ハズレ職【長老】、最弱なのでまともには戦いません ~年金とゲートボールで格上をハメる俺と、残念な最強勇者~ 作:冷凍シャケ
「うおおおおおおおおおお!!」
森の中を、二人の高校生が全力で駆け抜けていた。
正確には――。
一人は全力。
もう一人は、かなり余裕そうだった。
「黒咲君」
「なんだよ!!」
「長老の割には足が速いね」
「うるせええええええええ!!」
黒咲は必死に走りながら怒鳴った。
その隣を白神が涼しい顔で並走している。
息一つ乱れていない。
「おそらくだが」
「今分析すんな!!」
「ステータスに表示される数値は、元々の身体能力に加算される補正値なのかもしれないね」
「知らねぇよ!!」
「そう考えると、黒咲君の敏捷値が低い割に速いことにも説明がつく」
「こっちは豚に殺されそうなんだよ!!」
後方。
「ブオオオオオオオオオ!!」
バサァッ!!
翼の生えたオークが低空飛行で追ってくる。
「くっそ……!」
黒咲が振り返る。
「白神は大丈夫だろうけど、ステータスが低すぎる俺は……」
オークが棍棒を振り上げた。
「ってかアイツ、豚の癖に速――」
ブンッ!!
「うぉ!?」
風圧が背中を掠めた。
次の瞬間。
「黒咲君」
「は?」
体が浮いた。
「――え?」
白神が黒咲を肩に担いでいた。
「ちょ、お前!」
「この方が速いよ」
「荷物みたいに持つな!!」
「非常に軽いね」
「感想言うな!」
白神が加速する。
先ほどまで黒咲に合わせていたらしい。
景色が横へ吹き飛ぶ。
「はっや!?」
「勇者補正はなかなか優秀みたいだ」
「お前さっきまで手ぇ抜いてたの!?」
「並走したかったからね」
「親友感出してる場合じゃねぇよ!!」
だが。
それでも。
「ブオオオオオオ!!」
オークは離れない。
翼を広げ、木々の間を強引に突っ切ってくる。
白神が僅かに眉を動かした。
「……このままでは埒が明かないね」
「だからどうすんだよ!」
「やるしかないみたいだ」
「……マジ?」
白神が急停止。
「うぉっ!?」
黒咲を地面へ降ろす。
「黒咲君、少し離れていたまえ」
「お前、いけるの?」
「勇者専用スキルを試そう」
白神が右手を前へ出す。
オークが突進してくる。
黒咲は一歩下がった。
「……頼むぞ」
白神の周囲に魔力が集まる。
空気が震えた。
「来い……!」
白神が叫ぶ。
「――ラジエルト!!」
ピカーーーーン!!
「おおっ!?」
森の中に眩い光が迸った。
白神の右手へ、強烈な光が集まる。
黒咲が思わず目を細めた。
「マジか……!」
これまでのふざけたやり取りとは明らかに違う。
本物の魔法。
本物の異世界の力。
白神の手の中で、光が膨れ上がり――。
そして。
ニュルゥウ~~……。
「…………」
光が。
ゆっくり。
ゆっくりと。
白神の手から垂れてきた。
ボトッ。
地面へ落ちる。
ペチョ……。
「…………」
黒咲。
「…………」
白神。
「…………」
二人は地面を見る。
ピンク色の何かが、申し訳程度に光っていた。
「…………」
風が吹く。
「……白神」
「…………」
白神は自分の手を見る。
地面を見る。
もう一度、自分の手を見る。
「……捻り出したよ」
「捻り出してんじゃねぇよおおおおお!!」
黒咲の絶叫。
「ブオオオオオオ!!」
「逃げるぞ!!」
「そうしよう!」
二人は再び走り出した。
「なんだ今の!? 必殺技だろ!?」
「そのはずなんだがね」
「なんで必殺技がニュルッて出てくんだよ!」
「配管が詰まっているような感覚だね」
「排水管じゃねんだよ!!」
白神は走りながら自分の掌を眺める。
「おかしいなぁ……」
「何がだよ!」
「僕は聖なる力を持つというのに」
「ただの性なる力だろ!!」
黒咲が後ろを指差す。
「見ろ! あのチープなピンク色を!」
「美しいね」
「美しくねぇよ!」
「淡い発光が幻想的だ」
「欲まみれだから濁って固体化してんだよ!」
白神は真顔で首を傾げる。
「説明には『聖なる黄金色の光が自身を纏う』と書いてあるんだけどね」
「纏うどころか、チューブから出したワサビみたいに垂れてんじゃねーかよ!」
「粘性があるね」
「分析すんな!!」
ドゴォォォン!!
