転生して最強になっても、妹は俺を逃がしてくれない 作:ゴロスケ
魔力学院に入学してから一週間ほどが過ぎ、俺の生活も安定していた。
特に変化もない。授業は退屈だが、退屈なりに暇潰しにはなっている。カナデとは学年が違うが、毎朝登校は一緒だ。何故かレイヴンも付いてきているが。
ミリウスも俺の監視兼世話役として、無駄に世話を焼いてくれている。
カナデとは相変わらず喧嘩する間柄だが、互いに言い合っているだけで敵対まではしていない……はずだ。
「ミナトは午後の授業、何を受けるの?」
「魔力学概論だな。まあ、座学の授業みたいなもんだ」
「あぁ〜。あの先生の講義って、小難しいことばっかだし……つまんないんだよねー」
「カナデは座学に興味ないだけだろ。毎回寝てるし」
「学年違うのに何で知ってるの!?」
「いや、毎回前を通る度に爆睡してるからな。あの講師の授業の時は特に」
「うー。だってつまんないんだもん」
昼休み。俺はカナデやレイヴンと一緒に食堂で食事を摂っていた。
テーブルにはハンバーガーやサラダ、スープなどが並んでいる。メニューは多種多様で、味も申し分ない。この世界の食文化も侮れないものだ。
「大丈夫ですよ、カナデ先輩!女の人は多少頭悪くても許されますから!」
「そうかなぁ?でも、わたしもちょっとだけ頭良いと思うんだけどな~」
「カナデ先輩はおバカすぎて、むしろ可愛い部類に入ると思いますよ!」
「……レイヴンく〜ん。先輩に対して失礼すぎるよ?」
カナデは頬を膨らませながら抗議するが、レイヴンはどこ吹く風といった感じだ。見ていて飽きない。
適当に授業を受けて、友達と馬鹿やって……まさに平和そのものだ。
前世で満喫できなかった理想の学院生活ではあるが、余韻に浸ってばかりはいられない。
あの日、アリスが見せた魔力の謎を解明することが最大の目的だったはずが、未だ糸口すら掴めていないのだ。
教師陣にもそれとなく尋ねてみたが、芳しい回答は得られなかった。魔力学院と言えども、未知の技術に対する知見は極めて乏しいらしい。
やはり、俺が求めている答えはここにはないのだろうか?
「ミナト? どうしたの?」
「いや、何でもない。そろそろ行くわ」
適当に誤魔化し、歩き始める。今後のことは追々考えるとして、今は授業を受けなければならないだろう。
そんなことを考えていると、レイヴンが声をかけてきた。
「なぁミナト、今日は授業も5時限だけだし、街にでも繰り出さねぇか?」
「何だ、またナンパでもする気か?」
「ちげぇっての。お姉さん達が集まる店があるから、一緒に行こうぜってことだよ!」
「……それをナンパと言うんだよ」
鼻の下を伸ばして興奮気味のレイヴン。
まだ知り合って一週間程度だが、さっきのカナデへの態度といい、前世では漫画でしか見たことがないようなテンプレキャラクターだ。
とはいえ、扱いやすい上に悪い奴でもない。レイヴンと一緒に過ごす時間は退屈しなかった。
「馬鹿野郎!そんなんじゃねぇって。日頃の疲れを綺麗なお姉さん達に癒やしてもらうだけだよ!運が良ければ、今後プライベートでお付き合いが出来るかもしれないし」
「そんな店があるのかよ……」
「話じゃ学院に通ってる生徒もいるらしいぜ。つか実際、俺も何度か見たことがあるから間違いねぇよ!」
「悪いな、俺はパスだ。行くなら一人で行ってこい」
面白そうではあるが、今の俺はカナデやミリウスが傍にいる状況で女性の肌に触れようものなら一体何を言われるか分かったものではない。
「おいおい、いいのか?もしかしたら学院のアイドルとお近づきになれるかもしれないんだぜ?」
「いや、手持ちに余裕もないし」
「金なら俺が出すって!奢りだよ奢り!お前もストレス解消のつもりで付き合えよ!」
「そもそもストレス溜まるほどの学校生活送ってないんだが」
「何だよ、付き合い悪いな〜」
話にならない。こいつがナンパ目的なのは確定だ。
振り切るように歩く速度を上げる。
