帰ってきたら幼馴染が魔王になっていた件 作:殿下に脳焼かれたい
読みにくいとかあれば教えてもらえると嬉しいです
バベルに加入して数日。
僕は人生で初めて――というわけではないが、少なくともバベルに入ってからは初めてとなる任務へ向かうことになった。
「今回の任務は、近隣の集落への物資輸送と周辺状況の確認だ」
出発前。
ケルシーが机の上に広げられた地図を指差しながら説明している。
僕はその隣に立ち、地図を覗き込んだ。
目的地まではそこまで遠くない。
食料や医薬品を運びながら、道中に危険がないか確認する。
話を聞く限りでは、そこまで危険な任務には思えなかった。
「なるほど」
「分かったか?」
「ああ。荷物を届けて帰ってくればいいんだろ?」
「……」
ケルシーが黙った。
なんだその目は。
「何?」
「今の説明を聞いて、その結論に至ったことに少し不安を覚えただけだ」
「ちゃんと聞いてたよ!?」
「ならば問題ない」
絶対信用してないだろ。
加入した初日から思っていたが、どうにもこの女医からの僕への信用が低い。
というより、ほぼない。
初出勤から信用がなかったが、初任務になってもどうやら状況は変わらないらしい。
「○○」
後ろから声を掛けられて振り返る。
「テレジア」
いつの間に来たのか、テレジアがこちらへ歩いてきていた。
「もう出発するの?」
「ああ。これから」
「そう」
テレジアは僕の格好を上から下まで確認する。
その視線が妙に真剣だった。
「……何?」
「忘れ物はない?」
「子供じゃないんだから」
「あなたは昔から、そう言ってよく忘れ物をしていたでしょう?」
「昔の話だろ」
百年以上前の失敗を引っ張り出すな。
しかもケルシーがいる前で。
ちらっと横を見る。
ケルシーはこちらを見ていた。
「なるほど」
「何がなるほどなんだよ」
「いや。今後の参考になった」
「何の!?」
嫌な情報を渡してしまった気がする。
テレジアはそんな僕たちを見て小さく笑った。
「ふふっ」
「テレジアまで笑うなよ」
「ごめんなさい。でも、二人とも随分仲良くなったのね」
「どこを見たらそうなるんだ?」
「同感だ」
そこだけは僕とケルシーの意見が一致した。
テレジアはますます楽しそうに微笑む。
「それなら、出発する前に一つだけ」
さっきまで柔らかかったテレジアの表情が少しだけ真面目になる。
「無理はしないでね」
「分かってるって」
そう答えた瞬間。
隣から視線を感じた。
「……何?」
「その言葉を簡単に口にする人間ほど信用できない」
「なんでだよ!?」
「経験則だ」
「まだ僕のこと何も知らないだろ!」
「だからこれから確認する」
ケルシーはそう言って歩き出した。
……やっぱり僕、信用されてないよな?
「頑張ってね」
テレジアが笑顔で手を振っている。
「おう! 行ってくる!」
そうして。
僕のバベルでの初任務が始まった。
――――――――――――――――――――――――――――――
任務を開始して数時間。
今のところ、特に大きな問題は起きていなかった。
物資を積んだ車両は順調に進んでいる。
周囲には数人のバベルの構成員。
そして僕の少し前をケルシーが歩いていた。
「思ってたより平和だな」
僕は辺りを見渡す。
荒れた大地。
遠くに見える岩山。
長く旅をしてきた僕にとっては、珍しくもない景色だった。
「油断するな」
前を歩いていたケルシーがこちらを見ることなく言った。
「分かってるよ」
「先程も聞いた」
「はいはい」
……本当に厳しいな。
そう思いながら歩いていると、ふと違和感を覚えた。
足を止める。
「……?」
風が吹く。
砂埃が地面を転がっていく。
それだけ。
「どうした?」
ケルシーがこちらを見る。
「いや……」
何かがおかしい。
さっきまで微かに聞こえていたはずの音がない。
鳥。
小動物。
この辺りに来た時には確かにいた。
「静かすぎる」
僕がそう言うと、ケルシーの目つきが変わった。
「詳しく話せ」
「少し前まで鳥の声がしてた。でも今は全然聞こえない」
僕は近くの地面へ視線を落とす。
「それに……」
車輪の跡。
僕たちのものではない。
比較的新しい。
「この道、最近誰か通ってる」
ケルシーがしゃがんで跡を確認する。
数秒後、すぐに立ち上がった。
「全員、警戒態勢。物資を中央へ」
周囲の空気が変わる。
バベルの人たちがすぐさま動き始めた。
僕も武器へ手を掛ける。
「へぇ」
「何だ?」
「ちゃんと僕の話、信用してくれるんだな」
「根拠のある情報まで無視するほど愚かではない」
「一言多いんだよなぁ……」
でも。
少しだけ嬉しかった。
少なくとも、何を言っても疑われるほどではないらしい。
その直後だった。
――ガァンッ!!
