転生して最強になっても、妹は俺を逃がしてくれない 作:ゴロスケ
時刻は23時を回っていた。俺は今、学院内を散歩している。
いや、どちらかというと探索といった方が正しいだろうか。
「目新しい書物でもあればと思ったんだが……」
魔力学院図書室。そこにこそ未知の知識が眠っているはずだと少しは期待していたが、どれもこれもがクロフォード家の書庫に保管されている文献の焼き直しに過ぎなかった。
あの時、アリス……優奈が見せた魔力の解析になるヒントの一つでも欲しかったが結果は徒労に終わった。
やはり、自力で魔力の真理に辿り着くしか方法はないのだろうか?
カナデには悪いが、早々に退学して鍛錬に打ち込むのも選択肢として考慮に入れる必要がありそうだ。
まあ、流石に入学初日で投げ出すつもりはないが……。
前世では、この先にすら行けなかった。
今日、席に座って悪くないと思ったのは、まだ消えていない。
「誰!?そこにいるのは!」
鋭い声が、闇夜を切り裂いた。
魔力による感知能力が働いたのか?俺の位置が正確に把握されている。
振り返るとそこには……あの白銀髪の少女が立っていた。
「こんな時間に……あなたは?」
「あ、いや。俺は……」
「待って」
警戒心を露わにする彼女に名乗ろうとするも、制止されてしまった。
「あなた、もしかして……アルフェン様の弟かしら?」
思わぬところで兄の名前が出てきた。
なるほど、どうやら誤魔化すのは無理らしい。まあ今更どうしようもないが。
「兄をご存知で?」
「ええ。あたしはフレイア・エアハート。あなたのお兄さんには一年生の時にお世話になったわ」
要するにアルフェンの後輩ということか。
ならば、多少は話しやすいかもしれない。
「ミナト・クロフォードです。本日からこの学院に通うことになりました」
「あなたが噂の弟さん……うん、宜しくね、ミナト第二王子殿下……学校の中じゃミナトくんでいいかしら?」
「はい、それでお願いします」
互いに握手を交わす。整った顔立ちと凛々しい佇まい。
背丈は平均的だが、風格は人並み外れている。
魔力量も中々のものだ。
少なくとも魔力学院の首席という肩書きに疑いはなく、アルフェンには劣るものの同年代の中で抜きん出ていることは間違いない。
「それで?何でこんな夜更けに図書館を訪れていたのかしら?」
「ええ、まあ……魔力に関して調べてまして」
「硬いわね。いいわよ、普通にタメ口で話して。あなた、身分とか気にしないタイプでしょう?」
初対面で中々核心をつく。
一応は年上かつ王女相手に馴れ馴れしい態度は憚られるが、本人がそう言うなら遠慮なく行かせてもらうことにする。
「わかった、そうするよ。フレイア先輩」
「うん、それでいいわ。事情もちゃんと聞いてるから。あたしから誰かに吹聴するつもりはないから安心して」
ミリウスからの情報通り、フレイアは俺の立場を承知していたようだ。ならば問題はない。
「ミナトくん、勉強熱心なのはいいけど、校則違反は校則違反よ。寮の門限は22時30分と決まってるの」
鋭い目つきで咎めてくる。
規則を破った点については申し開きようがない。
「今回はあたしで良かったけど、気をつけなさい。特にあなたの場合王家とお父様のやり取りが絡んでいる可能性もあるから余計な火種を作らないことね」
見事なまでの正論である。反論の余地なしとかこのことか。
まあ、入学初日ということもあり多少は疲れもある。そろそろ戻るかと腰を上げたところだった。
「……あなたの魔力、興味深いわね」
「ん?」
「これでも魔力を視る訓練を積んでいるつもりなの。あなた、あたしの魔力感知を欺いていたでしょう?」
現状、俺は魔力量を最大限に抑制している。
ミリウスの忠告通りに行動しただけだが、そのことが却ってフレイアの警戒を招いたらしい。
「ふぅん……」
彼女はじっと俺を値踏みするように観察する。視線が妙に刺々しい。
暫く考え込んだ後、フレイアは意を決したように言った。
「悪いけど──少し試させてもらうわ」
瞬間、彼女は魔力斬を生成し、手に持つ。
何の躊躇もなく、信じられない速度でその刃を俺に放ってきた。
だが──。
「な!?」
無論、俺の周囲には予め展開させてある魔力障壁が存在しており、彼女の魔力斬は弾かれる。
「随分と大胆な行動だな」
「くっ……!」
苦悶の表情を浮かべつつシールドへの攻撃を止めないフレイア。
魔力操作は精度が高いが、単純な出力が不足している印象だ。俺のシールドを突破するには至らない。
俺は右手の中指に魔力を込める。そのまま彼女の魔力斬に近づけ……。
「っ!?」
指先に集中させた魔力を放出した。
途端、フレイアの魔力斬が木っ端微塵に粉砕される。
「う、嘘……あたしの斬撃を指一本で……!」
「こう見えても王国じゃ魔力ゴリラとして名を馳せているからな」
「……信じられない」
親父との決闘もまんざら無駄ではなかったらしい。
驚愕から立ち直ったフレイアは、生成していた斬撃を指先で霧に戻した。
「アルフェン様の話通り……いや、それ以上ね」
一拍。王女の声が、少しだけ下がる。
「ごめんなさい、無礼を詫びるわ。王女としてあるまじき行動だったわね」
「といっても、寸前で止める気だったんだろ?」
「……そこまでバレてるのね」
苦笑に近い息だけ漏らして、彼女は刃の残光を完全に消した。
「まあ、規則を破ったのはこっちもだしな……次からは門限は守るようにするから、帰らせてくれ」
「……待って」
フレイアは真剣な表情で俺に向き直る。
「あなた、あたしと手を組まない?」
唐突な提案に戸惑う。どういう意図だ?
