MCU世界で『ただいま』を言えない怪物 作:お砂糖さらさら
【フェーズ8:精算、あるいは一つのエピローグ】
ドゴォォォォォォォォォォンッ!!!!!
暗黒世界スヴァルトアルヴヘイルの赤砂が舞う大地に、突如としてロンドン側から空間を越えてデリバリーされた複数本の『グラビトメトリック・スパイク』が激しく突き刺さり、空間を固定する結界が瞬時に起動した。
世界の境界線を跨ぐ退路を物理的に完全遮断された事実。
そして、ジェーン・フォスターの肉体からエーテルを抽出しても、他の世界へ暗黒を流出させられないという最悪の状況。
その完璧な戦術的ハックを知らず、片腕を失い、顔面半分を炭化させられた首領マレキスのガラスのような眸は、これまでにない激しい焦燥をギラつかせていた。
「エーテルさえ、エーテルさえ取り戻せば、この程度の苦境などすべて虚無へ書き換えられる……!」
「とでも考えているのですかね。あなたの描いた滅びのシナリオは、この時点で完全に全損を確定していますよ、マレキスさん」
私は完璧なエリンの無表情のまま、抱えたファイズブラスターの中で荒れ狂う青い光そのものを極限まで尖らせ、トリガーを引いた。
キィィィィィン――――ッ!!!!!
世界の構造そのものが悲鳴を上げるような、無慈悲な青銀色と黄金の極光を吐き出すフォトンバスターから、臨界出力を遥かに超過した光の柱が真っ直ぐに放たれた。
空間を焼き焦がしながら直進したその光の濁流は、ダーク・エルフの最後のインフラである超巨大十字型母艦の巨躯を、正面から完全に貫通した。
直撃した刹那、オーディンの血から同化したルーン魔術の分子間結合切断特性が、光が接触した端から分子レベルでズタズタにしまた光に飲み込まれていく、全長数キロの船体に大穴を空けていく。
爆風も、破片という二次被害を周囲へ1ミリグラムも発生させないまま、彼らの暮らす最後の城は半壊し、破壊の軌跡からはただの物言わぬ青い粒子、あるいはサラサラとした灰の霧を垂れ流し、熱分解・消滅を示していた。
一瞬の蹂躙。
拠点を完全に失い、艦内から命からがら這い出して地表へと脱出してきたマレキスの前に、私は純白のフリルドレスの裾を静かに揺らし、無音の足取りで滑り込んだ。
オッドアイの冷たい輝きで彼を見下ろし、血の通わない平坦な声で取引を提示する。
「マレキスさん。選択肢をあげます。
今すぐそのジェーン博士の肉体からエーテルを完全に抽出し、その瞬間から第二ラウンドを始めるか。
それとも、その機能を壊れかけの肉体のまま、ここで今すぐ死ぬか。
どちらの式が、あなたにとって最も割安なコストですか?」
マレキスは激しい絶望に息を詰まらせ、沈黙した。
その彼の回答の遅延を、私の生存演算は「無駄な処理コスト」と判定する。
「時間切れです。猶予を割く理由はありません」
私は右手のひとさし指を、マレキスの背後に控えていた残党のダーク・エルフたちへと静かに向けた。
チタウリのビーム発振器官をハックした、ファイズフォンを介さない生体指向性ビームのゼロ秒一閃。
シュッ、シュッ、シュッ。
音も電波も外に漏らさない静寂の光が夜を割るたびに、十数人のダーク・エルフの精鋭たちが、何が起きたかを認知する間すら与えられないまま、ただの物言わぬ冷たい青い灰へと瞬時に焼き尽くされ、赤砂の嵐の中へと霧散していった。
「どうしますか? たった一人のダーク・エルフさん。このまま、何も成し遂げられずに死にますか?」
血を吐くような烈しい怨嗟の目を私のクリアブルーと怪物の赤の瞳へと向けながらも、マレキスは無言で、残された左腕をジェーンへと突き出した。
彼自身の生存を繋ぎ止めるための、これしか残されていない、なりふり構わないエーテルの強制抽出。
ジェーンの血管から、禍々しい暗黒の流体物質がドロドロと引き抜かれ、空中に不気味な質量となって浮かび上がる。
「ソーさん、今です。器の展開を」
「おおお、我が同盟者の策、違えぬぞッ!!!」
背後から飛び出してきた雷神ソーが、アスガルドの宝物庫から持ち出していた、あのルーンの封印魔術が施されたランタンのような器を虚空へと掲げた。
