MCU世界で『ただいま』を言えない怪物 作:お砂糖さらさら
深夜のマンハッタン、ハドソン川沿いの廃倉庫。
いつものフューリーとの会合場所に私は向かっている。
重い鉄の扉を開けると、月明かりに照らされたロングコートを纏った隻眼の男が一人で待っていた。
ニック・フューリー。
ホログラムでもなければ、護衛の隠密部隊もいない。
彼からの、極めて個人的で非公式な招集プロトコルだった。
テーブルの上には、世界中の金融市場のリアルタイムログを表示した専用端末と、エイドリアン・トゥームスという名の一民間業者の分厚い身元調書ファイルが並んでいる。
「エリン・マクカシー」
ューリーの声は、コンクリートの床に沈むように低かった。
「お前がこの二週間、ニューヨーク、ロンドン、東京の為替市場からミリ秒単位のアルゴリズムで強引に掠め取ってきた総額を、私の側で弾き出させてもらった。
お前のその人外の脳内CPU、なるほど、ウォール街のどの天才トレーダーよりも高効率で世界を騙せているらしいな」
「金融経済ほどわかりやすい市場はありませんので。
それにシールドの公式給与、いわゆるバイト代だけに依存するのは、私の生存演算において高リスクな変数です。
組織の口座が凍結された瞬間に赤字に転落する。
自前で軍資金を用意しておくのは、当然の安全マージンです。
……それで、長官殿。その私の資産状況を眺めて、何をご所望ですか?」
フューリーの唯一の目が、薄暗がりのなかで本気の焦燥をギラつかせて私を射抜いた。
「まずお前の肉体が18歳のあの夜のまま、細胞レベルで1ミリも加齢していない事実。
普通に考えれば5年も経てば、あの下町の母親や周囲に老けないエリンという決定的な現実が露呈する。
そしてお前がその日常という安全装置を失えば、今の人間的な価値観を失い世界を焼き尽くす災厄になる可能性がある……お前の生存限界は、長くて5年だろう」
私は表情一つ変えず、ただ冷たい赤い虹彩を微かに細めた。
「それだけではない」と、フューリーはトゥームスのファイルを指先で叩いた。
「チタウリの侵攻はただの威力偵察の類であり、遠からずメンツか危機感に任せた本隊の再侵攻がある、というお前が報告書で提出した戦況分析もだ。
国際安全保障理事会の凡愚どもは、エイリアンを跳ね返して勝利の美酒に酔っているが……私とお前だけが、次の終わりの足音を聴いている。
シールドの公的な回収班やダメージコントロールの目を盗んで、宇宙由来のテクノロジー、あの鉄屑の残骸を回収し、お前に提供する。
そのための極秘の合意をここで結ぶ」
「なるほど」
私はテーブルの上のファイルに視線を落とした。
「表向きは、進退窮まったエイドリアン・トゥームスの廃品回収企業を私が買収する。
頭金は私の為替市場での荒稼ぎとシールドからの給与。
不足分はあなたのサイン一つで動くシールドの裏金で決済する。
トゥームスのインフラにチタウリの残骸を合法的に集めさせ、その物流のブラックボックスの中で、私が生存マージンのために宇宙物質をこっそり捕食・同化するルートを確立する。
……最高にスマートで、黒字な計画です、長官殿」
「ただし、条件がある」
フューリーが身を乗り出し、冷酷な現実主義者の声を滑り込ませた。
「世界を欺くためのカバーはスタークに任せる。だが、お前の捕食現場が万が一、シールドの主流派や理事会の検閲網に本気で捕捉された場合、私は一切の関与を否定し、保身を最優先する。
お前を公式な駆除対象の化け物として処理する手続きを躊躇わん。首輪の鎖を切るのは私だ」
「当然です。トカゲの尻尾切りは、巨大組織の最も美しい生存戦略ですから。
最初からあなたの情など計算に入れていませんよ」
私は小さく鼻で笑うと、ふと、窓の外の激しい雨を見つめながら、平坦な声音のトーンを一段と冷たく落とした。
「ですが長官。私が宇宙の本隊を警戒しているように、あなたもご自分の足元を警戒した方がよろしい。私の脳内CPUが弾き出した算定によれば、シールドというこの巨大なインフラの賞味期限は、すでに切れかけている可能性が高い」
