帰ってきたら幼馴染が魔王になっていた件 作:殿下に脳焼かれたい
「あなたも手伝ってくれないかしら?」
「やっぱりそうなるの!?」
久しぶりに帰ってきた故郷。
久しぶりに会った幼馴染。
その幼馴染は何故か魔王になっていて。
再会して早々、新しい仕事まで紹介された。
情報量が多い。
「いや、ちょっと待って」
「ええ」
「まずバベルって何?」
「そこから説明した方がよさそうね」
「お願いします」
何も分からないまま加入するのは流石に怖い。
何より。
テレジアが作ろうとしている組織。
この時点ですでに普通じゃない気がする。
「そうね……どこから話しましょうか」
テレジアが少し考える。
「私がやりたいのは、サルカズが今までとは違う未来を選べるようにすることよ」
「違う未来?」
「ええ」
テレジアは静かに頷く。
「私たちは長い間、争い続けてきたわ」
「…………」
それは僕も知っている。
むしろ。
カズデルを出てから嫌というほど見た。
戦場にいるサルカズ。
傭兵として雇われるサルカズ。
国を追われたサルカズ。
他の種族から嫌われているサルカズ。
「貧困や病気で苦しむ人たちもいる。学ぶ機会さえ持てない子供たちもいるわ」
テレジアの声は穏やかだった。
だけど。
その目は真剣だった。
「だから私は、そういう人たちを少しでも減らしたいと思っているの」
「…………」
「医療や教育、それだけではないわ。国や種族が違っても、互いに手を取り合える場所を作りたい」
テレジアが僕を見る。
「それが、私の考えているバベルよ」
「……なるほど」
思っていたよりずっと大きな話だった。
いや。
魔王が作ろうとしてる組織なんだから、そりゃそうなのかもしれない。
「どうかしら?」
「無理じゃない?」
「…………」
テレジアが瞬きをする。
「○○?」
「いや、違う違う!」
流石に言い方が悪かった。
「無理っていうか……めちゃくちゃ難しいと思う」
「そうね」
あっさり認められた。
「僕、外で色々見てきたけどさ」
「ええ」
「サルカズを嫌ってる人なんて、いくらでもいるよ」
テレジアは何も言わず聞いている。
「理由もなく嫌ってる人もいた」
「…………」
「サルカズってだけで武器を向けられたこともあるし」
「そう……」
「傭兵ならまだマシって扱いされる場所もあった」
思い返してみる。
楽しい旅ばかりじゃなかった。
むしろ。
ろくでもないことの方が多かった気もする。
「だから……」
僕はテレジアを見る。
「本当に大変だと思うよ」
「ええ」
テレジアは静かに頷いた。
「分かっているわ」
「反対するサルカズだって多いと思う」
「それも分かっているつもりよ」
「失敗するかもしれない」
「そうね」
「…………」
全部分かってる。
それでも。
テレジアの表情は変わらない。
「それでもやるの?」
僕が聞く。
テレジアは少しだけ微笑んだ。
「ええ」
迷いのない答えだった。
「私はね」
テレジアがゆっくりと言葉を続ける。
「難しいからといって、諦めてしまいたくはないの」
「…………」
「今すぐ全てを変えることはできないわ」
「ええ」
「でも、一人でも救える人がいるのなら」
テレジアは胸元へ手を添える。
「私は、そのために出来ることをしたいと思っているのよ」
「…………」
昔からそうだった。
困っている人を見つけると放っておけない。
自分にできることがあるなら、迷わず手を差し伸べる。
そして一度決めると。
絶対に曲げない。
「……変わってないなぁ」
「?」
「いや、何でもない」
魔王になった。
王様になった。
姿だって昔よりずっと大人っぽくなった。
でも。
中身は思っていたより変わっていないのかもしれない。
「ただ」
僕は一つ気になったことを思い出す。
「バベル作るってことは、テレシスも手伝ってるの?」
「…………」
テレジアの表情が少しだけ変わった。
「テレシスは――」
「呼んだか」
後ろから声。
「うわぁ!?」
思わず飛び上がる。
「テレシス!?」
いつ入ってきた!?