俺の疑問を読み取ったかのように彼女は説明を続けた。
「あなたのような人材を探していたところなの。その規格外の力、組織のために役立ててみない?」
「組織?」
急に怪しげなワードが出てきた。学生の身分で組織とは穏やかじゃない。
「知っての通り、魔力学院は魔力の研究と発展を第一の目的としているわ。ただその裏側で、いざという時に魔力を用いた戦闘が可能な人材の育成も行なっているのよ。あたしはその教官役」
「いや、急過ぎて話が見えないんだが……俺をスカウトする理由は?」
「丁度今、エアハート王国じゃ面倒なことが起きててね。まだ表沙汰にはしてないけど、敵国の侵略が深刻化しているわ。このまま放置すれば、いずれ学院にも被害が及びかねない。そうなる前に戦える人員を確保しておきたいの」
要約すれば武力の提供が欲しいと。
別段構わないのだが、少々胡散臭さもある。
彼女がどれほどの立場を持っているのかも不明だし、その組織とやらの実態も分かっていない。
「その話、アルフェンや親父には?」
「まだね。もちろん、機会を見ては報告はするつもりだけど、お父様は自国のみで解決したいと考えている節がある。クロフォード家の援助を受けることは簡単だけど、それが仇になって他の貴族を刺激しかねないから」
つまり、表沙汰にするにはリスクがありすぎるということか。
国際問題に発展させるより秘密裏に片付けるのがベターということだ。
一見すれば合理的な判断力がある女だが、同盟国であるクロフォードに直接依頼せず俺に持ちかけるあたり、彼女の腹の内も怪しい。
「あなた、何でエアハートに来たのかしら?単純な学術的興味……とは思えないけど」
「兄貴が通ってたからな。魔力の知識を深めたくて来た」
「ふぅん……魔力の研究ねぇ」
フレイアが怪訝な表情でこちらを見つめている。
どうやら信じていないらしい。まあ当たり前だろう。
「まぁいいわ。もし協力してくれるなら、資料館への自由な立ち入りや研究所へのアクセスも可能にしてあげる。それ以外に希望があれば可能な範囲で叶えるつもりよ」
「何故そこまで?」
「さっきも言ったけど、今はとにかく力が必要なの。特にあなたのような実力者ならば尚更ね」
フレイアが一歩前に出る。
流石は一国の王女と言うべきか、所作や振る舞いにも気品を感じさせる。
しかし同時に、油断ならない雰囲気も持ち合わせていた。
「即答を迫るつもりはないわ。ただ、気が変わったらいつでもそれで知らせて頂戴」
フレイアは懐から一枚の紙切れを取り出し俺に手渡してきた。
まるでメモ帳から切り抜いたような粗末なものだが、よく見ると何か特殊な紋様が刻まれている。
「これは?」
「緊急連絡用の魔力符よ。魔力を込めればあたしの方に反応が伝わる仕組みになっているわ」
なるほど、便利なアイテムだ。
これを使えばいつでもコンタクトが可能ということか。
「いい返事を期待してるわ。新しい学校生活も楽しんでね」
背を向け立ち去っていくフレイア。長い銀髪が闇夜に映えて美しく揺れていた。
「……初日からトラブル続きか」
渡された連絡符を眺める。
何やら厄介な案件に関わってしまった感もするが……同時にこの状況を利用できそうでもある。
上手く利用し情報を引き出すのも一興かもしれない……などと思いながら入学初日の夜は明けて行った。