MCU世界で『ただいま』を言えない怪物 作:お砂糖さらさら
薄暗い取調室に、カチカチと規則的な時計の秒針の音だけが響いていた。
マジックミラーの向こうでは、警察上層部や官僚たちが私の身元を巡って喧嘩を続けているのが生体センサーで感じられる。
経緯はどうあれ遺跡を吹き飛ばしクレーターを作ったのは国際常識や外交に疎い私も相当まずかったらしいのが察せられた。
だが私の前に腰掛けた男、一条薫という刑事だけはその喧騒から完全に孤立していた。
「あなたにも立場がおありになるのでしょうが、可能な限り正直にお話ししていただきたい」
彼の鋭い両眸は、九郎ヶ岳が文字通り「消失」したかわりに出現したクレーターの衛星写真と、私の顔を交互に射抜いている。
「エリン・マクカシー特別分析官。君のバックにいる組織(S.H.I.E.L.D.)がどれほど巨大だろうが、ここは日本だ。まずはそれを理解していただきたい」
一条の声は低く、しかし驚くほど静かに怒りを孕んでいた。
「山が一つ消え、発掘隊や警備の同僚たち、数十人の命が一瞬で奪われた。あそこで一体、何が起きた。君だけがほぼ無傷で生還した理由を説明してもらいたい」
私は表情一つ変えず、エリン・マクカシーの冷徹な声色をトレースした。
「……あれでも、被害を最小限に抑えた結果です、一条刑事。
あの遺跡の中には最新鋭のテクノロジーでできた私専用の強化装甲服と渡り合える怪物が200体以上眠っていた。それが目覚め私は肩書通りの危険物対応のスペシャリストとして対応しました」
私は懐から、あらかじめ用意していたS.H.I.E.L.D.の特別分析官としての偽装書類を滑らせた。
「私は組織が保有する、最新の強化装甲服ファイズの適格者です。
軍隊レベルでは太刀打ちできない、あるいは撃破できても空爆レベルの被害が出る超常の脅威を、分子レベルで熱分解して灰にするための人型兵器という立ち位置です。
あそこで目覚めた未確認生命体とでもう呼称すべき異形──彼らは自らを『グロンギ』と呼ぶようです。
あの時点で地底から這い出ようとした200体以上の個体を同時に処理していなかった場合の想定を想定しましょう。
まず現代兵器や警察の装備では彼らの皮膚肉体に対して完全に無力。
200体がそれぞれ好き勝手に東京に繰り出し、赴くまま殺害、それによって発生する二次災害が東京で連鎖した場合
明日の朝までに東京の人口は3割減っていたと想定しました。
貴重とはいえ遺跡や山一つの消失で、それだけの被害が防げるのであれば私の計算において最も効率的な最小値の犠牲です」
トニー・スタークがアイアンマンであることを公表した今の時代において、パワードスーツの説明は最も通りが良くて助かる。
一条は眉間を深く険しくさせた。普通の人間なら一蹴する荒唐無荒な告白。だが、彼は現場の遺体の凄惨な損壊状態をその目で見ていた。私の言葉に、嘘がないことを刑事の直感で理解したのだろう。
彼は私の言葉の『天秤』の重さに眉間を険しくさせたが、私の差し出したS.H.I.E.L.D.の書類をじっと見つめ、ぽつりと呟いた。
「……発掘坑道の崩落跡から、犠牲者の遺体は時間の許す限り運び出された。
だが……最初に発掘された『棺の主』の遺体だけが、どこを探しても見つからん。君が回収したのか?」
「いいえ」
私は淡々と、しかし明確に否定した。
「あの遺体は、私が山ごと消滅させました。……あそこに残すのが、最も合理的だったからです」
一条の目が、鋭く私を咎めるように細められる。
「なぜだ。歴史的な大発見のサンプルだぞ。持ち帰って解析すべきだったのではないか。」
「あの棺の主は遠い昔、グロンギ、あの遺跡に眠っていた異形の怪物と戦っていた戦士だったようです。
安易に持ち帰れば私の組織(S.H.I.E.L.D.)が強権を使い、譲渡を迫るでしょう。
彼らはあの古代の戦士の肉体を渡せば何をすると思います?」
私は冷たい視線で一条を見返した。
「細胞をバラバラに解剖し、遺伝子を弄り、戦場に投入するための『量産型の超人兵器』の材料にする。
それはあの戦士にとって本意ではないでしょうし、流出の可能性を考えれば将来的に絶対に許容できないリスクを生む可能性がある。
だから、彼にはあのまま、静かに超古代の遺跡と共に永眠してもらいました。
……それが、命を賭して怪物を止めようとした先代の戦士に対する、私なりの敬意でもあり連中の対処を引き継いだ者の覚悟です」
一条は私の言葉の裏にある、自らの組織すら信用していない冷徹な合理性と、その底に確かに存在する先代への奇妙な敬意を感じ取り、小さく息を吐いた。
「……生き残りがいるんだな。その、グロンギという奴らの」
