MCU世界で『ただいま』を言えない怪物   作:お砂糖さらさら

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第2章:灰塵、あるいは主観の処刑場(クウガ編 / 2011年)
第2章・第1話 灰塵、あるいは主観の処刑場


夜のヘルズ・キッチン。

 

 

古いレンガ造りのアパートの屋根で、私は下の階から聞こえる母親の生活音を聞いていた。フライパンを置く小さな音。換気扇の低い唸り。会話のない日常。

それでも、今はドアを開けて「ただいま」と言える。

 

 

擬態はほぼ完璧だ。S.H.I.E.L.D.の保障もある。生存計算は成立している。

 

専用端末が短く震えた。

『来い。』

 

ニック・フューリーだ。

 

私は音もなく屋根から飛び降り、指定されたハドソン川沿いの廃倉庫へ向かった。

 

ステルス機の気配が上空を覆い、周囲は完全に遮断されている。

ドアを開けると、片目に眼帯をした男が薄暗い照明の下で待っていた。

 

足元のトランクには古い報告書と端末が並んでいる。

 

「エリン・マクカシー」

 

フューリーの声は低かった。

 

「日本に行ってもらう」

 

私は一歩も動かなかった。

 

「背景情報を」

 

彼は報告書を一枚取り出し、テーブルに広げた。

 

九郎ヶ岳という地名。

古い伝承。「闇を葬る戦士」と「凄まじき戦士」。

 

「90年代半ば以降、俺は地球外生命体だけじゃなく、地球に潜む超常的な脅威にも備え始めた。

世界中の古代遺跡とオーパーツを極秘裏に洗い直した。

その中に日本のこの山に関する文献が、データベースに引っかかっていた。

『未知の超人兵器、あるいは古代の超常存在に関わる遺跡』としてな」

 

 

次に端末を操作する。画面に浮かんだのは、仮死状態の人型異形の解剖報告書だった。

体内に埋め込まれた石のような物体。人間とも既知のエイリアンとも違う生体組織。

 

「被害者遺族のネットワークが隠蔽していた解剖データをサルベージした。

俺の回線がそれを拾った。記載されていた生体組織の特徴も、体内の『霊石』も、超古代の地球に存在した人類の亜種だと見て間違いない」

 

フューリーの片目が私を射抜いた。

 

「スタークがアイアンマンを公表し、各地で超人が表面化し始めている。

アベンジャーズ計画を進めるには、眠っている抑止力も、潜在的な脅威も把握しなきゃならん。

このデータによれば、九郎ヶ岳には同族が大量に眠っている可能性がある。

もし一斉に目覚めれば、アジア発の大規模災害のトリガーになり得る」

 

彼はトランクを閉じ、私に向き直った。

 

「君のフォトンブラッド生成系と融合・擬態の能力は、通常の分析チームでは危険すぎる対象を扱える数少ない手札だ。

母親のダイナー周辺の安全保障は、今まで通り最優先で維持する。条件は変わらん。行け」

 

私は静かに計算した。

母親の日常は守られている。だが、ここで拒否すれば契約の薄氷は割れる。

解剖室送りのリスクが跳ね上がる。生存率を下げる選択は取れない。

 

「……了解した。ただし、条件を追加する」

 

フューリーの眉がわずかに動いた。

 

「異形が目覚めた場合、周囲に被害が出ても即座に抹殺する権限がほしい。

調査や捕獲、サンプルの収集は当然後回し。

私が『脅威』と判断した瞬間に、灰にして排除する」

 

短い沈黙。

 

「……いいだろう。君の判断を優先する。ただし、表向きの報告は『必要最小限の排除』で済ませろ。過剰な被害が出れば、俺もカバーしきれなくなる」

 

「了承した」

 

声はエリン・マクカシーのそれを完璧に模倣していた。冷たく、計算的に。

 

フューリーは短く頷き、闇に溶けて消えた。手元に残されたのは、日本への移動手配が完了した端末と、発掘チームの座標だけだった。私は倉庫を出た。

 

雨が再びマンハッタンの夜を濡らし始めている。

お母さんのいる家に、まだ帰れないわけではない。

だが、今は「世界が終わる可能性」を潰す方が、長期的な生存計算に適っている。

黒いコートを翻し、私は指定された空港へ向かった。

日本。

九郎ヶ岳。眠る異形たち。

闘争の予感に溜息が出た。

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

日本・長野県の山間部。

九郎ヶ岳の麓に設営された仮設ベースキャンプは、朝霧に包まれていた。

 

