MCU世界で『ただいま』を言えない怪物   作:お砂糖さらさら

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ホークアイ戦です


第3話【実戦分析】爆弾矢およびホークアイ無力化シークエンス

 ヘリキャリアの中央ブリッジ、その実験卓の上で、青く不気味な明滅を繰り返す『杖』が横たえられていた。

 

 バナー博士とトニー・スタークが、その先端に埋め込まれた結晶から放射されるガンマ線のスキャンを開始した、まさにその瞬間だった。

 

 

――ドク、ドク、ドク。

 

 

今まで捕食してきた、ファイズのガジェット、先代のクウガやオーパーツのクワガタ由来の霊石、グロンギの魔石、それらを前にした時は全く違う何かを、力の集積をその結晶から感じた。

 

欲しい!食べたい!寄越せ!

 

いつぞやの異邦から来たロボットと比較にならない捕食の本能が狂ったように鳴り響き始る。

 

皮膚の下の生体回路が一時に沸騰し、エリンの焦げ茶色の瞳の奥で、完璧な擬態の計算を忘れた剥き出しの本能が、荒らしく灯る

 

脳内CPUが、既存のすべての生存演算を焼きちぎる、最悪のバグログを弾き出す。

 

標的を識別。

ロキの杖。

青い外殻の奥、その核に眠るエネルギーの純度――測定不能。

 

手に入れれば、私の生体システムを『神の領域』へと恒久的に変態させる。

 

喰いたい

 

今すぐここで、あの実験卓ごと噛み砕いて、あの光を胃の腑に呑み込みたい。

 

喉が、獲物を前にした獣のようにヒタヒタと鳴る。

私が無意識のうちに、その無機質な杖に向かって物理的な一歩を踏み出しそうになった、その刹那だった。

 

 

 

「――ダメよ」

 

 

 

ガシ、と鉄の万力のような力強さで、私の黒いコートの肩を掴み取る掌があった。

 

ナターシャ・ロマノフ。

 

プロのスパイである彼女の瞳は、私の剥き出しになった飢餓感を完璧に看破していた。

彼女はあえて私の視界を遮るようにその細い体で割り込み、低い、しかし絶対的な拒絶の声で私を現実の位階へ引き戻した。

 

 

「人間でありたいなら、自分の食欲くらい完璧にコントロールしなさい」

 

ナターシャの静かなストップ。

 

私は短く息を吐き、生体組織のざわめきを人間の皮の奥へ奥へとへ強引に格納して、冷たい無表情を作り直した。

 

あの杖に格納されている何かを捕食できるなら日常が破綻しても良い、何かを得るためには何かを捨てなければならない。

そんなおぞましい誘惑のノイズ。

 

それが、私の脳内CPUを極限まで苛立たせていた。

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

ヘリキャリアのガラスの独房を囲むの空気は、醜く歪んでいた。

 

 

囚われの神、ロキを前にして、アベンジャーズの「例外個体」たちは、醜い内輪揉めの口論をエスカレートさせている。

トニーの冷ややかな嘲笑、スティーブの生真面目な激昂。

彼らの心音の不調和は、空間全体の処理速度を著しく低下させていた。

 

 

これ以上無駄な時間は計算上のロスになる。

 

 

私はそっと、バナー博士に耳をふさぐようジェスチャーをしてから肺に空気をためた。

 

 

「――ワッ!!!!!」

 

 

私が喉の細胞を限界まで摩擦させ、全大気を強引に両断するような大音量を発した瞬間、男たちの言葉の応酬がピタリと凍りついた。

 

驚愕に目を丸くするスティーブとトニーを、私は完璧なエリンの無表情のまま見据えた。

 

 

「長官殿、ロキは目立つデコイです。

彼が自らここに捕まりにきた時点で、次は洗脳されたエージェントによる本命の奇襲と奪還作戦があるとみるべきです。

……そこで、敵の戦力として想定される傭兵やシールド職員の対処について、事前に指示と許可をください。

全員、その場で削除しても良いですか、それとも無力化して拘束すべきですか

個人的には、前者の方が圧倒的に計算が楽ですが」

 

 合理一辺倒の冷酷な声がブリッジに響き渡る。ニック・フューリーは、こぼれそうになった溜息を強硬に噛み殺し、一つだけの目で私を射抜いた。

 

