MCU世界で『ただいま』を言えない怪物 作:お砂糖さらさら
ズ・ゴオマ・グ戦
ガドル閣下登場
深夜の文京区。雨の滴るアスファルトに、どろりとした黒い血が混ざり合っていた。
「ギギ、ギ……ザジパ……ッ!」
蜘蛛の特徴を持つ怪人としか言いようがない存在。
クモ種怪人グムンは、焦っていた。
自分達よりも格上のメ集団、ゴ集団の同胞たちが、あの「クウガの出来損ない」によって、ゲゲルのルールを果たす前に次々と灰に変えられていく。
このままでは自分たちのゲゲルの順番など永遠に巡ってこない。
恐怖と屈辱に駆られた下級の獣は、ルール無用のやけくそな一般人狩りを開始していた。
だが、その歪な足掻きは、彼に終わりをもたらせるだけに終わった。
パシィィィッ!
ゴッ!
ライダースーツに黒コート、各所に装甲を纏い赤いフォトンブラッドのラインを肢体に伝わらせる少女がその拳を手の甲でそらして殴り返していた。
強い、いや今まで倒したグロンギと比べれば圧倒的に格は低い。
だが正面からの殴り合いならば互角かやや劣勢程度の身体スペックの差があった。
改めてあの遺跡で200体近く処理していて本当に良かった、こんな連中と延々と戦い続けることなど到底できない。
「ハァ!!」
気合とともに封鎖された道路に蹴り飛ばす、腰にマウントして置いたファイズショットを右拳に装填、左手でファイズフォンのエンターをなでるように押す。
『Exceed Charge』
電子音声が夜を割り、必殺の右拳が完成する。
「ゴラゲンジョグバクウガンゼビゴボバギグガサパセバベセダ!」
「格が低い奴は知能も低いらしい」
全力で踏み込み、蜘蛛男が両腕でガードするのをその上から叩き込みフォトンブラッドを流し込む、即座に体内が赤熱し、灰にしながらベルトに到達。
それを確認して即座により開けた場所に蹴り飛ばす。
ドオオンンッ!!と小規模な爆発が起きて決着がつく。
サラサラと風に流される灰を確認してようやく警戒を解く。
「……1体、処理完了」
「マクカシー特別分析官!!」
背後から男性警官の叫びが聞こえる、私は即座に彼から無線機とスマートデバイスを受け取る。
画面に視線を落としながら無線機を耳に当てる、変身を解除する時間すら惜しかった。
ザー、と激しいノイズとともに、一条刑事の鬼気迫る声が流れてくる。
『マクカシー!聞こえるか!
もう1箇所の浅草の現場から、コウモリ型怪人が空をとんで、北へ向かって離脱した!
両腕の飛膜を展開し、速度は優に時速百二十キロに達している。
地上の追跡班では追いつけない!!高機動形態で追撃をかけられるか?』
チリ、と胸の奥の細胞が爆発するような痛みを覚えた。
連日のアクセルフォームの多重起動。
主観時間を無理やり数時間に引き延ばした代償として、私のフォトンブラッド生成系は摩耗と疲労をため込んでいる。
今、もう一度ファイズアクセルのボタンを押せば、私の身体は加速の摩擦に耐え切れず細胞レベルで破綻する。
その時、生存できてもエリンの姿を保っていられる気はしない。
「……連日の使用により不可能です。進路は割れているんですか?」
『ああ、網は張ってある。奴は焦って飛行制御のための超音波(エコーロケーション)を最大出力で撒き散らしている。環境省関連の市民調査ネットワークが設置しているヘテロダイン式コウモリ探知機の都内ログ、および洋上風力発電のアセスメント用自動超音波モニタリングシステムの定点データを警察の総力を挙げて提供してもらっている。
それらを分析して出した進路情報をマップに送る!』
スマートデバイスに地図情報と進路が表示される。
日本の警察ってすごい、そんな場違いな思考が頭に浮かぶ。
東京の夜空を120km/hで北上する人間大コウモリの飛行熱ルートが、これ以上ないほど鮮明にマッピングされた。
位置は完全に丸裸。
だが、私にはそれを追う翼がない。
一秒、計算が停滞しかけた、その時だった。
キィィィィィィィン――――ッ!!!