私は黒いコートの襟を立てたまま、SHIELD仕様の四駆から降りる。

足元の砂利を踏む音だけが、湿った空気に沈んでいった。

待っていたのは、発掘チームのリーダー格の男だった。

 

四十代半ば、作業着に汚れが染み込んだ実用的な服装。

名札には「佐藤」とあった。横には数人の研究者と警備員が、 距離を保って遠巻きにこちらに視線をよこしている。

 

 

「……マクカシーさん、ですね」

 

佐藤は書類を一瞥してから、私を見た。

 

「本部から『特別分析官』として急遽派遣されたと。危険物対応のスペシャリスト、と」

 

声の端に、わずかな不審が混じっている。

突然ねじ込まれた部外者への当然の反応だ。

私は短く頷いた。 エリン・マクカシーの声色を、正確に再現する。

 

 

「Erin McCarthyです。よろしくお願いします」

 

必要以上の情報は出さない。笑顔も、余計な親しみも加えない。佐藤は一瞬、目を細めた。

 

「……了解です。ただし現場は繊細です。勝手な行動は控えてください。何かあったら私に報告を」

「承知しています。非常事態が起きない限り私は置物として扱ってください」

 

 

私は周囲を観察した。 仮設テント、発電機、監視カメラ。発掘坑道の入り口は、まだ薄いシートで覆われているだけだ。 空気に混じる微かな異臭――古い石と、何か有機的な腐敗の気配。

いかにもホラー映画でありそうな雰囲気だとエリンとしての感覚が訴える。

同時に生体兵器としての感覚が、微かにざわつく。

 

 

――……ここに眠っている、か

 

 

 

脳裏に、フューリーの言葉が蘇る。

『異形が目覚めた場合、周囲に被害が出ても即座に抹殺する権限をくれ』

あの条件は通った。 今の私の役割は、調査ではない。最悪の場合の「排除」だ。

 

チームの誰も、私の正体を知らない。 知っているのは、フューリーとその直下のごく少数だけ。 この状況は、生存計算上、都合がいい。

 

「では、坑道の概要を説明します」

 

佐藤が先に歩き出した。私は無言で後に続く。 コートの裾が、朝の冷たい風にわずかに揺れた。胸の奥で、意図しない心臓の動きの感触が小さく脈打つ。

 

『お母さんのいる家に帰りたい』

 

「わかってる、必ず帰る」

 

その呪いは、今も消えていない。

だが、ここは日本だ。母親の日常から、物理的に遠い。

だからこそ、今は計算通りに動く。異形が目覚めた瞬間――私は迷わず、排除する。

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

坑道の最奥。ライトの光が照らし出したのは、超古代の意匠が刻まれた巨大な石室と、その中央に鎮座する異様な棺だった。

 

 

「……これが、『闇を葬る戦士』の……」

 

 

佐藤が息を呑む。周囲の研究者たちが浮足立つ中、私はただ、その棺から立ち上る「目に見えない本能に語り掛けてくる何か」を感知していた。

空気が重い。

 

生体兵器としての私の細胞が、最大級の警戒信号を脳内に鳴らし続けている。

 

 

「待て、その棺に触るな。何かがおかしい」

 

 

だが発掘の熱意に焼かれた発掘隊は私の静止を当然のように無視した。

彼らの手によって棺の蓋が持ち上げられ、その瞬間。

 

 

──世界が、爆発的な「熱」と「死の予感」に支配された。

 

 

私は即座にモーフィング移行によって服を分解しライダースーツとコートを纏い床に転がる、装甲がいつものように各所を覆うが次いで形成されたコートの一部が熱とともに分解される。

それすらも即座に復元させフォトンブラッドの輝きが血のようににじんだ。

 

 

 

暗転した石室の奥、開け放たれた棺のすぐ傍──最初からそこに「潜んでいた」かのように、闇の中から白い服を纏った少年の姿が浮かび上がった。

 

人の形をした死そのものがそこにいた。

 

 

少年は無邪気な、そして酷く残酷な笑みを浮かべ、両手を広げた。

 

 

