのいうことは、単なる嘘じゃないかもしれない。まずは一度、話を聞いてみようよ」

 

 それはこれまでずっと一人で、空き地の隅に座って絵を描いていた少年だった。彼はどこか真剣な面持ちで、のび子の方を見つめる。

 

 出木杉──出木杉英才。

 

 普段、あまり関わることのない友達が、何故だか自分のことを信じてくれた。

 

「で、出木杉がそう言うなら……」

「出木杉が言うなら仕方ないか……」

「出木杉さん……」

 

 

「野比さん、話してよ。君の言うこと、僕はバカにするつもりは──うわっ!?」

 

 

 

「で……出木杉────────……!!!!」

 

 

 

「の、野比さん!? お、落ち着いて……!?」

 

 いきなり抱きついてきたのび子の予想外の行動に、図らずも顔を赤くして狼狽える出木杉。

 

 その瞬間、のび太は思いついた。

 出木杉なら、この天才なら──何か、元に戻るための方法を思いついてくれるかもしれない。

 

 そしてその瞬間、のび太の新たな依存先として、ドラえもんに変わり、出木杉が登録された。

 

 

「う、うぅ……あ、ありがとう。出木杉ぃ……!」

 

「う、うん。よく分からないけど、大丈夫。話を聞くよ」

 

「うん…………!!!!」

 

 

 よぅし。明日からは、ドラえもんじゃなく、出木杉に何とかしてもらおう────!

 

 のび太がそう決意した時、のび子の部屋の押し入れの中で、誰かが盛大にずっこける音がした。

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