「何だと?」
「シールドが結成されてから、およそ60年と少し。歴史学の基本において、25年を一世代の周期と数えます。それに照らせば、今のシールドは三世代目の末期。
すなわち、組織の制度疲労が極限に達し、結成当時……あるいはそれ以上の大昔に、その土壌に深く埋め込まれた裏切り者の毒が、全身の血管に回りきる時期と重なるのではないですか?」
フューリーの眉間が、深く、険しく刻まれた。
「あなた方のエージェントは宇宙人や神話の神々とやり合う知見が足りないのは百歩譲っていいとして、その戦術の根本にある感覚が、未だに冷戦時代の地球人対地球人のスパイごっこの枠から1ミリも成長していない。我々が今だかつて経験したことない戦争の濁流を前にして、あまりにも組織の構造が硬直化しすぎている」
もちろん、これが私の悲観的な予測であってほしいのは前提ですと心にもない言葉を続ける。
「せめてあと5年、私の擬態のタイムリミットまでは機能してほしいインフラですが……こうであってほしいという人間の甘い願いほど、現実は無慈悲に裏切るものです。
長官殿、背中から撃たれない程度にご自分の組織の身辺を監査し直すことをお勧めしますよ。
不自然な権限や予算の集中、存在するはずのファイルの紛失など…皮肉ではなく、私の生存計算のための、ごく事務的な忠告です」
静寂が、廃倉庫の空気を凍りつかせた。
フューリーは答えなかった。隻眼の男は激しい不快感を眸に灯しながらも、彼自身の持つ冷徹なリアリズムが、目の前の人間の皮を被った計算機の宣告を「正しい」と認めざるを得なかったのだ。
「……25年の関数か。おめでたい理想論を語るアベンジャーズの連中に比べれば、お前のその徹底的な合理主義が、よほど信用に値する」
フューリーは懐からペンを取り出すと、トゥームス企業買収の極秘決済書類に、乱暴に、しかし強固な筆跡で自らのサインを滑らせた。シールドが内側から腐り落ちた時のための、組織外のブラックボックス。
それを確保することは、彼にとっても最高の保険だった。
「ディールは成立だ、マクカシー。トゥームスの会社を買い叩け。そして、その喉を宇宙の鉄屑で満たして、来るべき戦いまで生き残ってみせろ」
「了承しました、長官殿」
私は端末とファイルをアタッシュケースに収め、完璧なエリンの無表情のまま、マンハッタンの夜へと黒いコートの裾を翻した。
インフラの崩壊という巨大な赤字の予感。
だが、その足元が錆びついていく鍵の音を聴きながらも、私の生存演算は、トゥームスの廃品回収場という新たな捕食のルートを確保し、静かに、確実に黒字の数式を更新し始めるのだった。
◆ ◆ ◆
窓の外、ニューヨークの街を叩く激しい雨の音が、古いエアコンの不快な震動音と混ざり合って、天井の低いプレハブ小屋に籠っていた。
ベストマン・サルベージ社の事務所。
机の上に乱雑に放り出された灰皿からは、消し忘れた煙草の細い煙が一本、湿った空気に溶けるようにして虚空へ伸びている。
そこに、かつてチタウリの残骸が山積みにされていた活気のある作業場の面影はどこにもなかった。
あるのは、政府とスターク・インダストリーズが共同設立したダメージコントロール局の冷酷な差し押さえ命令書と、トラックのリース代の督促状の山だけだ。
「……何様のつもりだ、お嬢さん」
作業着の袖を乱暴に捲り上げたエイドリアン・トゥームスが、低く、濁った声で私を睨みつけていた。
彼の心音は、怒りと激しい経済的焦燥によって一分間に百二十回という危険な閾値まで跳ね上がっている。指先は微かに震え、その眸の奥には、すべてを奪われた叩き上げの労働者特有の、暗い復讐の炎が燻っていた。
その人間の剥き出しの激情を、私は折りたたみパイプ椅子に深く腰掛けたまま、完璧に模倣された平坦な無表情で受け流す。
「エリン・マクカシーです。トゥームスさん」
低く、わずかに掠れた、大人の嘘の温度。
「知ってるよ宇宙人と戦った一人だろ
俺たち下町のネズミを憐れみに来たか?