直後、彼の身体から放たれた目に見えない衝撃波が、石室の床を、壁を、さらにその奥の地底深くを激しく震わせる。

地鳴りのような音が響き渡った。

それに共鳴するように、地底のさらに奥底で眠っていただろう200体を超える古代の異形たちが、動き出しているのを強化した五感で感覚で感じていた。

 

 

 

悲鳴を上げる間もなく、発掘チームの人間たちが謎の自然発火現象によって炎に包まれ、崩れ落ちていく。

その地獄絵図の中、彼は棺の中を覗き込み、そこに横たわるミイラ同然の男を見下ろした。

 

 

その手が、無慈悲に先代の腹部へと突き立てられる。凄まじい破壊音と共に、腰に巻かれていた何かがその一撃でほぼ全損させられた。

 

 

無邪気でありながら、ガラスのような瞳が、一瞬だけ私を捉えた。

 

 

私は微動だにせず、ただその視線を受け止める。彼は私が「人間」ではないこと、そしてその体内に異質なシステムを宿していることに気づいたようだったが、すぐに興味を失ったように、闇の奥へと消え去った。

 

 

変身によって強化された身体能力で追撃する間もなく、異形がこちらに突っ込んでくる。

 

「ガ、ア、ァ、ァッ!」

「ズババヅパパンザヅレンゲロボパゴセグロサダダ!」

 

地底から目覚めた先ほどの青年と比べるべくもない雑魚が、飢えた獣のように次々と這い出てくる。その矛先が、生き残った私へと向く。

 

 

「おはよう、そしておやすみなさい」

 

 

私はファイズショットを生成し拳にはめる。くせでファイズフォンのエンターをたたき再現されたシステムが電子音声を鳴らす。

 

『Exceed Charge』

 

目の前の異形に叩き込みダッシュで後続を巻き込んでフォトンブラッドをまとめて叩き込んでやると即座に灰化する、

 

 

「生きているなら安静にしていろ!」

 

その時視界の隅で、ミイラと化していた棺の主が、腹に大穴を開けながら棺から転がり落ちるようにして立ち上がった。

 

彼は肉体の悲惨な状況を一切感じさせないルーティンで光に包まれ、白い生体装甲に包まれた姿に変化した。

 

明らかに不完全な戦うものとして完成していない白い異形の姿のまま、私の背後から新たに襲いかかってきた群れに殴り込みをかける。

 

全損したシステムでかろうじて変身して、私を守るように、肉体の崩壊を無視して拳を振るう。

その姿に胸の痛みにいた感覚が身体を駆け巡る。

 

「私のことはいいから自分の事を考えろ!」

 

右脛にファイズポインターを生成、エンターを押し込む。

 

『Exceed Charge』

 

 

音声とともに赤く輝く右足を蹴りぬき、まとめて赤い円錐状のエネルギーで拘束する。

飛び蹴りをしかけて群れを灰にしてやる。

 

「ゴラゲパボボゼギベ!クウガ!」

「ゴラゲンガンダシロルザザダダバ!クウガ!」

 

だが、力及ばず、先代の身体は無数の爪と牙に引き裂かれ、ついにその場に斃れた。

 

 

「……!!……!」

 

私に向けて放たれた、掠れた声。それが彼の最期の遺志だった。

 

 

 

先代の命の灯火が完全に消えた瞬間、粉砕されたベルトの破片から、淡く輝く「霊石」のかけらが虚空に舞った。

それは、最も近くにある強大なエネルギー源──私の体内にあるフォトンブラッド生成系──に激しく引き寄せられ、私の胸の奥へと、有無を言わさずに強制融合した。

体の中をミキサーでかき混ぜられるような熱と痛みが襲う。

 

 

 

「──ッ!?」

 

 

そして脳内に流れ込む、膨大な闘争の記憶の濁流。

 

ふいに、黒い空間に私の意識がいた。

その空間を照らす逆光の中で立っている青年がいる

 

先ほどの少年とは違う、湧水を思わせるような清廉な雰囲気を感じさせる白い衣装の青年、彼は私に何をかを問いかけるような仕草をした。

 

何を言っているかは分からない、ただその姿に、ただただ安心させたくなって、大きくうなずいた。

青年が頷いて見せた。

 

 

 

 

意識が現実に戻る。

 

 

 

 

それと同時に、荒れ狂っていた私の生体システムが、驚異的な速度で安定へと向かうのが分かった。生体組織の操作能力が爆発的に向上しているのを感じる。

今までなら擬態による再現が困難だったファイズアクセル、アクセルフォームですら再現できるほどの能力の高まりを確信している。

 