金属が空気を引き裂く、ジェットエンジンのような光子の咆哮が頭上から響いた。
見上げれば、夜霧を割って飛来する、巨大な黄金の輝き。
それは、この時の私があずかり知らぬことだが数日前に城南大学のオーパーツ保管庫のコンクリート壁を内側から貪り食って脱走した、古代の金属甲虫――ゴウラムだった。
遺跡がクレーター化する前に発掘されていた、古代リントのクワガタムシ型の遺物。
研究者たちが恐怖しながらも、現代の特殊チタン合金やカーボン資材を実験的に与え続けた結果、それらを「捕食・同化」して現代的な重装甲を纏って完全復活したハイテクオーパーツ。
ゴウラムの腹部にある霊石アマダムが、私の体内にある「断片」の波長を主として認識し、狂ったように共鳴している。
ゴウラムは私の直上でホバリングすると、現代の油の匂いを纏った強固な前足を、乗り手へ差し出すように差し向けた。
「……私の足になってくれるの?」
私は迷わず跳躍し、ファイズの漆黒のアンダースーツのまま、ゴウラムの下腹部へとガシッと掴まった。
ドンッ!!!っと空に飛び立つ
「あ…あっ…!!??」
奇妙な脱力感が私を襲い、フォトンブラッドの生成量を引き上げる。
黄金の機械仕掛けのクワガタの翅からフォトンブラッドに似た光の火花が噴き出し、私たちは時速百二十キロの壁を一瞬で置き去りにして、浅草の上空、夜雲の彼方へと急上昇していった。
◆ ◆ ◆
高度200メートル。時速100キロ以上で飛行する中で冷たい雨が頬を砂利のような硬さで叩く。
このクワガタくんは私が思っているよりも高機能でスマートデバイスとリンクして受信を続けているらしい。
追跡の果てに物流倉庫・コンテナ群が視界に入るころ、やがての視界の先、
バットディテクターの誘導する座標のど真ん中に、必死で羽ばたく醜悪なコウモリの影を捉えた。
「バンザガンゴゴビバルギパ!!――ッ!?」
背後から迫る黄金の質量に気づき、コウモリ男が恐怖に顔を歪める。
「計算は成立した。あなたの夜はここで終わる」
ガガガグォッ!!!
超高速で肉薄したゴウラムの巨大な鉄のクローが、空中でゴオマの細い胴体を容赦なく挟み込み、その飛行能力を完全に封殺した。暴れるコウモリの、硬い頭部が私の目の前に固定される。
私はゴウラムの頭部分から身を乗り出し、右手に生成したファイズショットを構える
別に目撃者がいない場面でやる意味はないのだがファイズフォンのエンターをなでるようにプッシュ。
『EXCEED CHARGE』
赤い流体光子が右拳のファイズショットへドクドクと収束し、臨界点に達する。
「おやすみなさい」
「ジャレソ!ジャレソ!ザバゲ!」
ゼロ距離で放たれた必殺のグランインパクトが、何かを叫ぶゴオマの頭部へと直撃した。
ゴウラムのクローから放り出されたゴオマは、頭部から上半身にかけて瞬時に灰化しながら地上へと自由落下していく。
落下中、ファイズショットの破壊エネルギーが、ゴオマの腹部にあるベルト(ゲブロン)の魔石へと到達した。
ドバァァァァァンッ!!!
地面に激突する前に、溜まっていた過負荷エネルギーが一気に爆発を起こし、小規模な爆発を起こした。
灰となったその残骸は夜風の中へと霧散していった。
「一条さん、目標を撃破しました。想定外の足を使ったので回収を手配してください
現在地は栃木県南部から茨城県西部の廃工場があるあたりです。
足に使ったのは全長:2.7m 全幅1.2mはありそうなデカい金属製のクワガタムシです。
先代クウガが使っていたオーパーツかもしれません」
「クワガタ……了解した、まずは回収班をよこす。可能な限り現場で休んでくれ」
「わかりました、回収班にはコーラと栄養食を持たせてくれると助かります。
一応、無線機はつけっぱなしにしておきます」
手を振るとゴウラムがゆっくりと地上へ着陸する。
「君もありがとう、私はクウガじゃないけれど助けに来てくれたんだね」
クワガタくんの頭をなでやる。
その時だった。
コツン、コツン、と。
雨音に混じって、やけに重く、洗練された足音が近づいてきた。
私の生体センサーが、脳殻の最深部でこれまでにない最大級の危険信号を叩き出す。
煤煙の奥から現れたのは、仕立ての良い衣服を纏った男だった。
彼は、これまでのグロンギとは違う、本物の戦士の佇まいでそこに立っていた。
これは無理だ。
現状の手札では排除できない。
「リントの模造品よ。茶番の掃除、苦労だったな。……次はお前の番だ」
男の姿がブレる間に私はファイズアクセルを起動させる。