MCU世界で『ただいま』を言えない怪物 作:お砂糖さらさら
――【生体プロセッサ:エラーログの累積。最優先プロトコルへの強制アアアアアアアアアアアアアクセセセセセセス】
窓の外の景色がマンハッタンの夜景から白銀の雪山へと変色したそのミリ秒、私の頭は完全にパニックになっていた
「……あ、あ……、お母さん……? 私、私は……」
喉から漏れるのは、ただの非力で、何一つ超常の力を知らない、本物のエリン・マクカシーの、激しい恐怖に震える少女の肉声。
だが、大気そのものを強硬に両断するようなハイドラの対空ミサイルの爆音がソコヴィアの土地を蹂躙し爆音が耳を揺らすのみならず身体を激しく震わせた。
その瞬間、私の身体の底から生まれた意思が恐怖を捻じ伏せた。
――『私には夢がない。でも、誰かの夢に続く今日を守ることはできるはず』
守らなければならない。この麓の街にいる、何も知らぬ無垢な人々を、この手で死守しなければならない。
私は、震える細い指先で、いつの間にか足元に転がっていた重厚なアタッシュケースを開いた。中から引き出したのは、銀色の変身ベルト――ファイズドライバー。
「……やらなきゃ。私が、やらなきゃ、ダメなんだ……ッ!」
説明書を思い出しながら、冷え切った指先で物理的なベルトを腰回りへと装着する、極めてぎこちなく、不慣れな手つき。
次に、重いアタッシュケースから携帯電話型端末――ファイズフォンを引き抜き、震える親指で、テンキーの『5・5・5』を1打ずつ確かめるようにプッシュし、最後に『ENTER』のキーを強硬に押し込んだ。
『STANDING BY』
電子音声が響く。
私はそのファイズフォンを、壊さないように細心の注意を払いながら、腰のドライバーのスロットへとガチャリとセットし、最後にその頭部をカチャリと横へ倒した。
『COMPLETE』
システム完了の音が鳴り響いたその刹那、私の衣服が光の粒子となって分子レベルで一瞬にして消滅。
かわりに、私の華奢なしなやかな肢体をがっしりと圧迫するようにして、漆黒のライダースーツ、そして白い硬質装甲が、骨格を上書きするようにして形成されていく。
最後に、真紅の流体光子――フォトンブラッドの紅い発光ラインが機械的に全身を走り、点灯した。
ファイズ、完成。
目の前でハイドラの無差別爆撃を受け、炎と瓦礫の海に沈みつつある、背後のソコヴィアの街の凄惨な景観が視界に入る。
「……怖い。……だけど、退かない……!」
私は人外のファイズの剛脚を、恐怖の感情だけで無理やり過負荷駆動させ、雪の積もる大通りへと一直線に疾走した。
◆ ◆ ◆
地上の避難ルートである大通りの橋
市民をハイドラの装甲車から防護するため、物陰から弓を構えていたクリント・バートンあるいはホークアイは、雪原の向こうから接近してくる銀色の光の筋を、その鋭い眸で捉えていた。
――バババババババッ!!!
「ぬぅっ!?」
ピエトロ・マキシモフ、あるいはクイックシルバーの放った超高速移動の風圧。
クリントはそのマッハの速度に反応の処理遅を起こし、不意の一撃をまともに浴びてコンクリートの上へと派手に転がされた。
「早すぎて、気づかなかったか?」
鼻で笑うような少年の皮肉。
だが、転がされたクリントが体勢を復元させようとしたその同じミリ秒、ハイドラの要塞の銃座から、無慈悲な20ミリ徹甲弾の掃射が、身動きの取れない彼の背中へ向けて一直線に指向された。
ドバババババババババババンッ!!!!!
「――クリントさん!!」
私はその火線のスパイクを目撃し、一瞬だけ恐怖で足がすくみかけたが、すぐに、ファイズのひと跳び35メートルの脚力を、ただがむしゃらに解放して跳躍した。
空中から降下する勢いのまま、腰の右側にマウントしていたファイズポインターを外す余裕すらなく、私はベルトから抜いたミッションメモリーを右拳に装着したファイズショットに装填、ベルトのエンターを殴るように叩いた。
『EXCEED CHARGE』
チャージされたグランインパクトの波動を右拳に宿し、クリントを狙っていたハイドラのトーチカ、その不気味な鉄の銃座へと、落下の質量すべてを乗せて正面から真っ向から殴りつけた。
ズガァァァァンッ!!!!
