MCU世界で『ただいま』を言えない怪物   作:お砂糖さらさら

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ガドル(金の力+フォトンブラッド)閣下戦


第2部・第9話 激突、あるいは流流たる青銀の光子

 東京湾の最外縁、中央防波堤。

 

MCU世界線の歪な恩恵によって完全にフラットへと舗装された広大なコンクリート更地は、一条刑事らの警察権限による完全封鎖を受け、完璧な無人地帯と化していた。

 

 

 

 ザァァァァ――――……。

 

 

 

 激しい雨と雷鳴が降り注ぐ更地の中心に、カブトムシ種の怪人

 

――ゴ・ガドル・バは直立していた。

品川の火力発電所からメガワット級の高圧電流をそのゲブロンへとダイレクトチャージし終えた彼の衣服の隙間からは、フォトンブラッドと電力が最悪の化学反応を起こした「青銀色の流体光子」が、生き物の血管のようにドクドクと脈打って全身を這い回っている。

 

 

ブウゥウウン、ブウゥウウン……

 

 

 大気そのものを激しく発振させる、あのアクセルフォームと同じ不気味な神速の待機音が、雨音をかき消して更地に鳴り響いていた。

 

「待ったぞ、リントの模造品よ。この城の力をすべて我が肉体へと融合させた。

……お前が手に入れたその新しい玩具、どれほどの出力か試してみせよ!」

 

 

 私は、リミッターを完全に削除されたバルブがついたトランク、小型粒子加速器というべき何か――ファイズブラスターを両手で握り締め、完璧なエリンの無表情のまま、コンクリートを踏み締めた。

 

「……私の生存演算に、あなたの存在は不要。ここで終わらせる」

 

ファイズブラスターに「555」と入力しエンター

 

『Standing by』

 

次いでファイズフォンをトランクに装填

 

『Awakening』

 

「あなたの夜を終わらせるよ」

 

 

全身を深紅の光が包み一瞬にしてブラスターフォームへと覚醒する。

垂れ流されるフォトンブラッドが雨粒を一瞬で水蒸気へと変え、更地が真っ白に煙る。

 

私はキーパッドにコードを叩き込んだ。103そしてENTER

 

『BLASTER MODE』

 

 

 ファイズブラスターが超大型銃(フォトンバスター)へと変形し

続けて5246と押し込みエンター、背中から紅いフォトンブラッドが激しく噴射される。

 

ドンッ! と爆音を立てて私は夜空へ跳躍した。

 

高度五十メートル。

それと同時に、地上にいたガドルが自らの身体を「射撃体(緑)」へと超変身させる。

 

 

質量を無視したように生成された巨大なボウガンが、発電所の電力を帯びた青銀の光弾を夜空に向けて猛烈に連射してきた。

 

 

 ドバババババババンッ!!!

 

私は強化された動体視力と神経系を総動員し9割を回避、上空から光の柱を叩き込んでやる。

遮蔽物のない更地の上空で、私の放つ深紅の光条と、ガドルの撃ち上げる青銀の電撃弾が、夜の東京湾を格子状に激しく切り裂いていく。

 

ガドルの対空狙撃と私の爆撃。

爆風の圧力が、更地のコンクリートを何度も波立たせる。

 

ダメージレースはこちらが勝っているが、回復力は向こうが勝る!

私は背中から赤い光をぶちまげて急降下しながら143と打ち込みエンター

ファイズブラスターを巨大な光の剣(フォトンブレイカー)へと変形させ、落下の質量すべてを乗せてガドルの頭部へと振り下ろした。

 

 

 ガシィィィィンッ!!!

 

 

 あってはならない金属音が響く。

ガドルは瞬時に「剛力体(銀)」へと姿を変え、その圧倒的な重装甲の両手で、ブラスターフォームの最大斬撃を真っ向から受け止めてみせたのだ。

 

「無駄だ! 我が肉体は既にリントの技術の限界を超えている!」

「いいや圧し切らせてもらう!」

 

背中の推力をさらに増大させて指とその下の母指球を切り落とす!

親指と母指球を喪失した場合、手の機能の半分が失われる。

 

強力な握力

物を確実に掴む精密動作

拳を固めて打撃を放つ際の安定性

それらを削れなくては土台にすら上がれない!

 

 ガドルが身を引くと同時に、彼の瞳が青く染まる。「俊敏体(青)」への超変身。

フォトンブラッドを纏った超高速の打撃が、地上に降りた私の胸部をガガガガンと激しく連打し直撃する。

ライダースーツから垂れ流されるフォトンブラッドがガドルの拳を焼くがすぐに再生する。

通常戦術では埒が明かない。

私の生存マージンが、再びの赤字を出そうとしていた。

 

……正々堂々は、ここまでだ

 

 

私はファイズブラスターを投げ捨て、右腕のファイズアクセルを生成し稼働させる

スタータースイッチを押し込んだ。

ブラスターフォームを象徴する全身の赤が白銀に染まる。

 

 

『START UP』

 

 

 

機械的な電子音が響いた瞬間、世界からすべての「音」が完全に消え去った。

現実世界の、たった十秒間。

 

引き延ばされた時間では3時間近い孤独な時間を私に与える。

 

激しい雨粒が、空間にガラスの弾丸のように固定され、静止した世界。

 

だが――ガドルは止まらなかった。

 

 

ブウゥウウン……

 

 

 

 

ガドルの全身を走る青銀のフォトンラインが爆発的に輝き、彼は私の起動した超加速の世界へ、全く同じ速度の加速状態となって追随してきたのだ。

 

「ルガアァァァァッ!!!」

 

無音の世界。お互いが時速数千キロの白銀と青銀の光の筋となり、コンクリート更地を乱反射するように激しく交錯する。

 

 ドカッ! バキィィンッ!ゴオン!!