「ええ。私から見ても常軌を逸した雰囲気のティアトップ個体と、その精鋭数体。
彼らは必ず、大都市に潜伏して独自のルールで人間を狩る殺人ゲームを始めます。
絶対にあなた方の手には負えませんよ」
一条が何かを言いかけたその時、私の網膜にノイズが走り、専用端末が振動した。
彼に手で制止を報せ、端末が室内の監視カメラの回線を一瞬でハッキングして遮断する。
ホログラムで浮かび上がったのは、片目に眼帯をした男、ニック・フューリーの不機嫌そうな顔だった。
『マクカシー。国際安全保障理事会への言い訳を捏造する俺の身にもなってほしいものだな。
山を丸ごと一つクレーターに変えるのが、君の言う「必要最小限」の定義か?』
「200体以上の怪物を抹殺した結果の不可抗力な誘爆です。
それより、長官。現地の警察組織に所属する刑事と情報の相互共有契約を結びました。
彼らを私の『目』として利用し、取りこぼした残党の抹消を開始します」
フューリーの唯一の目が、画面越しにわずかに細められた。彼はフッと冷酷な笑みを浮かべた。
『なるほどな。お前が組織の規律より、自分の「生存計算」を最優先する厄介な性質なのは知っていたが……現地の犬を飼い慣らすスピードだけは評価してやる。いいだろう、事後承諾だ。その刑事を使い倒せ。しくじるなよ』
通信が切れる。私は一条に向き直った。
「うちの上司が失礼しました。
しかし、いかにも冷酷無慈悲な上司様でしょう?
私はあれに表立って逆らえません。
彼からの命令もありますが確実にグロンギは抹殺します、その過程で一人でも多くの一般人の日常を守りたい気持ちもあります。
無理を言っている自覚はあります、ですが情報と日本警察の捜査網を共有してください。
それが、私とあなた方が市民の命を守る唯一の道です」
お願いします、と頭を下げる。
一条は少しの間沈黙し、それから私の書類を閉じ、真っ直ぐに私を見た。
「奴らを止めるためなら、君の力が必要だ。半端にはしない一緒に行こう、マクカシー」
組織の思惑を無視し、目の前の命のために動く男。私の計算にはない甘さだが、手駒としてはこれ以上なく信頼に足る…と思いたい。
──その時、一条の警察無線が悲鳴のような緊急通報をスピーカーから吐き出した。
『各局、〇〇ハイウェイにて走行中の車両が次々と謎の転倒、大破! 爆発炎上多数! 現場の映像に……現場の映像に、九郎ヶ岳の報告にあった『異形の怪物』らしき影が映り込んでいます!』
「来たな」
日本での共闘相手が立ち上がり、私もその後に続いた。
◆ ◆ ◆
一条の運転する警察車両でハイウェイへと急行する。
夜の首都高を突き進む中、私の端末に現場の監視カメラ映像が転送されてきた。
そこに映っていたのは、バッタの要素をもった人型の異形、まさに未確認生命体とでもいうべき存在だ。
そして、彼が跨るバイクはもはやバイクの原型を残しておらず不気味に変形し、前輪やアームが巨大化した元はバイクだった何かと化していた。
ドオンッ!!
彼は並走する一般車を、真下から跳ね上げ、側面を抉り、おぞましい速度で次々と鉄屑に変えていく。
もうかなりの死傷者が出ているのは確実だ。
カメラに向かって不敵に中指を立てるその姿は、明確な警察への、そして私への挑戦状だった。
「戦う準備をします、できれば救急車の手配をお願いします」
「来るぞ、掴まれ!」
私ののんきな声と一条の叫びと同時に、フロントガラスの向こう、猛烈な速度で逆走してくるバッタ男とモンスターバイクのヘッドライトが見えた。
ベルトに事前に装填していたファイズフォンを起動し一瞬姿がブレたのち、黒いライダースーツに黒いコート、衣装の上に各所の装甲が形成されフォトンブラッドのラインが通る。
霊石を吸収したことでより瞬時に変身が可能になったのは大いに助かる。
「修理代はうちの上司につけておいてください」
即座にフロントガラスを可能な限り繊細な手つきと人外のパワーを両立させて押し出すように砕く。
即座にファイズフォンをベルトから外し銃型に変形
迫りくるバイクに向かって銃撃、赤い光線が走るが正確すぎる狙いが災いし当然のように回避される。
「上に乗られた!!」
「私が対処しますのでハンドルだけお願いします」
ドンっと車上に落下音がする
即座にベルトにファイズフォンを戻してエンターを押す
『Exceed Charge』
ドアの外側から繰り出された蹴りをクリムゾンスマッシュで迎撃して両脛あたりまで焼き切ってやる。
「クウガンゼビゴボバギグ!ガギゾバゲゲ!」
フロントガラスと助手席側のドアが粉砕され大きく車体がぶれる。