抽出が完了したと見るや否や、浮かび上がった宇宙原初の闇――エーテルの全質量は、逃げる隙すら与えられないまま、強力な引力によってランタンの内側へとドクドクと吸い込まれ、カチャリと音を立てて完璧に密閉・隔離された。
核の完全な鹵獲。
残された最後のエサをも奪われ、完全に手札を失ったマレキスは、残された唯一の左腕でダンダンと不毛の地面を激しく殴りつけ、その炭化した顔面を歪めて喚き散らした。
「呪われろ……! 呪われろ、ボーの末裔どもがァァァッ!!!」
「おやすみなさい。あなたの夜は、5000年前にとうに終わっているのですよ」
私は完璧なエリンの無表情のまま、右足に黄金のルーンとフォトンブラッドの全エネルギーを過負荷チャージし、彼の胸躯へと無慈悲なクリムゾンスマッシュを真っ向から突き刺した。
瞬時に放たれた青銀色の極光の波動が、マレキスの細胞の結合を分子レベルで強硬に両断し、ダーク・エルフ最後の生き残りは、爆発を起こすことすら許されないまま、ただの物言わぬ灰の霧へと熱分解され、この暗黒世界から完全に消滅した。
外敵の全アセットの処理完了。
私は背中のドレスの裾から光子を逆噴射させ、砂嵐の舞うスヴァルトアルヴヘイルの上空へ向けて垂直に跳躍した。
高度数千メートル。これまでの激しい肉体改造、チタウリの生体金属の同化、そしてオーディンの神血によって極限までスペックを向上させた私の全出力を、上空を覆う太古の「闇の雲」へと指向させる。
「――これより、空間のデバッグを執行します」
いつものように右手に空間を揺るがすほどの青い光を収束させ、および全身の回路から、世界のすべてを焼き尽くしかねないほど生産された最大出力の青い極光ビームを水へ戦の彼方へと届かせるようにくるりと全方位の暗黒の空を激しく薙ぎ払った。
バリバリバリバリッ!!! と激しい時空の摩擦音を立てて、5000年間を越えてこの世界を支配していた不気味な黒い雲の層が、分子レベルで一瞬にして引き裂かれ、熱分解されて消滅していく。
光の失われていた黒い空に、私のビームによって巨大な穴が穿たれ、そこから、どこまでも美しい青空の光が、この荒涼とした不毛の大地へと、優しく、真っ直ぐに降り注いだ。
もちろん、青空などない。
エリンの放った青い光が青空を覆う暗黒を吹き飛ばしただけでなく、そのエネルギー残渣が空間に膜を形成し、その向こうにある凶悪なブラックホールの光を「優しい青白い光」へと波長変換したのだ。
光が優しく降り注いだことで、何千年も死んでいたスヴァルトアールヴヘイムの黒い大地が、一瞬だけ地球の春の昼下がりのような温かさを取り戻す
「今はこれが精いっぱいということで」
白銀の輝きを減らしながらゆっくりと地表へと降下して着地する。
通常のファイズに戻りながら足の中に格納していたダーク・エルフの手榴弾の残骸を捕食する。
即座に私の網膜の端に、無機質なシステムログがポップアップする。
【生体インフラの更新を承認:重力手榴弾の空間圧縮・物質変換コードの同化を完了】
色々あったアスガルドも余裕の黒字。
私は黒いコートの襟を立て、お母さんが待つニューヨークの古いアパートへ帰るための、最も綺麗な帰還の式を弾き出すのだった。
黄金の光が再び満ちたアスガルドの謁見の間。
天井の割れたガラスの破片はすでに綺麗に片付けされ、王宮は元の静かな威厳を取り戻しつつあった。
黒いコートの裾を風に揺らし、艶のある黒髪のボブカットへと完全に擬態を戻した私は、玉座の前に直立していた。
脳内CPUのバグは100%クリーンアップされ、瞬きの回数も一秒に〇・八回、呼吸の間隔もエリン・マクカシーの仕様値へと正確にアジャストされている。
玉座に座る老いた王――オーディンは、形容しがたい存在感の槍を携え、その片目だけの鋭い眸を私へと向けた。
王のまとう威厳の最深部に、これまでになかった「一人の父親」としての重々しいゆらぎがあるのを、私の生体センサーは明瞭に検出していた。
「……目覚めたな、エリン・マクカシー」
王の声は、床に沈むように低く、そして静かだった。