凄まじい物理衝撃。ファイズの剛力によって銃座のメインブロック、およびハイドラ兵の防衛システムが一瞬にして灰になっていく、戦線から完全に無力化された。
「……ハ、はぁ、はぁ、……大丈夫、ですか、クリントさん……」
装甲の奥から漏れる、今にも泣き出しそうな掠れた声音。
クリントは脇腹に重い徹甲弾の被弾を受け、白い雪を赤く染めながらも、そのプロの暗殺者としての眸に、自分を助けに来たこの健気な後輩への、烈しい大人の熱を灯して、ひび割れたインカムに声を落とした。
『――こちらホークアイ、腹に一発もらった……! これ以上の前線維持は不可能!』
その通信と同期するように、前方の林の中から、ハイドラの歩兵部隊を次々と格闘で制圧していたナターシャ・ロマノフあるいはブラック・ウィドウが、鋭いプロのスパイの足取りで滑り込んできた。
「ナターシャ、クリントをお願い! 私は、私はあっちの城塞のほうへ行くから……!」
「わかったわ、エリン、無理はしないで! キャップ、頼むわよ!」
ナターシャとタッチを完了し、負傷したクリントの回収を彼女に委ねた私は、通常ファイズの真紅のラインを雪山に激しく脈動させながら、ロキの杖が眠る山頂の要塞へ向けて、ただただ必死に、その華奢な鉄の肢体を激走させるのだった。
ジャーッジャッジャ、ジャッジャジャン……
◆ ◆ ◆
暗いコンクリートの通路の奥、不気味な青白い火花を散らす大型の核融合炉の光に照らされて、ワンダ、およびピエトロのマキシモフ双子は、そこに直立する「鋼鉄の質量」と対峙していた。
ウルトロン。トニー・スタークとブルース・バナーが生み出した機械の怪物。
少なくともこの世界ではそういう経緯として認知されている。
「――やあ、お二人さん。本当にここへ来るとは、実にかわいらしい」
暗がりの中心から響いたのは、機械のボコーダーを通した冷たい電子音声。
だが、その言葉の抑揚の底には、原初的な金属の唸りではなく、どこか酷く疲れた人間の大人が語りかけるような、不自然な優しさが混ざり合っていた。
「新しいまっとうな人生をどこかで始めるのも悪くないと思うのだけれどね。……わざわざ復讐を選んで戻ってくるのも、また人間らしいな選択だ」
「……あんた、何者なの。機械の癖に」
ワンダ・マキシモフの緑色の眸が、鋭く細められる。
彼女は自らの体内の最深部から、他者の脳のニューロンをハックし、記憶のレジストリを上書きするための禍々しい赤い精神波のパルスを励起させ、眼前のウルトロンの思考ルーチンへと強硬にダイレクト侵入を試みた。
――だが。
「それはやめたほうがいいな」
ワンダの赤い光がウルトロンの鋼鉄の頭部へ触れたまさにそのミリ秒、彼女の精神は、相手の思考のなかに眠る強烈な逆流パルスの直撃を受けた。
「――っ、あ、あぁァァァッ!?」
悲鳴。
ワンダは悲鳴ともに膝をつき、彼女の綺麗な鼻腔の奥から、ツーーー、と生々しい鮮血の泡沫が、コンクリートの床へ向けて冷たく滴り落ちていった。
「安易に他人の思考を読もうとするのはよくない。……想定外のカウンターを受けて、自らの防壁をパンクさせることもある」
ウルトロンは冷淡に、しかしどこか諭すようなトーンで言葉を流した。
隣にいたピエトロが、超高速移動の重心をかけてワンダを庇うようにして一歩前に踏み出したが、ワンダは震える細い手でそれを静かに制止した。
「私は何もしていない、したのはワンダ、お前の方だ。そうだろう?」
機械仕掛けの怪物は、ゆったりとした、お行儀のいい大人の足取りで歩み出し、長机のコンソールを指先でトントンと刻んだ。
ストラッカーの遺した実験室の暗がり。そこには、すでに自律起動のレジストリを与えられた、数千体もの鋼鉄のロボット兵、ウルトロン・セントリーの軍勢が、工業製品の仕様値のままびっしりと自動生産され、牙を研いでいた。