「……結果的に死傷者が出ても、殺害を前提にするな。生きた検体を残せ。インカムと手錠、それから特殊高密度繊維のロープを用意させる。それを使って可能な限り拘束しろ』

「了解しました」

 

 洗脳の解除にも、生きたサンプルが必要、そう脳内CPUは処理し、私は隣にいたブルース・バナー博士に向き直った。

 

 

「バナー博士、まもなく襲撃が予測されます。私はあなたの護衛に指定されていますが、ここであなたの傍でガードし続けるのは戦術的合理性に欠けます。

降りかかる火の粉は、熱量が発生する前に外側で消す。それが私の生存演算(やり方)です」

 

「ヘリキャリアの外で迎撃か、この高度から落下すれば君でも無傷では済まないと思うんだけどやるんだね?」

「やりようは、いくらでもあります」

 

 私は黒いコートの裾を静かに翻し、アタッシュケースを握りしめてブリッジを退室した。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 

ヘリキャリアの巨大な飛行甲板の上は、激しい突風と乱気流のノイズに支配されていた。

 

 生体センサーが、シールド公式の識別信号を発しながら接近してくる「予定にないクインジェット」の羽音を捕捉する。ブリッジの凡愚どもが私の警告を軽視して接近を許したのだ。

 

 

機体が甲板へ肉薄したその瞬間、ハッチから飛び降りながら、弓を構えた一人の男が眼下に視界を向けた。

 

クリント・バートン、あるいはホークアイ。

 

ロキの魔法によって精神をハッキングされた、シールド特級の弓兵。

 

シュッ、と風を切る音と共に、彼の弓から放たれたのは、ヘリキャリアの心臓部である『第3エンジン』をピンポイントで大破させるための特殊爆弾矢。

 

 

エンジンが吹き飛べば、私の日常(インフラ)の維持費が最大級の赤字に転落する。

 

ゾーン状態に突入し加速した意識のまま手際よくファイズフォンにコードを打ち込む

 

『STANDING BY』

 

 

電子音声を聞き流し、さらにベルトに叩き込む。

 

肌に触れるベルト裏面から微細な生体組織(神経や触手)を内部へ泥のようにドクドクと注入し、流体光子(フォトンブラッド)を全開駆動させる。

衣服が粒子となって消滅しライダースーツとコートが形成、身体の各所に装甲が追加されフォトンブラッドの紅いラインが浮かび上がる。

 

 

『COMPLETE』

 

 

 システム完了の音が鳴り響き、衣服を喰らい、肉を変態させて生み出された通常ファイズ形態の完成。

 

いくらトニーが『サブルーチン555』による完璧なデータ改ざんを敷いてくれているとはいえ、アベンジャーズの目があるこの要塞で、高出力の「アーマーファイズ」を解禁するのはリスクが高すぎる。

 

私は出せる範囲の力で地を蹴った。

 

 

 ひと跳び35メートルの脚力を解放し、空中で弾丸のように直進する。ファイズフォンの銃撃では仕留め損なうと判断した私は、硬質なグローブを嵌めた右腕を伸ばし、迫り来る爆弾矢の先端を、空中で直接その手でガシッと掴み取った。

 

バチバチ!!!

 

爆発の衝撃波が右手のなかで膨れ上がろうとした、その刹那。

 

私は日本で先代クウガとゴウラムの霊石から受け継いだアマダムの物質・原子操作能力の片鱗を用いて爆弾をハック。

 

掴み取った矢の爆薬の分子構造を、ただの『無害な石と砂粒』へと、爆発するよりも早くミクロのレベルで強制的に組み替えて中和する。

 

「なんだ!? スタークのナノテクが矢の起爆を中和したのか!?」

 

 トニーのJ.A.R.V.I.S.が裏で『サブルーチン555』のバッファを用いてしてフェイクログを大急ぎで上書きしてくれるからこんなこともできる、極めて便利だ。

 

 だが、洗脳されたホークアイの戦術は合理的過ぎた。

 

彼は矢の無力化を認めるや否や、今度はワイヤーが繋がった矢を装甲へと打ち込み、自らの生身の肉体に爆弾を括り付けた自爆テロの形でエンジンへ肉薄しようと、リールを猛烈に巻き上げて接近してきた。

 

……エラー。

 

ファイズフォンによる狙撃は彼の生身の肉体に不可逆的な影響を与えうる。

フューリーの命令は「殺害を前提にするな」

——彼を死なせたら、私のリターンに影響する。

 