前方で大きな音が響いた。
「来るぞ!」
岩陰から複数の武装した人間が飛び出してくる。
狙いは――。
「物資か!」
僕たちではなく、明らかに積荷へ向かっている。
「物資を守れ! 無理に追う必要はない!」
ケルシーの指示が飛ぶ。
「了解!」
僕も武器を抜いた。
目の前から一人。
振り下ろされた武器を身体をずらして避ける。
そのまま相手の体勢が崩れたところへ一撃。
倒した。
「次!」
後ろ。
気配を感じて振り返る。
武器同士がぶつかった。
重い。
真正面から受け続ける必要はない。
少し力を抜き、相手の攻撃を横へ流す。
そのまま距離を取った。
長い間旅をしていると、嫌でも覚える。
敵を綺麗に倒す方法じゃない。
どうやったら生き残れるか。
どうしたら逃げられるか。
戦わなくて済むなら、それが一番いい。
「右から二人!」
仲間の声。
「分かった!」
横から来た相手を牽制しながら、物資から離れるように誘導する。
倒す必要はない。
時間を稼げばいい。
「……」
一瞬、ケルシーと目が合った。
何か言いたそうな顔をしている。
まあ、今は後回しだ。
数分も経たないうちに襲撃者たちは撤退を始めた。
追いかけようとする者もいたが、
「追うな!」
ケルシーが止める。
「物資と負傷者の確認を優先しろ」
僕も武器を下ろした。
「ふぅ……」
久々にちょっと動いたな。
そんなことを考えていた時。
「誰か!」
声がした。
振り返る。
少し離れた場所。
避難していた人たちの近くに、さっき撤退したはずの襲撃者が一人残っている。
その目の前にいたのは、小さな子供だった。
「っ!」
僕の身体が先に動いた。
「待て!」
後ろからケルシーの声。
でも止まれなかった。
地面を蹴る。
相手が武器を振り上げる。
間に合え。
「危ない!」
子供を抱えて、その場から飛び退く。
次の瞬間。
鋭い痛みが走った。
「ぐっ……!」
脇腹が熱い。
完全には避けられなかった。
でも。
腕の中の子供を見る。
怪我はない。
「大丈夫か?」
震えながら、小さく頷く。
「よし」
それならいい。
「下がれ!」
バベルの仲間が駆けつけ、残っていた襲撃者を取り押さえる。
僕もゆっくり立ち上がった。
「いてて……」
傷を見る。
まあ、これくらいなら――。
「○○」
低い声。
「……」
嫌な予感がした。
振り返る。
ケルシーが立っていた。
「えっと」
「座れ」
「でも」
「座れ」
「はい」
有無を言わせない圧だった。
その場に座る。
ケルシーが僕の傷を確認する。
「幸い深くはない」
「だろ? だから――」
「だから問題ない、と?」
「……」
言おうと思ってた。
「結果だけを見て、自分の判断を正当化するな」
ケルシーは傷の処置をしながら淡々と言う。
「お前があの子供を助けたこと自体を否定するつもりはない。しかし、お前が負傷したことで護衛戦力は一人減った。傷が深ければ運搬する人員も必要になる。そして最悪の場合、救助した相手を含めた全員を再び危険に晒す可能性もあった」
「……」
「一人で旅をしていた時とは違う。組織の中では、お前の生死も計画の一部だ」
包帯が巻かれていく。
「誰かを助けるために動くなとは言わない。だが、自分だけで全てを完結させようとするな」
ケルシーが僕を見る。
「お前一人で完結する仕事ではない」
「……分かった」
さすがに反論できなかった。
子供を助けられた。
だから良かった。
ずっとそう思ってきた。
でも僕が倒れれば、その後誰かが困る。
今まで一人で旅をしていた時には、あまり考えなかったことだ。
「悪かった」
「理解したならいい」
思っていたより素直に終わった。
「……」
「何だ?」
「いや、もっと怒られるかと」
「必要な説明はした」
「なるほど」