「せっかく帝国のお姉さん達が集まる店なんだぜ? 平民は基本行けないような店に連れてってやるってのに」
その言葉に、思わず足を止めた。
「ありゃ、どうした?」
「……それ、本当なんだろうな?」
「え?食いついた?まぁいいけど。オープンして半年くらいの店でさ、最近移住して来た帝国のお姉さん達が接待してくれるんだよ。この学院に通ってる生徒もたまに来るらしいぜ?」
帝国人が経営する店……大した意味などないかもしれないが、それでも気になるものは気になる。
あの悪魔の手掛かりが全く掴めない以上、たとえ些細な情報でも拾わない手はない。
「やっぱり付き合うわ。その店、教えてくれ」
「マジ!? さすがミナトだぜ! 早速放課後にでも行くか!」
「ああ、そうだな」
意気揚々と鼻歌混じりに歩き出すレイヴン。こうして放課後の予定が決定した。
退屈な日々を過ごしているよりは、よっぽど有意義な時間になるだろう。
何より、帝国の連中が集まっている場所なら、何かしら手掛かりが転がっているはずだ。
少しでも妹の情報を掴める可能性があるのなら、足を運ぶ価値はある。
俺は微かな期待を胸に抱きつつ、残りの授業時間を過ごしたのだった。
やがて放課後、ミリウスが話しかけてくる前に俺は校舎を抜け出した。
アリスのこともあるが、この手の店に行く姿をミリウスやカナデに見られるのは気まずい。特にミリウスは間違いなく説教をしてくるだろうし、面倒事が増えるのは避けたいところだ。
レイヴンと落ち合い、店があるという繁華街に向かう。
「どんな女の子がいるんだろなぁ。胸の大きいお姉さんがいいなぁ」
「……本当に欲望丸出しだな。羨ましいくらいだ」
「なーに興味ないふりしてるんだよ。お前だって満更でもないくせに!」
否定できないところが悲しいところではあるが、この際割り切ろう。
「で?ミナトって普段どんなタイプの女性が好みなんだ?」
「いきなりなんだよ。別にタイプとかない」
「あぁ?それでも男かよ。好きな女性のタイプくらいあるだろ?」
「あのなぁ。大体、俺と付き合う女なんて……」
──優也。
「っ!?」
脳裏に、鮮明な声が響いた。
夕日の残る、家具もない部屋。
温かい手が、俺の頬に触れる感触。
「おーい。顔色悪いぞ。どうした?」
「……あ、いや。なんでもない」
レイヴンに心配されるも、平静を装う。
こんなことで狼狽えてどうする。落ち着け、俺……。
「そっか。ま、人間誰だって辛い過去はあるもんだしな。気にすんな」
こいつにしては珍しく真面目な表情で慰めてきた。
普段の軽薄な性格の割に、他人の心情を察する能力は高いらしい。
「そういうレイヴンはどうなんだ?誰か好きとか」
「俺?俺は可愛い子なら誰でもウェルカムだけど?」
開き直ったように胸を張るレイヴン。
ここまで堂々としていると、逆に清々しさすら感じる。
「カナデ先輩とか最高だろ!スタイル抜群で笑顔が可愛くて……」
「……あれが可愛いね」
「てめ、顔見知りだからって余裕ぶっこいてんじゃねぇよ!そういう奴に限って彼氏が出来たら冷めるんだろ!」
憤慨するレイヴン。
まぁ俺としても、カナデの容姿が良い方なのも、積極的で明るい性格なのも認めるが……流石に、な。
「お、ここだここ。着いたぜ」
レイヴンが指差す先には、西洋風の派手な建物があった。
大きさは三階建て程度だが、外装はまさにゴージャスだ。看板には『ルネサンス』の文字。
「へぇ。意外とちゃんとした店なんだな」
「だろ?貴族が行きつけにするような店なんだぜ? しかも平民でも入れる数少ない店の一つなんだ」
「それはそれは」
俺が知る限り、こういった店は身分や資産の高低で区別されるのが一般的だったはずだ。
レイヴンの話からすると、相当人気のある店のようだが……。
「そんじゃあ入りますか。レディ達を待たせる訳にはいかねぇからな」
「だな」
俺はレイヴンと共に『ルネサンス』へと足を踏み入れた。