バッタ男がありえない距離を飛んで逃れるのに視線を奪われた瞬間
私たちの車両に主なきバイクが真下へと滑り込む──爆発的な跳ね上げが襲う。
「一条刑事!!」
車体が宙を舞い、激しく回転しながらコンクリートに叩きつけられる。凄まじい衝撃。
エアバッグが弾けて一条の頭が包まれる。
バッタ男はバイクにまたがり凄まじい速度で距離を取っていく
足を奪われた。
周囲に動かせる車両やバイクはない、そもそも私は運転ができない。
機動力を封じられた最悪の状況。
だが、私の計算はとうに完了している。
まずはひっくり返った車体から一条を引きずり出してともに脱出
壁際に寄せてやる。
ファイズアクセルを腕に生成、即座にボタンを押し込む。
『START UP』
機械的な電子音が響いた瞬間、世界からすべての「音」が消え、完全に静止した。
現実世界の、たった10秒間。
だが、先代から受け継いだ霊石アマダムの力でアップデートされた私の主観時間においては、それは2時間46分の「処刑の時間」へと引き延ばされていた。
静止した炎、静止した火花。
助けを求める一般人。
それらをすべて無視し、私は全力で走り始めた。
◆ ◆ ◆
バッタ男はバイクのような何かに乗ったポーズのまま、前方を睨みつけている。
この止まった時間に介入できる能力はないらしい。
ファイズエッジを起動し、光子の刃を静かに構えた。
私の目的は、被害を出さずにこいつを仕留めること。
グロンギの爆発の起爆源は腹部のベルトだ。クウガの封印エネルギーのようにベルトを刺激すれば、このハイウェイごとすべてが吹き飛ぶ。
ならば、計算は一つ。
私は時速数千キロの体感速度でバダーの横を駆け抜けながら、ファイズエッジを振るった。
まず、その「首」を完全に撥ねて脳の機能を即死レベルで停止させる。
そして息つく間もなく、腹部のベルトに1ミリの衝撃も与えないよう、ベルトの「すぐ上の」と「すぐ下」を綺麗に水平に切断。
ベルト部分だけを物理的に肉体から完全に分離させた。
残された頭部を物陰に隠し上半身を空中に置く、右足にフォトンブラッドのエネルギー収束させ叩き込み、その場で完全に熱分解して焼き尽くしていく。
自立起動の可能性を考えバイクもクリムゾンスマッシュで灰にしておく。
時間がたっぷりあるからこそ、その「解体」は焦ることなく、精密機械のように完璧に行われた。
そして、主観時間の終わりが訪れる。
『TIME OUT』
「そして時は動き出す」
時間が動き出す。
次の瞬間、バダーが跨っていたバイクは既に灰になり、ハイウェイのコンクリートを汚していた。
バダーの肉体は、何が起きたかも理解できないまま、一瞬にして爆発も起こさずボロボロと「灰」になって夜風に霧散する。
現場に残されたのは、完全に沈黙した、傷一つない不気味なグロンギのベルトとバッタ男の頭部だけだった。
◆ ◆ ◆
いかなる根性か血を流しながら荒い息をつきながら立ち上がった一条が、驚愕の目でバッタ男とその手にあるベルトを見つめている。
「マクカシー……それは……」
「グロンギの頭とベルトです。連中はこのベルトで人間の姿から変わる機能を得たんですよ。
一条刑事、このサンプルをあなた方の科学警察研究所で極秘裏に保管・解析してください。
私の組織には、今晩現れたグロンギを完全に灰にして消滅させたと虚偽の報告を入れます」
一条が目を見開いた。自国の組織を欺くという提案。
「なぜだ。君の組織に渡せば、より高度な研究ができるはずだろう。
それに虚偽報告は重大な背信行為だ」
「これを渡せば、必ず超人を生み出す研究の材料に使います」
私は冷たく、計算し尽くされた声を響かせた。
「確かに組織は人類守護の御題目のために莫大な資本とリソースを投下し活動をしています。
ですがひとたび暴走すれば、巡り巡ってアメリカにある私の母親の日常が脅かされる。
それは私の計算において絶対的な赤字です。
なら主権の異なる日本警察にこれを隠匿させ、奴らの弱点分析に利用させた方が、長期的な私の生存確率が黒字になる。
……この秘密を共有できますか、一条刑事。
飲めないならここで処分しますが」
一条は苦痛に顔を歪めながらも、私の目を真っ直ぐに見返した。そして、静かに首を振って微笑んだ。
「……分かった。君の計算に乗ろう。この秘密は俺が守る
日本の未来と、君の母親の日常のために」
彼は差し出された危険なオーパーツを、その手でしっかりと受け取った。
S.H.I.E.L.D.をも欺く、冷徹な計算機と実直な刑事の、本当の共同戦線がここに結成された。
アクセルフォームを乱用して殺しにかかるスタイル。
シチュエーションが許すなら積極的に使っていきます。