直後。
背後で棍棒が地面を砕いた。
「うわっ!」
「かなり怒っているみたいだ」
「そりゃ目の前でピンク色の変なの垂らされたら怒るわ!」
「僕でも少し不快だね」
「本人が言うな!」
「どうするんだい?」
「それ俺の台詞だよ!!」
黒咲は走りながら振り返る。
離れない。
むしろ近づいている。
「どうすんだよ!! アイツずっと追いかけてきてるぞ!」
「任せてくれたまえ、黒咲君!」
「お?」
白神が走りながら振り返る。
「さっきのでコツは掴んだよ!」
「いけるんだな!?」
「おそらく」
「おそらく!?」
「今度はいける気がする」
「信じて良いんだな!?」
「任せたまえ!」
「頼んだぞ勇者ぁぁぁ!!」
「おおおおお!!」
白神の目に、謎の自信が宿る。
「今ならぁぁぁ!!」
右手をオークへ向ける。
「出せる気がするうううう!!」
「その言い方やめろぉぉぉ!!」
白神の右腕へ魔力が集まる。
先ほどとは比較にならない。
空気が震える。
木の葉が舞う。
光が収束していく。
「おっ!?」
黒咲の表情が変わった。
「今度はマジでいけんじゃね!?」
「はぁぁぁぁああああ!!」
白神が叫ぶ。
「ラジエルトォォォ!!」
ビュルルルルルルル……。
「…………」
ピンク色の何かが白神の手から飛び出した。
数メートル。
いや。
一メートル半。
ぽとっ。
ぽとっ。
ぽとっ……。
地面に落ちた。
「…………」
走る二人。
「…………」
飛んでくるオーク。
「…………」
白神は自分の手を見た。
そして。
「……ちょっと出たね」
「じゃねぇえええだろおおお!!」
黒咲の絶叫が森に響く。
「うおおおおおおお!!」
二人は再び全力疾走。
「さっきより飛距離は伸びたよ!」
「成長報告いらねえんだよ!!」
「恐らくコツを掴み始めている」
「そのコツ掴む前に俺たちが死ぬわ!!」
バサァッ!!
「ブオオオオオオオ!!」
背後からオークの咆哮。
「なにやってんだ! しょんべん勇者!!」
「随分な呼び名だね!」
「何がラジエルトだ!!」
黒咲が走りながら怒鳴る。
「そもそも光ですら無いだろが!!」
「発光はしているよ!」
「申し訳程度にな!!」
「ピンク色だね!」
「お前の煩悩色だよ!!」
「説明では黄金色なんだがね!」
「じゃあ完全に不良品じゃねえか!!」
「勇者専用なのだけれど」
「返品してこい!!」
「レシートがないよ」
「そういう問題じゃねぇ!!」
ドゴォォォン!!
背後で再び棍棒が地面を砕いた。
「うおおおおおおおおおお!!」
走る。
ひたすら走る。
最強職【勇者】。
ハズレ職【長老】。
異世界で初めて遭遇した強敵を前に――。
二人は今日も。
とても主人公とは思えない勢いで、全力逃走していた。