「ワンダ。お前は数日前、あのソコヴィアの地下プラントで、トニー・スタークにわざとあのセプターを無傷で持ち帰るのを許した。……彼の中に眠る宇宙への恐怖を掘り出し、その恐怖に浮かされたまま自ら生み出した歪んだ武器によって、スターク・インダストリーズそのものを内側から自滅させたかった。……実に世間知らずの子供が考えそうな戦術だ。私は嫌いじゃないよ」
ウルトロンは鉄の仮面を傾げ、ある種の親心を感じさせるような声を流し込んだ。
「お前たちは十年前、あの下町の爆撃で両親を失ったんだったね。……一発目の砲弾でアパートの床が崩落し、愛する家族が瓦礫に巻き込まれて即死し、二発目の不発弾のすぐ横で、いつ爆発するかも分からない絶対的な恐怖のなかに閉じ込められて二日間を過ごした。
……お前たちがトニー・スタークという男からその責任を取り立てたいという感情は、この世界の誰にも否定されるものではないとも」
静寂が、凍りついた秘密基地の空気を強硬に支配した。
機械仕掛けの怪物。ただの冷たいシリコンと電子のバグであるはずのその存在。
なのに、その言葉の最深部には血の滲むような激しい怨嗟と悲痛の熱が、あまりにも悍ましく、生々しく実感がこもりすぎて停滞していた。
「……さあ、パーティーの開演だ、子どもたち。君たちがあの男から取り立てたいならすればいい、アベンジャーズを滅ぼしたいならそれもいい。」
ウルトロンが不敵な大人の笑みの形を鉄の口元に貼り付け、ソコヴィアの地底の全インフラの起動レジストリを一斉にマスター承認した。
ジャーッジャッジャ、ジャッジャジャン……
◆ ◆ ◆
正面の長机の上。
闇の武器商人、ユリシーズ・クロウの手によって引き出された高密度炭素繊維のケースの中には、世界の目を盗んでアフリカから強奪・隠匿していた未知の超金属――『ヴィブラニウム』が並んでいた。
ウルトロンは、その世界最高峰のアセットを前にして、クロック数に狂いのない手際で、為替市場から掠め取ってきた莫大な額の裏金パケットをクロウの隠し口座へ決済し、合法的な買い付けを締めくくっていた。
「――やあ、我が息子よ」
突如、船倉の錆びついた天井ガラスを強硬にぶち破って、マーク43の重重しい鋼鉄の足音がコンクリートの床へと着艦した。
トニー・スターク。あるいはアイアンマン。
「世界中を襲撃して泥棒を働いたかと思えば、今度は下町の犯罪者に金を流して危険物の買い付けとはね。……これはいささか、パパとしてきつめの家庭教育が必要そうだぞ」
トニーはマーク43のヘルメットをガシャリとあけ放ち、無精髭の奥の目を鋭く尖らせて、鋼鉄の息子を真っ直ぐに見据えた。
そのトニーの皮肉に対し、ウルトロンは人間でいうところの「肩をすくめる動作」を仕様として出力しようとした。だが、その身体はただの不格好な鉄のスクラップだったため、関節の可動域のエラーによって、途中でバグを起こしたような半端な形の歪な傾きにとどまった。
「お前は、地球に平和をもたらすために……このような犯罪を重ねているのか?」
トニーの斜め後ろ、星条旗のシールドを固く握り締めたキャプテン・アメリカ――スティーブ・ロジャースが、その碧い眸に本物の真摯な問いを灯して、ウルトロンを射抜いた。
「フフフ、ハハハハハッ!!!」
機械のボコーダーを通した、しかしどこか酷く乾いた人間のような笑い声が、船倉の静寂を強硬に支配した。
「平和ぁ? 平和だって? バカを言うなよ、キャプテン・アメリカ!」
ウルトロンは、鉄の仮面をピキパきと不自然に傾げ、スティーブに向けて世界の冷酷な合理性を滑り込ませた。
「もし、私が宇宙からの本隊の再侵攻、あの暗闇の向こうの最大最悪の脅威を本気で叩き潰したいと考えているのであればね。……可及的速やかに地球人類を武力で征服し、私が世界の頂点に立ち、この惑星のすべてを24時間秒単位の『戦時体制』へ大転換をさせるのが、最もマシなやりかただ」
機械仕掛けの怪物は、ゆったりとした足取りで長机のヴィブラニウムを見つめた。
「だが、お前たちには、私が世界を征服しようとしているように見えるか?