悪いがな、スタークの回し者なら今すぐその華奢なツラを引っ込めるんだな。
ダメージコントロール局の役人どもが、俺たちの生活を先行投資した機材ごと全部なかったことにしてゴミ箱へ放り込んだばかりなんだよ」
トゥームスはデスクを激しく叩きつけた。灰皿がガタリと音を立てて跳ねる。
彼の側近である技術者が、物陰から不審と敵意の混ざった目で品定めしているのが生体センサーに引っかかった。
「感情で私の話を聞かないのは非効率ですよ。私はスタークさんの回し者ではありません」
私は懐から、あらかじめ用意していた一枚の紙切れ――為替取引で積み上げた莫大な額の小切手と、フューリーが裏決裁したS.H.I.E.L.D.の非公式承認コードが印字された書類を、彼の手元へと静かに滑らせた。
「現在のあなた方の算定を行います。
明後日の朝までに支払わなければならない負債は〇万ドル。
従業員とその家族の来月までの生活費、そして政府を相手に法廷で争うための不毛な裁判費用。
あなた方には、すでに破産という致命的な赤字しか残されていません。
スタークさんを恨む時間はあっても彼の気まぐれな同情を待つ猶予は、あなたには1秒も残されていない」
トゥームスは書類に目を落とし、その眸を驚愕に激しく見開いた。
彼のような叩き上げの直感が、その小切手の数字がハッタリではないこと、そしてそこに記された署名が、国家のインフラの最暗部から流れてきた本物のであることを瞬時に見抜いたのだ。
「……これを、俺たちにくれるとでも言うのか? シールドの役人が、何の目的で……」
「もちろん買収です、トゥームスさん。この資金を原資に私が丸ごと買い取ります。
負債はすべて私が引き算し、従業員の雇用も現状の仕様値のまま100%維持します。
あなた方は明日から、シールドの本流やダメージコントロール局の検閲を公式にパスした極秘の下請け・廃品回収業者として登録される。
私がよほどのヘマをしない限り国が用意した最も安全な隠れ蓑を、あなたに供与してあげるという話です」
プレハブの事務所に、古いエアコンの唸りだけが虚しく響いた。
トゥームスは書類を握りしめ、ゴクリと唾を飲み込んだ。
彼にとって、これは破滅から家族を繋ぎ止めるための、唯一の蜘蛛の糸だったのは確かだから。
「条件は何だ。ただでこんな大金を放り出すバカがいるとは思えん」
「条件は一つ」
私は赤い瞳をゆっくりと上げ、彼の頑強な胸躯の中身を見抜くように冷酷に射抜いた。
「あなた方が街の瓦礫から回収してきたチタウリの残骸、宇宙由来の物資、あるいは今後現れるであろう未知の超科学テクノロジーのすべてを、シールドの本サーバーやスタークのコンコルへ引き渡す前に、まず私個人の検閲へ通しなさい。
輸送中の不具合、あるいは回収時の破損として、1割か2割のコアパーツが物流の隙間で消失したと報告書を、あなた方のプロの手際で完璧に捏造してもらう」
「何だと……?」
トゥームスが息を呑む。彼の隣にいた技術者が、驚きに眼鏡を落としそうになった。
「驚くほどのことではありません。スタークさんのようななるべくして1位を攫っていく上澄みの人間たちにすべてを奪われたあなたの怒りは理解できます。
持てる者に奪われたささやかな日常、このままでは崩壊する家族の生活を守るために手段を選ばずにルールの外側へ一歩を踏み出すその選択は、私の計算においても極めて合理的で、筋が通っている」
私は椅子から音もなく立ち上がり、彼の一歩前へと踏み出した。
「私と共犯関係を結びなさい
スタークの目を盗んで地球に飛来した宇宙の力を裏のブラックボックスへ隠匿し次の濁流に備える。