ケルシーは立ち上がる。
僕も少し遅れて立ち上がった。
「ちなみにさ」
「何だ」
「初任務の僕、何点?」
「……」
ケルシーがこちらを見る。
まずい。
聞く相手を間違えたかもしれない。
「周囲の異変に気づいた点については評価できる。戦闘に関しても長期間旅をしていたという話が虚偽ではないことは理解した。しかし、単独行動の癖が強く、命令より自身の判断を優先する傾向がある。それが状況によっては致命的な――」
「ちょっと待って」
「何だ?」
「つまり?」
ケルシーが一瞬黙る。
「……使えない人材ではない」
「褒めるの下手すぎない?」
「褒めた覚えはない」
「やっぱりそうだよな……」
「何を期待していた?」
「少しくらい褒めてくれてもいいだろ」
「任務を終えただけだ」
「厳しいなぁ……」
本当に容赦ないな、この人。
――――――――――――――――――――――――――――――
その後。
集落へ無事に物資を届け、僕たちはバベルへ戻ってきた。
初任務。
負傷一名。
僕。
……格好がつかない。
まあ任務自体は成功したし、良しとしよう。
「ただいまー」
建物の中に入る。
「おかえりなさい」
聞き慣れた声。
テレジアがこちらへ歩いてくる。
「無事だった?」
「ああ。特に問題――」
テレジアの視線が僕の脇腹へ向いた。
包帯。
「……」
「……」
まずい。
「○○?」
笑顔だった。
笑顔なのに、なんだか怖い。
「いや、これは」
「無理はしないでね、と言ったわよね?」
「不可抗力というか」
「ケルシー?」
僕ではなくケルシーに聞いた。
「本人の独断だ」
「おい!」
あっさり事情を説明された。
「ケルシー!?」
「事実だ」
「否定はできないけど!」
テレジアが僕を見る。
「……○○?」
「はい」
「少しお話しましょうか」
「はい……」
終わった。
初任務から二回怒られるとは思わなかった。
ケルシーに視線を送る。
助けてほしい。
そんな思いを込めた。
「私は報告書がある」
「ちょっと待て!」
「仕事だ」
「少しくらい助けてくれてもいいだろ!」
ケルシーは振り返ることなく去っていった。
本当に容赦がない。
「○○」
「……はい」
再びテレジアを見る。
でも。
テレジアは怒っているというより、本当に心配しているようだった。
「怪我は大丈夫なの?」
「ああ。ケルシーが処置してくれた。大した傷じゃない」
「そう……」
テレジアは安心したように息を吐く。
「ならよかったわ」
「心配かけて悪かった」
「本当よ」
そう言いながらも、テレジアは小さく笑った。
「昔は私たちがあなたに『無茶をしないで』と言っていたのに、百年以上経っても変わらないのね」
「……僕ってそんなだった?」
「ええ」
即答された。
そんなにか。
テレジアの視線が、僕の服へ移る。
戦闘で少し破れていた。
「服も破れてるな。後で直さないと」
僕が破れた部分を確認していると。
テレジアの動きが止まった。
「……?」
「テレジア?」
「その服……」
テレジアがゆっくり近づいてくる。
破れた部分ではない。
何度も縫い直した跡。
ずっと旅をしてきた間に、自分で適当に直した場所だった。
テレジアがそこへそっと触れる。
「これ……」
「ん?」
テレジアは何かを言いかけた。
でも。
少しだけ懐かしそうに笑う。
「……いいえ」
「何だよ。気になるだろ」
「なんでもないわ」
「絶対何かある言い方じゃん」
「ふふっ」
テレジアは答えてくれなかった。
仕方なく僕は自分の部屋へ向かう。
その背中を。
テレジアはしばらく見つめていた。
そして僕に聞こえないくらいの、小さな声で呟く。
「……まだ持っていてくれたのね」
タイトルを守れる範囲でサブヒロインとかも追加したいと考えてます
感想等お待ちしております