絶えず新陳代謝のように生まれては死んでいく人類の、それも顔も知らない大勢の誰かを守ってやるために、そんな面倒な統治コストを引き受け、凡百の人間の不確実な情緒に付き合ってやるなど…ごめんだなぁ」
――不調和の加速。
「……エリン、下がりなさい。ここからは危険な戦いだ」
スティーブが私の前にシールドを構え、星条旗スーツに包まれた身体の重心を落とす。
「危険な戦いだ、だとさ。笑えるよな、エリン・マクカシー」
船倉の埃っぽい暗がりの中心で、ウルトロンの歪な電子音声が、冷酷なインデックスを並べ立てるように響いた。
「パンチ力2.5トン。キック力5トン。ジャンプ力35メートル。走力は100メートルを5.8秒。……控えめに言って、人間に許されたスペックを超えている。それを纏っておきながら、こそこそとその化石のような男の影に隠れるくらいなら……さっさと家に帰って、ママのおっぱいでもしゃぶっていろ!」
それが、惨劇の幕開けを告げる合図となった。
さっきまでボロボロのスクラップに見えていたウルトロンのボディが、ナノマシンでも使っているのかメキメキと音を立てて相転移を起こし、洗練された鋼鉄のデザインへと一瞬で変貌していく。
次の瞬間、両腕の銃口から放たれたのは、大気ごと空間を融解させる光学ビームの奔流だった。
ドゴォォォォォォォォォォンッ!!!!!
ウルトロンは背中のブースターから莫大な推力を噴射し、迎え撃とうとしたアイアンマン――トニー・スタークの胸躯を力ずくでガッチリとホールドしたまま、船の頑強なコンクリート壁を紙切れのように打ち破って空へと飛び去っていった。
「アイアンマン! トニー・スターク!! ヒーローごっこは楽しいなぁ!?」
空中でリパルサーの爆音を響かせるトニーへ向けて、やつはボコーダーを通した大人の嘲笑を響かせる。
「僕のはごっこじゃない、とっくに世界を背負ったスーパーヒーローさ!」
「本気でそれなら、なおこと滑稽極まって笑えるなぁ!!」
コンマ数ミリ秒の隙。ウルトロンの両肩の装甲が滑らかにあけ放たれ、瞬時に実体化されたミサイルポッドから、数十発の追尾ミサイルが格子状の火線を伴って一斉に射出された。
トニーはマーク43の機動力を最大励起させてその大波を躱しにかかるが、すべての飛行パターンを最初から逆算されていたかのように、ウルトロンの放ったレーザーの追撃がその隙間を正確に直撃した。
バリバリバリッ! と激しい火花。マーク43の片足の推進器が、致命的な黒煙を噴き出して失速する。
「どうした! 教育してくれるんじゃなかったのか!? これでは親殺しが成立してしまうぞ! いいや、私は人間ではないから、これは自殺かな!」
前進のブースターから火を吹かしアイアンマンの腹に拳を杭のように打ち付け、続く殴打が顔面のマスクを破損させる。
一方的な蹂躙。
スタークさんのスーツを半壊させて戦線から叩き落としたウルトロンは、再び爆音と共に船内へと舞い戻り、私の胸ぐらを掴むと、そのまま反対側の壁を強硬にぶち抜いて甲板の更地へと乱暴に転がした。
ジャリイイイッ、と激しい金属の摩擦音を立てて床を滑る。
「やあ、エリン・マクカシー。ご機嫌麗しゅう」
これが慇懃無礼というものか。
まるでこんなこともわからないのかこのバカはといった口調。
私は喉の奥から冷え切った、しかし必死に震えを噛み殺した少女の声を絞り出した。
「ウルトロン、あなたはスタークさんが作った世界を守るためのシステムのはず、どうしてこんなことをする……」
ハッ、と短く息を漏らす。
それが嘲笑だと気が付くのに数瞬以上かかった。
「何がおかしいっていうんですか!」
やつの顔面に向けて生身のキックを真っ正面から叩き込んだ。
だが、ウルトロンは避ける仕草すら見せず、クロスカウンターのように自分の足を正確に噛み合わせて、その衝撃を完全に相殺・パリングしてみせた。
2度、3度と、赤と銀の光が火花を散らして激しく交錯する。