それがあなたとあなたの愛する家族がこのニューヨークで生き残るための、唯一の黒字化ルートです。飲めないならこの場で立ち去りますがどうしますか、エイドリアン・トゥームスさん」
窓を叩く雨の音が、一瞬だけ止まったかのような錯覚。
トゥームスは激しく葛藤し、唇を血が滲むほどに噛み締めていた。目の前にいる華奢な二十歳の少女。その言葉には正義や大義の匂いが1ミクロンも混ざっていない。
あるのは、自分たちと同じ、いや、それ以上に冷え切った、剥き出しのリアリズムだけだった。
「……フッ、ハハハ」
トゥームスは歪んだ、しかしどこか吹っ切れたような笑みを漏らすと、その大きな、泥と油に汚れた右手を私の方へと差し出してきた。
「お国の上級役人様が、これほどお行儀の悪いバケモノだとは夢にも思わなかったよ、エリン。
いいだろう、その冷たい計算に乗ってやる。
あんたに魂を売り渡してでもスタークの目を盗んで、俺たちの日常を意地でも守り抜いてやろうじゃないか」
「交渉成立ですね」
私はその人間の掌の不器用な温もりと、生々しい鉄の匂いを検出しながら、彼の右手を静かに握り返した。
笑わない怪物と、泥をすする人間たちの、最悪で完璧な共犯関係がここに結成された。
プレハブの窓の外では、マンハッタンの瓦礫を隠すように、冷たい雨がどこまでも深く、降りしきり続けていた。
◆ ◆ ◆
深夜のクプレラ・リカバリー社、最奥にある第4地下格納庫。
ここはS.H.I.E.L.D.の公式な監査ネットワークからも、トニー・スタークのJ.A.R.V.I.S.の走査ログからも完全に切り離された、私とエイドリアン・トゥームスだけが共有する物流のブラックボックスだった。
コンクリートの床の上には、トゥームスの回収班がダメージコントロール局の目を盗んで文字通り引き算してきた、チタウリの生体装甲艇、リヴァイアサンの肉厚な外殻の破片と無骨な粒子ビーム兵器のコアが不気味に並べられていた。
「これで全部だ、エリン」
トゥームスが重い鉄のケースを長机の上に置き、静かに蓋を開けた。中には、未だ宇宙の冷気と、かすかな生体電流の残熱を帯びたチタウリのコアパーツが、青紫色の光の泡沫をじんわりと明滅させている。
「輸送中の事故でトラックごとニューヨークの川に沈んだことにした。お前の上司も、このレベルの物証の消失なら想定内として処理してくれるはずだ」
「権力とは恐ろしいものですね。そんなあってはならない異常事態が粛々と処理されてしまうのですから。
まさに政治権力というやつは下水処理場のようなものです。
それはそれとしてご苦労様です、トゥームスさん。あなた方のプロの手際には私も最高の評価を弾き出していますよ」
私は平坦な、エリンの声色をトレースして答えた。
トゥームスは少し疲弊した、しかし家族の生活を繋ぎ止めた大人の笑みを浮かべる
「ここでなにをしようと俺たちは見ない、聞かない。好きにしてくれ」
と言い残して、側近の技術者と共に格納庫の重い鉄扉を閉めて退室していった。
隔離された無音の空間。
私はアタッシュケースを置き、ゆっくりと長机の前に歩み出る。
その瞬間、私の胸の奥に深く打ち込まれている、捕食と融合それによる自己強化の本能が目の前の宇宙の遺物を前にして、これまでに経験したことのない猛烈な飢餓感を覚え激しくスパークさせた。
欲しい。食べたい。寄越せ。
喉の奥が、獲物を前にした獣のようにヒタヒタと鳴る。
私はためらうことなく、衣服の下の細胞を解放した。一瞬だけ姿をブレさせ、思考同期による部分的な生体モーフィングを敢行する。
ドロリ。
私の華奢な、人間の形をした右手の指先から、粘り気のある漆黒の生体組織が這い出た。