扉の方を見る。
そこには一人の男が立っていた。
大きな体。
鋭い目。
全身から漂う威圧感。
昔よりずっと逞しくなっている。
正直。
怖い。
「…………」
「…………」
しばらく見つめ合う。
向こうも僕を見ている。
「……○○か」
「…………テレシス?」
「ああ」
「…………」
「なんだ」
僕はテレシスを上から下まで見る。
「お前……」
「?」
「怖くなったなぁ」
「久方ぶりに会って最初の言葉がそれか」
「あっ」
変わってない。
声の感じは昔と全然変わってない。
「いやいや!久しぶり!」
「ああ」
「元気だった?」
「見れば分かるだろう」
「そういうところも変わってない!」
テレシスが小さく息を吐く。
「お前は本当に何も変わらんな」
「そんなことないだろ」
「変わってないわね」
「テレジアまで!?」
また二対一になった。
昔からこうだった気がする。
「というか」
僕は改めてテレシスを見る。
「将軍なんだって?」
「ああ」
「本当に?」
「何が言いたい」
「昔、訓練で転んでたテレシスが?」
「○○」
「はい」
声が怖い。
これ以上はやめておこう。
命は大事。
「そういえばテレジア」
テレシスがこちらから視線を外す。
「何故こいつがここにいる」
「帰ってきたのよ」
「見れば分かる」
「そして、バベルに誘っていたところなの」
「…………」
テレシスが僕を見る。
「お前を?」
「そう」
「何だよその顔」
「いや」
「絶対何か思っただろ」
「適材適所という言葉について考えていた」
「どういう意味!?」
テレジアが小さく笑っている。
「でも、ちょうどいいかもしれないわ」
「何が?」
「あなたは色々な国を旅してきたのでしょう?」
「まあ……」
「なら、その経験はバベルでもきっと役に立つわ」
「経験ねぇ」
傭兵。
護衛。
商隊。
迷子。
盗賊。
戦争。
色々あった。
「戦闘は?」
テレシスが聞いてくる。
「それなり」
「それなりとは」
「普通に戦えるくらい?」
テレシスが僕の体を見る。
「昔よりは鍛えられているようだな」
「百年以上旅してれば嫌でもね」
「ほう」
「その顔やめて」
なんでちょっと試したそうなの?
「○○」
テレジアが口を開く。
「無理にとは言わないわ」
「…………」
「長い間旅をしていたのだもの。しばらくゆっくりしたいのなら、それでもいいのよ」
テレジアらしい。
強制はしない。
僕が断っても、きっと普通に受け入れるだろう。
だからこそ。
少し考える。
長い旅の間。
僕は本当に色々なものを見た。
争い。
病気。
差別。
腹を空かせた子供。
明日のことさえ分からない人たち。
何度も思った。
どうしようもない世界だなって。
それでも。
目の前の幼馴染は。
「どうにかしたい」
と言っている。
「…………」
「○○?」
僕は頭を掻く。
「難しいぞ」
「ええ」
「多分、思ってるよりずっと大変」
「そうね」
「僕、途中で逃げるかも」
「あら」
「否定してよ!」
「あなたならありそうだもの」
「ひどい!」
テレシスが横で小さく頷いた。
「俺も同意見だ」
「お前ら本当に僕の幼馴染!?」
二人とも昔より扱い酷くなってない!?
でも。
まあ。
この感じ。
嫌いじゃない。
「……分かった」
僕はテレジアを見る。
「手伝うよ」
テレジアが一度瞬きをする。
「本当に?」
「ああ」
「さっき逃げるかもしれないと言っていたが」
「テレシスは黙ってて!」
今ちょっといい場面なんだから!
テレジアはそんな僕たちを見ながら、柔らかく笑った。
「ありがとう、○○」
「別に」
僕は少し照れくさくなって視線を逸らす。
「昔から、お前が言い出したら止まらないし」
「そうかしら?」
「そうだよ」
テレシスもいるだろ。
今まで何度巻き込まれたと思ってるんだ。
「それじゃあ」
テレジアが立ち上がる。
「改めて歓迎するわ」
僕を見る。
その表情は。
魔王としてでも。
王としてでもなく。
僕の知っているテレジアの笑顔だった。
「バベルへようこそ、○○」
「よろしく」
こうして。
久しぶりにカズデルへ帰ってきた僕は。
魔王になっていた幼馴染に誘われ。
バベルという組織へ入ることになった。
「ところで○○」
「ん?」
「明日から早速お願いしたい仕事があるのだけれど」
「…………」
早くない?
「テレジア」
「なに?」
「僕、昨日帰ってきたばっかりなんだけど」
「ええ」
「休暇は?」
テレジアは少し考えた後。
優しく微笑んだ。
「お仕事が落ち着いたら取りましょうね」
「それ取れないやつ!!」
テレシスが呆れたように息を吐く。
「自分で入ると言ったのだろう」
「加入一分で後悔してる!」
「ふふ……これからよろしくね、○○」
「笑って誤魔化すなー!」
長い旅を終えて帰ってきた故郷。
どうやら。
僕の新しい生活は――
思っていたより忙しくなりそうだった。
口調あってますかね?