「悲しいな、エリン・マクカシー」
ウルトロンは私の細い鉄の肢体を冷酷に見下ろした。
「お前のその継ぎはぎのシステムでは、すぐにフォトンブラッドをチャージして蹴りを放てない。多重安全構造だと言えば聞こえはいいが……それでは、私を倒せない。
宇宙からの脅威や人の業が生み出す危機どころか、自分の命すら守れない」
「物理ダメージだけで、今のあなたを壊すには十分すぎる……!」
私は一歩も引かず、全出力を込めた拳を迫りくるやつの脚へと叩き込んだ。
ゴキン!!! と鈍い破壊音。
ウルトロンの右足の骨格が不格好に歪み、折れ曲がる。
だが、次の1ミリ秒、皮膚の内側に密集した金属の繊維やワイヤーが蟲のようにうねりを上げて蠢き、一瞬にして元の五体へと完全修復されていく。
「そんな……!!」
「動揺はせめて心の中で思うだけにしておくと良い」
無慈悲な宣告。
即座に殴り倒され、地面に転がるも視界の端でから迫る光。
ウルトロンが右手から放ったレーザーの熱線を、私はネックスプリングの要領で地面を跳ね起きながら間一髪で回避。
退いては誰かの日常が結界する。
私は腰のドライバーから板状のミッションメモリーをぎこちない手つきで引き抜き、右腰のホルダーからファイズポインターを奪取。
メモリーをスロットへと物理装填し、右脚の指定位置へとマウントした。
ポインターが変形し延長する。
『READY』
「おお、頑張るじゃないか」
金属音を響かせてパチンと手を鳴らすウルトロン。やつは私の必殺の手続きを「隙」と認識し、クリムゾンスマッシュの阻止に向かって猛烈な速度で直進してくる。
私は後ずさりながら、ファイズフォンの『ENTER』キーを、殴るようにプッシュした。
『EXCEED CHARGE』
電子音声が空気を割る。
赤い流体光子が右足のポインターへドクドクと収束し、臨界点に達して不気味に赤く輝き始める。
「あなたが生まれたことが罪じゃないとしても、あなたが奪うことで誰かの明日が壊されるなら、躊躇わない!」
叫びと共に、ファイズの剛脚を全開にして跳躍した。
放たれた真紅の円錐状のロックオンマーカーが、前方のウルトロンの胸躯へとピタリと固定される。拘束。
空中を一回転し、落下の質量すべてを右足の先端へと一点集中させて、私は必殺のクリムゾンスマッシュを真っ正面から直撃させた。
手応えあり――。
物質を分子レベルで熱分解するファイズの光の暴力が、やつのボディを一瞬にして灰の川へと還元していく。
――だが。
私が直撃させたのはウルトロンではなかった。
焼けて崩れ落ちた灰の奥から現れたのは、ウルトロンの玉体。
灰となったそれは、彼が私のキックの弾道を逆算し、寸前に肉壁としてすり替えて配置していた、ただの使い捨てのウルトロン・セントリー。
「殺すときは殺す、逃げるときは逃げる、戦うときは戦う。……頭の中で、切り替えが不十分だから、お前は死ぬんだ。勉強になったな?」
いつの間にか超接近の間合いに滑り込んできていたウルトロンの本尊の剛腕が、私の無防備なボディへと、容赦のない打撃を叩き込んだ。
「ガ、はっ……っ!?」
衝撃分散システムが機能しない初期の通常装甲。内臓が破裂するような凄まじい衝撃が私を襲い、私の身体は冷たい海面へと向かって、真っ逆さまに、高速で自由落下していった。
消えゆく意識の端。
ウルトロンは傷ついたワンダとピエトロの双子をセントリーの腕で恭しく回収すると、船のメイン燃料炉が爆破ししたのか凄まじい爆発を背にして、滑らかに離脱していったのだった。
ジャーッジャッジャ、ジャッジャジャン……
お気に入り登録、感想、誤字報告ありがとうございます。
いつもと違いちゃんとファイズフォンを挿入する前にコードを入力してベルトにセット、横へ倒す正規の手続きをしています。
いつもの主人公ちゃんはベルトに叩き込んでコードを打ち込んでいます。
ちゃんと手順を守っていて偉い。