私は迷わず、フューリーから渡されていた特殊高密度繊維のロープをバックパックから引き抜いた。

 

人間の手で結ぶ時間などない。

 

私はそのロープの末端をモーフィングパワーの物質変換によりヘリキャリアの金属甲板の分子の隙間へと滑り込ませ、コンクリートと鉄骨に直接『融着・埋め込み』して強固な命綱として固定した。

 

 

 ガッ!!! とロープを掴んで、ワイヤーで肉薄してくるホークアイの軌道上へと身体を投げ出す。

 

「子供が邪魔をするな!」

「私は成人しています」

 

 

 ホークアイが手にした手榴弾を投げつけてくるのを、私は正確な体さばきでサッカーボールのように虚空へと蹴り飛ばして安全圏で炸裂させた。

 

そのまま確保した彼の胸ぐらをファイズの剛腕で掴み取り、甲板へとねじ伏せる。

だが、彼の胸の爆弾はすでに起動段階に入り、赤い点滅を刻んでいた。

外すにしても気絶させて意識を奪うしかない。

 

 

 パンチ力15トンの剛力を、私の脳内CPUは極限までミリグラム単位で精密に『引き算』した。

「脳震盪による即座の昏睡を誘発しつつ、人間の頭蓋骨を木っ端微塵に粉砕しない極限の最小値の手加減」を瞬時に弾き出し、ホークアイの顔面へと鋭いビンタを叩き込んだ。

 

 

バチィィィンッ!!!

 

「ガ、は……」

 

 狙い通り、ホークアイの目がかすみ、糸が切れたように意識を失って昏睡する。

 その隙に、私は彼の体に巻かれた爆弾の固定ベルトを指先に集中したモーフィンパワーの力でプチリと切除。

 

私が今着ているコートはシステムの一部であり生体組織の延長にある。

これを操作しで爆弾をぐるぐる巻きに包み込んで熱量を密閉し、自切して全力で投棄した。

 

 ドバァァァァァンッ!!! と遠くの空で私のコートが爆散する。

 

 

ついで手錠をはめてロープで私の左腕に固定する。

 

よし、これで生きた検体ことホークアイの確保は完了、生存マージンは黒字化——そう算定した、その瞬間だった。

 

 上空でスタークやソーが対処していたはずの、洗脳されたエージェントが操る別のクインジェットが、逃亡のための進路を確保せんと、甲板でホークアイを回収しようとしていた私に向けて、苦し紛れのミニガンあるいはガトリングガンの超高速掃射を狂ったように浴びせてきた。

 

 ドババババババババババババババババンッ!!!!!

 

「チィッ!!!」

 

 

 私は気絶したホークアイの身体を自分の通常装甲の下へとがっしり抱え込み、盾の役割となって肉壁となった

動体視力と神経、筋肉と骨密度をさらに強化しホークアイと自分に直撃するコースのうち、相当数を叩き落とすがいくらかは被弾し火花が散る。

 

 

通常ファイズの耐久力でも弾丸を防ぎきることはできるが、20ミリ弾の凄まじい物理衝撃の連打が、私の足元、甲板に融着させていたあの命綱のロープを無慈悲にズタズタに切断していく。

 

 ブチ、ブチリ、と、私をこの鉄の要塞に繋ぎ止めていた最後のインフラが完全に切断された。

 気流と重力が、私の身体をヘリキャリアの甲板から切り離す。

 

 

(……ホークアイを助けるのならば私の落下が確定する)

 

 

 脳内CPUが瞬時にその解を弾き出した。

 

アイアンマンとソーが対処してくれたのか銃撃はやんだが時すでに遅し。

 

脚が浮き始めたのを無視して即座に、自分の左腕とホークアイを繋いでいたもう一本のロープをモーフィングパワーにより瞬時に切断した。

 

すぐさまそれを握って甲板を殴りつけてモーフィングパワーにより固定する、可能な限り戻すときに穴をふさぐと比較的安全そうな物陰に最低限必要な力加減で投げつけてやる。

 

 

荒れ狂う気流に押し流され身体が宙へと浮き上がり流される。

 

 

 

「あとは、任せましたよ先輩方」

 

 

ブオオオオオオオ!!

 

押し出されるままホークアイを甲板に残し、ヘリキャリアのはるか眼下

 

――雲海の向こうにある空

 

そのさらに向こうにあるどこかに向かって、真っ逆さまに、高速で自由落下していった。

 




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