MCU世界で『ただいま』を言えない怪物   作:お砂糖さらさら

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メ・ガドラ・ダ戦です


第2章・第6話 猛獣、あるいは暴力の直撃

 

ホテルの窓から東京の夜景を見下ろしていた私の生体センサーが、突如として網膜の端にノイズを走らせた。

遠く、臨海コンテナターミナルの暗闇から急激に立ち上る、獰猛な獣の殺気。

 

奴はそこで一般人を手にかけ、私をおびき寄せるための残酷なゲゲルを開始したのだ。

 

 

 

「一条刑事、臨海区に怪人が出現しました。私を誘っています。

……現地への通行規制と頼んでおいたアレの準備を」

「了解した、すぐに臨海区を完全封鎖する。無茶はしないでくれよ」

 

 

 

 

さっきまでホテルの窓から見下ろしたきらびやかな東京の夜景が、パトカーのフロントガラスを流れる無機質な光へと切り替わる。

 

一条刑事の飛ばす車両の助手席でベルトにファイズフォンを叩き込む、エンターを押すようになぞり姿が一瞬ぶれる。

次の瞬間に黒いライダースーツに黒いコートを纏い、各部に装甲を装着、赤いフォトンブラッドの流れが走るファイズの姿へと変身を完了させていた。

 

車内を赤く照らすフォトンブラッドの光がわずかに車内を照らす中で生存計算が立ち上がる。

今回のグロンギは事前に入ってきた情報では鎖を装備した近距離格闘型らしい。

先のバッタ男や鎌力女のような搦め手はない。

ただ純粋な質量と暴力、真っ向勝負を挑んでくるタイプと見た。

 

 

これがグロンギでないなら即座にクリムゾンスマッシュの奇襲で片を付けにかかるのに本当に手をかけさせる。

だがフォトンブラッドのエネルギーがベルトに到達すると誘爆するのは遺跡をクレーターにした件からも明らか。

 

 

真っ向勝負ならファイズショットを使用したグランインパクトによる撃破を試みたいが、ファフォトンブラッド・エネルギーをベルトの中枢に直接叩き込めば、やはり過剰反応による大規模な爆発を誘爆させてしまう。

 

さらに、バダー戦のようにと物理的に切断して他を灰にする手口も何度も使えない。

ヒューリーとて私の虚偽を必要経費と割り切っているだろうが、「殺害=物証の完全消滅(自爆)」という虚偽のロジックに致命的な矛盾が生ればペナルティも視野に入る。

だがS.H.I.E.L.D.にはとてもサンプルを渡せない

 

しかし、ただただグロンギの遺体を消失させるのもリスクでしかない

 

 

「だったら、サテライトの眼を騙して処理するしかない──」

「マクカシー、指定の臨海コンテナターミナルへの通行規制、および一般車両の完全な排除が完了したぞ」

 

 

ステアリングを握る一条刑事が、鋭い声で言った。パトカーがゲートを突き抜けた瞬間、静まり返った無人のコンテナ街と、立ち込める重い夜霧が視界に広がった。

 

 

「それと、椿からこれを託された。……上空の眼帯おじさんへの言い訳は、俺たちの光で塗り潰してやる」

一条刑事がトランクから引き出したのは、科警研が急ピッチで製造した、マグネシウムとテルミット反応を応用した警察用特殊閃光弾──超高熱疑似熱源弾だった。

 

フューリーのサテライトが捉える赤外線熱源感知を、この強力なダミーの熱源ピークでホワイトアウトさせて隠蔽するための、日本警察からの技術的バックアップ。

 

「感謝します、一条刑事」

 

 

ガアアアァァッ──!

 

 

突如、夜霧を切り裂いて、圧倒的な咆哮がコンテナ街に響き渡った。

暗闇の向こうから、凄まじい速度で突進してくる獰猛な虎の異形。

 

 

「今夜は虎狩りですね」

 

 

私はパトカーから飛び出し、通常フォームのままファイズエッジを起動、深紅の光子刃を構えて迎撃に出た。

 

ガギィィィンッ!

 

激しい金属音が夜の闇に弾ける。

ガドラの放った鎖の一撃をファイズエッジの刃で融かしながらそらし、後方で背後のコンテナに激突し貫通していくのを空気の流れで把握する。

直撃を受けたわけでもないのに凄まじい衝撃が私の腕を伝って全身の骨格へと突き抜けた。

 

通常の黒いファイズとはいえ明らかにこちらを超える身体スペックを操り空気を切りながら肉弾戦をしかけてくる。

 

 

力押し──ただそれだけの単純な暴力が、私の挙動を強引に圧殺しにくる。

ガリマのように知性で罠を張るタイプではないからこそ、この純粋な戦闘生物としての身体能力の高さは、私の効率的な暗殺戦術を真っ向から拒絶していた。

虎男が吠えながら、巨大なコンテナを紙切れのように引き裂き、その破片を私へと投げつけてくる。

私は動体視力を強化し、側転からバク転の要領で間一髪それを回避、背後のコンテナに残骸が叩きつけられた衝撃の風圧でコートの裾が激しく翻った。

 

 

執拗に距離を詰め、肉をすり潰そうとする拳が迫る。ファイズエッジで受け流して炭化させて削り、掠めたコートがダメージを蓄積したのか火花が生まれる。

目立って不利ではないが、じりじりと押し込まれる嫌な感覚の戦闘を継続する。

 

 

「ダダバギンガババビバンガゲゴドバ!」

 

不意にガドラが私の胸ぐらを掴み、コンクリートの床へと叩きつけようと腕を振りかぶった、その瞬間──。

 

 

パンッ!

