ハズレ職【長老】、最弱なのでまともには戦いません ~年金とゲートボールで格上をハメる俺と、残念な最強勇者~ 作:冷凍シャケ
黒咲と白神は深い森の中を歩いていた。
「白神ぃ~」
「なんだい?」
「意外とモンスターって出てこないもんなんだな」
「そうだね」
白神は周囲を観察する。
「初級レベルのモンスターが多い場所なら、エンカウント頻度も低いのかもしれない」
「平和だなぁ」
「良いことだね」
「ちなみにお前、武器あるの?」
「何を言っているんだい?」
白神が胸を張った。
「僕にはこんなにも素晴らしい鋼の肉体がある」
「え?」
黒咲が真顔になる。
「お前、裸一貫なの?」
「服は着ているよ」
「そういう意味じゃねぇよ」
「いざとなればバックパックに入っている便器を投げつけよう」
「そんな勇者見たくねぇよ……」
「陶器だから意外と威力はあると思う」
「勇者の初期武器が便器になるじゃん」
その時。
ガサッ。
茂みが揺れた。
「お?」
黒咲が止まる。
「なんかいるぞ」
「ほう?」
白神の顔が輝く。
「僕のラジエルトお披露目の時かな?」
「いやいや」
黒咲は少し笑う。
「最初のモンスターだろ?」
「そうだろうね」
「ちっこいローションみたいなやつじゃない?」
「スライムと言いたまえ黒咲君」
「似たようなもんだろ」
「かなり違うと思うよ」
茂みが大きく揺れる。
ズシン。
「…………」
黒咲の笑顔が消えた。
ズシン。
木々の隙間から巨大な影が現れる。
二メートルを軽く超える巨体。
豚のような頭部。
隆起した筋肉。
右手には、人間一人くらいなら簡単に潰せそうな巨大な棍棒。
黒咲はゆっくり白神を見る。
「お……おぉ……」
「うん?」
「白神教授」
「なんだい、黒咲君」
「なかなか大きな豚さんが登場しましたよ」
白神も真顔で観察する。
「これは、かの有名なオークですな」
「白神教授」
「何かな」
「手にでっかいの持ってますけど」
「棍棒ですなぁ」
「棍棒ですかぁ」
「倒木を削って作ったのでしょう。意外にも繊細な作業が出来るのですなぁ」
「感心してる場合ですかねぇ」
「知的好奇心は大切ですからなぁ」
「白神教授」
「はい」
「背中になんか生えてるんですけど」
「…………」
二人が見る。
オークの背中。
そこから。
巨大な黒い翼が生えていた。
「翼ですな」
「翼ですねぇ」
「王様が言っていた異常進化個体でしょうな」
「…………」
黒咲が辺りを見る。
静かすぎる。
初心者向けの森。
なのに。
スライム一匹いない。
ホーンラビットもいない。
鳥の声すらない。
「白神教授」
「なんでしょう」
「もしかして雑魚モンスターがいないのって……」
「おそらくですが」
白神がオークを見る。
「ここは彼の巣ですなぁ」
「…………」
「…………」
オークがこちらを見る。
目が合った。
「ブゴォォォォォォォォォ!!」
森全体が揺れるほどの咆哮。
黒咲と白神の髪が風圧で靡いた。
「白神教授」
「はい」
「どうします?」
白神は一秒だけ考えた。
「逃げます」
「ですよねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
二人は同時に反転した。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
勇者と長老。
異世界初戦闘。
――開幕、全力逃走である。