 

音は聞こえない、それでも拳が交錯するたびに体に衝撃となって響く

ファイズショットを何度も両手に生成させ、チャージしては殴りつける。

破損すれば即座に修復、そしてチャージして拳をふるう。

 

静止した空間の中でコンクリートの床がクレーター状に木っ端微塵に爆散していく。

二時間。二時間半。無音の中で、互いの肉体と装甲を削り合う淒惨な泥仕合。

 

 

『Time Out』

 

 現実の時間が、爆音と共に動き出す。

 

 十秒の中で限界まで稼働し続けた疲労と消耗が濁流のように流れ込んでくる。

アクセルフォームの白銀の輝きは失われ通常のファイズの姿に戻る、私はその場に膝をついて激しく吐血した。

 

 対するガドルもまた、神速の限界を迎えて肉体各所に炭化や赤熱、ひび割れから猛烈な煙と光を噴き出し、膝をつく。お互いに瀕死のダブルノクダウン。

 

 しかし、私は確かに手応えを感じていた。あの無音の十秒(二時間半)の死闘の中で、私はガドルのベルト(ゲブロン)へと確実に数発のグランインパクトを直撃させていた。

 

親指を失い、母指球を失ったガドルの拳は握力が半減し、ファイズショットをアクセルフォーム特有の常時チャージ状態を活かしたダメージレースの結果やや優勢状態にあった。

 

「……ハ、はぁ……、まだだ……」

 

 

 ガドルがゲブロンの破損を執念で抑え込みながら、不気味に立ち上がる。

彼の瞳が再び緑色へと染まる。「射撃体(緑)」。

満身創痍のガドルは、至近距離から質量を無視した巨大ボウガンを私の頭部へと向け、トドメの光弾を放とうと引き金を引いた。

 

猶予は、百分の一秒もない。

 

私は速度を捨て、確実性のみに生存演算を全振りした。

右拳にファイズショットをモーフィング生成し、フォトンブラッドを極限まで過負荷チャージする。

 

「ハアアアアアアアッ!!!」

 

 放たれた超高熱のボウガンの光弾に対し、私は自らの右拳を真っ向から突き出し、そのエネルギーを正面から殴りつけて相殺した。

ドゴォォォォンッ!!!

 

凄まじい爆煙が二人の間を遮る。

衝撃で私の右手の感覚が砕け散るが、そんなものは計算の端に放り捨てる。

 

私は爆煙を突っ切りながら、右脛にファイズポインターを生成マウントした。

 

ブラスターの暴力的な火力ではない。

私がファイズとして、エリンの家に帰るために愚直にガチャガチャと手順を繰り返してきた、通常ファイズの基本システム。

 

ファイズフォンの「ENTER」を、左手の掌で殴るようにプッシュする。

 

『EXCEED CHARGE』

 

 ひび割れた電子音声が響き、私の右足から真紅の円錐状のロックオンマーカーが放たれた。

空間を穿つ光の光錐が、格闘体への超変身が間に合わなかったガドルの無防備なボディ(ゲブロン)を完全にロックする。

 

 

「おやすみなさい」

 

 

 全力で地を蹴り必殺のクリムゾンスマッシュをそのベルトの真上へと直撃させた。

 

 

瞬間、ファイズ本来のフォトンブラッドの全エネルギーが、ガドルのゲブロンの中枢である魔石へとダイレクトに到達する。

過負荷による最悪の過剰反応。ガドルの体内の魔石が太陽のように激しく明滅し、臨界点を超えた。

 

「見事だ……クウガを継ぐ者よ……」

 

 

 ガドルは、戦士としての不敵で満足げな笑みをそのクワガタの複眼に浮かべた。

 

そのまま倒れ込む私をガドルは掴んで海の方に何十メートルも放り投げる。

中央防波堤の最外縁の闇――冷たい東京湾の海へと、真っ逆さまに着水していった。

 

 

ドゴォォォォォォォォォォンッ!!!!!

 

 

 

直後、私の背後で、東京の臨海エリアの夜空を昼間のように白く照らすほどの、凄まじい巨大な火柱が立ち上った。

東京タワーよりも高い高い、美しい光の柱。

 

 ゴ集団最強の戦士、ゴ・ガドル・バの肉体とゲブロンが、跡形もない灰の霧へと爆散していく壮絶なカーテンコール。

 

ドボン、と冷たい海水の感覚が、私の消失しかけた意識を包み込む。

私は暗い水底から空を見上げている。

生存計算は……黒字だ。

あの「ただいま」は、誰にも奪われずに済んだ。

 

空から金色のクワガタムシがやってきた、その牙の部分に最後に残った力でなんとか掴る。

 

こちらを照らす光があった。

 

 

「マクカシー――ッ!!! 手を伸ばせ!!!」

 

 

 激しい水音とともに、闇夜の海を引き裂いて滑り込んできた警察用救助ボートの舳先から、一条刑事が必死に手を伸ばしているのが見えた。

 

泥水と血に塗れ、おおよそ敗残兵に近い有様の私を、実直な刑事の掌が、力強く、温かく引き上げていく。

東京湾の夜空には、ガドルが散華した赤い光の粒子が、雨に混ざって静かに降り注いでいた。

 

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