乾いた銃声が響いた。

 

一条刑事が物陰からプレシジョン・ライフルで放った特殊弾丸が、ガドラの左の「眼球」を正確に撃ち抜いたのだ。

 

 

「ル、ガァァァァッ!?」

 

不意の激痛にガドラがひるみ、私の胸ぐらを掴んでいた力が僅かに緩む。

 

「今です、一条刑事!」

 

私はその一瞬の隙を見逃さず、ガドラの懐からバックフリップで離脱。

着地と同時に、左腕に生やしたファイズアクセルのボタンを激しく押し込んだ。

即座にファイズを構成する色が黒から白銀に反転し、赤いフォトンブラッドの輝きが黒に沈黙する。

 

『START UP』

 

 

機械的な電子音が響いた瞬間、世界からすべての音が消え去り、完全に静止した。

現実世界の、たった十秒間。

しかし、私の主観時間においては、2時間四46分という、あまりにも長い一方的な攻撃が許される時間だ。

 

静止した夜霧、静止したライフルの硝煙。音が消失した世界。

その静寂の中で私はファイズエッジの出力を高めながら近寄った。

 

標的は、目を押さえたまま停止している。

ジリジリとファイズエッジでベルトの上下を切り離す、次いでベルトに接続した輪切りにされた肉も可能な限り切除。

 

胴体だけを空中に「置き」ついで、右足にエネルギーを収束させクリムゾンスマッシュを叩き込む、一発目でフォトンブラッドの熱に焼かれて灰になり始める・

即座にチャージされた状態の左足で反対側からも蹴り込む、さらに右足でもう一発!

都合3発のクリムゾンスマッシュを叩き込み、虎男だったものの灰が空中に浮かぶ。

 

「──おやすみなさい」

 

誰にも聞こえない呟きとともに主観時間の終わりが訪れる。

 

 

 

『TIME OUT』

 

「そして時は動き出す」

 

 

 

現実の時間が動き出した瞬間、虎男の上半身が灰になると同時に物陰から一条刑事が『超高熱疑似熱源弾』を周囲のコンテナ群へ向けて一斉に投擲した。

 

ドオオォォォンッ!

 

太陽が地上に降りてきたかのような、凄まじい白い熱と高輝度の光の嵐がコンテナ街を一瞬で包み込み、ホワイトアウトさせた。

 

S.H.I.E.L.D.のサテライトモニターには、この複数のダミー熱源ピークが激しく焼き付き、中央の反応を完全に塗り潰す。

 

その閃光のカーテンコールの中心で。

虎男は私の放った複数回のクリムゾンスマッシュの直撃により完全な「灰」へと熱分解され、夜風に霧散していった。

立ち込める白い煙と、マグネシウムの残光。

 

光の嵐が消え去ったコンクリートの上に音を立てて転がったのは、完全に沈黙した、傷一つない不気味なトラ男のベルトと腹部の肉、下半身だった。

 

私は一条刑事から受け取ったケースにそれらしまい込みそれら手渡した。

 

「すぐに上司から確認がきます、少し離れていてください」

 

案の定、すぐさま専用端末にニック・フューリーからの通信が入る。

 

『マクカシー。サテライトが臨海区で複数の激しい熱源反応を捉えた。……また自爆か?』

「ええ」

 

 

私は冷徹な表情のまま、淡々と虚偽のロジックを告げた。

 

 

「データを共有します。今回出現したのはトラの特徴を持ったトラ種怪人です。

先のカマキリ種怪人と同様、この種族は致命傷を負うと中枢が過剰反応を起こして自爆、あるいは誘爆します。

今回も私のフォトンブラッドの熱量によって完全に爆散し、灰すら残らず消滅しました。……回収可能なサンプルはありません」

 

フューリーは画面の向こうで沈黙し、一条の疑似熱源弾によって激しく乱れたサテライトのログを精査した。これまでの誘爆データとも完全に計算の辻褄が合う。

 

『……やはり歩く時限爆弾か。繰り返しになるが物証の回収は二の次だ。周囲の被害は最小限に抑えろ。帰投しろ』

 

通信が切れる。私は静かに息を吐いた。フューリーは半分察しているかもしれないが表向きには騙され、無傷のゲブロンと下半身のサンプルは、日本の警察の手に委ねられた。

 

「お疲れ様、マクカシー。完璧な計算だったよ」

「いいえ。前回のマットと同じように協力してくださった大勢の方の援護と、一条刑事が完璧に疑似熱源弾を投げて下さらなかったら、成立しない計算でした」

 

変身を解除し私は一息つく、黒いコートの襟を立て、パトカーへと歩き出した。

だが、世界はまだ動いている。

 

 

 

 

同じ夜、文京区の関東医大病院の地下──椿秀一のラボ。

極秘裏に持ち込まれ、バダーのベルトの横に置かれていた九郎ヶ岳のゴウラムの砂利が、今夜のエリンの戦闘──体内の霊石アマダムから発せられた強い波長を遠隔で感知し、その結合速度を異常に加速させていた。

カサカサ、カサカサリ。

不気味な自己修復の音を立て、砂粒同士が急速に形を成していく。

顕微鏡を覗き込むまでもない。

そこには、既に数センチに及ぶ、明確な『未知の古代甲虫の、鋭利な脚と外殻の形』が、完全にその輪郭を現し始め、次の瞬間に姿を消した。

 

 

 

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