「お前がミッドガルドと繋がりを回復して正気を取り戻したことは、すでに知っておる。
……アスガルドの王として、そして一人の大人の身勝手として、お前の脳の機能不全に付け込み、我が妻フリッガ人質にするかのようにして最前線へ並べたこと……お前の誇りを兵器として使い潰そうとした私の罪を、ここに謝罪せねばならん」
オールファザーが、玉座の上で、静かにその白髪交じりの頭を下げようとした。
神話の頂点に座る王が、地球のバケモノに向けて支払おうとした、過剰なまでの誠実さ。
私は表情一つ変えず、平坦な声を淡々と滑り込ませた。
「頭を下げないでください、オーディン王。私の生存演算において、王の謝罪など何の利益にもなりませんよ。
……それに、私には元より父親という概念が存在しませんので。
オーディン王のような方に頭を撫でられたのは得難い気分でした。」
私はポケットの中で空間圧縮の感覚を静かに弄びながら、ほんの少しだけ、赤い瞳を緩めた。
「なにより、あなたの掌から摂取したあの神血、オーディン・フォース。
あれによって私の流体光子神経の耐熱マトリクス、および単独での次元跳躍が可能となりました。
これ以上ないほどの絶対的な黒字です。……それに、脳の処理遅延の最中とはいえ、フリッガ王妃という完璧な『お母さん』を一時的に得られたのも……私にとっては、決して悪くはない感覚でした」
王の口の端が、歪な、しかし心からの感嘆を込めた大人の笑みの形へとゆっくり動いた。彼は顎を撫で、隻眼の奥にソーに見せるような親心を灯して私を見据えた。
「ハハ、さすがはミッドガルドの輝ける戦乙女。……どうだ、エリン。それほど我が家の寝心地が気に入ったのなら、いっそソーの義理の妹として、この王宮の正式に名を連ねる気はないか? お前のような規律正しい戦乙女なら、いつでも大歓迎だがね」
「丁重にお断りします、オーディン王」
即答だった。
「私の脳内CPUが弾き出す帰還の式は、すでに一秒の遅延もなく実家のドアを指し示しています。私がただいまと告げるべき唯一の家族がいるのは、あの泥臭いミッドガルドだけです。世界を救う作業にはいくらでも付き合いますが、私が本当に守るべきミクロな日常は、ヘルズ・キッチンのあの古い部屋にしか存在しませんから」
「……そうか。ならば引き止めん。お前のその頑固なまでの人間らしさを見失うなよ、ミッドガルドの戦士。いつか…未来でミッドガルドを旅立つときはアスガルドに来ればよい。」
オーディンは満足そうに頷き、去りゆく私の黒髪ボブの背中を、静かに見送った。
謁見の間を出て、黄金の回廊のテラスを歩く。
はるか遠く、アスガルドのきらびやかな星空の特等席のなかで、雷神ソーが一人の人間の女性――ジェーン・フォスターをその逞しい腕で抱きしめ、二人だけの時間に沈んでいるのを、私は赤い瞳の端で冷徹にスキャンした。
理解はできない。損得の帳尻も合わない、神と人間の非合理的な博愛。
だが、博士たちが短い期間で機材を作り上げ、コールソンが地球でスパイクの結界を張り、苛烈でありながら慈悲深い老王と王妃の持つ奇跡のような慈愛。
その大人たちの姿を胸の奥に深く楔として打ち込みながら、私とジェーンは案内されたビフレストのランウェイへと、無音の足取りで滑らかに進んだ。
虹の橋、次元の壁をハックする光の濁流が、私の黒いコートの裾を激しく揺らす。
「お世話になりました。機会があればまたいつか」
誰の耳にも届かない声滑り込ませ、私はマッハの速度を一瞬で置き去りにして、お母さんの待つ地球の空へと、一本の眩い流星となって帰還するのだった。
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勝った!マイティーソーダークワールド編完!
ちなみにロキはガッツリ終身刑のままです、ヘラ復活の暁には登場するかも…?
ウィンターソルジャー編はバッキーをどうするか悩んで全く筆が止まっている状況です
主人公的に殺害しない理由がないのでどうしたものかなと…
今まで消してきた敵のワンオブゼムでしかないのにストップする理由が思いつかない