 

進化した私の生存計算が弾き出した答えは、当然ただ一つ。

 

 

『調査も捕獲も不可能。これらすべてを、ここで即座に抹殺する』

 

 

 

フューリーとの契約は成立している。

私はファイズアクセルをモーフィングによって腕に生やし、ボタンを押す。

赤いフォトンブラッドのラインが黒に変わり、コートやライダースーツが白銀に変わる。

 

『START UP』

 

 

 

機械的な電子音が響いた瞬間、世界からすべての「音」が消え、完全に静止した。

現実世界の、たった10秒間。

だが、霊石の力でアップデートされアクセルフォームを十全に使える私にとっては、主観時間を引き延ばされた2時間46分という、あまりにも長い「処刑の時間」を確約していた。。

 

 

 

完全に静止した異形たち、いやグロンギたちの間を、冷徹な足取りで歩き始める。

 

この遺跡から脱出しようと走り出そうとする姿のまま、あるいは棺から這い出ようと身をよじる姿で停止している異形たち。

 

先代の記憶を閲覧するにこいつらグロンギの肝は腰のベルトの中にある魔石。

 

その1体ずつ腰のベルト状の、正確にはその奥にある石に向かってクリムゾンスマッシュを叩き込みエネルギーを流し込む、私は焦ることなく、確実に、超高熱のエネルギーを直接叩き込み、セットしていく。

 

 

逃がさない。1体たりとも、この遺跡から脱出させる気はない。

 

静寂に包まれた2時間半以上の孤独な作業。私はただ、冷酷な計算機のように、異形たちの肉体を「灰」へと変える式を刻み続けた。

 

一方で処刑場と化した遺跡から出る間に棺と発掘隊のうち比較的原形を保っている遺体を時間のゆるす限り往復して運び出す。

 

グロンギの脅威度の証拠としてここで消失させずに保護すべきだろうという計算と、家族のもとに返すのがせめて務めだろうと感情が訴えていたからだ。

 

だが、棺の主である先代クウガはここに置いていく、回収すればサンプルとしてどう扱われるか想像したくもない。

研究素材にされて悲劇を生むかもしれない。

だからここに置いていく。

 

 

『TIME OUT』

 

「そして時は動き出す」

 

 

白銀の色をたたえた衣装が元の姿を取り戻し、現実の時間が再び動き出す。

 

 

次の瞬間、遺跡の全域で、ドン、という空間そのものが爆発したかのような衝撃波が吹き荒れた。

這い出てこようとしていた200体以上のグロンギたちが、何が起きたのかを理解する間すら与えられず、打ち込まれたフォトンブラッドの熱量に焼かれて、一斉に灰となって霧散していく。

 

一瞬の間に行われた殲滅。

遺跡そのものが吹き飛び、立ち込める凄まじい灰の煙。

 

いや、私のクリムゾンスマッシュが灰化したのならこのような現象は起きない。ベルトに流し込んだフォトンブラッドと反応してベルトの中身が爆発したのかもしれない。

 

疲労が残る身体を立て直し息を整えながら、油断なく周囲を走査(スキャン)した。

 

 

──生存個体、あり。

 

 

この遺跡の遥か向こうに、こちらを見つめている視線がある。

バッタの異形。クワガタの異形。カマキリの異形。

いかにも精鋭ですと言わんばかりの私の処刑を逃げ延びたグロンギの残党たちが、戦慄と、剥き出しの狂気を含んだ視線で、遠くから私をじっと眺めていた。

 

仲間を一瞬で消し去った「赤い光の戦士」を、超常のターゲットとしてその網膜に焼き付けるように。

 

向こうで異形たちの気配が消えていく。

 

爆撃でも受けたようなクレーターと化した元遺跡を見下ろし、静かに変身を解除した。

ただのエリン・マクカシーの姿に戻った私を火災積乱雲のせいか小雨が濡らし始める

 

「……お母さん」

 

 

小さく呟いた声は、立ち上る煙の中に、ただ寂しく吸い込まれていった。

 

 




クウガ編スタート、主人公は初手200体以上のグロンギを殲滅しました。
先代クウガの霊石の断片を捕食しましたが、封印エネルギーだとかクウガやグロンギが使うモーフィングパワーは使えません。
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