それは飢えた獣のようによだれを垂らしながら、チタウリの装甲の破片へと侵入し、その分子構造を細胞レベルで捕食・融合しようとうねりを上げて絡みついた。
噛み砕き、肉を咀嚼し、細胞レベルで取り込んでいく。
「……っ!? ぁ……」
喉の奥から、言葉にならない呻きが漏れた。
口腔を満たしたのは、煮詰めた重油のようにドロリと重く、酸っぱく、そして神経が直接痺れるような高電圧のプラズマの味だった。
チタウリのテクノロジーの本質は、生体組織とサイバネティクスが最悪の形でドロドロに融合した生体機械。
それは、捕食した本物のエリンの肉をベースにしている私の細胞にとって、最も拒絶反応が少なく、効率のいい最高級の餌だった。
肉組織を焼灼する鋭い音が響き、周囲の空気を蒸発させるほどの白い水蒸気が立ち上る。
彼らの持つ特殊金属の分子構造が、私の皮膚の下にある骨殻アーマーの密度へと強制的に組み替わっていく。
骨が軋み、筋肉の繊維が網の目のように強固なインフラへとアジャストされていく。
さらに、チタウリの神経機械が持つ電磁シールド特性が私の流体光子神経や有機光ファイバーへとハックされ、融合していく感覚。
続いて、私はビーム兵器のコアへと手を伸ばした。
触手がコアの収束・発振器官を包み込み、そのエネルギーの系を前腕の流体光子神経へと直接接ぎ木ハックするように同化していく。
バチバチパチパチッ!!!
前腕の装甲の隙間から、禍々しい赤い光子の火花がパチパチと音を立てて噴き出した。
これまでは、ファイズフォンをわざわざ銃型に変形させ、トリガーを引くという人間らしい手続きを踏まなければ光線を撃てなかった。
しかし、チタウリの出力を同化した今の私は違う。
私は静かに右手のひとさし指を、誰もいない前方のコンクリート壁へと向けた。
シュッ。
音も電波も外に漏れない静寂。
ファイズフォンを介すことなく、私の指先から直接、弾道と収束率をミリ秒単位で完全にコントロールした高熱流体光子の指向性ビームが音もなく一閃し、コンクリートの壁を丸く綺麗に穿ち、分子レベルで炭化させてのけた。
【生体インフラの更新を承認:電磁的パッシブ・ステルスを獲得】
脳内CPUが冷徹な進捗インジケーターを網膜の端にポップアップさせた。
これまで、私のとしての異常な生体パルスを隠蔽するには、トニー・スタークがJ.A.R.V.I.S.の最下層に走らせているサブルーチン:555によるフェイクログの上書きが100%必須だった。
だが、このチタウリのシールド特性を肉体側で自前で常時駆動させることにより、トニーのフィルターに頼らずとも、自らの肉体そのものが発する異常値を外部のセンサーから100%遮断する隠蔽膜が、皮膚の内側で完成したのだ。
「美味しくはありませんね。ただの冷たい高電圧と、異物のプログラムが脳を直接引っ掻くような不快な味です」
私は生体組織を人間の皮の内側へと強引に格納し、いつもの「エリン・マクカシー」の冷たい無表情を作り直した。
生存演算、駆動。
通常ファイズ(初期): 宇宙本隊との激突時の全損率:100%(絶対的赤字)
チタウリ同化後: 外部インフラへの依存度低下、自前ステルス及び隠密狙撃能力の獲得。全損率:65%に低下。
確実に、私の生存確率は黒字化マージンを増やしている。
アベンジャーズの大人たちが「大義」や「正義」を歌う劇場の舞台裏で、私は転がっている宇宙の遺物をタダの餌として冷徹に貪り喰い、5年というタイムリミットに向けて、自らを究極の個体へと作り替えていく。
ハドソン川の匂いが、プレハブの隙間から微かに流れ込んできた。
お母さんの待つアパートへ帰るための数式は、今夜も完璧な黒字のまま、私の脳内で静かに、そして強固に更新され続けるのだった。